プロローグ 豪雨の中で
「はぁ…はぁ…」
息を切らし、逃げる。強い雨が降りしきる中、後ろを確認しつつ、走った。分厚い雲が世界を多い尽くしてる。星空を拝む事さえ出来ない。草花は左右に揺れ、勢いよく雨に当たっている。地面は泥水が溜まっている。
「見つけたぞっ!No.01!」
「っ…!!」
目線を前に戻したとたん、懐中電灯で照らされ、目が眩んだ。前や後ろから追っ手が来ている。とっさの判断で右へ走り出す。
「シャドーボール!!」
先程、照らしていたポケモンが黒い玉を連射してきた。足元目掛けて攻撃する。
「いつまで逃げきれるかな?」
ニヤリとそのポケモンは笑みを溢し、そう01にシャドーボールを放つ。
「あっ…!」
背中めがけて攻撃され、吹き飛ばされた。意識が飛びそうだったが、受け身を取り走り出す。びしゃりと泥水が手に付く。足にも体にも泥が付いているが、そんなことを気にしている暇など彼女には無かった。鼓動が速く、息苦しさも感じる。もうどれくらい走ったのか分からないが、気がつけば追手は居なくなっていた。
「はぁ…はぁ…」
意識が途絶えそうだが、ここで寝てしまえば今度こそ見つかってしまう。頭から流れてくる水を手でふきながら後ろをちらりと確認する。
(今なら…大丈夫かな)
そう思い、荒海の中へと飛び込んだ。
「ちっ…どこに行った…」
姿を消した01を探すが、どこにも見当たらない。
「まぁいい…のたれ死んでなければ、見つかる」
そう呟くやいなか、その者は何処かへと消え去った。
「ぶはっ!」
荒波を泳いだせいか頭がボーッとする。すぐさま陸へ上がり、見えた国らしき場所へ歩き始める。国は徐々に近づいているが、フッと力なく倒れる。
「もぅ…ダメ…」
雨に当たり続けたせいなのか、はたまた泳いだせいなのか、走り続け、体力の消耗が激しかったかそれとも、緊張でなのか。倒れた理由は分からないが、力が入らなかった。意識は徐々に薄れていった。
「んっ…うんん…」
次に目を覚ました時に聞こえた音は雨の音ではなかった。パチパチと音をたてる音が真っ先に聞こえる。天井は白く、暖かい。外では無いことは分かった。
「あっ!良かった…目が覚めたんだね!!」
声が聞こえた為、目線を聞こえた方へ顔を向ける。
キッチンにたっていたその声の持ち主は、こちらへ歩み寄ってきた。
「三日前、キミがリフェリア王国の近辺で倒れてたんだよ?」
「三日…」
倒れてから三日が過ぎていたのか、と彼女は思った。
「う、うん…体、凄く冷えてて、命が危なかったんだ」
体を暖め続け、そばにいたであろうピカチュウがそうイーブイに向かって言った。
「……ありがとう」
イーブイは言い、ソファーから起き上がる。
「ちょ、ちょっと!まだ起きちゃダメだって!病み上がりなんだよ!?」
ピカチュウはイーブイの左腕を両手で持って、止める。
「もう、大丈夫」
右手で両手を払われそう言われた。心配だったが、ピカチュウは火をかけていたミルクを思いだし、すぐさまキッチンに戻った。危うく沸騰寸前で、戻った為か焦げてはいなかった。
「あ…危ない危ない…ミルク焦げる所だった…」
冷や汗を流してピカチュウはガスを止め、事前に暖めておいたコップを電子レンジから取り出す。
「ここ…貴方の家なの?」
リビングの窓から外の風景を見ながらもっとよく見るため少し歩き、イーブイはピカチュウに言った。
「父さんと一緒に住んでるから、俺だけの家ではないけどね」
ミルクを十分に暖まったコップに注ぎながら彼は言った。
「…そうなんだ」
