narrative.1 出逢い
風が吹く度、森の木々がザワザワ、と揺らめく。
「ん〜…やっぱ森の中はいいなあ、緑のいい匂いがするなあ」
そんな独り言を言いながら、森の中で本を読むポケモンが1匹いた。
ぱらぱらと本のページをめくり、はぁ、と溜息を吐いた。
「僕もこの本の人たちみたいに、ワクワクするような探検がしたいんだけどなあ…」
ぽつりと、1匹のミジュマルが、本を読みながら呟いた。
「せっかくこの近くにギルドがあるのに…何回も行こうとしてるけど…1人じゃ怖いし…途中で足が止まっちゃうからなあ…」
ミジュマルはぶつぶつとそう言いながら、さっきまで本を読んでいるときに座っていた丸太の周りをぐるぐると2、3回回って、もう1度溜息を吐いた。
「…誰か、僕と一緒に付いてきてくれて、頼りになる人がいれば、僕も行けるのに」
そうミジュマルは呟いた。
「僕も、探検隊になれるかもしれないのに…僕みたいないくじなしでも、探検隊になれば、ちょっとでも強くなれるって思ったけど、行く前からこれじゃあもう何年かかってもギルドに行けないよ…」
ミジュマルはそう呟いた後、いつものように頭を抱えた。
「…ここで考えててもどうせ変わらないし、多分また足が震えて止まっちゃうけど…ちょっとでも、足を進めよう…」
ミジュマルは深い森の中から、広場のようになっている少し開けた森の方へ足を運んだ。
「ふう…そろそろ広場になってるところかな…多分どうせギルドへは行けないから今日は広場で本を読もうかなあ…」
ミジュマルはそう言って早足でもう目の前にある広場へと足を早めた。
…が、広場に出た瞬間、ミジュマルの足がピタッ、と止まった。
「…え?」
ミジュマルは愕然とした。…広場の真ん中には、ピカチュウがぐったりとしたように倒れていたのだ。
「…ええええっ!?ポ、ポケモンが倒れてるっ!?」
こんな目の前でポケモンが倒れているのを初めて目撃したミジュマルは、どうしていいか分からず足が震えていた。
「うわわ…どどどどうしよう…でも…助けないと!!」
いきなりで思考が停止していたが、ミジュマルはピカチュウの元へ駆け寄り、息があるか確かめた。
「…うん、息はしてる…倒れてるだけみたい、でもぐったりしてるから僕の小屋へ連れて行かないと…!」
ミジュマルは急いでピカチュウをおんぶ…しようと思ったが、持ち上げる力はなく、引きずる形になって、自分の住んでいる森の中の小屋まで急いで駆けて行った。
ゼエゼエ言いながらもなんとか小屋に着いたミジュマルは、ピカチュウを小屋の中へ連れ込み、自分がいつも寝ている寝床に寝かせた。
「はあ…はあ…ポケモン運ぶのって結構大変だなあ…はあ…そんなことより…この子の容態を見ないと…」
ミジュマルがピカチュウの顔を覗き込むと、ぐったりとはしているが、どこも怪我はしていない様だった。
「はあ、良かった…でもやっぱりしんどそうだからなにか木の実とか持ってこよう…」
ぱたぱたと、ミジュマルは部屋の中に置いてあるリンゴやオレンの実を数個持ってきた。
「ん〜…今寝てるみたいだからそんな口の中にこの木の実まるごと入れたら困るよね…ちょっとすりつぶしてみようかな……でも僕そんなすりつぶすことなんてやったことないからすりつぶす道具なんて持ってないなあ…」
ミジュマルはどうやってすりつぶそうかうんうん唸っていると、ふと自分の腹についているホタチを見た。
「……これですりつぶす…でも…いや……やるしかないか」
とりあえずホタチをごりごりとリンゴに押し付けた。流石はホタチ、切れ味(?)がいいせいか数分ごりごりしただけでしゃりしゃりのリンゴになった。
「…あ、意外と出来ちゃった…でもなんかホタチがリンゴ臭い……オレンの実はあとでいいや…またにおいがするし」
そんなことを言いながら、まだ寝ているピカチュウの元へすりつぶしたリンゴを持って行った。
「……ええと、どうやって口の中に流し込もう…」
こういう事をやったことがないミジュマルにとって、どう口の中に入れるかも問題だった。そんな時、ピカチュウが寝言で「ううん…」と言った時、ぱっと口が開いた。
「…あ、開いた…今の間にちょっとずつ入れよう」
ミジュマルは皿に乗せたすりおろしリンゴをそっとスプーンで少しピカチュウの口の中に入れた。
「…………ど、どうかなあ…」
ミジュマルはおそるおそるピカチュウの顔を見ると、口をムグムグさせて食べていた。
「…食べてくれてる、良かったあ…」
「…美味しい」
突然、ついさっきまで寝ていたピカチュウが、目を開いて、そう呟いた。
本当に突然だった。ミジュマルは急すぎて何が起こったのか理解出来なかった。
「う、うわあああああッ!?なななにっ!?」
思わず叫んでしまったので、ピカチュウが驚いた表情をした。ようやく今起こっていることが理解できたミジュマルは、はっとして驚かせてしまったことに気づき、謝罪しようとした瞬間…
「…ポケモンが、喋って…」
「え?」
ミジュマルがその言葉を理解できないでいると、ピカチュウはむくりと起き上がり、ミジュマルの方を見て、先ほどの驚いた表情からドンドンと顔が青ざめていき、汗がタラタラと噴き出していた。
その尋常じゃない様子にミジュマルが、体調が悪くなったのかと思い、
「だ、大丈夫?僕は何もしないよ、ここは僕の小屋だから…汗が酷いけど、調子悪いの?」
ミジュマルの心配する言葉を聞き、ますますピカチュウは顔が青ざめていった。
(あれ、今心配したのに…何も言わないでどうしたのかな…)
ミジュマルは心配したのに何も言わないピカチュウの様子を見て不思議に思った。もう一度声を掛けようとすると、
「ど、どうし…」
「
ポ、ポケモンが!!喋って…るッ!?」
ピカチュウは震えた声でそう言った。
「…え、な、何言って…」
ミジュマルはまだ知らなかった。このピカチュウとの出逢いが、後に色んなポケモンと出会うきっかけになろうとは…そして、自分が、このピカチュウと、探検隊になるとは。
それはまた、次のお話。