ポケットモンスターANOTHER








小説トップ
― 金色の悪魔
記録42. 開幕

去来したのは遥か遠き記憶────

かつて“白銀の騎士”と呼ばれた男の絶望の果てである。



「ぁア…………水……誰かぁ……水をくれ 」



そこには希望など一輪も無かった。
広がるはただただ赤く燃える炎と灰。

“誰か”と助けを求める男の先には、“誰”もいない。


その地獄の果てを知っている(I know the end of hell)


眼球が痺れるほどの頭痛。
一歩毎に視界が真紅に染まる。

普通の人間なら立つことさえままならないほど体はボロボロだった。だが、それでも男は歩き続けた。


右手に哀しみ、左手に憎しみ(Sorrow in the right. hatred in the left)

ふたつを抱いて地獄を進む(I hold them. and go afead through the hell)



歩き続ければ必ず何処かに辿り着けると、
願い続ければ必ず叶うと、そう信じて────


ただの一度も救えず(No to save.)

ただの一度も救われない(and no to be saved)



「……っくぁ 」

男の足は遂に地についてしまった。
頬を地面に密着させ、鼓動の静まりを聴く。

そう、そうやって諦めた方が楽だったのかもしれない。
だけど────


地獄に堕ちて身を溶かし(I am reduced to it with hell.)

炎の中を歩みゆく(and go in flame)



「諦め……られるか 」

立ち上がり歩き出す。

頭痛はなお強まるばかり。


そこには希望などなく(Hell never has hope.)

そこには絶望すらない(and never has dispear)



もはや男は機械と成り果てていた。
ただ歩くことだけを目的とした機械。

彼は自身の感情すらも持てなくなっていた。


それでも騎士は明日を目指す(But I hope the ‘future’)


「……ぁあ………ぅ 」

後悔なんてしない。

────生きたいノカ? ────

後悔なんてしない。

「……誰…………だ? 」

後悔なんて、後悔なんてしない。

────ふっ、私は不老不死の魔女。永遠の時を生きる者 ────

後悔なんてしない。後悔なんてしない。

「……………… 」

後悔なんてしない。ただ────

────白銀 轟。私とともに過去へ飛べ。そしてやり直すノダ……貴様の望んだ未来を ────

もし、やり直すことが出来るのなら。








“その地獄の果てを知っている”







「っ──────── 」

飛び上がるように赤髪の少年は起き上がる。

「…………また……か 」

ロケット団の騒動から約一ヶ月が経つ。
ジョウトやカントー地方も、だいぶ落ち着いた。

ただ、あれから少年は同じ夢ばかり見る。

「…………エックス 」

それは、自分が歩んだかもしれない地獄。
もしあの道を歩いていたかもしれないと思うと、正直、心に穴が開きそうだ。

「でも………お前は 」

その男は“後悔なんてしない”と言った。

だから少年も後悔しないように生きようと決意した。


────騒動の翌日



「ヒビキ、俺をウツギ博士の所へ案内してくれ 」

少年は突如ヒビキにそう言った。

「博士のところへ? 」

「ああ。俺には……償わなければならない過去がある 」

ノイズに言われるがまま、ヒビキは彼をウツギ博士のもとへ案内した。

「ウツギ博士……ウツギ博士はいますか? 」

ドアを開ける。今思うと、懐かしい光景だ。

「ん? ヒビキ君! ……と、君は? 」

ウツギ博士の視線が、ヒビキから隣へ移る。

「ノイズといいます 」

少年に恐れはなく、堂々とした様だった。

「……ヒビキ君から話は聞いてるよ。で、何の用だい? 」

ウツギ博士は優しく問いかける。おそらく彼は、なぜ少年がここへ来たか勘付いてはいるはずなのに。

「盗まれた……残りの一匹(オーダイル)を返しに来ました 」

相変わらず、ノイズの瞳は真っ直ぐウツギ博士を見ていた。

「ヒビキ君からは、君はロケット団が盗んだワニノコを受け取った、と聞いているのだが 」

「ええ。ですが、それは俺が間接的にワニノコを盗んだことになります。何せ俺は、正式に認められたトレーナーじゃないんですから 」

「だから返す……と 」

ノイズの出した結論にヒビキは反論しなかった。
いや、反論しなくても良いと判断した。

「はい。俺にオーダイルとともに歩む資格は……ありません 」

「……オーダイルを出してみたまえ 」

「っ……はい 」

ウツギ博士の指示通り、ノイズはオーダイルをモンスターボールから出した。

ウツギ博士はオーダイルの鼻を撫でると、オーダイルもそれに応えるように頬を擦り付けた。

「……ふっ、ワニノコの頃、あんなにも他人に懐かなかったこいつが、いまではとても人懐っこくなっている。それは君というトレーナーとともに歩んできたから……そう思わないかい? 」

