プロローグ〜不思議な王国へ、ようこそ〜
高校3年の12月中盤のある、冬の日。学校生活もあとわずかの、土曜日の日の事。空は曇り、雪がパラパラと舞いながら街を歩く少年の姿があった。車が通ったあと、信号を渡り、目の前に見える二階建てであろう図書館へと足を運ぶ。その少年は、ブレザーの制服を来たまま赤いマフラーを付け、白い息を吐き手を擦りながらいつも学校帰りに通っている図書館の入り口へ付いた。
「そういやもうじき、ここの図書館、潰れちゃうんだったけ…」
自分しか居ない図書館の入り口でポツリと言葉を洩らした。自分が生まれるずっと前から、母親が言うには40年前ぐらいからあったと、言われた。実家の近くにある図書館は小さいが、全て本を読んである。ふと、ここ数日学校に来ていない後輩の事を思い出した。
(そういや、アイツ…甘利は最近学校に来ていないけど…甘利が言うには両親は居ないし…先生に訪ねても具合が悪いとしか言われなかった…)
顔をひそめて図書館の入り口のレバーを握ってそう思っていた。
「くしゅん…っ!!」
彼はくしゃみをし図書館のレバーを手前に引き、冷えた体を暖めてくれる図書館へと足を踏み入れた。
「あら…木島くんいらっしゃい。今日も空いてるわ。好きに座って頂戴ね」
「鈴木さん…こんばんは。今日もアイツ…甘利は来てないんですか?」
図書館に入るとここのオーナー、鈴木
光さんが持っていた本は栞を挟み畳んで、お出迎えしてくれた。雪の日は人が少ない為、彼女も入り口近くの椅子で本を読んでいる。鈴木さんは困った顔をして俺を見つめた。
「ごめんなさい。甘利日和さんは、今日も来てないみたいなの。警察の方も捜索はしてるみたい何だけど、やっぱり三週間も学校に来ていないから、心配よね?」
「ええ…」
「ごめんなさいね。天気が悪いから、暗くなっちゃうわね」
申し訳なさそうな顔をして鈴木さんは謝った。いえ、大丈夫です、と俺は言うと、奥の部屋へと歩き始める。肩に掛けていた通学バッグを、自分が座る椅子の隣に椅子を引き、置いた。ドサッという音がたち、自分も隣の椅子に座り、学校の宿題や課題を終わらせ一息つく。
「ふぅ…」
一息もらすと、机にカチャっという音を立てホットコーヒーが置かれた。俺は鈴木さんを見てお礼を言った。
「いつもありがとうございます。鈴木さん」
「いいのいいの。じゃあ私、息子と娘の為にちょっと買い出し行ってくるから、ここに戻ってくるの夜の7時ぐらいだから、二時間かな?その間、貴方しか居ないと思うけど…」
そう言われ、壁に掛けられている時計をチラリと見ると今の時刻は5時丁度だった。図書館の前にはガードレールがあるため、車は突っ込んでは来ないし、人も来ないと思う。
「大丈夫ですよ鈴木さん。お子さんの為にいってらっしゃい」
「ええ、それじゃ二時間後に会いましょ」
鈴木さんはそう言いエプロンを脱ぎ、レジに置き、図書館を後にした。鈴木さんの姿が見えなくなると、立ち上がり机に散らばった消ゴムを集め、近くに置いてあるゴミ箱へと捨て、綺麗になった机を見て小さく頷いた。立ったまま、コーヒーを取り一口飲んで少し笑みがこぼれた。
鈴木さんの実家は喫茶店を営んでおり、コーヒーの入れ方は心得ている。図書館は叔父と叔母が営んでいたが、交通事故で亡くなり喫茶店を飛び出し、鈴木さん本人が引き継いだ。ここで出会った父親と結婚し二人の子供を産んだ。父親は病で倒れ、入院をしている。俺もお見舞いに行った事はあるが、優しそうなお父さんだった。最近文化祭やらで忙しくてお見舞いに行けていない…明日、お見舞いに行ってみるか。
「さて、一時の至福を楽しもう」
そういい、コーヒーを机に置き、ファンタジー小説の本棚へと足を運ぶ。
「前から読みたかった、魔法の王国…っと…あ、あったあった」
一人で呟きながら、置かれている本を指でなぞりお目当の本を見つけ、すっと人差し指で取りだした。椅子へと戻り、本をめくると眩しい光を発した。そこから意識は途切れ覚えていない。
「さん…」
誰かが声を出して呼んでいる。
「リザードンさん」
「うっ…」
「あ、起きました」
目を開けると顔をのぞきこむドレディアの姿があった。
ポケモン?ゲームを少しプレイしたことはあるが…なぜ?
少し考え込む。鈴木さんと別れ、読みたい本を見つけて…本を読もうとして、光に包まれて。
今、この状態に至る。
空は曇ひとつない。太陽がぽかぽかでどう考えても冬ではない。春だ。
そよそよと風が吹き、木の葉っぱがさわさわと音をだす。ここはどこかの森だろうか。
ドレディアが心配そうに顔をのぞきこんだまんま、こちらを見つめている。
「あの…大丈夫ですか?リザードンさん」
「あ…あぁ。気持ち良くて寝てただけだ…」
人間界から来たと言うわけには行かない。嘘は嫌いだが誤魔化しゆっくりと起き上がり、近くに水辺があった。恐る恐る顔を水へと近づける。
顔が青ざめる。
やはりギョッとした。
顔は黒く、目は赤い。
色違いのリザードンだった。
4000分の1の確率で出ると言われている色違い。
だが、ゲームと言えどやはり黒いリザードンはカッコいい。
それに今俺はなっていることに驚きだが、隣にポケモンがいる。こっちが驚くと相手がびっくりしてしまう。
「あの、どうかされました?」
優しい声でドレディアは訪ねて来た。
「あ、いえ何でもないです」
「よかった。よろしければお名前をお聞かせください」
名前。そうだ名前。竜。リザードンもドラゴンだ。じゃあー
「俺の名前はリュウ」
「まぁ、素敵なお名前。ワタシはスイレンですわ」
「宜しく。スイレンさん」
そっと手を差しだし、握手をした。しばらく、この世界でお世話になると思うから。礼儀だけはしっかりしないとな。