第一章. 誰の絵にも映らない
W ラティオス

「ふぅ、さっきは焦ったぜ。まさかあのままキスされるとは思ってなかったし、路地に入ってなかったら、人に見られるところだったし、新しい服も濡れるところだったし 」
家に向かって再び歩き出した2人。途中でサトシがそう言い出した。
「サトシ君……恥ずかしいから……ごめんだからもう言わないで/// 」
カノンは両手で自分の赤くなった顔を隠している。
「ん? なんでカノンが謝るんだよ。可能性があっただけで実際は誰にも見られてないし服も濡れてないじゃんか 」
「うぅ……それをキスした相手の前で堂々と言えるサトシ君がすごいよぅ/// 」
恥ずかしくしている自分がより恥ずかしく感じるくらい、彼は胸を張って言っている。
「どうだ凄いだろ! 」
「いや褒めてないよ 」
「え? そうなの? 」
家に着いた。玄関を開けるとピカチュウたちが走ってきた。
「ピカビ? 」
ピカチュウは一瞬サトシたちの服装に疑問を感じる。
「おおピカチュウ、ただいま」
「クゥゥゥーーーン!! 」
「ああ、こらラティアス 」
ラティアスはサトシに頬をなすりつけてくる。
「ピカチュウ、ラティアスただいま 」
後からカノンが入ってきた。
「よし、今から夕飯作ってやるから楽しみにしとけよ 」
「チャァー!」
「クゥゥゥーーーン 」

2人で台所に入り、買ってきたものをすべて台の上に並べる。
「で、サトシ君、なににするの? 」
「おかゆ、だ。カノンはまだ熱も下がってないだろ? 」
「もう、気遣いは言いよ。サトシ君にキスして飛んでったから 」
「それでもだ。念には念をって言うだろ? 」
「ありがと 」
サトシは少しおいて言う。
「……さっきの、キスして終わったけど、好きってことで良いんだよな? 」
「好きな人以外にあんなことしないよ/// 」
カノンが照れながら答えた。
「だよな…… 」
「どうかした? 」
「いや、なんか実感がなくって 」
「それは私も、夢じゃないかって思うくらい幸せな日だったけど?」
確かに、不思議な感覚だった。新鮮なのに新鮮じゃないような。どこが自分をおいてきたような感覚。
「そうだな。奇跡だったのかな 」
「え? 」
「カノンが今日この日に呼んでくれて良かったぜ 」
「……どういたしまして? 」
答えに悩んだカノンはそう言った。
「なんじゃそりゃ 」
サトシがツッコミをいれる。

「ただいまぁ! 」
丁度そこにボンゴレが帰ってきた。
「おかえり、おじいさん 」
「お邪魔してます、ボンゴレさん 」
「おお、サトシ君。来ておったのか 」
「お久しぶりです 」
サトシはボンゴレと握手を交わした。
「久しぶりじゃのう。随分とたくましくなったようで。ん? カノン、その服はなんじゃ 」
ボンゴレも、カノンの服装に疑問を抱いた。
「ああ。さっきの雨に濡れちゃってね。新しい服を買ったの 」
「ほほう。似合っとるぞ 」
ボンゴレにはだいたいの察しはついたようだ。
「ありがとう 」
「そうだ。ボンゴレさんにこれを 」
サトシは買い物袋からあれを取り出した。
「ん? カロスリゾート? 」
「福引で当たったんだ。おじいさん疲れてるでしょ。それ使って行って来たら? その間ガイドとかは私たちでなんとかするから 」
「うむぅ。……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかのう 」
ボンゴレはチケットを受け取った。
「楽しんできて下さいね 」
「おお、ありがとうサトシ君。そして、カノン…… 」
「? 」
「頑張るんじゃぞ 」
「っ/////////// 」
ボンゴレが旅行にいくということは、この家にはサトシとカノンしか残らないということだ。カノンにとっては、必ず幸せな2日間になる。
「そうだ! 夕飯だ夕飯! おいカノン戻ろうぜ! 」
鈍感極まりないサトシは、何事もないかのようにカノンを誘い出した。
「(やばい、この雰囲気に私……耐えていけるかなぁ/// )」

