ポケモン不思議のダンジョン New Arkc - Chapter 2 -まだ見ぬ蒼天の雲の行方-
Episode 45 -Sandy Rain-
 強靭な脚と鋭い爪を持つ鳥型のレギオン・カモミール。そんなカモミールと相対したローゼンとメイは、その素早い一撃の隙を付こうとじっと待ち構えている。

ところが、そんな目論見は一瞬の内に突き崩されてしまうことになる。


「なっ、いきなり飛び上がって何を……!?」
「まずい、下だ!! 着地の準備をするんだ!!!!」

「どういう意味……ってきゃぁーーーっ!!!!」

カモミールが垂直に飛び上がって地面を蹴りつける。すると、周囲の床が崩壊して一同は地下深くへと落下していく。ローゼンは素早く身体を細めて落下スピードを上げると、カウンターボックスを地面に叩きつけて跳ね上がり、頭から落下してくるメイをキャッチして着地した。


「ナ、ナイスキャッチ……助かったわ。」
「どういたしまして。頭から落ちたら脳みそ丸見えになっちゃうからねー。」

そのとき、自らも落下の衝撃で体勢を崩していたカモミールが身を起こす。すぐさまローゼンたちも戦闘態勢に戻った。


「やってくれるじゃないの……。こうなったらとことん暴れてやるわ。『アースクラップ』!!!!」
メイが魔杖を振りかざすと、カモミールの近くから巨大な岩の手が生え、カモミールに破壊力抜群の平手打ちを食らわせた。

岩の手が粉々に砕ける程の一撃を食らって壁に叩きつけられるカモミール。しかし、しばらくするとよろめきながらも立ち上がってこちらにダッシュし始めた。


「なっ!? あの一撃で効かなかったっていうの!? 回避しなきゃ!!」
爪をかざして飛びかかるカモミールの攻撃を、横に飛び退いてかわす2匹。カモミールの切れ味鋭い爪により床の石レンガが抉られ、火花が散るのが見える。


「ん? あの文字……逃げなきゃっ!!!!」
ローゼンは咄嗟に片腕でメイを抱え込んでジャンプし、飛行膜を広げた。すると、背後で爆発音が聞こえ、衝撃で2匹が吹き飛ばされてしまった。


「うわぁぁぁっ!? 何で爆発がっ!?」
「何とか無事みたいだね……さっきMの文字が書かれた看板が見えた。覚えてる? ガスのリークポイントに地下鉄のメインステーションがあったの。それってここじゃないかと思った。ビンゴみたいだね。」

「だから爪の火花で爆発が……。ちょっ、背中が燃えてる!!!!」
「あー、ホントだ。痛み感じないから気付かなかった。」

そう、2匹がいた場所は鉄道駅に直結していた地下鉄駅だったのだ。看板に書かれたサインから、ローゼンはここが地下鉄駅であることを見抜き、爆発の可能性を瞬時に判断した。

メイ共々爆発に巻き込まれる事態こそ防げたものの、メイを庇ったのか背中に引火してしまっていた。メイがすぐさま水魔法で鎮火するが、痛々しい火傷の跡がローゼンの小さな背中に残っている。


「ごめん……私なんかのために……。私の方がしっかりしなきゃなのに……。」
「『ありがとう』の間違いじゃない? 君が謝る意味が分からないなぁ。同じ軍にいるもの同士なら運命共同体だ。同じ場所にいる限り、軍力維持のために助けられるときは助け合う。ダメなときは捨てるしかないから捨てる。それだけのこと。」

「ローゼン……。」
「今のは助けられると判断した。僕はダメージを負うかもだけど、痛くないから何ともない。けど君がやられると大幅な戦力ダウンだ。僕の小さな身体じゃ奴に立ち向かうのは分が悪すぎる。君の魔法が頼りだからね。」

メイは俯きかけていた顔を上げて魔杖を振り上げた。すると、地面から泥のようなものが飛び出してローゼンの背中の傷跡に張り付いた。


「『ヒール・クレイ』で傷跡を塞いだ。私は基本的に攻撃専門だからさ……できる治療はこのくらい。でもありがと、アンタの言う通りね……助け合わなきゃ。あの物騒な鳥を必ず叩きのめして、ルーチェさんのとこに無事で帰る……!! まだ告白もしてないのに死ねない!!」
「だねー。僕もルーチェちゃん大好き!! またあのピザが食べたい。だからこんなとこで終わる訳には行かないんだよねー。」