ピカチュウに小さく言い、イーブイは紫色の瞳を細め、外を見つめた。三日前とはうって変わって青空が世界を照らしていた。雲も少ない。これなら良く、星空が見えそうだ。ピカチュウがホットミルクを入れたコップを両手に持ち、ダイニングの机に置いた。椅子に座り、ピカチュウはイーブイの後ろ姿を見つめて、思い出したかのように言った。
「あ、まだ名前を言ってなかったね。俺はルミエール。ルミエール・エルピス。キミは?」
イーブイは振り向き、ダイニングへ足を動かす。真正面の椅子に座る。
「名前…分からない」
「記憶喪失…?」
ルミエールがそうイーブイに言うと、首を左右に振ってそれも分からないと、言うように彼女は答えた。
「……」
彼は手を顎に当てて考えた。
「何してるの…?」
「名前。キミの名前を考えてる…」
イーブイは突然ルミエールが考え始めたため、何してるか聞いてみるとそう帰ってきた。
「マリーって名前はどう?」
「…マリー」
付けられた名前を口に出した。
「…気に入らなかった?」
心配そうにルミエールは聞く。
「うんん。マリー、いい名前。ありがとう!」
「良かった、気にってくれて」
ルミエールも初めて笑ったマリーを見て、笑顔になった。
「そうだ、マリー!」
ルミエールはホットミルクを飲み出したマリーにある誘いをした。
「この王国で、騎士団を募集してるんだけど、良かったら一緒に騎士にならない?」
「どうして…私なんかに」
マリーはコップをそっと置いて、ルミエールに言った。
「ダメ…かな?」
突然の誘いに断るかもしれないとルミエールは思いつつも聞く。
「…いいよ」
「えっ…」
入ってもいいという発言に驚いたルミエール。
「ほ…ホント?」
「行く当ても、無いから」
マリーは笑って答えた。ルミエールは目を輝かせ、少しぬるくなったミルクをぐいっと飲み干し、椅子から立ち上がってマリーの手を掴んで、家から飛び出した。
手を握られながらも、王国の騎士団本部へと向かう。マリーは走りながら周りを見渡した。喫茶店や大きなステンドガラスが貼られた住宅。地面はクリーム色の煉瓦が敷き詰められていた。レストランなども。買い物をしている、親子もいた。目線を前を走るルミエールに戻し、騎士団本部へと走る。
近くの喫茶店で調べものをしているとき、目に入った。
「あら…あの子…」
ルミエールが手を掴んでいるイーブイを見て、エーフィはハッと思い出す。テーブルに置いてある水を飲み、椅子から立ち上がった。喫茶店のマスターにぺこりと挨拶をして、その場を後にしようとした時、鼻歌混じりに彼がやって来た。
「ビアンカ!これ、私の部屋へ置いて来て!」
名前を呼ばれ、驚きながら声をかけられた方へ振り向き、彼が来た理由を言った。
「へ!?ボク、今から期間限定イチゴモリモリパフェを、食べようとやって来たんだけど!?」
ちょうど、店内へ入ろうとしたウサギで白いポケモンを捕まえた。
「ごめん、急ぎだから。お願い」
「パフェ…あれ、数量限定なのに…今日で終わりなんだよ?」
「だからこんなに人が居るのね。でも、今来ても遅いんじゃない?」
資料を受け取り、室内をちらりとビアンカは見る。色んな人がパフェを食べている。目線をエーフィに戻し、ビアンカは言う。
「うぅ…行ってらっしゃい、リツァ…」
リツァにそう言い別れた。ビアンカは、リツァの部屋へ行き、資料を彼女の机に置いた。
「はぁ…」
ショックを受けつつ、すぐさま彼女の部屋をあとにする。先程の喫茶店へ行くと、期間限定に張り紙が貼られてあった。
『販売いたしました』
「仕事、忙しくて一度も食べれなかったなぁ……」
しぶしぶ喫茶店でマスターに手を上げて、注文を始めた。
騎士になるため、ルミエールはマリーと一緒に門を叩いた。
「騎士になるため、入団に来ました」