テスト
白い
靄が世界を覆って居る。絶えず動くほわほわとしたものが空中にぺたりと座り込んだ私を取り囲んでいた。上も、下も、右も、左も、全てが真っ白な世界。その中で私は独りで浮かんでいた。
「
此処は―――――。」
そもそも、何故このようなところに居るのだろう。もんやりとした記憶を探り、そして思い出した。確か、ピカチュウにされて―――――慌てて前肢を顔の前に
翳す。
「――――――ぅそだぁ……。」
前肢に生えていたのは、見慣れた暖かい焦げ茶色の毛ではない。真っ黒な、それこそ闇のような色の毛だった。前肢の形も大分変わっていて、ぷにぷにした肉球のついた脚ではなくて、短い指が五本ついている。意識すれば流れる電流。稲妻のような形のしっぽ。体型もピカチュウそのものだ。私は、ピカチュウだった。レイさんに実験されて、ピカチュウにされた。なんでこんなことをしたんだろう?どういう仕組みで私はピカチュウになったの?これからどうなるの?私の頭の中は疑問でいっぱいだ。
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「んー……。」
目醒めた所は、ケースの中ではなかった。灰色の広い部屋の中に独りで座っていて、目の前の壁の上の方に監視台がついていて、その少し下には金属製シャッターがある。その監視台から白衣を着た人が数人、私を見下ろしていた。見られているのがなんとなく気まずくて部屋の隅に目線を向けた。
その時だった
「テスト開始。」
突然、機械的な女の人の声がして、それが合図だったのかシャッターがガリンガリンという独特な音を立てて巻き上げられていった。そして、中から複数のポケモン達がでてきた。
「あのー?」
どのポケモンも様子がおかしい。私は控えめに声をかけたが、無視されてしまった。
「攻撃、開始。」
さっきと同じ機械的な女の人の声。
「え…。」
ポケモン達が襲いかかってきた。
先頭はザングース。そしていきなりのブレイククロー。元の一・五倍位の長さになった紅い爪が、私の喉を狙っている。生まれてこのかた一回もバトルをしたことがない私にとって、これは大ピンチだった。時間が経つのがやたら遅く感じる。爪が首に届くまで、あと十、九、八、七、六、五、四、三、二、一センチ――――――――もう駄目だ。
………ひゅっ。
気付いたら、右斜め上からのブレイククローを右に重心を移動して倒れるようなかんじでかわしていた。思いっきり空振り、大きな隙ができたザングースに青白い稲妻を
纏う手でパンチをかました。普通なら倒れる筈が、ザングースは水色の光の粒となって散った。
―――――――――ザングースが攻撃をしかけてきてから消えるまで、約三秒半。あり得ない。生まれてこのかたバトルをしたことがない私が、ザングースをたったの三秒半で…。そもそも、何故技を使えるのか。今の「かみなりパンチ」はなかなか覚えられない技の筈。なのに。
考えているうちに、次のポケモン達がすぐそばまで来ていた。
―――右から「火炎放射」。左から「冷凍ビーム」。その間から「竜の波動」。後ろから「不意討ち」。上から「波動弾」。私は本能的に向かってくる相手を倒しながら考えていた。
――――――――何故?