2匹が力強い眼差しを向ける先にははるか頭上まで土煙が立ち上っている。その奥に、ゆらゆらと歩いてくるカモミールが見える。
どうやら、あの大爆発に巻き込まれてもなお活動できるタフネスを持っているらしい。










 「さて、最後はアンタの番だね。どの武器にする? 何買っちゃう? ねぇねぇ!!」
「あっ、あの僕は……武器じゃなくてコイツ使うんです。だからこれをヘラルジックにできないかなって……。」

「何これ? これで相手を殴るの?」
「んな訳ないでしょっ!! そんなことしたら、音が出なくなっちゃいますー!!!! これはサックス、楽器です!!!!」

スェーミは、カザネが差し出したケースの中身をまじまじと眺めて呟いた。どうやら、スェーミにはサックスの管が棍棒にでも見えたらしい。カザネは声を上げてスェーミにツッコミを入れる。


「あー、あれか。魔奏譜使いね。ピーヒャラピーヒャラやるのね、だから楽器なのね。それなら私じゃなくてヴェルデ姉だ。ヴェルデ姉なら、楽器でも何でもヘラルジック化できる。相談してきなよ。」

スェーミに促され、カザネは楽器ケースを持って彫師のウツボット・ヴェルデのところまで歩いて行った。ヴェルデは注射針の先をルーペで覗き込みながら砥いでいる。


「あのー、すみません。この楽器ってヘラルジックにできるんですか?」
「あー、もちろんよ!! その銀色のサックス一本でいいのかしらん? あれって持ち替え効く楽器じゃなかったかしら?」

「よくご存知で。もしできるなら、このバリサクもお願いしようかな……。補助回復系の魔法だと、こっちじゃないと出せない音が多いですし、切り替えできるなら是非。」

ヴェルデの言う通り、サックスはソプラノからバリトンまで、基本の指使いは共通なので持ち替えができる楽器だ。特にカザネの愛用するアルトとバリトンは互いに1オクターブ違いの音域のため、持ち替えが楽にできる。


「こっちはお金さえ2つ分出してくれるなら構わないけど、問題はアンタの方よ? 1つのヘラルジックでさえとんでもなく痛いのに、2つはいっぺんにはできないわ、そんなことしたら痛みでショック死してしまうもの。だから同時じゃなくて、片方入れた後に連続してもう片方も入れさせてもらうけど、いいかしらん?」
「んー? まあ、僕は大丈夫ですよ。身体は強い方だし。」

あっさりOKを出したカザネに、ヴェルデは苦笑いしている。どうやら、カザネにはあの施術の苦痛の凄まじさがいまいち想像できていないらしい。








 ローゼンとメイは、未だにカモミール相手に突破口が見えない状態にあった。相手は脚以外の身体全体が、針金のようにもじゃもじゃとした剛毛に覆われているらしく、並大抵の攻撃ではダメージを受けないようになっている。

加えて、強力な鉤爪で相手を引き裂こうとした際に石などに擦れて火花が散れば、即座にガスへ引火して爆発を起こし、ローゼンたちに対する一方的な追加攻撃が自動で発動してしまう状況だ。


「あの身体の毛が厄介ね……。爆発でも燃えないようになってるし、あらゆる衝撃を吸収して本体への直接ダメージを防いでいる……。」
「僕のエッジなんかじゃ刈り取れそうもないなぁ。まあ、そもそも下手に直接叩きに行って、反撃もらうと危険だし。」

「私の火属性魔法を高出力で出せば毛を焼き払えるかもだけど、そんなことしたらそれこそこの駅ごと木っ端微塵よ、あの火花ですらあんな爆発が起こるんだもの!!」
「地下だからガスが溜まりやすかったみたいだね。どうやら空気より重いガスだ、だから上層の地上階ではなく、地下鉄駅部分が一番のリークポイントになっていたんだ。」

