ポケットモンスターANOTHER








小説トップ
― 金色の悪魔
記録44. 念の極者

「約束だよ。ノイズ 」
その言葉に応えるように、ノイズは拳を突き離した。
振り返り、立ち去る彼の背中を見て「はあ…… 」と一息。ヒビキは後悔を息に混ぜて出す。
「お見事だったよ。さっきのバトル 」
そこへ声がかかる。
やや高いが、男の声だ。聴き覚えのある声だった。
「……誰? 」と。
しかし、問うまでもなく、ヒビキはその声の主を思い出していた。
「僕の名前はイツキ 」
その声は言った。
「────────っ 」
咄嗟に飛び退く。睨んだ先には“四天王のイツキ”が立っていた。
────知っている。彼は昨年、ポケモンリーグ四天王に任命された男だ。
戦力でも戦術でもなく、戦略を起点としたまさに手品のような戦闘。
「金色 響、君には選択肢がある 」
イツキはそう言いながらゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「選択肢……? 」
「もし僕と戦う場合、君はその勝敗に関係なく四天王全員と戦わなくてはならない 」
足音が止む。ヒビキは思わず足を退いていた。
別に彼が恐ろしいわけではない。ただ、それが恐ろしい。
でも僕は、俺は。
「目と目があったらポケモンバトル……それが一般のルールなんだろ? だったら、俺はそれに従う。あんたも四天王である前に、ポケモントレーナーだからな 」
「……僕は世界を旅して周り、エスパーポケモンの修行に明け暮れた。そして、ようやく四天王の一人になったんだ。並大抵のトレーナーとは一味違うよ 」

────戦闘態勢(バトルモード)起動(オン)────

バトルライトは激しく瞬く。
「僕はもっと強くなる。ここで負けるわけにはいかない! それでも闘うというのなら 」

ヒビキ<トレーナー>VSイツキ<四天王>

対峙する2人はゆっくりとボールを構え、今────解き放つ。
「いけっ! ゲッコウガ! 」
しのびポケモン・ゲッコウガ
「超越せよ! ネイティオ! 」
せいれいポケモン・ネイティオ
敵対し、向き合う二体。
ドシッと舞い降りたが最後、沈黙だけが場を覆う。
「あくタイプのポケモン……僕のエスパーを封じてきたわけか 」イツキは不気味なまでに上機嫌だ。だがだからこそ警戒すべきである。相手は殺気を隠しているのだから。
「──── ゲッコウガ〈あくのはどう〉! 」
『ゲッコゥ! 』
大地が踊る。弾丸なんて比喩では間に合わない。
一種のエネルギー砲とでも言うべきか。
放たれたソレは足場を抉り、削ぎながらネイティオへと奔る。
しかし、イツキはその邪悪な閃光を見てもその微笑を崩してはいなかった。
「〈あやしいひかり〉 」
笑う魔王は歌うように指示を出す。
呼応し、放たれた弾丸の数は数えるのも面倒なほどだ。
数多の弾丸は重なり、ひとつのバリアとして閃光に立ちはだかる。
「くっ──────! 」
鬩ぎ合う2つの光。
それらは相殺し合い、大気に破片を撒き散らす。
「ネイティオ〈でんこうせっか〉だ 」
「── ゲッコウガ〈つばめがえし〉! 」
二体は“踏み込む”。
一体は翼を大きく翻しながら。
もう一体は地を這うように躰を低くしながら。
その途端。鮮緑の鳥も、蒼い閃光もスピードの世界へと消える。