夕飯作りは難なく終わった。
「「「いただきまーす! 」」」
「ピカピカピー! 」
「クゥゥゥーーーン!! 」
「美味しいか?ラティアス、ピカチュウ 」
「ピッカァ! 」
「クゥン! 」
ピカチュウたちはものすごい食いつき具合で食べていく。
「サトシ君、ラティアスたちが食べてるのって 」
「ああ、ポフレって言うんだ。カロスのポケモンフーズでさ。ボンゴレさんも見ることになるんじゃないかな 」
「おお。それは楽しみじゃのう。それにしてもカノン、熱の方はどうなんじゃ 」
「だいぶ良くなったよ 」
その会話からサトシは気づいた。
「もしかしてカノン、前から熱あったのか? 」
「う、うん……/// 」
「今日はサトシ君に逢える、と言ってなかなか寝込もうとせんでな 」
「もう、おじいさん/// 」
カノンは赤面する。
「まあ、そのお蔭で今日は色々あったけどな 」
本来なら赤面する場面なのだが、サトシは全く赤面しない。
「サトシ君まで/// 」
「はは。明日明後日のガイドの仕事は休みにしておこう。2日間2人で楽しみなさい 」
「……ありがと、おじいさん 」
いろんな意味で。
「なに、ワシに休日を与えてくれたお礼じゃ 」
「ありがとうございますボンゴレさん。でも2人じゃないですよ? ピカチュウとラティアスも一緒です。な? 」
やはりサトシのポケモン愛は変わらない。
「ピカチュゥ! 」
「クゥゥゥーーーン!!!! 」
「ああ、こらラティアス。ご飯中だからあまり暴れるなよっあはは、くすぐったいって 」
よっぽどその言葉が嬉しかったのか、ラティアスはまたサトシにじゃれついてきた。
「(……ここにラティオスもいれば、もっと明るくなるのかな )」
ふとそんなことを考えるカノンがいた。
「(寂しかったんだよなラティアス……ラティオスは絶対に戻してやるからな )」
ふとそんなことを決意するサトシがいた。

夕飯、風呂は何もなく終わり、後は寝るだけとなった。カノンより後に風呂に入ったサトシは、自分の部屋に入ると、ベランダに人気があるのに気づいた。
「カノン……やっぱり起きてたのか 」
「ちょっと絵が描きたくなってね 」
そのスケッチブックには、笑顔のラティアスとラティオス、そしてサトシとカノン、ピカチュウが描かれていた。
「──考えてることは同じだな 」
「うん…… 」
叶えたい理想。いや、これから叶える真実を2人で想像した。道のりは長いかもしれないが、それでも──
「さて、旅はどの地方に行こうかなぁ 」
「サトシ君って、今までにいろんな伝説のポケモンに出会ってきたんだよね 」
「え? うん 」
「なら、そういうところを回ろうよ。ラティオスの手がかりがありそうでしょ? 」
「そうだな! んん……なら、最初はアーシア島に行こう! 」
考えたあげく、サトシは今までに訪れた順番に回ることにした。
「アーシア島? 」
「ああ。まあ詳しいことはまた今度言うよ 」
「どんなところだろ? 」
そうカノンが考えてると、サトシは別のことを思い出した。
「そうだカノン 」
「? 」
「水上レースってまたやらないのか? 」
前回はラティアスのお蔭で失格になってしまった。またリベンジしたいサトシ。
「水上レース……ああ。あの大会ね。なら、明日にあるわ 」
「明日!? 受付何時からかわかるか? 」
「受付は何時からかはわからないけど、レースは11時からだそうよ 」
「そうか。わかった。俺それに出るよ 」
その言葉にカノンは問う。
「サトシ君、水ポケモン持ってきてるの? 」
「いいや。だからレースの前にオーキド博士に送ってもらうよ 」
サトシは何を呼ぶのだろうか。
「頑張ってね。私応援するから 」
「ああ! 」
応援するからと言ったカノンだったが、もしサトシ以外なら、そう言っただろうか。


月光雅 ( 2015/08/10(月) 10:37 )