逃げ場のない地下鉄の駅の中、カモミールに絶えずその爪を向けられるこの状況は、まさに2匹にとって絶対不利としかいいようがないシチュエーションだった。
メイたちは交戦しながら必死に相手にダメージを与える手立てを探るが、中々解決の糸口が見えない。


「全く、あんな勢いで壁にぶつかるくらい飛びかかってきてるのに、全然痛くも何ともないっていうの!? 何なのよアイツ!!!!」
「まあ、僕と違って痛覚がない訳じゃないんだろうけど。タフ過ぎるんだよ、あの下らないデカブツさんは。」

「痛覚……。もしかして、痛覚があるならあそこなら、あの場所になら……!!!!」

メイが突然何かを思いついたようだ。メイは相手が突進直後に倒れている隙に、ローゼンへ歩み寄って耳打ちをした。


「この方法に賭けるしかない……。奴に痛覚なんてもんがあるとするなら、これなら行けると思うの。」
「…………ふんふん、なるほどー。僕にはよく分からないんだけど、そういうことなんだね。了解だ、僕もその作戦に乗るよ。」

「助かるわ。私一匹じゃ直接は無理だもの。でも痛覚がないから、恐怖を本能で感じないから、アンタならやれる……。どうかお願い、力を貸して!!」

ローゼンはメイの問いかけに黙って頷く。やがて、地を蹴る低い音がいくつも辺りに響き渡ると、カモミールがメイたちに爪を立てて飛びかかろうと走り寄ってくるのが見えてきた。

そんな中、メイとローゼンは動くことなく互いを睨み合っていた。やがて、メイが魔杖をローゼンに構えて動き出す。


「じゃあ遠慮なくやらせてもらうわ!! お願い、ローゼン!!!!」
「来なよ、僕は準備オッケーだ!!」

「行くわ、『スティールスピア』!!!!」

メイは突然、ローゼンに向けて金属性の魔法を放つ。ローゼンの身長と同じくらいの直径はあろうかという金属の尖った槍が2本現れ、ローゼンに向けて飛ばされる。
ローゼンはカウンターボックスを着けた腕を構えると、その槍をギリギリまで引きつけるように待ち、裏拳を叩き込むようにして跳ね返した。

そんなローゼンのすぐ目の前には、カモミールの鋭い鉤爪が迫っており、最早回避は不可能な状態になってしまっている。


「あはっ、これはヤバ……。」
ローゼンの消え入るような声をかき消すかのようにカモミールが着地する地響きの音がこだまする。

メイはその衝撃で吹っ飛ばされ、壁に強く叩きつけられてしまった。


「そんな……もしかしてローゼンっ……!!!! 作戦は失敗したっていうの!? ローゼンー!!!!」

メイが叫ぶ声が砂煙を貫くように広がる。しかし、砂煙の奥深くからは何も返事がなく、ただただ静寂だけがメイの元へと伝わってきた。

身体が圧迫されるような薄黄土色の乾いた空気は、メイの不安を時とともに一層加速させていくようだ。











 「ははっ、結構心配してくれたんだ。僕がしくじる訳ないのにさ。でも、とても嬉しかったよ。」
「ローゼンっ……!! な、何よ、アンタのことなんか心配しちゃいなかったんだから!!!! 演技よ演技!!」

メイの出した2本の槍が、ハの字型につっかえ棒のようになって地面と爪の間に隙間を作り、ローゼンを敵の攻撃から守っていた。それによりローゼンは、着地する衝撃こそダイレクトに受けることになったものの、鋭い鉤爪の一撃を凌ぐことができた。
いや、効果はそれだけではなかったのだ。


「さっすがメイメイの魔法力。この爪相手でも圧し折れないんだもん。お陰でこの気持ち悪い血を大量に浴びることになっちゃった。ははは。」
「アンタの度胸というか、恐怖心のなさも感服するわよ……。そんなギリギリまで相手を引きつけて、そうやって助かるなんて私には無理……。でもお陰で弱点が突けたわ。爪、なのよね。爪の下の皮膚って、神経が尋常じゃない数走ってる。」

「それに身体の末端だから毛細血管もたくさんある。皮膚が進化した器官だから、栄養分を血管経由で送らなきゃだしね。おまけに爪の下の皮膚は薄いと来た。なら狙うしかないよね、この弱点をさ。」

