ポケモン不思議のダンジョン New Arkc - Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 7 -Another self-
 学校の応接室へと通されたえっことローゼン。ニアに促されてソファに腰掛けた二匹に対し、ニアが真っ先に口を開く。

「二匹とも、今日はお忙しい中ご苦労様!! 改めて自己紹介すると、ワタシはニアといいます。この学校で教師をやる傍ら、マイスターランクのダイバーとして、面接試験と筆記試験の担当もやってるのー。よらしくね。」
「ははは、ニアちゃんだね、よろしく。」

ローゼンはまるで友人と雑談でもするかのように気さくにニアと話し始めてしまった。頭を抱えるえっこ。


「あのー……。面接は……?」
「あー、そうだったね、ゴメンゴメン!! じゃあ、まずは契約条件とかの再確認をしとくねー。」

ニアはえっこたちに資料を渡し、マックスウェルのときと同じように雇用条件などの説明を始めた。えっこたちも既に知ってはいる内容だが、真面目に聞いておくことにした。


「契約条件や雇用条件に関して他に質問はある?」
「いえ、大丈夫です。」

「んじゃ、次に試験に関して詳細説明するね。試験は3つのセクションからできていて、それぞれを総合評価して合否を決めるの。」
「3つ……確か面接と筆記と実技ですか?」

「そうそう、面接ではそのポケモンが本当にダイバーとしてやるだけの覚悟と器量を持つかを見るのー。まあ、そんな身構えなくて大丈夫だよ、余程じゃなければ満点10をあげるからー。」

ニアは続いて、筆記試験の資料を二人へと提示した。

「筆記試験は1時間の簡単なものだよ。基本教養とかポケモンの戦闘の基礎とかそんなところかな。これが50点満点。それから実技だけど、あれが抜きん出て重要といえるねー。」
「一番配点が大きいってことだね?」

「それもあるし、一番危険を伴うの。地上のどこかのダンジョンへ向かって課題をこなすことになり、その活躍ぶりが随時観察され、点数が加減されていくの。150点満点と点数が高いし、90点を下回ると他がどうであれ一発アウトだから気をつけて。」
「足切り点ということですか……。」

「3つのテストで210点満点、内130点以上取れれば晴れて合格だよ。頑張ってねー!!」

どうやらダイバーという危険な職業となる資格試験のため、特に実技においては、生半可な技量では合格が厳しいらしい。えっこは思わず固唾を飲んだ。


「それじゃ、面接試験の内容に移るね。と言っても質問は二つだけだよー。まず一つ目、どうしてダイバーになりたいか聞かせてくれるかな?」

「失ったものを取り戻すため、です。どういう訳か分からないけど、俺の最愛の人は感情を失ってしまった……。そしてそれを取り戻すには失われたものを探さねばならない。それが何物かは分からない。手がかりもない。でも、それでも俺はやらねばならないんです。そのためには地上を旅してポケモンたちの困りごとを解決し、各地を探検できるこの職業こそが近道と考えました。何か、曖昧なことですみません……。」

「ううん、事情はよく見えないけど……。君の熱意はよく分かったよ。その目は本物だった、信用してOKな決意のこもった目つきだったのー。」

ニアはえっこに対してにこりと笑いかける。不器用ながらも思いの内をぶつけたえっこも、少しの達成感と安堵で表情を緩めた。


「僕も同じような感じかなー。僕にも帰る場所がある。守らなきゃならない祖国がある。今こうしてる間にも、敵対する国の軍が防衛線を破ろうとしてるかもしれないんだ。そのためには、探さねばならない。彼と同じく、ね。詳しいことを言っても信じてはもらえないだろうけど、それだけが僕が祖国の土を再び踏むことのできる手段だ。だから僕は戦う。」

