narrative.0 変わり者
「…はあ」
『どうした、お前が溜息など珍しい。今日は雨でも降るのか?』
「君は相変わらずだね」
『…何か気の迷いか』
「…ひとつ、聞いてもいいかな」
『…何だ』
「何故、僕を選んでくれたの?」
『…………』
「ああ、これって答えられないかな」
『…愚問だな』
「…どうしてかな」
『じゃあ逆に聞こう。何故お前は私といるのだ』
「…君と一緒にいたいからだよ」
『なら何故お前はそれを問う』
「君は…僕といて、幸せなのかってね」
『幸せ…そんなものは当の昔に無いな。今更そんなのは求めていない』
「…そうだね、前にも君は言っていたかな」
『…質問に答えるとすると…ただの気まぐれだ』
「………君らしいや、ごめんね、愚問な質問に答えてくれて」
『別に構わん』
「君といると時間を忘れてしまいそうになるんだけどね、もう君とここにいて、何年になるんだっけ?」
『何年じゃあ済まんだろう。何十年だろ』
「あ〜そっか。ここにいると年も取らないからね。じゃあ現実では僕はおじいさんなのか…そういえば君は僕の何百倍も長生きだから、もう仙人ってことかな」
『…お前はよくそんな馬鹿馬鹿しいことを考えられるものだ、くだらん…私が何年生きたかなんて数えるのも億劫だ』
「君のそういう所も好きだよ、飽きないからね」
『…お前ほどの物好きは世界中どこを探そうと見つからないな』
「……君と出会って、僕も変われた気がするよ…前の僕は、どうしようもない、今以上の馬鹿だったからね」
『「僕も」って、それは私も変わったってことにしているのか?勝手にカウントするな』
「うんうん、そういうとことか変わってるよ。昔とか僕が冗談言っても全部無視してたじゃん、あの時は寂しかったよ」
『…変わったというよりお前は変わり者だろう』
「君が褒めてくれるなんて珍しいね、嬉しいよ」
『…はあ…』
「あ、今度は君が溜息ついたね」
『…私しか喋る相手がおらんのか』
「そりゃここ2人しかいないじゃん、当たり前だよ」
『…私と出会う前の方が、喋る相手も大勢いたのに…何故私といるのだ、元の世界の方が良かっただろう』
「君、僕と同じような事言ってるじゃないか。さっき僕が「何故僕を選んだの?」と一緒だよ、君がさっき言った通り、それこそ愚問だよ」
『…何がだ』
「…あんな酷いことをして、元の世界に戻れるわけないじゃないか。君が一番よく分かっているだろう?…失ったものが大きすぎるんだよ」
『…それは私の責任なのに、どうしてあの時、あんなことを…』
「君は本心じゃなかったんだから、仕方ないよ。…復讐とか、暴力で、片付けちゃダメなんだよ」
『…お前は本当に変わり者だよ』
「それほどでも無いよ」
『…………』
「…僕が、あの時できなかった、止められなかったことを、きっと僕と同じ…いや、僕より凄い『変わり者』が、それをやってくれると、信じているよ」
『…お前より凄い変わり者なんてそうそういないぞ』
「いやいや、そんなことないよ。きっといるよ」
『…別にお前の考えを否定はしないが…』
「普通の人じゃあ分からないことでも変わり者だったら分かることもあるよ」
『…本当に馬鹿馬鹿しいな』
「『変わり者が世界を変える』っていうのも、とても素敵だよ」
『…口でいうのは安いものだ、そんな奴が実際出るなんて…』
「いや、きっと出てくるさ。必ず」
『…きっと、か…まあ、せいぜい願い事でもしておけ』
「しなくとも絶対に来るよ。絶対、ね」
『…絶対、か』