ポケモンの世界
「…んっ……う…?」
ここは…一体…?私、ベットで寝てたはずじゃ──────あ!思い出した。身勝手な声に導かれて、無理やりポケモンの世界に連れ込まれたんだ。
…にしても、妙に違和感を感じるな…何か、体がいつもと違う、と言うか…えっと…まあいっか。
見たところ、ここは森の中みたいだけど…別に気配はなさそう。来て早々、戦い方も分かんないのに、バトルとなったら命が危ないからね…
えーと、ゲームだったら、ここでパートナーとなるポケモンと出会って、いろいろしていくはずだけど……やっぱ、ゲームと現実は違うか。
…ん?待てよ?もし、ゲームの通りなら、私はポケモン化して──────
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!」
手が!手が、肉球になってる!尻尾も生えて…耳が頭にある…!何か違和感を感じると思ったら、自分がポケモンになっていたからだったんだ!
えーとえーと、確か自分がなってしまったポケモンの名前は…この容姿からして、リーフィア…かな?
ああああ、嬉しいんだけど喜べない!だって、人間の世界には帰れないし、大きな使命まで持たされたし……決して良いこととは言えない。
…と言うか、これからどうすればいいんだろう…?あの身勝手な声は何も教えてくれなかったし、この先ずっと絶望的だー…うあああぁぁ……
「ねえ、貴方!」
「はいぃ!?」
いきなり話しかけられたからビックリした…えっと、このポケモンは…グレイ、シア?
「さっき悲鳴を上げてたのって貴方でしょ?どうかしたのかと思って、駆けつけたんだけど…」
さっきの悲鳴?そんなものあげた覚えは───────あっ…(察し
「…大丈夫そうね。なら、貴方に用はないから、私はこれで。気をつけてねー」
おおぅ…あっさりとしてる…って、行かせちゃ駄目だ!やっと(安心できる)ポケモンと出会ったのに、みすみす逃してちゃ、この森から出られなくなっちゃう!さあ、声をかけるんだ自分!
「あ、ちょっ…待って!」
「?」
グレイシアは、頭にハテナマークを浮かべたような表情で振り向いてくれた。ああ、そうだ。言わないと!
「え、えっと、この森の出口知りませんか…っ!?」
あ、何かちょっと必死な言い方になっちゃった…ポケモンと話すのなんて、初めてだし…いや、当たり前か。
「…あら。もしかして貴方、この森で迷ったの?方向音痴なのかしら。」
方向音痴じゃないし、これはあの身勝手な声が知らない森に私を落とした(?)から。せめて何処かの町付近で倒れさせてほしかった…
「…まあいいわ。困ったポケモンを助けるのが私の仕事ですもの。さあ、付いてきて。」
「あ…ありがとうございます…!」
今、絶望が希望へと変わった!
…大袈裟じゃないからね!
──森の出口──
「さあ、着いたわよ。これでもう大丈夫でしょう?もう夕方だし、早く家に帰りなさい。」
ひぃ…ふぅ……キツい…こんなに出口が遠いなんて聞いてないよ……とにかく出られたのは嬉しいけど…
ん?夕方?
あ、本当だ。…家、か…どうしよう…もう野宿するしかないな自分。
「…あら?どうしたの。もしかして出る方向、間違えちゃったかしら…?」
「い、いやいや!別に間違ってませんよ!アハ、アハハハ…」
「……?」
物凄い疑いの目で見られてる…そんなに嘘付くの下手だったか自分…
「…!ああ、貴方、もしかして……」
え!?わ、分かっちゃった!?本当に嘘付くの下手くそだな私!もっと上手くなれよっ!
「旅してるんでしょ!ね?だから家に帰りなさいって言われて戸惑ってたのね。」
「え!?…あ、は、はい!そうです、その通りです!!」
よかったー…あのグレイシアさんにお世話になるわけにはいかないもんね。きっと迷惑になるだろうし。手伝いできることも少ないしね…
「で、旅ポケさん。」
旅ポケ!?…あ、そうか。この世界ではそうなんだね…私の世界で言えば、『旅人』と同義語なのかな。
うん、きっとそうだ。
「そう言えば、今日は何処で泊まるの?荷物も持ってないようだし、野宿するつもりではないわよね。」
「うっ!?…ん、んんー…あー、はい。そうです、何処かに泊まるんですよー。ハハハ…」
どうしよう誤魔化しきれない…でもまあ…ギリギリまで隠すか……
「そう!じゃあどこで泊まるのかしら?私、ずっと旅に憧れてて、一目でも旅してるポケモンが見たかったの!ねえ、教えてくれるかしら?」
「え…えーと……ま、まだ決まってないんですよー」
ぎこちない……
「あら、そうだったの?ごめんなさいね。じゃあ、今晩は私の家で泊まったらどうかしら?十分にもてなしてあげるわよ。」
「え!?で、でも、失礼…ですし、迷惑かけちゃうだろうし……」
「いいのいいの!私の好意なんだから。素直に受け取って!ね?」
「え……あー…ええっと…はい、じゃあ…お願いします……」
グレイシアさんの押しに負けた…しかも、何だか騙すような形にまでなっちゃったし……
…あ、待てよ?旅…そうだ!旅!これなら、世界を救うほどの強さになれる(多分)だろうし、人材も集められるはず!頭は良くないが思い出したぞ私!
…とにかく、なるべく迷惑にならないように泊まらせてもらって、次の日に朝早くから出発しよう。そうしたら、あのグレイシアさんにあまり負担をかけることもないだろうしね。
「じゃあ、これから私についてきてね。案内してあげるから。」
「あ、はい。ありがとうございまーす…」
…その前に、心配な一晩が始まりそうです。