ポケットモンスターANOTHER








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STAGE1. GOLDEN MIND
記録16. 夕暮れ


「………── 」
「どうしたんだ? そんなところで一人 」
ポケモンセンターの屋上で夕陽を見ていたコトネに、ノイズは声をかけた。
「……少し風に当たりたくてね 」
何処か遠い答えだった。
「さっきの話か 」
ノイズがそう問うと、コトネはゆっくり頷く。

*数時間前

「で、あんたはいつまで観客でいるつもりだ……カトレア!! 」
「あら、気づいていらして? 」
「あれほど俺たちのバトルに口を出しておいて、よく言うよ 」
その会話はかなりテンポが良かった。
「もしかして、お二人は知り合いで? 」
コトネが問うと、二人は頷いた。
「それにしても、身体の方は大丈夫なのか? 」
「まさか心配してくださるの? 」
そうカトレアがからかうと、マツバは下を向いて言った。
「一応、俺のせいだからな 」
「あの……説明してもらってもいいですか? 」
「……そうだな 」
マツバとカトレアは眼を合わせて確認した。そしてマツバは説明をはじめた。
「俺は一度、死んだんだ 」




ヒビキたちの間に長い沈黙が続く。
「死んだ? ……died? 」
「ああ。4年程前、大きな大災害に巻き込まれてな。だが、生き返った。カトレアのおかげで 」
「私には、ゼルネアスというポケモンのご加護があります。その力を使わせていただきました 」
ヒビキたちは動揺に耐えながら理解しようとし続ける。
「まあ、私ほどになれば、人ひとり生き返らせるのは容易いことです 」
「だが、代償として生命力を失う 」
もうそろそろ理解が追いつかない。
「あの時は、眠たくて仕方がありませんでしたね。まあ、こうして立ち上がることができたのもつい最近のことです 」
「っ────!! 」
ヒビキはその時思い出した。カトレアと始めてあった時、彼女の脚の運びは妙に安定してなかった。その原因は、そういうことだったのだ。
「で、そうやってジョウトに出てきたのも。理由があるんだろう? 」
マツバはカトレアを見た。
「ええ、とある使命を請けて 」
「詳しく聞かせてもらいたい 」
「わかりました。では皆さんはポケモンセンターで待っててください 」
そう言って、カトレアはマツバについて行った。



「なんか、自分の見てた世界が小さく感じれて 」
「ああ。俺も最近、同じ事を思ったよ 」
ノイズはコトネの横に並んだ。
「私……皆の役に立ててるのかな 」
コトネはふと、そんな事を言った。
「立ってるさ。絶対 」
「でも……カトレアさんやポケモンたちがさらわれたのは、私のせいだよ 」
そのコトネの言葉への反論は見つからなかった。だが、
「ヒビキがさ、言ってたんだ。居場所があると安心するって。だからお前が奴の……ヒビキの居場所になってくれ 」
「居場所……? 」
「そう。お前になら作り出せるはずだ。奴の帰る場所を 」
コトネはその言葉を噛み締めた。
「あ、こんなところに 」
屋上にヒビキが上がってきた。
「何話してたの? 」
「いや、ただ夕陽を見てただけだ 」
「夕陽……そうだ! ご飯だよご飯! 早く行かないと冷めちゃうよ! 」
「わかった。行こうか 」
ノイズとヒビキは屋内へと戻っていった。が、コトネは戻る気にならなかった。
「……──── 」
ポッポの群れが夕陽に向かって飛んでいった。
「帰る場所。か 」
──何だ? 悩み事か? ──
何処からか声が聞こえた。
コトネは焦って振り返った。
「……怪盗──X 」
白い仮面。白いマント。奴はコトネの後方に立っていた。
「また悪い事? 」
「いや、今回は奴に用があってな 」
「奴? 」
怪盗Xはコトネに近づき、カバンから取り出したモノを差し出した。
「これを、“ノイズ”に渡して欲しい 」
「これって…… 」
ポケモンのタマゴだった。
「どうして私を通じて? 」
「その理由は言えないが、それがお前たちにとって命と釣り合うくらいの価値があるモノなのは保証しよう 」
「私たちの……命!? 」
「……生憎長々と話している暇はない。帰らせてもらうぞ 」
怪盗Xは【ドンカラス】を繰り出し、夕暮れの空を飛んでいった。
「……──── 」
その時コトネは思ったのだった。
「Xにも……帰る場所があるのかな 」
怪盗Xという人物には、まだ謎が多い。だが、奴はどこか近い存在のような気がコトネにはした。


月光雅 ( 2015/07/19(日) 17:55 )