────────ッ!!!!! ────────

“真の翼”に“真似(ニセモノ)の翼”を交差する。
ふたつーの一閃は同等。だが。
『────ッガ!? 』
衝突を重ねる度に、ゲッコウガの躰が押されている。
継いで振るわれた翼を新たな一閃で受け止める──否、受け流すので精一杯かもしれない──が、このままでは一向にこちらは攻撃ができない。
鍵が必要だ。攻撃のきっかけとなる鍵が────!
ヒビキは咄嗟に「〈かげぶんしん〉! 」と指示を出した。
増え続ける影。しかし、やはりイツキは動揺などしない。
むしろ────
「〈サイコキネシス〉! 」
「なっ────────!? 」
考えられないコトを言い放った。
あくタイプにエスパータイプの攻撃は効果今ひとつどころか、全く効かない、筈だ。
『ゲコ!? 』
大気が凍りつく。
気付けば分身は消え、ゲッコウガはピタリと止まっていた。
〈サイコキネシス〉が効いている、というのか!?
「ネイティオ〈シャドーボール〉! 」
固定された的に射抜く一矢。
それを命中させるのはどれほど簡単なことだろう。
「ゲッコウガ、躱せっ! 」と必死に叫ぶものの、ゲッコウガがそれに応えることはない。
邪の弾丸は迫るばかり。
「ゲッコウガーーッ!! 」
『────────ガッ! 』
喉が潰れてしまうほどの叫声に、ゲッコウガは解き放たれる。
が、既に時は遅い。
身をひねって躱しても、薄皮一枚とはいかなかった。
「続け! 〈でんこうせっか〉 」
再び、閃緑が奔る。
後退する余裕など、こちらにはない。
「〈つばめがえし〉ぃ!! 」
『ゲッ────カ…………! 』
痛みを罵倒で噛み殺し、踏み込んだ敵に光る太刀を叩き落とす……!
『ティ──────── 』
胸部を斬り裂かれたネイティオは、即座に、されど優雅に後退する。
どうやら、彼にとってソレは致命傷ではなかったらしい。
「くっ…………! 」
唇を強く噛む。解らない、なぜあくタイプのゲッコウガに〈サイコキネシス〉が通用したのか。
「……ゲッコウガ〈みずしゅりけん〉! 」
高速で印を結び、手を合わせる。
両手から湧く水が手裏剣へと成り果て、それを放つのに約一秒。
「続けて〈つばめがえし〉! 」
光る双剣を創り出し、閃光は手裏剣と疾り出す。
疾る。
疾る。
「ネイティオ、頭上の岩石に〈サイコキネシス〉」
不意に、ゲッコウガは足をピタリ、と止めた。
念力によってもぎ取られた岩は、その牙をゲッコウガへと向ける。
「ッ────ゲッコウガ、躱せ! 」
際限のない岩の雨。
閃光は少し出遅れるが、なお、はじかれたように反復し、ソレを躱していく。
無機質にただ駆けていただけの手裏剣は豪雨の如き岩石に壊されていた。
華麗に。繊細に。
岩石を舞うように避ける様は、見惚れるほどのモノだった。
────が。
その光景が、ヒビキには異様に思えた。
なぜ“華麗に躱せてしまう”のか、これが本当に四天王のレベルなのか、と。
前の衝突も、流れはあちらにあった筈だが、決定的な一打はなかった。
「……っ〈あくのはどう〉! 」
「岩石で防げ! 」
防御は見事なまでに完璧だというのに、攻撃は全く仕掛けてこない。
“できるはずの攻撃”も。
それはきっと、その攻撃を撃つと崩れてしまう策があるからだろう。
そして、それが効かない筈の〈サイコキネシス〉が効いてしまう手品の種だ。
それは────
「〈シャドーボール〉! 」
「ゲッコウガ! 何も考えるな! そのまま真直ぐ突き進め! 」
『ゲッ!? ────ッ! 』
刹那、ゲッコウガは戸惑う。
が、即座に何もかも振り切り、足を前に踏み込む。
疾る。
疾る。
ただ標的目掛けて直線を奔る弾丸に対し、ゲッコウガもまたその線上を駆ける。
そして、無防備なまま、無機質に邪弾に飛び込んだ────筈だった。
「……やはり、か 」
「──────── 」
同じ直線上を進んでいた筈の二弾は、すれ違っていた。
〈シャドーボール〉が軌道を変えたとも言えるが、この際最も有力なのは、ゲッコウガが無意識に軌道を変えた説だ。
「ゲッコウガ、自分に〈みずしゅりけん〉 」
思い切りに放った手裏剣は円を描きゲッコウガを貫く。
そして、ようやくゲッコウガは“目覚めた”。
「まさか……この手品が暴かれるとはね 」
「……最初の一手。あなたは防御に〈あやしいひかり〉を使った。が、それは本来の使い方ではない。なのにも関わらず、それ以降あなたはその技を指示していない。自分の攻撃が難なく躱されているなら、相手を混乱させようとしてもおかしくはない筈なのに。……きっとそれは、相手に“混乱”していると気付かせないためだったんだ 」
「………… 」
「光情報である〈あやしいひかり〉は〈あくのはどう〉を微かに通過し、無意識にゲッコウガの神経を混乱させた。あなたはその効果が絶頂になるタイミングを知っている。だからその瞬間にこう言い放った────〈サイコキネシス〉、と。ゲッコウガは混乱によって瞬時動きが止まってしまった。そして、“〈サイコキネシス〉が効いていると勘違いし始めた。混乱した脳がさらに思考を鈍らせ、〈サイコキネシス〉を合図に動きが止まる条件反射を引き起こした。だから、ネイティオが〈サイコキネシス〉で岩を操ろうとした時も、一瞬だけゲッコウガの動きが遅れてしまったんだ 」
「正解、ご名答。だが、それでどうする? 確かに君はようやく入り口に立つことができた。が、これから僕はさらに本気を出す。ついてこれるか 」
鮮緑の翼が揺れる。
イツキの言葉とは裏腹に、その翼には殺気も無く、敵意も無く、ただ“戦え”という想いのみが憑依していた。
「あなたの巧みな戦略……それは、僕が簡単に追い越せるものではない。だが、それだけがポケモンバトルの趣ではない。その戦略……戦術で砕いてみせます────ゲッコウガ〈みずしゅりけん〉! 」
放たれた剣弾がネイティオに躍りかかる。
が、標的は舞うように後退しながら、華麗に技を躱していく。
「君の戦術は……この程度かい? 」
イツキは“余裕だ”と言わんばかりに鼻で笑ってみせた。
否────そうでなくては困る。
ちょっとの油断、隙、時間。
ネイティオの警戒は、その時、緩んだ。