深爪をしたり、スポーツ中の事故などで爪が剥がれたりした経験はあるだろうか?
2匹の言う通り、生物の爪の下の皮膚はとても柔らかい上に薄く、血管と痛覚を司る神経も数多く通っているという非常に脆い部位だ。

それ故、深爪をしたり爪が剥がれたりすると、その部分に少し何かが触れただけで、涙が出そうな激痛が走る。
2匹の場合、タイミングを図ってメイの出した巨大な鋼鉄の槍を打ち返し、爪の間の皮膚を貫くように差し込んだのだ。いくらタフな相手と言えど、そのショックは想像だにできないものだろう。

槍はローゼンが絶妙な角度に打ち込んだことで爪を抉って浮き上がらせ、その下の皮膚から血のような体液を溢れさせる程に深々と、カモミールの足先に食い込んでいる。


「んじゃ、そのウィークスポットを遠慮なくぶっ壊させてもらおうかな? すごーく痛いらしいんだけど僕には分からないや、たっぷり味わっていくといいよ。」

ローゼンは剥がれかけた爪をエッジで弾き飛ばし露わになった皮膚を何度も執拗に突き刺す。
カモミールは哀れにも、その激痛で我を失って悶え苦しんでいる。


「ローゼン!! もう片方の足が来る!! 避けてっ!!!!」
メイが咄嗟に叫んだことで、ローゼンは足から飛び退いて一撃をかわした。自分のもう片方の足ごと狙うとは、最早相手にはまともな思考能力は残っていないのだろうか?

ローゼンが回避したことで、カモミールは爪が剥がれている足先を、自らの鋭い鉤爪で思い切り斬り落としてしまった。
そのままカモミールはバランスを崩して転倒しながらも、頭を無茶苦茶に振り回して辺りに打ち付けまくり、やがて動かなくなった。

そのまま倒れた巨大な身体は消滅し、暴れた際にできたおびただしい量の地面や壁の打痕と、赤い体液の水溜まりのみがその場に残った。












 「一件落着ってとこかしら……。やっぱり私たちダイバーの知恵と力の前には、あんなレギオンなんか敵じゃないわね。」
「でも今回勝てたのはメイメイのアイデアと魔法力のお陰だ。本当に助かったよ、ありがと。」

「それはどういたしまして。それに、アンタの死も痛みも恐れない心……。本当に恐れ入ったわ。あれも今回の勝利をもたらしたエッセンスだった。私の方こそ、お礼を言いたいわ。」
「あははっ、案外悪くないコンビなのかもね、僕たちも。」

ローゼンとメイは、辺りに充満する土煙をかき分けながらガスの発生地点を何とか探し当て、カメラのシャッターを切る。
全てのポイントを撮影し終えた2匹は、午後過ぎにルーチェたちの元へと帰ってきた。


「お疲れ様!! 無事にリークポイントの写真も撮れたみたいだね!! これで依頼も完了だ!!」
「これもぜーんぶメイメイのお陰。とっても充実した依頼だったよ、楽しかった。」

「調子のいいこと言っちゃって。ホント、アンタってお気楽なんだから。」

そんなメイとローゼンの様子を見て、ヘイダルとツォンが目を丸くしていた。


「あれれ……つい今朝までポチエナとヒコザルみたく仲が最悪だったような気がするのですが……。」
「な、何があったんだろ……。全くもって分からないよ……。」

「雨降って地固まったのでしょうか? 何か中で、共闘して仲直りするような事件でも起こったとか?」
「んー? 雨が降ったら、普通砂がドロドロに流れまくって余計ボロボロにならない? というか、雨なんか降らないし。」

「そ、それはあなたが砂漠の民だからですよ……。ははは……。」


雨降らぬ乾燥の大地での試練の雨は、メイとローゼンの相性最悪の関係を固めてくれたのだろうか?
ちょっとだけ、距離が近くなった気がする2匹を乗せ、ヘイダルの操る砂行船はアークへ向かってその帆を進めていく。


(Tm be continued...)



Aiccaud(えっこ) ( 2019/04/14(日) 13:40 )