記録33. 水晶の覚悟
世界は呑まれゆく、アポロの見せた絶望によって。
世界は壊れゆく、自らの恐怖と悲しみによって。
世界は今、新たなあり方へと生まれ変わろうとしている。
数多の力と大きな絶望と共に私たちは進まねばならない。
私たちを呑み込む絶望の丘はもう、すぐそこにあるのだから。
記録33. 水晶の覚悟*フスベシティ
「ここからは僕が指揮を取らせてもらう。まず、ノイズ君とユメカちゃんは渦巻島へ、ヒビキ君と怪盗Xは鈴の塔へ行きルギアとホウオウを呼んで欲しい。カトレアさんとコトネちゃんはここに残ってくれ 」
ホウエン地方のチャンピオン、ダイゴの指示に従い、みんなはそれぞれ移動し始めた。
「良かったのか? ワタル 」
フスベジムのリーダーイブキはその様子を見て、兄ワタルに問いかけた。
「ああ。ダイゴ君の方が指揮には向いている。俺は俺のできることを精一杯できればそれでいい 」
*
「カトレアさんとコトネちゃん、すまないが、僕とワタル君、イブキさんには少しやらねばならないことがあるから、2人でここにいてくれ 」
「わかりました 」
「はい! 」
ダイゴ、ワタル、イブキはその場を去った。
その数分後の事だ。
「────── 」
そいつはこちらへと近づいてくる。足音を微かに響かせながら。
「誰ですか? あなたは 」
「あなたは!? 」
コトネには見覚えがある。ヤドンの井戸でヒビキと闘った……名は確か、ランス。
「カトレアさん離れて! 」
気づいたコトネは慌ててカトレアに叫ぶ。
「ノイズはどこにいる 」
「……その問いに答えるつもりはありません 」
カトレアはランスの前に立ちはだかった。
「退きたまえ。できれば女性とは闘いたくない 」
「……………… 」
「言っても無駄の様だな。サイドン 」
ランスはサイドンを繰り出した。
「ゴルダック 」
対してカトレアはゴルダックを繰り出す。
「……援護します。ラプラス 」
コトネはラプラスを繰り出した。
「ゴルダック〈ハイドロポンプ〉! 」
「ラプラス〈れいとうビーム〉! 」
「──────っ 」
ふたつの攻撃に対してランスは全く指示を出さなかった。
やがて攻撃はサイドンに命中し、爆発が起こる。
煙は晴れるが、サイドンはビクともしていなかった。
「そんな!? 」
「いい攻撃だ。だが、我がサイドンには効かないな。この強化プロテクターを着けている限りは 」
「この人、まさかリヒト並みに──! 」
ヒビキたちはリヒトに少しも敵わなかった。彼もそれに及ぶ実力を持っている。
「サイドン〈ストーンエッジ〉!! 」
尖った岩がゴルダックとラプラスを貫く。
「ゴルダック!! 」
「ラプラス!! 」
二体は倒れてしまった。
「さあ言え……ノイズの居場所を 」
ランスはまたゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「ラプラス今よ〈れいとうビーム〉! 」
ラプラスの氷の槍はランスとサイドンを凍らせた。
「ナイスですコトネさん! 」
「はい──って!? 」
しかし、氷はピキピキと割れ始め、やがてランスとサイドンは何もなかったかの様に出てきたのだ。
「生憎私は人間ではなくてね 」
「人間じゃ……ない!? 」
「ああ。自分の忠義を果たすために──私は今ここにいる 」
「忠義とは? 」
「ふっ、そうだな。話をした方が早そうだな 」
ランスは話を始めた。
「私は、元ロケット団ボス、サカキ様に拾われた 」
「元ロケット団…… 」
「サカキ様は、レッドというトレーナーと闘い、その中で改心したのです。その後彼は罪の償いのために正義を行っていました。そんな彼に拾われ、私は彼に憧れました。だが、彼は突然と姿を消しました。それとともに今のロケット団が復活し始めたのです。私はそこにサカキ様がいると思い、ロケット団へと入りました。が、その私の善意はまんまとアポロに利用され、記憶の編成によって悪を行っていました 」
「記憶の編成!? 」
「それに気がついた私は、こうやって機械人間となり、元の記憶をチップとして埋め込む事で、自分を取り戻したのです 」
「それが忠誠…… 」
「そう。そして、もしかすれば、私の答えをノイズという少年が持っている可能性があるのです 」
「…………… 」
カトレアは考えた。ランスが嘘をついている可能性だってある。
「どうか…… 」
だが、その目には負けた。
「……わかりました。ノイズさんは“渦巻島”におられます 」
「っ! ……例を言う 」
ランスは急いで渦巻島へと飛んでいった。
「良かったんですか? カトレアさん 」
「もしあの人が嘘をついていれば、ノイズさんに勝つことはきっとできません 」
「……そうですね 」
それにしても、おそらくアポロはランスよりも強いのだろう。それを相手に私は、ヒビキの力になれるのだろうか、とコトネは思う。その時だ。
“力が欲しいのか? ”
「その声は!! 」
その声の方向を見た。
スイクン。そしてエンテイとライコウがこちらを見ている。
“あなたの望みを叶えよう。あなたの気持ちに力があれば”
再び試される時だ。清き水の野獣に──