ローゼンは普段の物腰柔らかな笑顔とは一変して、鋭い目つきを光らせながら理由を語った。ニアはやはりその言葉に深く頷き、二人の面接資料に丸を付けた。


「うん、その調子なら大丈夫!! 君たちの心、熱意、覚悟、そして危険な現場に赴くというリアルを支えるための理由……どれもバッチリ問題なしだとおもうのー。」
「ありがとうございます。ところで、もう一つの質問は何ですか?」

「少し時間をあげるから考えてみて。もし、あなたたちが実際の依頼に赴いたとする。そして強敵と戦ってピンチに陥った。負傷した仲間もいて、戦えるのはあなたを含めて2匹しかいない。勝てるかも分からない。さあ、あなたならどうするかしら? 一匹ずつ答えが聞きたいから、一度部屋の外に出て考えてみて。3分後に1匹ずつ呼んで答えを聞くね。」

ニアは今まで見せたことのないような真面目な顔と口調で二人にそう告げる。えっこたちはその異様な変わりぶりに、思わず圧倒されていた。









「ふう……。やっと完成したか。全く、街はバカみてぇに騒がしくて落ち着かないからな。俺はここに住むことにしたぜ。」
シグレはアークの外れにある竹林の中にいた。竹が鬱蒼と生い茂り、日の光も雨粒さえも遮られかねないこの深い林の中、シグレは黙々と竹で作った家を建てていたようだ。

一仕事終えたシグレは、気分転換と日光浴をかねて竹林から外に出てみた。竹林のすぐ外は草原や川があるだけで民家もまばら、旧市街や新市街へのアクセスも悪い場所となっている。


「うーんっ…………!!!!」
ふと、川の方から誰かが唸り声を上げるのが聞こえた。そちらの方を向くと、くさへびポケモンのツタージャが、何やら木材に刺さった刃物を引き抜こうと苦戦している様子だった。

「はーっ……。やれやれ、見てらんねぇぜ。」
シグレは見かねてツタージャの元へとゆっくり近づいていった。


「おい小僧、ナタをそんな風に差し込むバカかどこにいるんだ? こうなっちまったら無理矢理出すしかねぇな……。金槌を貸しな。」

シグレの言う通りに、ツタージャは金槌を近くの物置から取り出して手渡した。


「そもそもだ、丸太をこうして2つの石の間に置いてナタを垂直に打ち込めば、切れ込み部分が重力で下に落ちようとする力で、刃が木材に挟まれちまうだろうが。それを無理に打ち込み続けるからこうなるんだ。」
「ごめんなさい……。僕、こういうの初めてで……。」

「刃物には愛情を持って接してやんな。使い方と手入れの方法次第で一生モノにもできるし、瞬く間になまくらにすることもできる。刃物ってのはそういうもんだ。そらよっと!!」

シグレは上手く柄の部分を金槌で小刻みに叩いて、てこの原理で刃を挟まった部分から浮かして取り出した。


「ありがとうございます!! 危うく大変なことになるところだったぁ……。」
「その丸太は長いから、丸太を2つの石の上に置くのは変えず、切りたい部分を石の外側に来るようにしな。そうすれば、さっきとは逆に端っこが落ちる力で切れ込みが開いていくだろ?」

「な、なるほど……。言われてみれば……。」
「じゃあ俺は行くぜ。もう助けてやんねぇから後は自分で何とかやりな。」

ナタを抱えてぽかんとするツタージャをよそに、シグレはあくびをしながら竹林方面へと戻っていった。









「時間だよー。まずはえっこ君からおいで。」
ニアの呼ぶ声が扉の向こうから聞こえ、えっこは中へと入っていった。

「俺なら、決してその状況で諦めたりなどしません。誰かが立っている限り、それは敗北ではない。まだ戦況がひっくり返せる手段がどこかにあるかもしれない。しばらくは防戦一方になるかもしれませんが、もう一人や他の仲間を守りながら、必ず逆転の糸口は見つけ出す。絶対に負けられない理由が俺にはあります。」

