記録40. 悪魔が覚醒めた日
「ふっ、その程度か 」
「くっ──── 」
“ふぬぅ………… ”
ロケット団が独自に創り出した人造のポケモン、ミュウツーを相手に、ヒビキたちは悪戦苦闘していた。
ホウオウは翼を貫かれ、安定して飛ぶこともできなくなっている。
「ミュウツー、ただ殺してはつまらぬ 」
アポロは不敵に笑い出す。
ミュウツーは巨大な念の塊を上空へ創り出した。
“な、なにをする気だ!? ”
「ホウオウ……お前にはエンジュの街の最期も見せてやろう 」
「っ!? やめろーーー!!! 」
ミュウツーは念の塊をエンジュシティへと投げつける。
塊はゆっくりと宙を駆ける。
“……いかん! このままでは街が!! ”
ホウオウは構え、巨大な念の塊へ飛び込む準備をする。
ヒビキもしっかりとホウオウに掴まった。
だが、そのヒビキを見てホウオウは、動きをピタリと止めた。
「どうした!? ホウオウ!! 」
“……短い間だったが、世話になった ”
「えっ……? 」
“っ────────!! ”
「くっ!? 」
ホウオウはヒビキを強く振り下ろすと、すぐさま飛び出した。
“ヒビキ、主は生きよ……そして世界を救え!! 我は……我が街を救う!! ”
「ホウオウーー!!!!!! 」振り落とされるヒビキ。大地に転がりながら不時着する。
「くっ!! 」
焦りながらホウオウを見る。
─────ッ─────────────「っぁ…………!!! 」
ホウオウは貫かれた翼を大きく広げ、エンジュシティの盾となった。
「くはははははは!!! 」
アポロの高笑いがヒビキに届く。
「っ…………………… 」
「はぁ。なかなかやってくれるではないか。しかし金色 響、貴様に勝つ術はもうない 」
「…………お前 」
「あ? 」
「少しでも分かり合えると思っていた俺が馬鹿だった。お前は──── 」
「黙れ!!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、っ黙れ!!!!! 」
ヒビキ目掛けて、念の弾丸が無数に放たれる。
「ぅあっ────────!!!! 」
「こうするしかないんだ。正義なんてこんなもんなんだよ!! 金色 響、その様でまだ、偽善の……正義の味方になりたがるのか!? 」
「……『なりたい』んじゃねぇよ 」
ヒビキはゆっくりと立ち上がる。
「俺は……正義の味方に…………
絶対になるんだよ!!!!! 」
その言葉を聞いて、アポロは失望したようにため息を吐く。
「……ミュウツー、この愚か者に最期の花を添えてやれ 」
「……俺は…………諦めない 」
ミュウツーの念の槍が、ヒビキへと駆ける。
────ズドーーーーーンッ!!!!!!──── 「私の……勝ちだ 」
そう言って、アポロは帰ろうとした。
が突然、ミュウツーが煙の方に振り向く。
「どうした? ミュウツー。────なっ!? 」
煙が晴れる。そこにはふたつの影があった。
「信じてたぜ………………ヘラクロス 」
『ヘィラッ!! 』
1ぽんヅノポケモン・ヘラクロス。ヒビキがこの地方で初めてゲットした野生のポケモン。
その力を極限まで発揮させるために、タンバジムのリーダー、シジマのもとへ預けていた。
「ふんっ、どうせ貴様にメガシンカはできない 」
「ふっ、大きい力を持つことだけがすべてじゃないんだぜ? 」
「なんだと? 」
「見せてやるよ。本当の力の使い方を 」
記録40. 悪魔が覚醒めた日「ミュウツー《サイコブレイク》!! 」
念の弾丸がヘラクロスを目掛けて刹那に駆ける。
「ヘラクロス《つじぎり》だ! 」
その影は消え、弾丸はかわされる。ミュウツーの背後に回り込んだ影は奴を切り裂いた。
“ッ────────!! ”
「っ────(なるほど。《つじぎり》ならばミュウツーに先制で攻撃できる上、効果は抜群。)しかしっ!! 」
ミュウツーは手首を捻る。その動きに合わせて、先程かわしたサイコブレイクが戻ってくる。そしてヘラクロスの懐を殴った。
「ヘラクロス!! 」
ヘラクロスは飛ばされながらも体勢を崩さない。だが、かすかに脚が震え出しているのが見える。ダメージは相当だ。
「確かに悪、虫タイプの技ならミュウツーに届くかもしれない。だが、ヘラクロス自身が格闘タイプである事を忘れたかっ!? 」
「まだこれからだ…… 」
「その意地をいつまで張り続けられるかな!? 」
気づけばミュウツーはヘラクロスの背後にいた。
「しまった!? 」
「《サイコカッター》! 」
ミュウツーは強くヘラクロスを斬りつけた。
『ヘゥッ!! 』
「ヘラクロス!! 」
「ミュウツー《じこさいせい》 」
ヘラクロスはヒビキの前に転がったままなかなか立ち上がらない。
「さあ、この絶望的状態で、お前はどうする? 」
「くっ(確かに、このままではいつか、ヘラクロスは負けてしまうだろう。一体どうすれば ) 」
───────prrrrr─────────「っ────!? 」
その時、不意にポケギアが鳴った。絶望の中、それを斬る希望が差し込んだ気がした。
「出ればいい、そしてそいつに、最期の声でも聞かせてやれ …その代わり、声はこちらにも聞こえるようにしろ 」
