記録05. 暗黒と紅蓮のR
ヒワダタウンの中へ入るには検問が必要だった。ヒワダタウンのような小さな町は、人の出入りも少ないはず、それなのに、検問はしっかりしている。何かあったのだろうか。
そのような疑問を抱きながらも、ヒビキ達はポケモンセンターを訪れた。
「ポケモンたちはみんな元気になりましたよ 」
ジョーイと【ラッキー】が、回復させたポケモンを運んできた。
「ありがとうございます 」
「ありがと…… 」
ヒビキ達が礼をすると、ジョーイは問いかけた。
「もしかして、この町は始めてですか? 」
「はい、そうですが 」
「何か疑問に思いませんでした? 」
疑問……確かに思ったことはひとつある。
「そういえば、なんであんなしっかりした検問を? 」
「それならわしが話をしてやろう 」
突如、ポケモンセンターにいた老人が話しかけてきた。
「ガンテツさん 」
ジョーイは彼の名を呼んだ。
「ガンテツ……!? あの、ボール職人のガンテツさんですか!? 」
コトネはとても驚いた。それもそのはずだ。おそらくジョウトでその名を知らないものはいない。世界一の、宇宙一のボール職人が目の前にいるのだから。
「如何にも、ワシがガンテツじゃ! 」
ガンテツは胸を張って言った。そして続けて「ついて来い 」と言い、ヒビキ達を家まで連れてきた。
「おかえり、おじいちゃん 」
ガンテツを1人の少女が出迎えた。
「ただいま 」
ガンテツは少女の頭を軽く撫で、玄関を上がっていった。
「お邪魔します! 」
家の中は「和」と言う字がとても似合う造りだった。木の香りがほのかにする。ガンテツとヒビキ達は机をひとつ挟み、正座した状態で向かい合った。
「……先週末の夜じゃった 」
沈黙の中、ガンテツは落ち着いた様子で語り始めた。
「わしはいつものようにここで新しいボールを磨いとった。すると、ロケット団を名乗る連中がずかずかと町へ入ってきた。そして奴らはこう言った。
「いまからこのヒワダはロケット団が支配する 」と。
抵抗するものはポケモンで容赦なく攻撃し、滅多打ちにした。
そこに、赤髪の少年が現れた。」
(──っ!ノイズ!? )
ヒビキは心の中で思った。
ガンテツは話を続ける。
「少年は次から次へとかかってくるロケット団を返り討ちにし、この町を救った。
じゃが、奴らの目的はわかっとらん。また、いつこの町に訪れてもおかしくはない。だからあの検問を用意した。ただ、ロケット団を追い返すだけでも、隠れて入ってくる奴もおるであろう? 」
ガンテツは話し終えると一息入れて言った。
「……ロケット団は滅んだはずなんじゃがな 」
「滅んだ……はず? 」
コトネが問いただした。
「ああ、あれは3年前 」
ガンテツは再び語り出す。
「わしがカントーへ行っていた頃、ロケット団という集団が民間を恐怖へと落としいれた。
わしらは大事なポケモン達を次々に喪った。わしのポケモンもその時に…… 」
ガンテツの目に涙が見えた。彼はそれを手で拭い、何もなかったように話を続けようとする。
「その時じゃ、ある勇敢な少年が立ち上がった。彼はロケット団を解散まで追い込んだ。まさに英雄じゃ。いまどこにおるかは知らんがのぅ 」
ガンテツは少女の持ってきたお茶を1口飲んで、ほっとため息をついた。
「レッド…… 」
ヒビキがその名を口にすると、ガンテツは大きく頷いた。
「まあこんな話もなんじゃ。せっかく来たのだから。ボールを作っていくか? 」
「はい! 是非! 」
「ぼんぐりは持っておるかね 」
「ぼんぐり? 」
コトネは首を傾げた。
「なんじゃぼんぐりも知らんのか。きのみの様な物じゃ。町外れにあるウバメの森にあるじゃろう。とってきたまえ 」
「分かりました 」
ヒビキとコトネは立ち上がり、家を出ていこうとした。
「ねぇ姉ちゃん 」
コトネに少女が小さな声で声をかけてきた。
「なに? 」
コトネはしゃがみ込み、耳を傾けた。すると少女はコトネの耳元で小さく聞いた。「姉ちゃんって、兄ちゃんの彼女なの? 」と。
「ふぇ!? 」
突如の質問に、変な声を出してしまうコトネ。
少女は「ちがうの? 」と問いただそうとする。
「違う……よ 」
ヒビキをチラリと見たが、どうやら気づいていないようだ。
「……ほっ、ヒビキ行きましょ!」
「ここがウバメの森ね 」
【ドドドーーン】
「なに!? 」
森に入った途端、樹々の揺れる音がした。音の源を見にいくと……
「人? 」
「おう、オラずつき小僧。ずつき……教えてやろうか 」
