ポケットモンスターANOTHER








小説トップ
STAGE1. GOLDEN MIND
記録11. 偽りの虫取り大会

微かに虫ポケモンの声が聞こえてくる自然公園。ヒビキ達はここのベンチに座り、昼食をとっていた。

「……美味しい 」ヒビキは言った。コトネの作ったおにぎりを食べると、思わずその言葉が出たのだ。コトネの優しい気持ちが、おにぎりにもこもっている。
「ありがとう。ヒビキの事だから、無言のまま食べ続けると思ったけど、ちゃんと褒めてくれるなんて 」
全くもって失礼な決めつけだ。
「それ、どういう事? 」
「ヒビキがいつもマイペース過ぎるって事! 」
「そんなに? 」
「うん 」
「そーか 」
ヒビキはまたおにぎりを食べ始めた。
するとコトネはとりだしたポケギア見て言った。「そういえば、今日はこの自然公園で、虫取り大会をやるみたいね 」
「虫取り大会? 」
「誰がよりよい虫ポケモンを捕まえられるか競う大会よ 」
そう言われて公園内を見渡すと、確かにやけに人が多い気もする。

「重ぉ〜! 」
男の人が景品と書いたダンボールを重たそうに運んでいた。ヒビキはおにぎりを食べ切って「手伝います 」と言って近づいた。
が、その時──
「エリッ! 」
「エリキテルっ? 」
エリキテルはいきなりボールから飛び出すと、ダンボールの中にある何かを探しだす。
「わぁ! ダメよ! ダメダメ! 」と男の人は必死に止めようとするが、その声にも振り返らず、エリキテルはそれに触れた。

【ピカーーーーーーーン】

太陽の石とエリキテルが共鳴する。
「エリキテルが! 」
「この神々しい光は! 」
エリキテルの体が光の中で大きく成長していく。
「エゥレッ!! 」
エリキテルはエレザードへと進化した。
「たたたた、た、大会の大切な景品がぁ! 」
男の人は嘆いた。とても大きな声で。
「っ!す、すみません 」とコトネとヒビキは頭を下げる。
「うーん。すみませんと言われても……太陽の石はそこそこ高級品だからなぁ 」
「じゃあ、もしかして 」
「罰金……かな? 」
【チャリン¥】
ヒビキとコトネの頭の中に、財布から羽ばたいて行く小銭たちの姿が浮かんだ。
だが「あっ、でも逃れる方法はあるよ 」という男の人の声で現実に戻る。
「それって何なんですか? 」コトネは必死に問いた。
「ああ、簡単な事さ! 回避するには、今日行われる虫取り大会で1位になる! それだけさ 」



「いけっ! コンペボール! 」
──ストライクを捕獲した!
「よし、ストライクなら一位を…… 」
コトネの目は、希望の光に満ちていた。
「……… 」
一方のヒビキは何故か座禅。
「キャタ? 」
なんとそこに色違いのキャタピーがヒビキの前に現れた!
『いっ、色違いのキャタピー!? 』
『何ですって!?』
『どけぃ! それは俺様のものだ! 』
『違う! 僕のものだ! 』
『いいえ! それは私のものよ! 』
大会に参加している人々はそのキャタピーを捉えようと近づいてくるが、ヒビキは何一つその様を変えない。
人々の気配に気がついたキャタピーは即座にその場から逃げ出した。
『あっ!待ってぇ! 』
人々はドタバタとみっともない足音を立てながら子供のようにキャタピーを追いかけた。
「……… 」

数分後、ヒビキの前を色違いのトランセルが通る。その後に続いて人々が通り過ぎていく。
『待てぇええ! 』
「……… 」


またまた数分後、ヒビキの前を色違いのバタフリーが通る。
『待てぇぇええええ! ってあれ? 』
人々はバタフリーを見失った。人々はその場から別れて行った。
「……もう大丈夫だよ 」
「……フリィィ 」
バタフリーはヒビキの背後から姿を現した。そしてヒビキに感謝の一礼をする。
「可哀想に……こんな傷だらけの身体で追いかけられて、苦しかっただろう? 」優しくそう言いながら、ヒビキはバタフリーの身体を撫でた。その身には、無数の傷跡があった。きっと、バタフリーを捕まえようとしたトレーナーの仕業だろう。そう思うとヒビキは悲しくなり、言葉が出なくなった。
「一緒に行こうよ。楽しい事も悲しい事も分け合ってあげる 」
バタフリーはそのヒビキの言葉に感動し、モンスターボールにその身を預けた。

その後大会は無事終了し、ヒビキは色違いのバタフリーで見事一位を収めた。そして皆が解散して日も沈みかけた頃、噴水の前でヒビキはコトネに提案した。「……コトネ、バタフリーを受け取ってほしい 」
その提案はコトネを驚かせたが、よく考えれば、それが最善の策であった。バタフリーには戦いは似合わない。ポケモンマスターを目指すヒビキが持つべきではない。
「……分かったわ 」
コトネは納得した様子で、モンスターボールを受け取った。



ヒビキはエレザードという新戦力を、コトネはバタフリーという仲間を加えた。これからも、彼らの旅は続く。

──その調子よ、金色 響。
貴方は強くナリナサイ。そして、この世の未来ヲ……──


月光雅 ( 2015/05/20(水) 22:35 )