「……(非通知? 一体誰が…… ) 」
アポロの指示通り、ヒビキは奴に声が聞こえるようにポケギアを持ち、着信に応答した。
────ヒビキ、諦めるのはまだ早いぞ! ────
「っ────!! 」
その威勢のいい声に、少し涙が落ちかけた。
「ふっ……ノイズか。まだ生きているとは 」
アポロは想定内と言わんばかりの余裕を見せている。
────ラジオ塔の最上階だ────
「ラジオ……塔? 」
────そこに答えがある。ヘラクロス、ミュウツーの足止めくらいはまだできるよな? ────
『ヘィラァァアアッ! 』
その声を聞き、ヘラクロスは声を荒げながら立ち上がる。
「分かった……いくぞ 」
ヒビキは走り出した。無我夢中に、ただその希望の声に従って。
「行かせるかっ!? 《はどうだん》!! 」
波動の弾丸はヒビキに向かって放たれる。だがそれを阻む一体のポケモン。
『ヘィラッ!!! 』
「ほう、主無しでその反応、なかなかだ 」
「ハァ、ハァ──── 」
ラジオ塔に着いた。長い距離を走ったため、かなり体力を消費している。気付けば痛む今は無き右腕。気の狂いそうになる赤い血。
「だけど──── 」
階段を急いで登る。休まる脚は、急ぐ心がそうさせない。
エレベーター。待つ間に、不安と焦りがヒビキを襲う。
そして────
「着い……た 」
扉は開く。ラジオ塔の最上階。ここに希望がある。
はずだ……
────パリーーーーン────「っヘラクロス!!! 」
ヒビキのもとに放り込まれたヘラクロス。
戦闘不能になっている。
「よくここまで耐えた。だが──── 」
ミュウツーの念の弾丸がヒビキに襲いかかる。
終わった……。
────────────────────────
「なにっ!? 」
その時、ヒビキの前に水の盾が現れた。幻影だ。
盾はすべての弾丸を弾きかえす。
────ヒビキ、梯子を使って上へ行け!! 生憎、この幻影も長くは保たない ────
「くっ!! 」
声に従い、片腕と二本の脚で梯子を上る。
「おのれ!! 轟ィ!!!! 」
外の空気と触れた。夜空に光る星。ジョウトの暗い夜景。
ヒビキは電話に尋ねる。
「どうすれば……いい 」
────そこに置いてあるアタッシュケースを開けろ。勝つための道具だ ────
その声に従う……そこにあったのは────
「っ!! 俺の……メガリング 」
右腕とともに斬り取られたはずのメガリングは、未だそこで金色の輝きを放っている。
ヒビキはメガシンカへと手を伸ばした。
「っぁ……──── 」
触れた途端、幻覚がヒビキを包み込む。
***
「……………? ここは 」
あたり一面の真っ白。そこに立つ、ヒビキ以外のもう一人の影。
「ようやくだな 」
その影はゆっくりと近づいてくる。はっきり言って見たこともない顔だし、見たこともない声だ。だが、ヒビキにはわかる。
「こうして向かい合って話すのは、初めてだったか 」
「……ハジメ 」
「ふふ、よくここまで闘ってくれた。感謝している 」
「……僕はただ、守りたかっただけ 」
気付けば、ヒビキの口調は元に戻っていた。
「……君は今……新たな力を得ようとしている 」
「……力? 」
「かつて、俺とアインが使った力だ 」
ハジメは、ヒビキの周りを歩き始めた。
「条件は、3つ。
ひとつは、トレーナーが正しい心、つまりはハートゴールドを悟っていること。
ふたつは、トレーナーとポケモンの同調率が、100%に達していること。
最後に、メガエネルギーを多く宿らせていること 」
「メガエネルギーを……多く? 」
そのヒビキの疑問に、ハジメは立ち止まりこちらを向く。
「知らないか? メガエネルギーっていうのは、生命の意思からも成り立つんだ。まあ、波動と呼ぶ者もいる。君の持つそのメガリングには、俺の意思が宿っている。よって君は、条件を満たし、新たな進化を遂げることができる 」
「それが…… 」
「ああ 」
***
「……
オーバーリミット 」
「っ? 」
ヒビキの無き右腕に、七色の光が集まる。光は具現化し、ひとつの腕となる。その姿はまさに悪魔。全てを薙ぎはらう獣の腕。メガリングはその手首に付き、一層に輝きを増す。

「な、なんだあの右腕は!? 」
「バクフーン 」
モンスターボールから、最後の一匹を繰り出す。
『バクァ!! 』
残り僅かな体力ながら、荒れ狂うように吠える火山。
ふたつの金の瞳で、ただ一点をにらんだ。
「馬鹿な……人間じゃない。あれは……悪魔だ! 」
獣の右腕を伸ばす。アポロに向けて真っ直ぐと。
そして唱えた。
「……我は正義を望む。我は他の幸せを望む。そこに自己犠牲があろうと拒まぬ。そこに我の意志はいらない。ゆえに我生涯に意味はない。偽りの正義だろうと、たとえ悪魔と呼ばれても、護るべきものが、まだその手に残されているのなら!! 我はそれを受け入れる!! 」
「くっ……!! 」
「……これが俺の答えだ 」
光が大気を吸い込み、バクフーンを包む繭となる。
「バクフーン、オーバーリミット!!!! 」解き放たれる心。絆。力。
黄金が空を覆う。
そして────悪魔は吠える。
『バゥァアアグァァア!!! 』

「アポロ、お前は俺が────裁く!! 」