ポケットモンスターANOTHER








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― 金色の悪魔
記録29. 世界の絶望

「やめろ!! ヒビキっ!! 」
「ホウオウ──〈ゴッドバード〉!!! 」
「ヒビキぃぃい!! 」
その時空は破裂した。
七色の神に乗ったその少年は、金色の光を放ちながら散った。
「嘘……だろ 」
自分に生きているという大切さを教えてくれた、ポケモンとの関わり方を教えてくれた、大切な人を失った。
この手の中から、護るべきものが……消えていく。
なにも護れなかった自分の無力さを知った。


時折、その絶望を思い出す。


GOLDEN MIND SEASON U
──金色の悪魔──
記録29. 世界の絶望


ジョウトに住む少年、金色 ヒビキは力をふたつ持っている。
ひとつは金のメガリング。
幼い頃、謎の魔女から授けられたハジメという英雄の魂。
ひとつは心。
優しい心は彼に仲間をもたらし
怒りの心は彼に刃をもたらす。
旅の中で彼は悪の組織、ロケット団と闘うことを決意する。
護るべき仲間のため。
そして、魔女との契約を果たすため。


「俺はノイズ。怪盗Xの仮面を被り……この時間軸の運命を変える男だ 」

仮面は剥がれ、地に落ちた。
露わになった赤く長い髪。銀色の瞳。
「まさか本当に俺だったとはな 」
2人のノイズは向かい合う。
「……気づいていたのか。俺の正体に 」
「なかなか確信は持てなかったがな…… 」
ノイズに続いてヒビキが語り出した。
「まず、お前が俺とコトネに言ったあの言葉──“ポケギアか…懐かしいな。残念ながら俺が君とアドレスを交換する必要はない”。ポケギアは発売してからまだ一年も経っていない。懐かしいといえる程ではない。
それとこの前、聞いていないはずの俺のポケギアのアドレスがお前のアドレスに登録済みだったこと。以前、俺とお前は出会っていたことがわかる。
ふたつの事実を合わせるとお前は未来から来た人物ということになる 」
「さらに、お前は俺と会うのを拒んでいた。このタマゴもわざわざ、コトネを通じて俺の元へ届けた。お前は俺と深く接触することでタイムパラドックスが起こるのを避けていたんだ。
同時にお前は、俺に自分の存在をうっすらと気付かせるために俺の横を通り過ぎるという行動に出た。確かにお前からは“あいつ”の匂いがプンプンしたが、それは俺だって同じだ 」
「だが、リヒトの存在は予想外だったんじゃないか? 本来ならお前はいないからな。そこでとっさに行動したお前はひとつ失態を犯した 」
「それはあのドンカラス。あいつは確かに俺のドンカラスだった。お前は自分の持っているポケモンと俺のポケモンが同じだということに気付かせないように俺との接触を避けていたが、予想外の展開でそうするしかなかった 」
「案の定、ノイズはお前の正体に気付いた 」
ノイズとヒビキの想像に怪盗Xは頷く。
「おみごと……ほとんど正解だ。わかった。では俺のこの世界へ来た理由を教えてやろう 」


俺たちは、動き出したロケット団と命懸けで闘っていた。
人やポケモンに問わず
たくさんの血が流れた。

その日は異様な程に晴れていた。
そしてその高い夜空に、神々しく光る三日月があった。

奴らは最終兵器をふたつ用意していた。その名は「レイ」と「ミュウツー」。さらにミュウツーは二通りのメガシンカをすることができた。

その二体の強さは計り知れなかった。俺たちはボロボロになりながらも闘い、相手はミュウツーだけになった。俺とルギアはもう戦えなくなっていたから、こちらもヒビキとホウオウだけになった。

そして、ミュウツーに勝てないとわかったヒビキは、ゴッドバードでホウオウと共に突っ込んでいって


──散ったのさ

「────っ!!!? 」
みんなが驚いた。今後ヒビキが死の運命を渡ると言うのだから。
「で、その後は? 」
動揺せずヒビキは問うた。
「ミュウツーは生きていたさ……その後は奴らの世界だ。そこから逃げ出した俺はセレビィと一緒に時を渡ってきた 」
怪盗Xの言った「セレビィ」には心当たりがあった。
「そのセレビィ、もしかして怪我してたのか? 」
「ああ、ロケット団に狙われてるところを必死で時渡りしたからなぁ。ま、タンバの[秘伝の薬]のお蔭で元気になったみたいだが。今はこのボールの中で眠っているさ 」
タンバであった怪盗Xの急ぎようはそのためだったのか。とヒビキはやっと納得した。
「さあ、今頃世界は大パニックだ……外へ出てみろ 」
怪盗Xの言う通り、ヒビキ達はジムの外へ出た。
ヒビキ達を照らしたのは月の光だけだった。その他は何も光を放たない。
「これはっ! 」
「ジョウト地方、いやカントー地方も停電している?! 」
「これがあなたの言う……パニック 」
「あの日もこれと同じ情景だったさ 」
その時だった──この世全てのポケギアが着信音を鳴らした。
「っ──!? 」
慌てて起動する。
そこに映し出されたものは。


ジョウト、及びカントー地方の市民へ告げる。

我が名はアポロ。
復活したロケット団の新しいボス。

カントーの発電所は我々が爆破させてもらった。
これが何を意味するか……。

私は世界が憎い。
強者だけが弱者を強いる世界。
だから私は──
「世界を壊す」ことを宣言しよう。

新しい明日の創造のために破滅を行うのだ。

今回の発電所爆破は我々の力を知らしめるもの。

生き残りたくば己の力で己を守ってみせよ。
私は全力で貴様らを潰す。

そして──金色 ヒビキ。
世界を望むならば覚悟を決めろ。
私は貴様を全力で殺す


その時俺たちは確かに見た。
世界の絶望を。
発電所爆破を捕らえた映像。
確かに闘うには覚悟が必要だ。
だが

「覚悟ならもうできている。このメガリングを受け取ったあの日から。アポロ。お前の考えは俺が──否定する! 」
夜空の月を見てヒビキは決意した。
「違うなヒビキ。“俺が”じゃない……“俺たちが”だろ? 」
ノイズはヒビキの肩を叩いて言う。
「そうだな…… 」
「死ぬなよ絶対 」
「さあな、それが俺の運命だったら潔く死んでやる。そのかわり、世界は絶対救ってやる 」
ヒビキ、ノイズ、コトネ、ユメカ、カトレア、怪盗Xは横に並び覚悟を決めた。
「世界は、俺たちが救う 」
もう一度その言葉を口にして


■筆者メッセージ
[8.13修正版]タチバナさん毎度ありがとうございます。
自分の描いてきた伏線を掘り返すのって燃えますね!
怪盗xの正体を理解した上で
もう一度初めから読み返してみるのも面白いかもしれません。
月光雅 ( 2015/08/13(木) 09:21 )