ポケットモンスターANOTHER








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― 金色の悪魔
記録30. 天空の双神

この世界には、
善意から生まれる悪意がある。
悪意から生まれる善意がある。
行動の果てには結果がついてくる。
ヒビキたちが行う善意は、人々の目にどのように映るのだろうか。
世界は必然的に結果を押し付けては続きを求める。
それを人々は裁きと呼ぶが、その必然は、人々にとって善意なのか。
それとも悪意なのか。


記録30. 天空の双神

「ヒビキと言ったか? 」
後ろから声がした。だから振り返る。その行動は人として当たり前のことであり、小さな善意である。
「なんでしょうか。イブキさん 」
ジムリーダーイブキは無言でヒビキの手を取り、あるものを握らせた。
「これは──しかし俺は 」
ヒビキが握っていたのはジムバッジだった。ジム戦は停電により中止になったはずだが、それでもイブキは渡した。
「あの攻撃が決まっていれば私の負けだった 」
イブキの眼に揺るぎはなかった。ヒビキは仕方なく受け取ると今度はノイズのもとへと行った。
「ノイズ……だったな 」
イブキはノイズにもジムバッジを渡した。
「え──俺は勝負に 」
「いいんだよ。これから闘うのだろ? お前達は、あのロケット団と……形見だと思って持っときな 」
イブキはそう言い、この場から去っていった。