確かにずつきがあれば木にあるぼんぐりが落ちてくるかもしれない。そう思いヒビキはずつき小僧にずつきを教わった。
コトネは知らなかった。
まさか ──
──こうなるとは……
【ドドドーーーン】
【ボトボトボトボト】
「……ぼんぐり、いっぱい 」
「それはそうとヒビキ 」
「ん? 」
【ドドドーーーン】
「なんであんたがずつきをしてるの! 」
ヒビキは次から次へと自分の頭で木に向かってずつきをする。
「……おかしい? 」
ヒビキはそれが普通だろと言わんばかりに問いた。
「おかしすぎるわ! 」
その時、木から一匹のポケモンが落ちてきた。ポケモンはヒビキの頭に乗った。
「……ヘラ 」
「……… 」
「……… 」
その沈黙はとても長かった。
ヒビキは【ヘラクロス】を頭に乗せたまま、コトネとガンテツの家まで戻った。
「ガンテツさん! ぼんぐり大量に取って……来ました 」
部屋を見ると少女しかいない。
「お姉ちゃん! じいちゃんが、じいちゃんが! 」
少女は慌てふためいている。
「どうしたの? 」
コトネは少女に優しく聞く。
「黒くてRのマークのある服を着た人が【ヤドン】を捕まえて、ヤドンの井戸に逃げ込んだって聞いて、追いかけて行ったの。お姉ちゃんお兄ちゃん、なんか嫌な予感がするよ 」
「大丈夫。お姉ちゃんたちが救けに行くから! 」
「本当? 」
「うん! 約束する! 」
コトネと少女は互いの小指を交えた。
「……黒くてRのマーク 」
ヒビキはヘラクロスを頭に乗せたまま推測する。
見た事がある。あれは、つながりの洞窟だっただろうか。暗くて分かりにくかったが、あの時の2人組も黒くて真ん中に大きな一文字が書いてある服を着ていた。もしあれがRの字だったら。
「……── 」
ヒビキは更に仮説を立てた。
ロケットの頭文字はRだ。彼らの服のRがもしロケットのRだとしたら。まちがいない。ロケット団が動き始めたのだ。
「ガンテツさんが危ない! 」
「くはぁっ! 」
身体を縄で縛られたガンテツはあっけなくに蹴られる。
「ふふふ、素直に町でおとなしくしていれば良かったものを 」
男は冷静にそう言った。
「そう……したら、ヤドンはどうなる! 」
男は答える。
「我々に捕獲され尻尾を取られるでしょう。しかし、貴方が来ても同じでしょう 」
「くっ…… 」
その時、一匹のヤドンが男に突進した。
「くっ、大人しくしやがれ!」
男は【サイホーン】に電撃を放たせた!
「くぁあああああああっ! 」
その瞬間、間にひとりの影が入り込んだ。
「大丈夫……か? ヤドン 」
影の正体はヒビキだった。ヤドンの代わりに電撃を受けて、ボロボロになっている。
「貴様……なにしにきた 」
「決まっている! 」
ヒビキは金の眼で男を睨んだ。
「てめぇらの悪事を止めるためだ! うっ! 」
「ヒビキっ! 」
先程の電撃の影響でふらついたヒビキをコトネは支えた。
「お前がランスか! 」
ヒビキは強く問いつめた。
「ランス様には指一本触れさせん!」
団員のひとりがランスとヒビキの間に入る。
「退いてやれ 」
ランスは静かに団員に言った。
「ランス様、しかし ── 」
「口説い!! 」
今度は強く言った。そのランスの声を聞くと、団員はすんなり引き下がった。
「貴様、噂のノイズって奴ではなさそうだな 」
「団員たちから話は聞いた。てめえらはヤドンの尻尾を金が目的で切り離すのか! 」
そのヒビキの言葉に、ランスは嘲笑して言った。
「そうですが、何か問題でも? 」
「分からないの!? そんなのヤドンが可哀想じゃない! 」
今度はコトネが怒った。
「ヒビキ……いまからお前らを排除する者の名だ! 」
「ヒノオォ! 」
【ピカーーーン】
【ヒノアラシ】はヒビキの叫びに答え、【マグマラシ】へと進化した。
「少年、ここに来たということは団員たちを勝ち抜いたのだな? それは褒めてやる。しかし、この私、ランスに勝てますか!? 」
「コトネ、ガンテツさんを! 」
「うん 」
コトネはガンテツの縄を解きに向かった。
「勝つ! 勝たなきゃならないんだ! 」
そのヒビキの強い意思は、それを見ていたヘラクロスを揺るがせた。ヘラクロスは、マグマラシの横に立つ。
「ヘラクロス……一緒に戦ってくれるのか? 」
その問いに、ヘラクロスは大きく頷いた。
「ダブルバトルですか。いいでしょう 」
ランスは更に冷静に振る舞う。
「いけ【ドラミドロ】! 」
既に出ているサイホーンに次ぐ2体目。ドラミドロ!