“お前のケロマツの〈かげぶんしん〉、影がねえんだな? ”

あの日から、ずっと考えてきた。
ケロマツの〈かげぶんしん〉は、ゲッコウガになっても、未だ影がない。
それは相手を撹乱するには、大きな欠点だ。
なら、そもそも“撹乱する”という目的を省いてしまえばいい。
どうせバレてしまうのなら、元から隠さなければいい。
そしてただ“数を増やす”ためだけに特化した。
これを使うにはある条件と、通常よりも長めの印を結ばなければならない。
が、それも今満たされた。
後はただ────放つだけ!
「ゲッコウガ〈かげぶんしん〉!! 」
地面に平手を叩きつける、その動きの全てに是非はない。
そして、それに呼応するかの如く、大地は小刻みに震え────
「────────っ!? 飛び散った水の個々が、クローンに……… 」
今まで特訓してきて、成功など一度もなかったというのに、分身の複製はすんなり成功した。
いや────残る問題はこれからだ。
作り出した分身を、いかに正確に操れるか。
「まずはお手並み拝見といこうか。全軍〈つばめがえし〉! 」
「くっ、させるものかっ! 〈でんこうせっか〉! 」
ピシャ、と。
鮮緑の翼は一瞬にして標的を裂き、分身は水という名の血を噴き出しながら崩れた。
“倒した”、イツキとネイティオはそう思っただろう。
が、あの分身はそう簡単には倒れない。
奴の躰は“水”でできている。
「────────っ! 」
液体は固体と違い、何度絶たれようとも、その分子同士が触れ合ってしまえば、元に戻ることができる。
つまり、奴を倒せる唯一方法は、水ではなく、水分子そのものを絶つことだけ。
────故に不死身。
この分身を倒すことはネイティオには不可能である。
「確かに……倒すことは不可能だねぇ 」
「なっ────────! 」
思考を読まれた。
が、それでも分身が倒せない事に変わりはない筈だ。
「そう……ネイティオには“倒すこと”はできない。だから…………僕の勝ちだ! 」
イツキはパチン、と指を鳴らす。
それに呼応して、数多の分身はピタ、と止まった。
そして、少しの静寂の後、分身はその形を崩し、宙の一点へと集合しだした。
「くっ、〈サイコキネシス〉か 」
「そう、相手の油断、隙を利用した戦略と戦術。君が僕にした事さ 」
分身はあくまで“水で作り出したクローン”。
通常の分身とは違い、あくタイプの性質を持たない。
あの球体は水としての概念を保ちつつ、分身としての役割を失っている。
「自らの力に溺れるがいいさ。終わりだ!!
向かいくる球体は蒼い太陽のよう。
それは何度躱そうとも、永遠に追いかけてくるのだろう。
ならばそこに回避することの意味はなく。
ただ向かい打つしかない。
「突っ込め! 〈かげぶんしん〉だぁあ!! 」
怒号の如く絞り上げた声。
後悔など不要。
「なん……だと 」
諸刃を通り越した自滅行為。
奇跡でも起きない限りは、勝つ事はできない。
だが、その奇跡すら信じれなくなったら、おそらくその者は負けているだろう。
奇跡くらい起きたっていい。否、起きてもらわなくては困る。
疾り出す閃光。
両手は何も持たぬ握り拳。
唯一の武器はこの“覚悟”のみ。
『コ────────ガ! 』
巨大な球体がゲッコウガを呑み込む。
苦痛に耐える蛙の声は、その中へと消え去った。
「ゲッコウガぁ────────!! 」

