第一章. 誰の絵にも映らない
U ひとりぼっちじゃない

「ああ、美味しかったなぁ 」
「ピィカ! 」
あの後サトシたちはクレープを食べて、またあてもなく歩いているのだった。
「サトシ君は食い過ぎよ。どうしてそんなにスタイルが良いのかわからないくらいだわ 」
「でも腹が減ってはバトルはできないって言うじゃんか 」
「貴方はそもそもお腹の減るスピードがはやいのよ 」
「仕方ないだろ。バトルすると腹が減るもんな──っ 」
その時サトシの台詞と足はピタリと止まった。
「サトシ君……どうかしたの? 」
不思議に思ったカノンが問いかけた。
「カノン、こっち 」
サトシは何も伝えずにカノンの手を引っ張り誘導した。
「えっ、えぇ 」
少しひと気の無いところに入るとサトシは止まって言った。
「久しぶりだなぁラティアス! 」
「──クゥゥウン!! 」
サトシが言うと、ラティアスが姿を現した。
「ラティアス!? 」
「ピッカァ! 」
「サトシ君……もしかしてラティアスに気づいてたの? 」
「ああ、波動を使ってみたらラティアスが見つかったからとりあえずひと気の無いところに来ようと思って 」
「は、波動? 」
サトシには、伝説の勇者アーロンに似た波動が流れている。その波動のおかげで、あのルカリオとも出会うことができた。それだけではなく、波動にお世話になった事は何度もある。
「ていうか、ラティアスずっと私たちを見てたの? 」
「クゥゥゥゥン♪ 」
「……(もしかして、サトシ君との会話も聞いてた? )」
「(クゥン! )」
「………/// 」
ラティアスは「全部聞かせてもらいました! 」と言いたげに、笑った顔でそう鳴いた。
「なにコソコソ話してるんだよ? ん、カノン、お前顔赤いぞ 」
カノンは思わず赤面していた。
「あかっ、赤い? な、なんの事かしら/// 」
「そのとぼけ方……確か俺が始めて声掛けた時もそんな反応だったよなぁ。ん? 何怒ってるんだ? 」
「怒ってないもん/// 」
「うーん。それでもやっぱり赤いよなぁ。熱とかあるんじゃないのか? 」
サトシが近寄り、カノンの額に手を当てた。そのシチュエーションはカノンにとって心臓が止まりそうなくらいに大変な事だった。
「────っ///」
「熱いぞ! やっぱり熱が── 」
「──ないから///ってこら、ピカチュウとラティアスも笑わないで/// 」



「私って馬鹿だなぁ…… 」
あの後、結局カノンは熱を出し、彼女の家のベッドで寝る事になった。
「カノン、入るぞ 」
ドアの向こうから彼の声がした。
「うん 」
「タオル濡らしてきたから、これで頭冷やせよ 」
サトシはカノンの為に色々と動いてくれている。
「ごめんね……サトシくん 」
「いいよ。旅は道連れって言うだろ? 」
「まだ旅してないけどね。ピカチュウは? 」
「ラティアスと一緒に外で遊んでる 」
「そう…… 」
少しの沈黙。気を遣ってサトシは何か言おうとする。
「……なんか食べる? 」
「…… 」
「ん? 」
「いや──なにも 」
また沈黙。
「……喉渇く? 」
「うん 」
「わかった 」
サトシはそう言って部屋を出ていった。
「サトシ君って、鈍感すぎるわ。振り向かせるのはかなり時間がいりそうね 」
数分後に彼は戻ってきた。サトシは自分のコップを取ると、カノンのコップを彼女に差し出した。
「はいこれカノンの分 」
「ありがと 」
彼は口を少しだけ飲んだ。
「はあ、この街の水って美味しいな 」
「そう? 私は他のところのをあまり飲んだ事がないからどうだか 」
そう言いながらカノンも少しだけ水を飲んだ。そして二人とも、台の上にコップをおいた。
「……… 」
またまた沈黙。
「ねえサトシ君 」
今度はカノンが切り出した。
「ん? 」
「ありがとね……来てくれて 」
「友達が助けを求めてるのに、助けにいかないわけないだろ? 」
そう、それがサトシは当たり前なのだ。
「でも、サトシ君ってそうやって……自分の命に関わっても後先考えずに行動するよね 」
「まあ、そいつのためだからな! 」
カノンはもう一度コップを手にとって水を飲んだ。
「ラティオスの時だって、あの結界に迷わず体当たりしにいって……そういうところが私は── 」
「あの、その今カノンが飲んでる水。俺の方なんだけど 」
「────────っ/// 」
思わず喉に水をつまらせてしまった。まさかのフェイントだったので。
「大丈夫か?! ごめん、話止めてでも言うべきか迷っちゃって 」
「(うぅ……結構冷静な流れで言えると思ったのに )」
「で、どういう話だっけ? 」
何もなかったかのようにサトシは話を戻そうとする。
「(この流れで言わせるとか鬼だよぅ)ええっとサトシが今まで出会った珍しいポケモンを聞いてたんだよ 」
「ああそうだったな! 」
「(なんて馬鹿なんだこの人は。私は言えないか )」
「ふんじゃまず、ルギアの話から──」



「──でそのマナフィを俺たちで……カノン 」
「………… 」
カノンは静かに眠っていた。
「……寝てる……か。そうだ! タオルを変えてやらないと! 」
カノンの額のタオルを取り、冷水を吸わせ絞り、またカノンの額に戻す。
「ふう、これでいいかな。くぅあぁぅ。なんか俺も眠たくなってきたな。そこら辺に寝転んで昼寝でもするか──ん? 」
気づくとカノンはサトシの手を握っていた。
「……ぅん。ひとりに……しないで…………サトシ……そばに……… 」
うなされたような声でカノンはサトシを求める。
「と、言われても……はあ、わかったよ 」
サトシはカノンの寝ているベッドに頭を付けて寝た。

数分後、カノンは目を覚ました。
「ぅん? あ、私いつのまに寝て…… 」
カノンの視界は徐々にはっきりとなり、やがて彼女は状況を理解した。
「(うわぁぁぁぁぁあああああ!!! どうしてサトシ君が私の膝の上で寝てるわけ? え、ドッキリ? カメラどこ? )」
キョロキョロと見回しても、もちろんカメラなど見つからない。
「ふぅ、サトシ君。私の看病して疲れちゃったんだ…… 」
彼は自己犠牲など気にしない。心配な点ではあるが、逆にそれが彼らしい。
「ありがと……サトシ君 」
「……ひとりぼっちじゃない…………から。俺が………そばに……いるから…………………… 」
その時のサトシの言葉は寝言でも、カノンにとってはとても嬉しかった。


■筆者メッセージ
続けて書いてしまいました。こういう系って案外難しいですね。書きたくて書いちゃいましたけど。
月光雅 ( 2015/08/04(火) 00:14 )