記録03. 漆黒の蠍
「……… 」
唾をごくりと呑み込む。緊張と共に。
ヒビキは今、ジムの前に立っている。夢のポケモンリーグへの第一歩を踏み出そうとするわけだ。
「………… 」
扉を開ける。ゆっくりと。決して焦らず、心を乱さないために。
「ようこそ! 我がジムへ! 」
ジムリーダーハヤトは、早速ヒビキを招き入れ、自己紹介を軽く済ませた。
「ルールは、2対2。交代はともになしだ。いいか? 」
「もちろんです 」
「では、早速始めるとしよう 」
【ヒビキ】VS【ハジメ】
「いけ【ペラップ】! 」
相手の先発はペラップだ。とりポケモン使いというのは本当らしい。
「【エリキテル】! 」
こちらはエリキテルを繰り出し、相手の出かたを見てみる。
「どうした? 撃ってこないのか? ならこちらからいかせてもらう! ペラップ【どくどく】だ! 」
「なにっ 」
ペラップは翼を広げて、無数の毒の弾を放った。
「エリキテル、かわして【でんきショック】 」
エリキテルは身体をうねらせ、回転しながら華麗に【どくどく】を避ける。そして、そのまま放たれる激しい電撃。
「ペラップ【まもる】! 」
ペラップはバリアをつくり、攻撃をしのぐ。
「【まもる】まで使うの!? 」
コトネが観客席で驚いている。
「【つばめがえし】! 」
電撃を防ぐと、ペラップはすぐに攻撃体制に入った。地上の少し上を這うように攻撃をしかける。
「かわして【ひっかく】 」
エリキテルはその場で跳んでペラップをよけながら、【ひっかく】でペラップを叩きつけた。
「いけるか?ペラップ。なかなかやるね。では本番といこうか。ペラップ【おいかぜ】! 」
ペラップの後方から強風が吹く。エリキテルは風に押され、立つ事もままならない。4つん這いになって耐えるのが精一杯だ。
「ペラップ【エアカッター】! 」
「エリキテル【でんきショック】だ 」
2つの攻撃はほぼ互角、ぶつかり合い、爆発を起こしながら消滅した。
「ペラップ【つばめがえし】! 」
ペラップは【おいかぜ】に乗り、通常より速いスピードで接近してくる。
「【あなをほる】でよけて 」
エリキテルは地下に潜り、攻撃をかわした。
「くっ、気をつけろペラップ! 」
「──っ今! エリキテル【でんきショック】 」
エリキテルはペラップの背後に飛び出し、とびっきりの電撃をくらわせた!
【ペラップ戦闘不能】
「ふぅ、よく頑張った。休めペラップ 」
嫌な予感が頭を過るとともに、ジムの天井から一匹のポケモンが舞い降りた。
「僕の本気を見せてあげよう! 」
大きな影はその漆黒の翼と槍のように鋭い牙を露わにし、光を遮った。
「【グライオン】…… 」
グライオンのタイプは地面、飛行。エリキテルにとって不利。エリキテルも身震いをする……
「グライオン【つばめがえし】! 」
「【あなをほる】! 」
「【じしん】! 」「しまった! 」
大地の中へと逃げたエリキテルは大打撃を受けてしまう。そして穴からエリキテルは投げ出された。
【エリキテル戦闘不能】
「そんな…… 」
「ヒビキ君。まだバトルは終わっていないぞ! 」
(これがハヤトさんの本気。これに打ち勝つなら、僕も、いや俺も腹を括らなければ! )
ヒビキの金色の眼が見える。
「いくぜ! ハヤトさん! 」
「!? っ来るなら来い!」
ハヤトも少々驚いたようだが、覚悟を決めた。
ヒビキはモンスターボールを投げた!
「【ケロマツ】! 」
ケロマツは舞台へと出る。
「覚悟はいいか!? 」
「ああ 」
互いに相手を睨み合う。覚悟のほどは、それを見ればすぐわかる。
「グライオン【かみなりのキバ】! 」
天翔る漆黒の蠍は、その牙に稲妻を宿し、今ケロマツを刺さんとする。
「【かげぶんしん】だ! 」
怪盗Xの事から必死に特訓した結果、影のある分身を作り出す事はできないが、分身の量は格段と増えた。
「【じしん】だ! 」
【かみなりのキバ】はかわせたものの、全体攻撃により、分身はあっけなく消滅していく。
「【みずてっぽう】! 」
消えた分身に構わず、攻撃を続けた。そして命中。効果は抜群だ。
「続けて【でんこうせっか】! 」
一気に接近戦へと持ち込もうと考えた。
だが────
「【つばさでうつ】! 」
ケロマツは翼でフィールドの壁まで飛ばされた。
「グライオン【はねやすめ】! 」
ここでグライオンは回復技を使用してきた。状況はかなり不利だ。
「それでも! 俺はまだ諦めない! 諦めたくない! 」
──その瞬間、ケロマツが蒼色のオーラを放った。
「あ、あれは!? 」
「ヒビキ、ケロマツの特性【げきりゅう】よ! 」
コトネが観客席から教える。
「……ふっ、いきますよハヤトさん! 【みずのはどう】! 」
ケロマツのエネルギーが全て球体になり、敵を砕く弾丸となる!
「いっけぇえええええ!!! 」
ケロマツはさらに【かげぶんしん】を使い、無数の【みずのはどう】で攻撃した!
「ふっ、僕の……負けだよ 」
【グライオン戦闘不能】
【勝者ヒビキ】
「おめでとう 」
「ありがと 」
既に眼は閉じてある。まるで特性【バトルスイッチ】のようだ。
「これを受け取りたまえ! 」
ハヤトはヒビキにウィングバッチを手渡した。
「君は今、ポケモンリーグへの第一歩を踏み出した。これからも頑張ってくれ 」
「うん 」
僕達は再び旅を始めた。その旅が、どんな結末をもたらすかも知らずに────