第一章. 誰の絵にも映らない
T アルトマーレの英雄

「カノンっ!! 」
「ピカピっ!! 」
「サトシ君っ! 」
ここは水の都、アルトマーレ。この青年サトシは、旅の中出会った友だち、カノンに呼ばれてこの街にきたのだった。
「懐かしいなぁ。ここ 」
「ピィカ 」
秘密の庭。幻のポケモン、本来ラティアスとラティオスを護るために創られた空間。
「サトシ君…… 」
「ああ。で、話しって? 」
2人は隣り合ったブランコに座った。
「単刀直入に言うとね……私と旅をして! 」
「え? 」
サトシは先月、チャンピオンシップの決勝トーナメントに出場し、決勝の相手タクトを倒して優勝した。つまり彼には今、やる事がないのだ。
「確かに一緒に旅をする事はできるし、嫌でもないけど。なんで急に? 」
「ここ最近……。いや、サトシ君がアルトマーレを救ったあの日から……この街の絵だけじゃなくて、貴方が旅をしてるような世界も絵にしたいと思うようになったの 」
「それで旅を? 」
「私一人じゃ不安だし、ラティアスの事も知ってるとなると……サトシ君が最適で 」カノンは続ける。
「それに……ラティオスの事も。もしかしたら復活させることができるかもしれない 」
「ラティオスをっ!? 」
「ピカピカピっ!? 」
「確信は持てないけど、ラティオスの意思はまだあのこころのしずくの中にあると思うの。そこからラティオスを復活させたいんだけど、そのためにはもう一つのこころのしずくも必要でしょ? 」
「──わかった。ボンゴレさんには言ってあるの? 」
「サトシ君さえよければって/// 」その言葉を言った途端、カノンはずっと見ていたサトシから目をそらした。
「どうした? カノン 」
「あ、あの……私の描いた絵をサトシ君に渡したの覚えてる? 」
「ああ、めっちゃ上手だったぜ! 」
「ピッ、ピカッピ! 」
「あれをわ、渡した後、き、キスしたのはそのっ、……ラティア──「カノンだろ? 」
「え? 」
「だってあの時の体温って、ラティアスみたいに冷たくなかったもん 」
「(バレてた!? ラティアスに見せるために帽子もかぶらず無口でいたのに///……それを真顔で説明できるサトシ君が少し怖いよぅ……好きだけど///)」
「で、あれって結局、アルトマーレの挨拶か何か? 」
「ピッ!? 」
「えっ!? 」
サトシの鈍感はチャンピオンになっても変わってはいなかった。肩に乗っているピカチュウさえもおどろいた。
「そ、そんなところかなぁ。あはは 」
助かったと言うべきかチャンスを逃したと言うべきか……カノンは少し後悔した気がする。
「うーん、カノンが満足できる絵を描ける場所かぁ」
「まあ、とりあえず。サトシ君も久しぶりにアルトマーレにきたわけだし、少しこの街で遊びましょ 」
「ああ! ……そういえばラティアスは? 」
「少し外出してるわ。最近ここじゃ暇だからね 」
「そうか……よし! 」
サトシはブランコから降り、こころのしずくの方へと向かった。カノンもその後を追いかける。サトシはこころのしずくに、いやラティオスに話しかけた。
「……久しぶりだな。ラティオス。必ず俺たちで復活させてやるからな! 」
「ピィカ! 」
「ラティオス……待っててね 」



「それにしても本当迷路みたいな街だな 」
アルトマーレの道は、とても入り組んでいる。サトシもここで何度も迷った。
「これからどこにいく? 」
「そうだなぁ。とりあえずクレープ屋さんにでも行くか! 」
「ピカ! 」
「(私から誘ったけど、これってデートなのかな? デート……うん。デートでいいや )」
「ん? どうしたカノン 」
サトシは心配そうな顔でカノンを見た。
「……いや。ちょっとあの日のこと思い出しててね。ほら、サトシ君。ラティオスを、こころのしずくを秘密の庭に戻した後……私に声をかけてくれたじゃない 」

*カノンの回想

「ラティアス……私 」
「クゥゥウン…… 」
あの日私は、みんなが秘密の庭を出ていったあと、ラティアスと一緒に泣いてしまっていた。溜まっていた涙が、抑えても余計にこぼれ落ちて……とても辛かった。
「カノン、ラティアス…… 」
そんな時に、私たちに声をかけてくれた彼がいた。
「サトシ……君 」
「……うーん。ゴメン。ラティオスならなんて言うかなって考えたんだけど……その、うまくまとまらないけど、多分あいつなら……お前たちに泣いて欲しくないと思う 」
「……でも、でも! 」
出ちゃうんだ。涙がこぼれ落ちちゃうんだよと、心の中で叫んでいると、彼は私とラティアスを抱きしめた。
「えっ 」
「わかってる。俺だって……でも── 」
おそらく彼は泣いていた。私たち同様に、耐えられずに。
「だから泣きたい分泣こうぜ……それで、笑える分笑おうぜ 」
その時彼が私たちに見せた涙のあふれる笑顔に、私は引きつけられた。
「クゥゥウン 」
「…………サトシ君 」



「サトシ君は、街だけじゃなくって、私やラティアスのこころも救ってくれた英雄だった 」
「……救ったのはラティアスとラティオスだよ。俺はそんな、英雄なんかじゃないよ 」
「でもサトシ君頑張ったじゃない 」
「頑張っただけじゃ── 」
帽子の影に、サトシの目元が隠れた。サトシにも泣きたい時はある。だからカノンは、サトシの手を握っていった。
「ううん。頑張った 」それしが言えなかった。自分で満足できる答えでは無かったけれども、それがその時にふと出てきた言葉だった。
「ありがとう……カノン 」
「私は、泣いてるサトシ君よりも……笑ったり、勇敢に何かに立ち向かってるサトシ君の方が好きかな 」
「ああ! 」
「「………… 」」
その時カノンとピカチュウは思った。(この鈍感め! )と。


■筆者メッセージ
うーん。最初から飛ばしすぎたような……。息抜きに時々書くペースだと思うので、期待はしないでください。まあ、自分はこういうの始めてなので、なにか意見などがありましたら言ってください。(とかいいながらもう展開は頭の中でできてるんですけどね )
月光雅 ( 2015/08/02(日) 22:02 )