「それは…………そうなのか? オーダイル 」

『ダァイ!! 』

オーダイルは威勢良く答える。

「君に渡ったトゲピーも、その他のポケモンも、最初は違えども、今では君を必要としている 」

「…………俺を? 」

「このオーダイルは君が持つべきだ。君にはちゃんとあるんだよ。ポケモンと歩む心が…… 」

博士は少年を真っ直ぐ見つめていった。

ノイズの眼に雫が浮かぶ。

「でも……でも!! 」

今まで抑えていた感情が、反論の意とともに押し出されてしまう。

するとオーダイルは少年に寄り、その雫を優しく舐めた。

「資格など、理由などではない。トレーナーとは、ポケモンを思い、ともに歩いていける存在なんだよ 」

「くっ…………うぅ…… 」

「……ノイズ 」

「さあ行きなさい、ポケモンリーグへ。ヒビキ君! ノイズ君! そこで君たちのポケモンとの絆を見せてくれ!! 」

ノイズは涙を拭いてウツギ博士を真っ直ぐ見る。

「…………はい!!いくぞヒビキ!! 」

「ふっ、ああ!! 」


────現在


────ポケモンリーグ開幕30分前となりました。出場されるトレーナーは、受付を済ませ、メインフィールドまでお越しください────

「いよいよか…… 」


*sideヒビキ*


今ヒビキたちはポケモンリーグにいる。
今日はそのポケモンリーグ開幕の日。

出場トレーナー用のルームを出て、メインフィールドへ走る。

が、走ってる最中、丁度ルームから出てきたトレーナーにヒビキはぶつかってしまった。

「うわぁっ──── 」
「がっ!!? 」

ぶつかってしまった相手のカバンから、いろいろな物が飛びたした。

「あ………すみませんっ 」

ヒビキは謝りながら少々慌てて拾う。

「いいですよ。こちらにも非はありますから 」

相手のトレーナーも、そう言いながら拾い始めた。

「ん? 」

そこで、拾った中に気になるものを見つけた。

それは一枚の写真。小さな3人兄妹が仲良く写っている。
ずいぶんとボロボロになっているが……きっとこの人にとって大事な写真なんだろう。

「気になるかい? 」

優しい声で問われ、少し驚く。
僕は、写真に夢中になって手が止まっていたことにようやく気付いた。

「えっ、あ……うん 」

少し曖昧な返事に続けてヒビキは言った。

「僕……兄弟とかいないから……なんだか幸せそうって 」

「ああ、幸せだぞ。ちなみに右が僕で、真ん中が兄、左が弟だ 」

「えっ、弟……!? 」

完全に女、妹だと思い込んでいた。

「はは、よく間違えられるんだよ……まあ、今はみんな旅に出ているんだけどね 」

「っ!! そう言えば、あなたもリーグに? 」

「ああ。君もかい? 」

「うん……名前はヒビキ 」

「ツルギだ……ふっ、君と決勝リーグで戦えることを……楽しみにしているよ 」

「うん! 僕も……! 」

トレーナーツルギとのやりとりも終わり、改めてメインフィールドへ向かう。

そして────開幕。

「これより、カントー及びジョウトポケモンリーグの予選大会を始めます。ルールは“目と目があったらポケモンバトルルール”です。このルールはその名の通り、チャンピオンロードの中でトレーナー同士目があったら1対1のバトルをし、いちはやく8勝したトレーナー8名が決勝リーグへと進めるというルールです。ちなみにこの予選には現ポケモンリーグの四天王も参加しており、彼らに勝った場合は2勝扱いとなります 」

なるほど。四天王全員に勝てば4勝で済むが、高難易度の戦いをしなければならない。まあ、目があった人を片っ端から倒していくのが妥当か。

「目があったかいなかは、受付で渡しましたこのバトルライトが判断します 」


いよいよ……僕(俺)たちの戦いが幕を開ける。


「みなさん! チャンピオンロードに着いたでしょうか? それではポケモンリーグ予選大会────スターーート!!!! 」




■筆者メッセージ
休載!!
月光雅 ( 2015/08/14(金) 00:59 )