ポケットモンスターANOTHER - STAGE1. GOLDEN MIND
記録06. 隼 疾風を斬る

「……ここが、フィールド 」
視界の中ににはたくさんの樹々が映る。足元には膝の高さまで伸びた草が生い茂っていた。
「そうこの森のようなジムが戦場さ! 」ヒワダジム、ジムリーダーのツクシは両手を森を抱くように広げて言う。
「手持ちは三体、先に三体倒した方が勝ち。いいね? 」
ヒビキは無言で頷いた。
石のような不動の静寂のなかに、微かに冷たく鋭い風がヒューと吹き通る。
そして、虫達が何かを感じ羽ばたく音が鳴る。二人はその時、モンスターボールを投げつけた。
「いけ【テッカニン】! 」
「【マグマラシ】 」
宙に羽ばたく細かい羽音ひとつと
ドシッと地に乗る音ひとつ。辺りの静かさが、ふたつの音を際立たせる。

「【シザークロス】! 」ツクシは手を前方へと伸ばし指示を出す。
その手の方へとテッカニンは刀を向けて、宙を駆ける。

「【でんこうせっか】。よけて 」
正面から向かいくるテッカニンにマグマラシは突っ込んだ。
そして【でんこうせっか】の勢いを利用し、身体をひねらせ、攻撃をすれすれでよけた。

「【ひのこ】 」
マグマラシは更に身体をテッカニンに向け、火の弾丸を放った。弾丸はテッカニンを貫いた。
しかし、テッカニンはビクともしない。

「テッカニン【シザークロス】! 」
テッカニンが駆け始めた瞬間、ヒビキの脳裏にそれは過った。
「っ! 気を付けて! そのテッカニンの特性は── 」
ヒビキの訴えは遅かった。先程と同じようによけたはずだった。しかし、テッカニンの刀は確かにマグマラシを切り裂いていた。

「……【かそく】 」
「ピーンポーン! 大・正・解! でも良くわかったね 」
ツクシの問いに、ヒビキは少し改めた口調で答えた。
「テッカニンは、周期的に、細かく羽を動かして飛ぶ。その飛び方なら勿論、音もなる。さっき、少し音が高くなったから、素早さの変化による影響だという仮説を立てた……。どう? 」
「おめでとう。ビンゴだよ 」
「かの有名な弁慶にも、泣き所があったように、モノには必ず欠点がある。メリットにはデメリットが付き物 」
これは、怪盗Xとの戦いでヒビキとケロマツが得た答えだ。
「驚きだよ。バトル中に聴覚にまで気がいくなんて、面白い人だ 」とツクシは笑いながら言った。
そして今度は、声を低く鋭くして言う。
「僕も本気だしちゃおっかな 」
体の中に満ち溢れる異様な緊張感で、ヒビキは手に汗握る。

「【こうそくいどう】! 」
その指示の途端、テッカニンはヒビキの視界から消えた。
「くっ…… 」
ヒビキ達は構えることしかできなかった。なにしろ相手の位置が特定できないだから。

「【シザークロス】! 」
剣は弾丸のような速さで飛んできて、マグマラシを斬る。一発二発。まるで大きな津波に飲まれるような感覚。マグマラシ視界は揺れて、うろたえているだろう。しかしすぐに次の刀は飛んでくる。四発、五発、六発……。テッカニンは更に疾風へ溶け込んでいく。
ついに、マグマラシの全身の力は抜けてしまった。その身に纏う炎も消えた。
「マグマラシ!! 」
マグマラシはドスンと音を立てて倒れた。それを確認したテッカニンはピタッと止まった。

「──っ今だ! 」
今度はツクシの視界からマグマラシが消えた。気がつけば、マグマラシはテッカニンを貫いていた。

「【かえんぐるま】…… 」
ツクシはその技の名を当てる。テッカニンはその羽音を止めて散った。ツクシはそのテッカニンを抱き上げ、モンスターボールに戻した。そして別のものと持ち替える。
「【ストライク】! 」
その時、緑の戦士が地に立った。新たな風を呼びながら。
「その特性【もうか】による強化状態って、かなりリスクが高いはずだよね? なら一気に決めさせてもらうよ! 【エアスラッシュ】! 」
「くっ、速いっ! 」
先程のテッカニンを上回る速さ。一体どんな特訓をしたらこんなスピードが出るんだ!?
「──でも! 」
マグマラシも負けてはいない。まるで地を這うトカゲのようにストライクの刀をかわしている。
「なんだ!? これじゃ化け物じゃないか!? 」
その脅威にツクシも驚きを隠せない。