***

創り出された球体は、飛び込んだモノの身を溶かしていく。
溶けていく。
今にも、自分の心と躰が崩れてしまいそうなほど、力を吸われていく。
意識ははっきりしない。
一面水の世界に呑み込まれて、私は………自我を失いかけていた。
「ゲ……ウ…ぁ────────!! 」
それでも、なお聴こえる……自分を信じる声が。
心からその奇跡を信じるトレーナーの声が。
私は応えなくてはならない。
そのトレーナーとの絆に、解を成さなければならない。
それが私の、今現在唯一の自我、覚悟の源である。
『ガ────────ウ 』
躰を風が包み込んでいく。
躰を光が包み込んでいく。
それが絶望なのか、希望なのかは定かではなかった。
だがその中で。

“貴様の求める答えはいずれ解る時がくる。
だから今は……
答えより先をいけ

そう……応えたいのなら、解を成したいのなら、まずはここを突破しなければならない。
その力を────私は持ち合わせている!

***

「いけ!! ゲッコウガ!! 」
球体は脈を打つように縮こまっていく。
それはゲッコウガを呑み込んでいるのではなく、ゲッコウガが球体を呑み込んでいるのであった。
極限まで縮んだ球体は、やがて光を放ち、解き放つ────!
「この光は!? ゲッコウガの特性〈げきりゅう〉か! 」
光がゲッコウガを包み込み、蒼い化身を生み出す。
『ゴゥアアアアアアアアアア!!!!! 』
地上に踏み上がる。
放たれた光は途絶えた。
標的まで、距離にして五十メートル。
今のゲッコウガなら、おおよそ五秒で詰める。
ネイティオが駆けてきたとして三秒。
故に────その三秒で勝敗は決まる。
満身創痍ではあるが、ゲッコウガの腕も脚もまだ動く。
指先の感覚も良好。いや、以前よりも器用になっている。
現状で〈かげぶんしん〉で創り出せる分身は十数体。
印結びにかかる時間が一秒弱。
体力こそ少ないが、この条件なら原理上可能なはず。
「────────行くぞ! 」
『コウァガァア!! 』
呼吸を止め、全神経を指先へ叩き込む。
風の切れる音を伴い、走りながら複雑な印を結んでいく。
「ネイティオ、前進しつつ〈シャドーボール〉! 」
こちらは殆ど瀕死状態。
一撃でも懐に入れてしまえばゲームオーバーだ。
だが。
『カッ────────! 』
印結びの工程を全て終了した。

────────、残り二秒。

「〈シャドーボール〉は左手で庇え! 〈かげぶんしん〉!! 」
指示をし終わった頃には全て完了している。
宙を奔ってきた邪弾はゲッコウガの左肩を引き裂き軌道を変えた。
左腕は壊れた。もう使えない。
だが心配は無用。
同時に、ゲッコウガは平手を地面に叩きつけ、計八体の分身を創り出した。

