リーファンズ
ピカチュウはある廃墟に連れてこられた。そこには沢山のポケモン達が集まっていた。
「ここが俺達のアジトだ。誰にも言うんじゃないぞ。」
「はい!。」
澱みのない返事だった。それもそのはずだ。沢山のポケモンがピカチュウを睨んでいる。震えと汗が止まらない。
「ボス。連れて来ました。コイツがワンリキーを倒したって言うポケモンです。」
「うん。良くやったな。そのポケモンと話がしたい。」
おんぼろだが大きな椅子に座っているポケモンがいた。ピカチュウはそのポケモンの前に座らされた。
「おい、お前。名前は何て言うんだ?。」
「ピカチュウです!。」
ピカチュウは背筋を真っ直ぐにして言った。
「俺はダーテング。ココの
頭をやってる。よろしくな。」
その後ダーテングはピカチュウの年齢、タイプ、性別、出身地などを聞いた。ピカチュウの警戒心も徐々に薄れていった。
「さてピカチュウ。本題へ入ろう。」
ピカチュウの背筋が再び真っ直ぐに伸びた。
「ピカチュウ。この街のルールを知っているか?。」
「い、いいえ...。詳しくは知らないです...。」
「そうか。ならここで覚えてもらう。命を守るためにもな。」
ダーテングは街のルールについて語り始めた。
このイカトシティには3つの
派閥がある。それぞれのアジトの場所を外部に漏らさない事。
互いの利益に口出ししない事。
互いの縄張りに手を出さない事。
新たな派閥を作らない事。
落とし前をつける事。
ダーテングは大まかに話した。ピカチュウもそれを真剣な顔で聞いていた。
「今言ったのがこの街のルールだ。解釈はそれぞれだが良く覚えておく事だ。この街で生きていくんならな。」
「はい...。」
「話はまだ終わりじゃないぞ。むしろココからが本題だ。」
ピカチュウは息を飲んだ。
「つい最近の話なんだが....。縄張りが1つ荒らされてな....。そこを仕切っていたのがバーンズって言う連中なんだが....。狭い路地だ....。見に覚えがあるか?....。」
ダーテングの鋭い眼光がピカチュウをにらめつける。
(ま、まさか....。)
もうピカチュウはダーテングの目を見れない。下を向くことしかできなかった。
「ワンリキーと言うポケモンが瀕死の状態だった...。バーンズは総動員で目撃者を探している...。」
(ここから逃げたい!!!。帰りたい!!!。)
「ピカチュウ、俺の部下がお前が路地に入るのを目撃した....。」
(もうだめだ!!!。お母さん!!!....。)
ダーテングがピカチュウのもとへ駆け寄る。そしてその巨体でピカチュウを責め立てた。
「
お前がやったのか?!!。ピカチュウ!!。」
ダーテングは声を荒らげながら言った。ピカチュウは味わった事のない恐怖にかられ、涙と震えが止まらなかった。いつしか足元には汗と涙で水溜まりが出来る程だった。
(ぼ、僕じゃない!。あれはヨーギラスがやったんだ!。それにワンリキーに暴力なんて振るってない!。駄目だ...。声が出ない...。)
しばらく沈黙が続いた。周りのポケモンも声を出すこと無く、ずっとピカチュウの動向をうかがっていた。
数分経っただろう。沈黙を破ったのはピカチュウだった。
「
ぼ...。」
「なんだ...。何が言いたい...。」
ピカチュウは力を振り絞って声を出そうとした。そして大量の涙を出し、吹っ切れた。
「
僕がやりましたあ〜〜!!!。うわああ〜〜ん!!!。」
ピカチュウはそのまま床にペタンと座り、吹っ切れたように泣き出してしまった。その行動にリーファンズのポケモン達は豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
「うあああ〜〜ん!!!。」
その泣き声はアジト中に響いた。そのあまりの豪快な泣きっぷりに誰しも戸惑って一歩も動けない。
ダーテングもピカチュウの泣き顔を見下ろしながらピクリとも動けなかった。
また数分経った。ピカチュウは涙を全て出し終わりようやく静かになった。
しっく....しっく......
「もういい...。さっさと泣き止め...。」
ダーテングはすっかり戦意を削がれていた。
(あの時と同じだ..。ピカチュウ....、あいつ大物か!?。)
キモリは似たような状況を味わった事があった。ピカチュウのただならぬ雰囲気を感じていた。
「話を戻すぞピカチュウ..。なぜこんなヤクザな連中が街のルール程度を
謙虚に守っているか解るか?。」
「い、いいえ...。」
ピカチュウは少しうつむいて答えた。
「それは
三つ巴の
均衡のためだ。街のルールを破った派閥は残り2つの派閥を敵に回すことになる。つまり誰も街のルールを破れないんだ。だから共闘を避けるべく新しい派閥は認めていないし、関わり合いもしてはいけない。」
ピカチュウは頭の中に入ってこなかった。もうすっかり泣き疲れ眠気が現れてきた。
「だから単刀直入に言う。俺達の仲間に入らないか?。俺達ならお前をかばってやれる。幸いバーナーズにもスクリュズにも目撃者はいない。お前を
匿ってやる。」
ピカチュウは黙ってうなずいた。もう何も考えられなかった。
「その....、なんだ....、もう帰っていいぞ.....。」
ピカチュウは涙を拭きながら立ち上がった。
「キモリ。夜道は危険だ。家まで送ってやれ。」
「はいボス。ほらいくぞ...。」
キモリはピカチュウの腕を引っ張ってアジトを後にした。
「ピカチュウ....。あんな泣き虫が本当にワンリキーを倒したのか?...。」
ダーテングは去っていくピカチュウの後ろ姿が赤ん坊のように見えた。
大分アジトを放れただろうか。ピカチュウは黙ってキモリの後ろを付いて歩いた。
「なあピカチュウ....。」
「.....。」
ピカチュウは返事をする体力も残っていなかった。
「今日は悪かった...。恐い思いさせちまってさ....。」
ふらふらと歩くピカチュウ。何を考えているのだろう。
そうこうしている間にマチナカ荘に着いた。ピカチュウの部屋だけ明かりが付いていない。
「ピカチュウ。最後に質問。」
キモリがピカチュウの手を引いて呼び止めた。
「ん?、なに?....。」
「お前、本当にワンリキーに勝ったのか?。正直俺にはそうは思えないんだが...。」
ピカチュウは少し考えた。そして嘘をついた。
「ホントだよ...。今日はもう休むね....。」
「ああ、集合や仕事の話があったらまた来る。それじゃあお休み。」
ピカチュウはとぼとぼ階段を上り自分の部屋に入っていった。キモリはその後もしばらくピカチュウの部屋を見ていた。電気はつかない。もう眠ってしまったのだろうか。
「あいつ....。なんだったんだ.あの涙...。まるで理不尽を押し付けられたような泣き方...。」
キモリもマチナカ荘を後にした。
ピカチュウはと言うとすぐにベッドにダイブしていた。学生服を着たままお風呂にも入らず。
「なんで
庇っちゃったんだろう」
ピカチュウはヨーギラスの事を言えなかった。全部背負い込んでしまった。考え事をしているうちに眠りについてしまった。
続く→