the movie 〜the Can Tho〜 前編
「ん…っ…」
目を覚ますと、そこはベッドだった。顔を天井から左へ向けると、殺風景な部屋で寝ていた。ボーッとしながらも、ゆっくりと体を起こした。回復マシーンがなぜか、部屋に置かれていたが、疑問は直ぐ様消えてなくなった。手持ちのポケモンを確認して、回復マシーンとベッドしかない部屋を出た。
家を出ると、街はヤマブキシティで黒服の男たちが慌ただしく、動いていた。黒服には大きなアルファベットのRがかかれていた。
ああ、ロケット団か。
と、いつもの風景で目にしているやつらをみて、心の中で思った。だが、いつもと様子が違うのは一目で分かった。
『赤い帽子を被った少年と薄茶色の少年が、シルフカンパニーに潜入して手が付けられない!応援を頼む!!』
トランシーバーから焦る声が家の前まで聞こえた。声を聞いたやつらは直ぐ様、シルフカンパニーへと向かう。ひっそりと、自分もロケット団を追いかけ、入り口から入る。
「なっ!なんだ貴様!?」
入り口から入ると、やはりしたっぱが驚いて聞いてきた。
「……」
名乗る必要なんざ、コイツらにはない。いらない。
悪の世界に土足で入り混む子供なんざ、調べれば出てくる。マフィアの奴らは、二人の少年をリストに乗せているだろうが…。オレは存在しない。
「さぁ…来い!オレのポケモン達っ!!」
ニヤリと悪い顔をして、ポケモン達を赤と白のボールからポンポンという音を立てて、出てきた。
リザードンやフリーザー、トゲキッスにロズレイド、ジュペッタとキングドラの六匹。ポケモン達は、主の指示を待つわけでもない。己の意思で行動する。
さぁ、どうするか。
恐怖のどん底に突き落とすか。
廃人にしてしまえば、俺たちは犯罪者になってしまう。
さぁ、どうするか。
いつどおりにすればいいか。
勝負して、諦めさせればいい。
負ければ、敗北者。
勝てば、世間では凄いと、言われ英雄になる。
そんな世の中。
そんな事、考えてるんじゃなくて、目の前の悪を。
悪を打ちのめそう。
英雄になれるからじゃなく、助けたいから。
目の前で泣いている、ポケモンがいるから。
鉄格子の中で、泣いているイーブイ。
そんなイーブイ達を救いたいから。
行くぞ。そう、5匹のポケモンに合図した。
リーダーのリザードン。5匹は、リーダーに指示を貰いポケモン達を助ける。ポケモンを出したロケット団のしたっぱ。ポケモンはラッタだが、オレたちは手加減という物を知らない。いつだって全力。
ロケット団のポケモンを戦闘不能にするとしりもちを付いて、怯えた顔をして入り口へと向かい、焦る顔と恐怖で歯がガチガチ鳴っている音を聞いた。ご主人を、ロケット団は素通りして、自動ドアが開いて、どこかへとしたっぱは走り去って行った。
ドゴォオオオオン!!という爆音と地響きがシルフカンパニー内が響く。地響きが収まるとオレは歩きだし、鉄格子の中にいるイーブイを折れ曲がっている鉄を手で壊してイーブイを抱いた。腕の中で震えるイーブイにそっと優しい声をかける。
「もう、大丈夫だ。安心していい」
そう言うと、イーブイはご主人のポケモン達を見る。
キュー
先程ど震えていた体は次第に収まり、イーブイは鳴いた。
ありがとうなのか、コイツなら大丈夫だから安心しているという鳴き声なのか。オレには分からない。
キューッ!キュキュー!
とイーブイは階段の方を指差した。
「まだ、捕まってるポケモンが居るのか?」
イーブイの顔を見るとコクンと頷いた。自身のポケモンにこう指示をした。
「キングドラはオレと来い。リザードン達は自分の意思でポケモン達を救助してくれ!」
六匹は頷き、5匹は下の階段。地下へと向かい、主人と抱かれたイーブイとキングドラは上の階へと向かっていく。
「ぐはっ!!」
階段を上ると、ポケモンとしたっぱが壁に打ち付けられて呻き声を出していた。
「貴様…」
「ポケモンもアンタも戦う力なんて残ってない」
あきれたような声で少女が言っている。
「もう、悪を止めることね」
倒れこんでいるしたっぱにいい放ち、少女は別の何処かの部屋へと向かっていった。オレの事は気づいていないようだった。
「…?…貴様は、別のヤツか」
オレに気づき、したっぱは苦悩の顔をして突然話しだした。
「…ブルーとかいう少女に、悪を止めること…って言われちまったが。俺達は、悪いことばかりしてきた。ポケモンを殺したり、人んちを荒らしたり、こうして、ポケモンを実験したり、痛め付けて人身売買したりしてな」
したっぱは続ける。
「スカウトされたり、金に困って借金して家族も捨てて入団したり。裏社会の世界は難しいんだよ。子供のお前らに理解することなんて、できないだろうがな…。はっ、もう少しで世界征服出来ると思ったんだがな…子供に邪魔されちゃあ、サカキ様に顔向け出来ねーや。じゃあな」
したっぱは、ラッタをボールに戻して立ち上がり、手をさっと上に上げて言い、先程の戦いでボロボロになった服で、フラフラに歩きながらも下の階へと歩いていった。
「……取り合えず、ここら辺にしたっぱたちと囚われたポケモンは、居ないようだ。別の階へと向かおう」
イーブイを抱き抱えたまま、キングドラは主人の隣で黙ったまま主人の言葉を聞いて、上の階へと歩きだした。