────────、残り一秒。

「全軍〈つばめがえし〉だ!! 」
八つの殺意は一点に収束する。
走りくる敵は一撃だけでは止まるはずがない。
「ネイティオ〈でんこうせっか〉!! 」
奴の体力を削りきるのに必要なのは最低八撃。
一撃でも撃ち遅れたらゲッコウガは敗れる。
それも、しっかりとした斬撃でなければならない。
────脳裏に八撃。
奴を叩き伏せる最後の攻撃を思い浮かべる。
ゲッコウガとの思考はほぼ共有。
指示がなくとも、八撃はその箇所を狙うだろう。
目前に一撃。振り下ろされる大翼。
必ず先制する技。だがそれは必中ではない。
────響き渡る剣戟。
偽の翼(つるぎ)真の翼(つるぎ)が火花を散らす。
滑らせるように、剣を強く振り────
狙った八点を穿つ!
『ティア"ア"ア"──、…………! 』
だが倒れない。
八つの斬撃を受けながら、ネイティオは健在だった。
「っ、ゲッコウガ!! 」
敵は二撃目の大翼を振り上げる。
体をひねり、全力を回避費やす。
だが躱せない。
ズタボロになった体は、激流のような風にさえ吹き飛ばされてしまいそうだ。
いや────吹き飛ばされる。
しかし、それであの一撃を躱すことはできやしない。
振り下ろす一撃は、風よりも速く、神速の如く叩きつけられた。
嗚呼、敗けた。
大翼に斬り裂かれたゲッコウガは、纏わりつく風に飛ばされ、石ころのように地を這い転がり、戦闘不能となる。
その情景(ビジョン)が脳を過る。
「……………… 」
イツキは何も言わない。
おかしい。
このような状況なら、イツキは勝利を彩る言葉を言う筈だ。
釣られて前を見て初めて、ヒビキは状況を理解した。
神速で振り下ろされた翼は、標的を前にして凍りついていた。
今度こそ、ネイティオは瀕死状態となった。
「う────あ……ぁ………ぅあ 」
緊張が一挙に解かれ、不意に息が漏れる。
ヒビキの中で止まっていた時は動き始めた。
抑えられていた脈ははち切れそうなほど速く打ち始める。
「戻れ、ネイティオ。お疲れ様だ 」
「っ、ゲッコウガ、お疲れ様 」
イツキの行動を見て、慌ててゲッコウガをボールに戻す。
少しの静寂を後に、まず口を開いたのはイツキの方だった。
「……まいったよ。でも、負けたからといって僕のやる事は変わらない。トレーナーの頂点に立つため、戦い続ける。
君は進め。そして四天王の本当の怖さを確かめるがいい! 」
それを聞き、ヒビキはイツキの目を見て、ただ頷く。
「そうだ。君にこれを授けよう 」
そう言い、イツキはカードの束から一枚を取り出し、ヒビキに差し出した。
「これは…… 」
「大アルカナの零、愚者だ 」
「愚者……? 」
問い返すヒビキに、イツキはゆっくりと頷いた。
「そのタロットは君じゃない。ただ、それは君が持っておくべきだと感じたんだ 」
視線をタロットへと下ろす。
愚者の絵が描かれたソレからは、何らかの力を感じ取れる。
「君がそれに見合う者と出会ったなら、渡してあげるといいさ 」
再び見上げた時、既にイツキは後ろを向いて歩き出していた。
「イツキさん……ありがとうございました 」
「礼を言うのは、リーグで優勝してからにしてくれ 」
投げ捨てるように言い放ち、投げ捨てるように手を振るイツキの背中を、ヒビキはただ見送った。

“四天王の本当の怖さを確かめるがいい! ”

「後三人……か 」
己の握り拳を掲げ、誓う。
必ずリーグで優勝してみせる、と。
それはイツキを含む、今まで出会ってきた人達と自分への約束だった。

記録44. 念の極者

次回. 毒の極者


■筆者メッセージ
更新が大変遅くなりました。すみません。
入学に向けての提出書類やら宿題やらで、なにかとバタバタしております。
次の更新もおそらく遅くなると思います。
しかしながら、どうか気長にお待ちくださいませ。
月光雅 ( 2016/03/30(水) 21:42 )