16ページ目〜蘇る記憶〜
ミカは涙を流しながら、倒れている。まるで、ぴくりとも動かない。
機械の様に。
ただただ、涙を流すだけ。
「ミカ!」
アマリリスはミカに寄り添おうとした時、どしんという重い音と共に、後ろから、感じた。
言葉では、表現が出来ない。
恐怖、といえばいいのだろうか。
身の危険を感じた。
「え…っ」
俺達よりも大きい、怪物といえばいいのだろうか。
いや、魔王と呼んだ方が、こいつはお似合いだろうか。
「ヴィス……さ…ま」
ぽつりと、ミカが魔王の名前を呼んだ。
「ミカよ…失望したよ。わざと、負けただろう?なぜだ」
「え…?」
俺はただ、その言葉しか繰り返し返せない。ミカが、わざと負けた?
「ミカ…そうなの?」
ミカのそばに寄り添っている、アマリリスがそうミカに聞いた。
「は……」
い、とは言わない。
ミカは
今、なにもできない。
何を思っているのか、騎士団の俺達には一生、理解出来ないだろう。
きっと、アマリリスを除いて。
「貴様が、リュウとそのものたちか」
「あ…」
ヴィスの手には禍々しく、光る記憶水晶が握られていた。
流れ込む、記憶。
思い出したくない記憶。
記憶の奥底に閉じ込めていた、過去。
「あ…ああ…」
今の俺が、どうなっているか、分からない。
アマリリスが、俺の名前を呼んでいる気がした。
いや、アマリリスだけじゃない。
アリス、アルテも俺の名前をハッキリと呼んでいる。
リュウ、と。
手を伸ばそうとこちらへ走って来る、アマリリスの姿。
そこから、俺の瞳は閉じた。
分からない。
倒れてるのか、立っているのか。
はたまた、飛んでいるのか飛んでいないのか。
まるで、暑さや寒さが感じられない、虚無の様な感覚だった。
雨が降る。
ああ、早く急いで家に帰らねば。
親が心配する。
川が増水している。
ふっと、そう思って目の先に写った人影。
「が…さん」
きっと、お母さんの名前をいっている。そんな気がした。
助けなきゃ…
助けなきゃ!
助けなきゃ!!
でも!
でも…
足が動かない。
ただ、そこで見ているだけしか、出来ない。
なにも、出来ない。
いけば、自分も同じ目に会う。
でも、目の前で流されている子供を放ってはおけない。
けど、足に重りが付いたようにピクリとも動かない。
足がくすんで動けない。
どうしよう
どうすれば
そう考えていると、流されている子供の姿は見えなくなっていた。
どさりと、雨が降る中聞こえた。
何が落ちた。
落とした。
バッグを落とした。
いつも通っている学校のバッグを。
罪悪感が俺を襲った。
そこから俺は何をしていたのか。
いや、忘れたいから
いつもと同じようにファンタジー小説を読んでいた。
そんな記憶を消してしまいたいぐらいに。
けど、それが
記憶が俺を忘れないように、また
襲った。
「リュウ…!!リュウっ!!しっかりして!!一緒に…か…」
アマリリスは涙を流して、リュウを揺さぶっている。ヴィスは笑って、攻撃の準備をしている。
アルテとアリスはリュウの治療をしている。
「ダメだ!」
「ふふっ…」
「うっ…ああああああ!!」
響くリュウの叫び声。苦痛と言えば良いだろ。
水晶が輝きをまして、リュウを苦しめる。一体、何に苦しんでいるのか、私には分からない。
「朽ち果てろぉおおおお!!!」
そう、あのときと同じように。苦しんで倒れてしまえばいい。
「ああああああ!!!!!」
ふっと
なにかが
私たちを守った。
それは、一瞬で。
どさりと、落ちた
「み、ミカアアア!」
「今、治療してやる!」
二人とも、ミカをリュウを治療をした。なにもできない。
ただ、泣き叫ぶしかできない。
けど悲しみから、怒りへ変わる前にどうにかしないと。
ヴィスはもう一度、力を溜めた。
「ミカよ。信じていたのに私を裏切ったな」
いちだんと先ほどよりも、強い力を感じた。もう、逃げれない。逃げれば、みんながやられる。足がくすんで動けない。
みんなを連れて、行けるほど、私は強くない。
「にあ…え…えええ!!!!」
バリンというガラスが割れる大きな音と共に、また叫ぶ声が聞こえた。
「ぬぉお!?」
弾き返された大きな力。
大きな爆発音となって皆吹き飛ばされる。
リュウも
アマリリスも
ミカも
アルテも
アリスも
みな、吹き飛ばされた。
母親が泣いている。
どうして、と聞いても。
声を出しても、聞こえない。
色とりどりの景色はセピアいろになっていく。
ごめんなさいと、泣いている。
父は、知らない。分からない。
仕事?旅行?それとも、居ない?
分からない。
流された子供の母親が泣いている。
どちらも泣いている。
謝っても謝っても。
こぼれる涙。
あふれでる涙を。
ぬぐっても。
ぬぐっても。
流れ出る。
止められない。
でも母親は、次第に決意へと変わっていく。
何が。
思いが。
忘れないと。
その流された子供を忘れないようにと。
毎晩のように、お墓に言った。
それはまるで、謝罪とも取れるように。
親が悪い訳じゃない
自分が悪いんだ。
怖くなって、怖じけずいて動けなかった自分
後悔となって、俺を殻へと引き込んだ。
けど、友達と接すれば忘れる。
だから高校へ通った。
うっすらとそんな記憶は覚えていた。
でも、本を読むと、全てを忘れた気がした。
毎日のように。
気づけば、母親とも話さなくなった。
でも、今なら謝れる。
ずっと、怖かった。
何を言われるか。
謝罪だけど、今さらだけど。
会いに行くよ。
キミに。
「おはよう、お兄ちゃん。でも、わたしのそばにはきては行けないよ。お兄ちゃんは大事な家族が、仲間がいる。今のお兄ちゃんなら、克服したお兄ちゃんなら、出来るよ。さぁ、目を覚まして、仲間の所へ」
謝罪をしようとしたキミに俺は会った。
夢かもしれない
夢でもいいから
ありがとう。
ああ、
彼は誰時だ。
起きて、皆と話さなきゃ。
おはよう、皆
俺が、意識を失ったあと、アマリリスからどうなったか話は聞いた。
今いるのはアーバの城の中でベッドにいる。
アマリリスは俺の隣にいる。
「アマリリス……ありがとう」
「う、うん…大丈夫?」
「俺は大丈夫。ミカは?」
「居なくなってた…置き手紙もなかった」
「そうか…でも、俺達を守ってくれたんだろ?守ってくれなきゃ、俺達は負けてた」
そう、ミカが居なきゃ、負けていた。最後に力を打ち消したのは、フェル達が間一髪助けに来てくれたから。その前の力はミカが居なきゃ、ダメだった。
「そうね」
アマリリスは微笑んだ。
コンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
俺はそう答えた。すると、ぞろぞろと騎士団のメンバーが入ってきた。
フェルが。
レヴェンテが。
セクトが。
アルテが。
アリスが。
国を守る者も。
ルリの両親と姉とルリ自信が。
俺が、俺達がいる部屋へ。
そして、フュールを束ねるお嬢様が
スイレンがやって来た。
「お久しぶりですわ、リュウと皆様」
騎士団が助けたんだと、アマリリスが言ったが、みなキョトンという顔をしている。
「違いますわよ、アマリリス」
ふふっと笑うと、スイレンが言った。