えっこの答えを聞いたニアは、特にリアクションを示すこともなくえっことローゼンを入れ替えた。

「要は生き残ればいいんでしょ? なら答えは簡単だ、冷静にできる限りのことを模索して実行する。パニックになっちゃダメなんだよねー。戦況が悪いからといって腰を抜かして逃げる奴、軍隊では一番不要な存在だからね。敵前逃亡は即銃殺だったから、あははっ!! まあ、ともかく散り散りに行動するより、残るもう一人と協力して最大限のパフォーマンスをするのが大事だね。」

ローゼンの回答が終わり、ニアは再び二人をソファに座らせた。そして首を捻って考えた後、ついに口を開いた。


「結論から言うね。二匹とも合格回答だよー、おめでとう!! 話してくれた方向性は違うけど、二匹の回答には共通点があったの。一つ、ピンチに慌てないこと。」
ニアは再びシリアスな面持ちで二人に対して語りかける。


「ダイバーやってるとね、綺麗事で済まされないことがあるの。仲間が大怪我したり、たくさんの血が流れたり、時には命だって落としたり……。でも、だからといって平常心を失ってはダメ。パニックを起こし、チームとしてのまとまりを完全になくしたとき、あなたたちは死ぬことになるわ。」
「分かってるよそんなこと。僕がいた最前線では常識だったからねー。」

「それなら話が早いね。それから二つ目の共通点、それは残る一匹と協力すること。あなたたちは一匹で依頼に望むんじゃないわ。常に仲間がいる。常に彼らとは繋がっている。絶対に見捨てちゃダメ、見失っちゃダメ。いつもあなたと共にいるのだから。」

ニアの言葉に思わず気が引き締まるえっこ。そんなニアの重い一言を最後に面接は終わり、実技試験が明日の朝10時から行われることが告げられた。








「はぁ……。何だかなぁ……。」
えっこは夜のガルーラカフェにいた。この店は昼間こそお洒落なカフェとして営業しているが、夜になると大人な雰囲気なバーへと変貌し、こだわりの酒類が提供されるのだ。

えっこは赤ワインをグラスから飲み干すと、ぼんやりと明日の試験のことを考えながら、おつまみのピスタチオの殻を剥き始めた。


「おや、見ない顔だな。失礼、ここの店に来るのは初めてのお方かな?」
「ん、ああ、ええ……。最近引っ越してきたばかりですから。」

えっこが声のした方を向くと、そこには黒いコートと青緑の長いスカーフを身に着けたハリマロンがいた。ハリマロンの割に歳を取っているのだろうか、少ししわのある顔のようにも見える。
そんなハリマロンの傍らには、ベージュのフードを被り、明るいピンク色の瞳をしたむすびつきポケモン・ニンフィアがいた。


「ここのワインは個人的にお気に入りでね。特にアークのブドウ園で育てられた土着品種の銘柄は最高だ。」
ハリマロンはそのように語ると、ボトルキープしたあったワインを受け取り、自分とニンフィアとえっこのグラスに注いだ。


「えっ、その……?」
「構わないさ、君もワインが好きみたいだしね。そいつの味を知って欲しいもんだからな。私の名前は『えっこ』。アーク魔法アカデミーで研究者として働いている。」

「なっ!? 何ですって!? 名前!! 今えっこって……!!」
「ん? そうだ、私はえっこというのだが、それがどうかしたのかね?」

首を傾げるえっこと名乗ったハリマロンに対し、えっこはその訳を話し始めた。


「えっこ……。俺の名前もそうなんです。今まで自分と同じ名前の相手は見たことがありません。そもそも、故郷の言語には存在しないような音の名前です。何故、こんな名前をしているのかも分からないくらいで……。」
「これは不思議なこともあるものだ……。私もこんな名前は他では見たこともないし、自分の母語で見られる名前でもない。奇妙な程にレアな名前だが、奇妙な程に君と状況が似ている……。」

「僕も先生と同じ名前のポケモンは初めて見ますね……。もしかしてドッペルゲンガーとかでは?」
「そんなおかしな話があるか、『ユーグ』……。彼に失礼だろうが。私とて状況はよく分からんが、まあ偶然なのだろう。」