「ヒビキさん、ノイズさん 」
また声をかけられた。ヒビキたちはその方へと顔を向ける。
「……ミカンさん! 」
アサギのジムリーダーにして、メガリング継承人。
「お久しぶりです。実はあなた達に会ってもらいたい方がいます 」
「会ってもらいたい? 」
「とりあえず、お話を……はい──ええ──今目の前に──はい──ヒビキさん 」
ミカンはポケギアで誰かに連絡を取り、ヒビキに代わろうとした。
「誰ですか? 」
「話せばわかります 」
ヒビキは電話を代わった。
「もしもし── 」
『君がヒビキ君だね。初めまして──僕はダイゴ。ホウエン地方のチャンピオンをやっている 』
思い出した。ミルタンク牧場で見たヘリコプターにのる人物。ツワブキ ダイゴ。石好きでも有名なホウエン地方のチャンピオン。
「チャンピオンさんがどうして俺たちなんかに 」
『君はロケット団たちと闘うのだろう? 』
「どうしてそれを 」
『──石が教えてくれたのさ 』
「石……ですか 」
『ああ。君のヘラクロスが持っているヘラクロスナイトや、ノイズ君の持っているカイロスナイトは全て僕がミカンさんに渡したものだ。君たちの手に渡るようにね 』
「石が僕たちを求めた……そう言いたいのですか? 」
『そうだ。そして今も僕の手もとのメガストーンがふたつ、君たちに共鳴している。僕は今そちらに向かっているから、少し待っておくれ 』
電話は切れた。
ダイゴの言うふたつのメガストーンとは一体なんのメガストーンだろうか。
「まさか、お前と出会ってこんなことになるとはな 」
ダイゴを待っている間にノイズが話しかけてきた。
「俺だって、まさかこんなことになるとは思ってなかったよ 」
「これは運命か 」
「かもね 」
ふたりで自分と互いを笑った。
「ヒビキ君!! ノイズ君!! 」
東の空からヘリコプターが飛んできた。中にはダイゴが乗っている。
ヘリコプターはヒビキ達の前で前で止まった。
中から彼は降りて来る。
「初めまして、ツワブキ ダイゴだ 」
「ヒビキです 」
「俺はノイズです 」
「早速だがふたりともヘリに乗って欲しい 」
「どこへ行くのですか? 」
「トージョウの滝だ 」
トージョウの滝。
27ばんどうろの途中にある短い洞窟だが左右に流れる大きな滝が有名だ。カントーとジョウトの境界である。
あっという間にそこへ着いた。ヘリが止まり次第ヒビキ達は降りて洞窟へと入っていった。
「よし── 」
ダイゴはバッグの中からあるものを取り出した。
「これは[無限の笛]といって、伝説のポケモン。ラティオスとラティアスを呼ぶものなんだ 」
ラティオスとラティアス。お伽話で聞いたことがある。
『昔々、ジョウト地方の南のアルトマーレという島に、おじいさんとおばあさんがいました。
ある日ふたりは海岸で、小さな兄妹が怪我をしているのを見つけました。おじいさんとおばあさんの手厚い看護で、ふたりはみるみる良くなっていきました。
しかし突然、邪悪な怪物達が島に攻めてきたのです。島はたちまち、怪物に呑み込まれました。
と、その時……
おじいさんとおばあさんの目の前でふたりの姿が変わっていきました。ふたりは夢幻ポケモン、ラティオスとラティアスだったのです。
二匹は空から仲間を呼び寄せました。彼らは、邪悪な闇を追い払う力を持ってきてくれました。それは[心の雫]という宝石だったのです。
島には平和が戻りました。
それからというもの、心の雫があるこの島に、ラティオスとラティアスたちはしばしば立ち寄るようになりました。
この島が邪悪な怪物に襲われることは、その後、二度とありませんでした。』
確かそれは、カトレアに出会ってから彼女に聞いたものであった。他にも色々と聞かせてもらったが、それが一番印象に残っている。
「こい、ラティオス……ラティアス…… 」
ダイゴは綺麗な音色を響かせた。
──そして、天空の双神はやってきた。
「我らを呼ぶものは誰だ 」
夢幻ポケモン……ラティオス。
「──あ、あなたがヒビキね 」
同じく夢幻ポケモン……ラティアス。
って、なんでラティアスは俺を知ってるんだろう。そうヒビキは思った。
「僕が君たちを呼んだんだ。紹介する。ヒビキ君とノイズ君……これから君たちのマスターだ! 」
「やったー! では、お兄さん。私はヒビキ君にマスターをお願いします! 」
「ラティアス……あくまで人間だ。はしゃぎすぎるな 」
元気な妹ラティアスに兄ラティオスは忠告した。
「なあ、ラティアス。なんで俺を知ってるんだ? 」
気になったことを問うた。
「ずっと、気の合いそうな方を探していたんです。ヒビキさんはとっても優しい方です。是非私のマスターになって欲しいのです 」
「は、はぁ 」
少しペースに着いていけないかもしれない。
「なら俺はお前とか、よろしくな。ラティオス 」
ノイズは握手する手を差し出した。だが、ラティオスはその手を弾く。
「すまない。そういうのは苦手だ 」
「苦手は克服するためにあるんだぜ? な、ヒビキ 」
「お、おう。ってこらラティアス、のしかかるんじゃない! 」
と、叱りながらもヒビキは笑っている。
「はあ、兄として情けない 」
「はあ、友として情けないと言うべきか、なんと言うべきか 」
ラティオスとノイズはため息をついた。その時ふたりは眼を合わせ、以外と気が合うかもしれないと思い微笑した。
「さてラティオス、ラティアス。これは君たちの分だ 」
ダイゴはふたつのメガストーンを投げた。ラティオスとラティアスはそれぞれ自分のものをキャッチする。
「ヒビキ君、ノイズ君。この子達をメガシンカさせるんだ 」
「「──はい!! 」」
ヒビキとノイズはそれぞれラティアスとラティオスに騎乗した。
「ラティアス── 」
「ラティオス── 」
「「メガシンカ!!! 」」
ヒビキとノイズのメガリングが
ラティアスとラティオスのラティアスナイトとラティオスナイトに反応した!
天空の双神は光の繭に包まれ、光を放ちながらその力を解放した。
「メガラティアス!! 」
「メガラティオス!! 」
桃紫色の光沢が印象的な二匹。これがラティアスたちの真の姿。
「試しに飛んでみよう。ヒビキ君とノイズ君は指示を出して 」
なるほど、そのために洞窟内が一部屋で完結しているこのトージョウの滝を選んだのか。
「では行きますよマスター!! 」
「行くぞ、我がマスターよ 」
ラティアスとラティオスは風を巻き起こしながら飛び立った。
「なるほど、ラティオスの方がスピードが上か 」
「さすがマスター。分析が早いです。しかし、私の方が小回りは上手ですよ 」
「おお、風が気持ちいい。これがお前たちの世界か……ラティアス 」
「はい!! 」
ラティアスはくねくねと奇妙なくらいに巧みな小回りを繰り返す。
「ラティオス……お前は直進コースが得意なんだな 」
「ああ。小回りは苦手な分、スピードは奴に負ける気がしない 」
「頼んだぜ!! 」
「頼まれたさ 」
ラティオスは風を切りながらュンビュンと飛び回る。
「だんだん乗るのも慣れてきたな 」
「そうだな 」
「ヒビキ君、ノイズ君。またフスベへ戻るよ……やらなければならないことがあるからね 」
「「はい!! 」」
「行こうラティアス! 」
「はーい! 」
「行くぞラティオス! 」
「わかっている 」

アポロが動き出すまでの僅かな時間の中で、ヒビキたちは力を増していく。世界が戦場へと変わる瞬間は、すぐ目の前にある。


■筆者メッセージ
[8.13修正版]はあ、タチバナさんにお世話をかけっぱなしです。次こそは頑張ります!
アルトマーレの話は映画のパクリです。
月光雅 ( 2015/08/13(木) 23:59 )