変化
なにも変化がないまま、アキラさんに運ばれてケースのある実験室に戻った。ケースの中に入ると、少しだけほっとした。実験室の時計を見ると、朝の十一時。他の子達はまだ当分帰って来ないだろう。昨日は不安でろくに眠れなかったので、少しだけ眠ることにした。ケースの中で丸くなり、目を閉じた。
―――――――――そして異変に気付き、目が醒めた。
痛い、身体中が痛い。熱もあるみたいだ。吐き気がする、寒気もする。特に痛いのは肩―――そう、注射器の針が刺された所だ。首を捻りまくって肩を見ると、針が刺さった所を中心に半径一センチほどのところが黒く変色しているのが見えた。
「え…。」
なに、これ。
茫然としている間にも、黒い部分は少しずつ、しかし確実に広がっていく。
「順調に進んでいるわね。」
冷たい声。誰かと思って振り向き、愕然とした。
レイさんだった。でもその目に暖かい輝きは無かった。
その横にアキラさんも立っていて、こちらにビデオカメラを向けてなにか言っている。
「こちらは
EX.EPの
試作品です。EX.EPとはイーブイの遺伝子をピカチュウの遺伝子を改造したものに書き換えて造られるピカチュウです。ピカチュウの遺伝子はとても安定しており、書き換えは不可能なのでこのようにイーブイの遺伝子を書き換えて造るという手段を取りました。」
あぁ、身体中が痛い。口から飛び出したのは赤い鮮血だった。思うように力が入らず、ケースの底に倒れ込む。二人は助けてくれなかった。
「普通のピカチュウの平常時発電量が約五千から七千ボルトなのに対し、EX.EPは約五万から七万ボルト発電します。また、最高発電量も通常のものの十倍の百万ボルトです。」
私は目線を上げた。ケースの輪郭がゆらゆら揺れて見える。口の中は血で充満している。視界に黒い染みがぽつぽつと滲んでいる。このまま死ぬのも悪くないかもしれない。痛みから解放されるんだから。
「EX.EPは強大な軍事力となるでしょう。是非ご検討を。」
アキラさんは口を閉じ、ビデオカメラの電源を切った。
黒い染みはどんどん拡がって行く。傷みと恐怖に耐えかねて、私は意識を手離した。