ハリマロンのえっこは、ユーグと呼ばれたニンフィアに対し、やれやれと言わんばかりにワインをすすりながら答えた。


「偶然にせよ何にせよ、せっかくの出会いです、何だか不思議と嬉しい気分ですよ。」
「ふふ、私もだ。私の弟子が失礼を言って済まなかったね。こいつはユーグという。アカデミーの黒魔法専攻の修士課程に在籍している学生でね、優れた素質の持ち主なんだ。」

「黒魔法……確かポケモンの負の感情を使うっていうあの……。」
「そうです、確かに黒魔法はポケモンの怒りや憎悪や恨みなど、負の感情から作られた呪禁。しかし、もし心に負の感情を保つだけの凶暴性と、負の感情に飲み込まれないだけの信念があれば、それを正しく使うこともできる。僕や先生はそう信じているのです。」

ユーグはそう説明すると、テーブルに置かれたテリーヌを、リボンのような触手で持ったフォークで口に運んだ。
そのとき、えっこはあることに気が付いて声を上げた。


「黒魔法の研究者……!! ハリマロン……!! まさかあなた、メイさんやマーキュリーさんやカザネ君のお父さんじゃ……!?」
「何? 私の子供たちを知っているのか君は?」

「やっぱり……。信じてもらえるか分からないですけど、俺は元々人間なんです。訳あってポケモンになってしまって……。地上でモノノケに襲われたときに、メイさんたちに助けられました。アークにやってきてから、マークさんやカザネ君にも会いました。」

その言葉を聞き、一瞬驚いたような表情を見せたハリマロンのえっこだったが、すぐに落ち着き払った様子でえっこに言葉を返した。


「人間がポケモンに、か。そんなケースは聞いたことがないな。恐らくはどこかでモノノケやレギオンと交戦し、怪我などの衝撃で記憶がおかしくなったのだろう……。人間に関するおとぎ話などの文献は数多く存在するから、人間になりたい欲求から自分を人間だと思い込んだのだろう。」
「…………。」

ハリマロンのえっこの言葉を、少し不思議そうに黙って聞いていたユーグ。その表情には、何か腑に落ちない点でもあるかのような雰囲気が感じ取れた。


「そう、ですよね……。信じてもらえる訳ないか……。きっと思い過ごしなんだな……。あっと、そろそろ帰らないと!! 明日はダイバーの実技試験なんです。早めに帰って明日に備えて休もうかと。」
「ああ、それがいいぜ。二日酔いなんかで試験に挑むと大変だからな。それじゃあ、頑張ってくるんだぞ。」

既に時刻は11時。えっこは弾かれたように立ち上がり、会計を済ませると店を後にした。えっこが立ち去ってから10分程後、ユーグが徐ろに口を開く。


「先生、何でまた柄にもないことを言い始めたんです? 彼の目、結構本気だったと思いますが。」
「一応出会ったばかりの相手だ。パーソナルな重要機密を、そうベラベラと話す奴がいるか。」

「重要機密を、ねぇ……。えーと、それって先生が女の子じゃなくて男の子を……。」
「おいユーグ、オープンスペースでそれを言うな。幻覚魔法に引きずり込むぞ。」

「はーい。身体は正直そうなのになぁ……。」

ユーグは触手をハリマロンのえっこの首元に軽く絡ませて顔を耳元に近づける。ハリマロンのえっこは、微かに頬を赤くした。


「おいお前、師匠をからかうなと言っているだろう、全く……。」
「分かってますってー。でもさっきの彼、何か面白そうな雰囲気がしました。何かこのアークに、変化が訪れる予兆かも知れませんね……。」

ユーグはえっこが出ていったドアの先を見つめながらそう呟いた。えっこは既にベッドで眠っていたローレルの手をしばらく握った後、自らも明日に備えて床に就いた。


(To be continued...)

Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/16(土) 13:59 )