「ポケモンは人間の為の道具じゃない! 」
「──それを証明すると言うのですか? 」
「ああ! マグマラシ爆誕! 」
マグマラシが炎を上げる!
ヘラクロスも横に並び構える。
沈黙……──
一滴の雫が地に落ちる。
【ポタ】
「マグマラシ【でんこうせっか】! 」
マグマラシは高速でサイホーンに駆け寄る!
「サイホーン、受け止めろ! 」
サイホーンは大地をしっかりと掴み、攻撃を受け止めた。
「効かないねぇ! 」
「──っ! マグマラシ避けろ! 」
「【10まんボルト】! 」
対応が遅すぎた。マグマラシは電撃を浴びる。
「マグマラシ! 」
マグマラシはヒビキの方へ飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着地。
「大丈夫か」
「マグッ! 」
ヒビキが確認すると、マグマラシは威勢良く答えた。
「ドラミドロ【ポイズンテール】! 」
毒のムチがヘラクロスにふりかかる!
「飛べヘラクロス! 」
毒のムチはヘラクロスに当たらず、大地に弾いた。
「【つばめがえし】! 」
ヘラクロスは一鳥の燕のようにドラミドロへ飛びかかる!
が ──
「サイホーン【ロックブラスト】!」
岩の弾丸がヘラクロスを貫く。【つばめがえし】は失敗に終わった。
「ドラミドロ【ハイドロポンプ】! 」
水の槍がマグマラシを貫いた。
「マグマラシっ!!! 」
マグマラシは倒れた。
「ふ、これ以上やっても無── 」
「──燃えろマグマラシ!!! 」
マグマラシは立ち上がり、炎の渦を巻き上げた!
「【もうか】……だと!? 」
「【でんこうせっか】! 」
再びマグマラシは地をかける!
「【ロックブラスト】! 」
サイホーンの弾丸をマグマラシは高速で避けていく……そして──
「何だあれは! 」
マグマラシは紅い炎を帯びながら地をかけている。
「【かえんぐるま】を覚えたのか! 」
【かえんぐるま】はサイホーンを壁まで突き飛ばした!
「ありえぬ! ありえてたまるか! この私が……小僧に負けるなど! 」
「ヘラクロス【つばめがえし】! 」
「ドラミドロ【ポイズンテール】! 」
ぶつかり合う刃、燕が勝る!
【ズドーーーーーン】
「マグマラシ【かえんぐるま】! 」
天から襲いかかる紅い弾丸は、正に灼熱の太陽だ。
【ズドーーーン】
【サイホーン・ドラミドロ戦闘不能】
「な……馬鹿な、この私が……小僧に! 」
ランスは怒りと絶望で我を見失っている。
「ランス様! おい、引け! このまま引くんだ! 」
「了解! 」
したっぱたちが率先し、ロケット団は去っていった。
「やあぁーーーん 」
ヤドンの欠伸が、再び町に響くようになった。
「ヒビキと言ったな? 」
ヒビキは無言でコクリと頷く。
「ヒビキ……いい名前だ。すまんが、腰が痛いんじゃ。ボールは当分作れない 」
「しかたがないですよ。ね! 」
「うん! 」
目と目で合図するコトネとヒビキ。
「この町にはジムがあるそこに行きたまえ 」
「うん! 」
「バイバイ 」
「さようなら! 」
「また、遊びに来い! 」
ヒビキ達は手を振り、ガンテツに別れを告げた。
次は、二個目のジムだ!