シニガミはまだこない
「・・・。夢―?」
俺はベットの上で目を覚ました。
ピピピピ、ピピピピ、と目覚まし時計が一人五月蠅く鳴いているばかりで、赤い刃を持ったイーブイはどこにも見当たらない。
それにしても・・・
(やけに生々しい夢だな)
冷や汗を沢山かいた。シャワーでも浴びたい気分だ。
(・・・いや)
がしがしと頭をかいていた手を止める。すると、部屋に静寂が訪れた。
おかしい・・・なにか、変な感じ・・・。
気配?
俺は目を見開いた。
「はいはい、ご名答〜!あ、こたえてはいないのか。でも、なにか感じ取ったまでは100点満点!」
「!!」
窓。
いや、違う、机か?
いない。どこにも―。でも、この声は。
「さあさご主人お顔を戻して。さてさて私は誰でしょう?」
驚いて顔をベットの上へ戻す。
そこにいたのは―イーブイ。銀色の、赤い刃を持った、夢にいたイーブイ。
「クイズです。夢に潜り込んだとき、言ったでしょ?私の名前。ほらほらぼけっとしてないで!」
シニガミ。
そのにんまりと笑うのは癖なのだろう。今も、夢と同じように笑っていて。
そのむかつくような言い回しや、妙にテンポがいい言いぐさ。
全て、夢で出会ったシニガミと同じ・・・。
「はい、これで完答しましたね!答え合わせをしてみたところ、ご主人は夢の内容を覚えているようです。すばらしいですね〜。」
こいつは・・・俺の心が読めるのか?
「あ、はい、読めますよ。シニガミですし。あと、今日からご主人のトコにいますから。なんたって、私はご主人の担当シニガミなんですからねっ。」
俺のところにいる?
担当シニガミだって?
こいつの言ってることがさっぱりわからない。
そもそも、なんでこいつしゃべれるんだ?イーブイなんだろ?
「それはですね〜・・・」
「おいやめろ、俺がしゃべれないじゃないか。声帯が退化するまで心を読むつもりか!」
シニガミは(シニガミと認めた訳じゃないぞ!)きょとんとして、その大きく丸い目をこちらに向けた。
「いや・・・ご主人、声帯が退化するまで長く生きられませんよ。」
「はぁ?」
我ながら情けない声。
それを聞いたシニガミは空中で(なんかずっと浮いていた)くるんと一回転して、楽しそうにこたえた。
「いやいや〜、シニガミという私が来た時点で察してくださいよぅ。シニガミは人生を全うした魂を天界と魔界に届けるのが役目!つまりご主人、あなたはもうすぐ死ぬんです!」
いやうれしそうにするなよ。
つまり、整理すると・・・。
シニガミは心を読める。
シニガミはポケモンの姿をしている?のに、しゃべれる。
それを全部信じると、俺はもうすぐ死ぬ。
なので、俺の魂をもらうために、ここにシニガミはいる。
「物わかりがいいですねぇ。さっすが学校主席なだけである。あ、こっちでご主人のこと調べてあるんで、隠してもだめですよう?」
調べてある・・・。
個人情報だだもれってことか。
「え〜、【高滝 アキト。現在高校生だが、病弱なため登校はしていない。専属の医者に禁止されているため、ポケモンは持っていない】・・・と。まあ他にもいろいろありますが、これっくらいにしておきますね。」
そして、シニガミはにんまり・・・にっこり、笑った。
「これからよろしくお願いしますね、ご主人!」