記録37. ハートゴールド〈後〉
「エレザード《ドラゴンテール》!! 」
蜥蜴は地を這う。
蒼穹の閃光を尾に纏って華麗に舞う。
まるで銃のリア・サイトを通すように、鋭く、鋭く睨みつける。
そしてホウオウに狙いを定めた。
「────っ!! 」
心の中でトリガーを引く。
蒼穹の蜥蜴は撃ち出された弾丸のように、“刹那と呼ばれる時”を駆ける。
宙に刻まれ、いまだ残って見える
穹の閃光。
しかしそこに蜥蜴はいない。
“……────っ!? ”
神を貫く諸刃の弾丸。その身を裂いて、敵を裂いた。
『エリャ 』
“貴様のポケモン。個々が尋常でない精神力だ ”
「ああ。特にこのエレザードは、一番長く俺と歩んできた仲間だからな 」
“仲間────それが貴様の力の正体か ”
「? 」
“次代の操り人よ。貴様には……主には
ハートゴールドの悟りを開く権利がある ”
記録37. ハートゴールド〈後〉「ゲッコウガッ!! 」
エレザード、メガゲンガー、ゲッコウガと立て続けにホウオウに倒されていく。
残りの手持ちは
かざんポケモン・バクフーンのみとなった。
“貴様ならハートゴールドにたどり着くことができる。その権利がある ”
「ハート……ゴールド 」
モンスターボールを見つめる。
俺はこいつと共に進化してきた。
こいつと共にノイズに出会い、自分の弱さも知った。
そして俺は、やっと人間になれた。
足りないことはたくさんある。だが────
こいつとなら、俺はどんな極限も超えられる!
「辿り着いてやる────その極地へ。バクフーン 」
放たれた球から弾きでる炎の獣。
その名はバクフーン。
“《だいもんじ》 ”
「《ふんか》だ! 」
2つの炎が、神と獣の間でぶつかり合う。
広がる衝撃波。やがて炎は散る。
互角。正確にはホウオウが勝るが、勝敗を分けるほどではない。
“なかなかやってくれる ”
「バクフーン《きあいパンチ》!! 」
漆黒の光を放つ黒いオーラを纏い、バクフーンは殴りにかかる。
その威力は絶大だった。
かわし損ねたホウオウの懐を黒槍が穿つ。
“────ッ!!! ”
「続けて“かえんほうしゃ” 」
刹那も開けず、攻撃は放たれる。
ホウオウに放つ炎の刃。
“ハアッ────!!! ”
ホウオウの《せいなるほのお》はことごとくその刃を砕く。
“強くなりたければ覚悟を決めよ!! その先に、貴様の未来がある!! ”
「俺の……未来 」
***
──見ツケタ ──
声がした。
冷たい雪のような女の声だ。
『誰? 』
──私は魔女。貴方を迎えにキタ ──
『迎えに? 』
──そう。貴方は金色 響であって金色 響ではナイ。貴方は ──
「金色 一(カナイロ ハジメ) 」
自分は、過去に魔女と会っていた。カロス地方にいて、まだ幼く、物事への好奇心の強かった自分。
その日、自分は親とはぐれてしまい、彷徨った挙句、この湖へと辿り着いたのだ。そして──
──貴方には、世界を救う使命がアル。それは貴方が金色 一から生まれ変わったための運命。変えることなどもう出来はシナイ ──
『使命 』
自分は、その言葉に釣られて、彼女の差し出す金色のメガリングを手にしようとした。
「いいのか? そっちは地獄だぞ? 」
自分を呼び止める未来からの声。
『いいんだ。僕にしかできないことがあるなら。それがきっと、僕の人生だから 』
あの時の俺には、大切な人も、守りたいものもなかった。
なのに
俺は、なんのために、その地獄を目指したんだ。
──逃げることもデキル。でも、さすれば後悔がついてくるダロウ。これは、貴方が選んだ力 ──
『力──』
幼い自分は倒れた。
「ふっ……そうか。俺は憧れたんだな。誰でも守れる力に 」
──いいノカ? そっちは地獄ダゾ? ──
そう、それが俺の原点。
***
“くっ、我の体力も限界か ”
「バクフーンのHPも残り僅か 」
向かい合う神と獣。
“「それでも──── 」”
バクフーンがホウオウに向かって素早く駆ける。
ホウオウは大きな翼でバクフーンを叩きつける。
“ッ終わりにしよう、金色 響!!! ”
バクフーンを目掛けてホウオウは《だいちのちから》を放つ。
地に叩きつけられたバクフーンは、後転しながら攻撃をかわす。
「俺は────みんなが笑える世界────その明日をつかんでみせる!! 」
バクフーンとヒビキが並んだ。
その時────
2人から、金色のオーラが滲み出始めたのだ。
“っ!? ふっ、達したか ”
「《ギガインパクト》だッ!!! 」
“《ゴッドバード》!!! ”
火山と神がぶつかり合い、衝撃波が起こる。
視界は黒く、真っ黒な光に包まれる。
その時、ホウオウに怯みが見えた。
「俺の……俺たちの勝ちだ!! ホウオウ 」
火山の突進は更に威力を増す。
神は押される一方だった。
“ああ。そして……我の敗北だ ”
────────────ッッッッッ!!!!!!!!
***
“なれたのだな。金色の心を……持つものに ”
「──── 」
心の底で感じる熱。それがハートゴールド。
“ハートゴールドを悟った今、主は知るだろう。新たな力の源を ”
「────行こう、ホウオウ 」
“覚悟はいいな? 金色 響。これから歩むのだぞ? 地獄の道を──── ”
「
────それが、俺の運命ならば!! 」