プロローグ 手紙の宛先
ある日、突然その悲劇は起きた。
「ん…ロトム?」
目を覚ますと少年の隣にはロトムが居なくなっていた。泣きじゃくりながら、家の中を、家電の中をただただ大事なポケモンをさがした。だが、ロトムは見つからず、少年は日に日に歪んでいった。机に置き手紙を置いて必要な物だけを持って家族には言わず家出をした。
もう出会う事はないロトムを探してー。
「………」
手紙を読んでいる少女は一言も発する事はなく、書かれている文字を読み進んでいる。椅子に座り、机にはライトが付いていた。明かりをつけ、一枚目を読み終え、二枚目へと紙を右から左へとずらし、一枚目の紙を一番後ろへと重ねた。明かりが付いている場所以外は薄暗い部屋だった。カーテンから明るい月が部屋を少し照らしていた。研究所の仮の部屋で、ナナカマド博士に訳合って借りている。机の棚にはポケモン進化、ポケモンの環境変化など知識についての分厚い本が並べられている。二枚目を読み終え、三枚目も読む。三枚目は短い文章だったが、口に出して読み上げた。
「私達は離れていても、心は一緒です。また今度、顔を見せに来ますね。ナナカマド博士にも宜しく…。ヒルミとラーズより…」
つい、読み上げてしまったが、ふっと笑みをだして、引き出しの中に手紙を入れた。ベッドに入るなり直ぐに眠気が襲い、眠った。
次の日、太陽が上がり部屋全体を明るく照らしていた。目を擦りながらも体をベッドからお越しパジャマから、旅の服へと着替えた。部屋を出るとナナカマド博士がシンオウ地方名物のようかんを頬張り、こちらを見ていた。ようかんを飲み込むなり、ナナカマド博士は話始めた。
「おはよう、ヒカリ。私は研究者になってほしかったが、チャンピオンになる資格を得た君を応援しようと思う。そこで…」
そう言うなり、ナナカマド博士は席を立ちパソコンの隣に置いてあったアタッシュケースを手に取り、先ほど椅子に座っていた机の上にコトンという音をたて、置いた。ヒカリは歩き、アタッシュケースを開けようとしている、ナナカマド博士の横顔を見つめながら、開けるのを待っていた。
「ちょっと待ったあああああああ!!!」
研究所のドアをバンっという音を立てながら走って来た金髪の少年が息を切らしてやって来た。
「ぜぇ…はぁ…ちょっと…待ってください博士…」
両手を両膝に添えつつ、体を支えながらそう言った少年はまだ息を切らしていた。
「ジュン…まさか、フタバタウンから?」
ヒカリはジュンの幼馴染であり、ここ、フタバタウンからワカバタウンへと走って来たのであった。
「ジュンよ、お主ポケモンを持たずに来たのではないだろうな?」
ナナカマド博士がアタッシュケースから目線や体をジュンへと向け、彼に聞いた。ジュンは呼吸を整え、姿勢をただし、ポケットに入れていた一つのモンスターボールからポケモンを出して答えた。
「小さいころから一緒にいる、コイツがいるんで大丈夫ですよ」
そう言って抱き上げたポケモンはコリンクだった。ジュンはコリンクを抱き抱えたまま、除き込むようにしてアタッシュケースを見た彼はナナカマド博士に聞いた。
「これが、今回オレらにくれるポケモンですか?」
「ああ、そうだ。それともう一人、コウキがくるんだが…まだかね」
白い髭を触りながらナナカマド博士はうなだれるように待っている。
「す、すいませ〜ん!遅れました〜!!」
赤い帽子を左手で抑え、右手を上にあげ手を振っている少年が謝りながら研究所へと走って来た。
「遅れてすいません!妹がちょっと、熱出しちゃって…お母さんに取り敢えずは頼んで来たんですけど…」
「そうか…ご苦労だったなコウキ。大丈夫だぞ、ジュンも来たばかりだしな」
ナナカマド博士はアタッシュケースを持ち、三人の前に差し出すようにモンスターボールが入ったポケモンを見せる。
「左のモンスターボールに入っているのは、わかばポケモンナエトル。真ん中はこざるポケモンヒコザル。右はペンギンポケモンポッチャマだ」
ヒカリはちらりとナナカマド博士を見たが直ぐ様、一番左にいたが右側へと向かいポッチャマを選んだ。
「私、この子にします」
「んじゃ、オレはコイツだ!」
「なら僕はこのポケモンだね」
それぞれ三人はポケモンを選びニコニコしている。ナナカマド博士はアタッシュケースを机に置いてパソコンのそばにおいてあるポケモン図鑑を三人ぶん持ってきて、手渡した。
「ありがとうございます!」
三人は博士にお礼をいい、図鑑の説明を受け、研究所を後にした。研究所を出たヒカリもバッグの中身を確認したあと、雲一つない空を見上げ、目線を空から先ほどいた研究所を見つめてこう呟いた。
「行ってきます」
こうして、彼女の冒険が始まった。
二人の出会いによって運命が変わろうとしていることをまだ、このときは知らない。