「高く跳べ! 【スピードスター】! 」
天に昇る太陽が、無数の星を乱射する。ストライクは攻撃を受けて動きを止める。

「マグマラシ【でんこうせっか】! 」
天から太陽は舞い降りる。だが──
「こっちも【でんこうせっか】! 」
攻撃は、ストライクの方が今真一秒速かった。
マグマラシは倒れた。

「僕の二体目【ケロマツ】 」
ヒビキはマグマラシを戻し、ケロマツを繰り出した。

「相手の動きを待つんだ 」
「へえ、この素早さの前で手を出してこないなんて……どういうつもりだい? まあいい、攻めろ【エアスラッシュ】! 」
瞬きをした頃には、ストライクはケロマツの前で刀を振り上げていた。

「……ケロムースで守れ 」
「なにっ!? 」
ケロマツはその身をねばねばの泡で包み込んだ。思い切りに振り下ろされた刀は、泡によって止められ、離れなくなった。
「……これなら素早さも関係ない 」とヒビキは自信ありげに言うが──

「【バトンタッチ】 」
「なっ! 」
ストライクはツクシの元へ戻ってしまった。

「いけっ【カイロス】! 」
しかし、そのポケモンの姿を見たとき、ヒビキは思わず笑みをこぼした。
「……戻ってケロマツ 」
「おや? ここで交代かい? 」
「そのカイロスと、闘わせてみたいポケモンがいるんです 」
ヒビキは腰元からひとつのモンスターボールを取り出した。そして、大きく構えて投げつけた。
「【ヘラクロス】 」
1ほんツノポケモンのヘラクロスは、くわがたポケモンのカイロスと、ライバルの関係てある。
「なるほど、面白い……ではいくよ! 」

「「【ちきゅうなげ】! 」」
ふたつの指示が重なる。両者が互いの拳を受け止める鈍い音は、トレーナー達のもとまで聞こえてくる。しかし両者ともそれで精一杯だ。攻撃がなかなか決まらない。

「いけ、ヘラクロス 」
「カイロスっ! 」
ヘラクロスは全身の力を振り絞り、カイロスに技を決めた。
「そんな、カイロスのパワーの方が劣っているというのか!」

「……【つばめがえし】 」
怯んでいるカイロスにヘラクロスはたたみかける。

「【まもる】だ! 」
しかしカイロスは壁を張り、自分の身をまもる。ヘラクロスは反動で宙に浮き体勢を崩す。

「続けて【いあいぎり】! 」
カイロスはそのヘラクロスのすきをつこうとする。
「……【かわらわり】で受け止めて 」
ヘラクロスは左手の【かわらわり】で【いあいぎり】を受け止めた。

「右手で【つばめがえし】 」
カイロスは大地へと叩きつけられ、そのままツクシのもとまで飛ばされた。

「いけるか? カイロス 」
カイロスは立ち上がって答えた。
「【シザークロス】だ! 」
鋭き刀は天を駆ける流星のようにヘラクロスを切り裂いた。

「終わりにしよう! ヒビキ君! 」
「ヘラクロス……構えて 」



「「────っ【ちきゅうなげ】!!!!!! 」」




カイロス・ヘラクロス、共に戦闘不能!

「君との楽しい時間も、これで最後だねヒビキ君 」
「…………── 」
ヒビキの眼は開いた。
互いにモンスターボールを構える。中身は知っている。ケロマツとストライクだ。両者は天へとボールを投げた。
「【ケロマツ】っ! 」
「【ストライク】っ! 」
隼と疾風は天より舞い降りる。
「ストライク【エアスラッシュ】! 」
「ケロマツ【いあいぎり】! 」

ストライクはケロマツを横から切りにかかる。
ケロマツはしゃがみ込み、ストライクの足を狩ろうとするが、ストライクは少し下がり攻撃を除けては再び切りにかかる。

(素早さはこちらが上のはずなのに、どうして!? )

(開眼までしているのに、それでも!? )

ストライクの【エアスラッシュ】はケロマツを斬った。ケロマツの左腕は動かなくなる。それでもケロマツは全身を使い、【いあいぎり】を決めた。ストライクの右脚は動かなくなる。

「 【みずのはどう】! 」
ケロマツは距離をとって水の弾丸を放つ!


「【シザークロス】で受け流せ! 」
身動きの取れないストライクは刀で弾丸を弾いた。

「今だ【いあいぎり】!!!! 」
蒼き隼は疾風を斬り裂いた。
ストライクは戦闘不能となった。

「負けた……ふっ、この手に残る感覚。きっと忘れないよ 」
ツクシはヒビキへ駆け寄り、手を差し伸べた。
ヒビキはその手をしっかりと握り返した。


勝者、チャレンジャー『ヒビキ』!


その審判の声が、ジム内に響き渡った。


月光雅 ( 2015/05/04(月) 22:19 )