Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 37 -Tyrant-
 突如シグレたちの元に現れた謎のピジョット・ファイ。彼はシグレとカムイが人間であることを知っており、全身に浮き出る赤いヘラルジックを操って巨大なレギオンを召喚した。

「熱いわぁ……あのレギオンから出とる蒸気……高温高圧みたいやね……。」
「しっかりして、ミササギさん!! 氷タイプの彼女を、この熱い蒸気に晒し続けると危険だね……。何とか突破口を見つけないと……。」

そのとき、霧の奥からこちらを睨むレギオンが、突如顔を上げ気味に動かしながら口を開いた。


「ヤバいっ……何か来るぜ!!!!」
シグレがそう叫んだ瞬間、突然地面を何かが切り裂くように通過する。一行は左右に大きく飛び退いて難を逃れるが、その跡はまるで大地を巨人が引っ掻いたかのように、その場に深々と残っていた。


「一体何を……!? 地面がこんな抉れ方をするなんて、とんでもない破壊力の一撃をぶちまけたってことよね……!?」
「土がびちゃびちゃと飛び散ってる……。恐らくは水だと思う。カムイの提馬風、あるよね? あの刀のこと。あれと同じだ、水を一気に吹き出して、高圧の水のカッターにしたんだと思う。」

「そうやとしたら、何やこの威力……!! 水圧のカッターで、幅1m以上にもなる深い傷が地面に付くなんて……!!!!」

ミハイルが畝のようになった抉れ跡の異変に気付く。まるで水を土にこぼしたときのような、泥が飛び散った感じの模様が地面に付いている。
どうやら敵の得意技は、あの巨大なタンク型のクチバシに溜めた水を高速で射出して、抜群の破壊力を誇る水圧のカッターに変えるものらしい。

もしそんなものをまともに食らえば、切断されるどころか一瞬で全身がバラバラに吹き飛んでしまうだろう。シグレたち4匹は、一瞬顔を見合わせて無言で深く頷く。
すぐにミハイルが補助に、カムイとシグレが先頭に、ミササギがミハイルの守護にと各ポジションへ向かい、万全の体制を整えた。








 「ミササギさんの体力が心配だ、速攻で片付けるよ!!!!」
「言われるまでもねぇ!!!!」

シグレの矢が勢いよく放たれ、次々にレギオンめがけて突っ込んでいく。しかし、どれも霧状の翼に触れた瞬間に音もなく弾き飛ばされてしまった。

「まだだ、さっきみたく切り裂いてやるぜ!!」
曲弓の力で、スピンする矢を回転ノコギリの刃のようにして飛ばすシグレ。しかし、その二段攻撃でさえもやはり簡単に撃ち落とされ、矢は地面に落ちてしまった。


「矢でダメなら、私が直接叩き斬る!!!!」
カムイが跳び上がって刀を振り下ろす。ところが、刀が翼に触れた瞬間にカムイは強い抵抗感を感じた。

「まさかこの蒸気……常に高圧で吹き出してる勢いのせいで、攻撃を弾き飛ばす鎧みたくなってるの……!? うわぁぁっ!!!!」
カムイは高圧の蒸気によって刀ごと吹っ飛ばされてしまった。そんなカムイが地面に激突しないよう、シグレが即座に受け止める。


「助かったぁ……ありがとうシグレ。でも、あの翼は高圧の蒸気でできてる。攻撃を加えても、反発する勢いで弾き飛ばされてダメみたい。」
「しかも矢や刀みてぇに鋭い物を使っても打ち破れないってことか……。厄介だぜ、ひとまずこの場を離れるぞ!!」

シグレとカムイはレギオンから距離を取る。レギオンはそんなカムイたちを目で追い、その場を動くことなく睨みつけている。
相手が逃げられぬ状況のため焦ることなく、じっくりとこちらを追い詰めようとしているのだろうか?


「ミササギさん、大丈夫です?」
「ありがと、ミハイルちゃん……。いざとなったらうちを置いてお逃げ。足を引っ張って全滅させるくらいなら、うち一匹が犠牲になればええさかいに……。」

「くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ、いつものクソッタレな嫌味口はどうした? 弱音吐いてる暇があるなら、とっととこの状況を打開する方法を探りやがれ。」
「シグレはん……。」

ミササギはミハイルの肩を借りて立ち上がると、ホウキを構えて目つきを一変させた。


「そないな口叩きおって、まあ随分なご身分になりはったんやねぇ。」
「へっ、やっぱてめぇはそうでなきゃな。心配して損したぞ、このアマ。」

シグレらしい素直でない励ましに、これまた素直でない礼を告げるミササギ。そんな光景に勇気付けられたように、ミハイルが一行にある提案を持ちかける。


「あそこにあるのって船か何かだよね? 海辺の街だからかな?」
「みたいね、この前の座礁船みたいな大型船じゃないけど、決して小さくもないかな。」

ミハイルが指差す先には一隻の船があった。その船は長さ10m程の金属製のもので、長らく放置されているのか荒れ放題でとても使えそうな代物ではなかった。


「あんなボロボロの動きそうもねぇものが何だってんだ? あれで逃げることなんてできねぇぞ?」
「逃げるなんてとんでもない、倒せるかもしれない……。あの方法なら、奴の高圧蒸気の装甲を破壊できるかも……!!」

ミハイルが驚きの一言を呟く。シグレとカムイとミササギはミハイルの言葉に目を丸くするが、彼のことを信じる意思を見せた。


「何が何だか分からねぇが、お前のその案だけが頼りだ。俺はお前なら信じられる。」
「私も君の力になる。君の描く夢のために、アイツを倒して一緒に生きてここから出るんだ!!」

「うちも協力するわ。ミハイルちゃんのためや、暑うて敵わんやなんて言うてる場合ちゃうわねぇ。」
「みんな……ありがとう!! 絶対、こんなとこで終わらない……!! ボクがみんなを守る……!!」

ミハイルは霧の空を貫くように、決意の言葉を叫ぶ。シグレたちはミハイルの指示を受けて、各々動き始めた。










「カムイ、何か強力な炎の使い魔を呼ぶんだ!!」
「オッケー、任せといて!!」

カムイはコートオブアームズのフルートを構えて演奏を始めた。すると、地面から大きな炎の身体を持つ龍が飛び出し、カムイの傍でとぐろを巻いた。


「シグレさんは奴の気を引いて!! カムイの使い魔が、この作戦には必要不可欠なんです!!」
「了解、奴はしっかり食い止めてやるぜ!!」

「ミササギさんは海を凍らせて氷の柱を作ってください!! この船が乗るくらいの奴!!」
「分かった、残った力を総動員するわぁ!!」

シグレとミササギもそれぞれ行動開始する。シグレは矢を叩き込んで敵の注意を引く。カムイが使い魔の維持に集中できるよう、敵の攻撃を一手に引き受け始めた。

一方のミササギは海にホウキを付け、力を振り絞り、強力な冷気で氷の柱を生み出していく。


「なるほどね、この船だね?」
「さすがカムイ!! よろしく頼んだよ!!」

「サラマンドラ、その船を熱して!!」

カムイは使い魔の炎の龍・サラマンドラに指示を出すと演奏を再開する。その激しい曲調に合わせるようにサラマンドラの火の手は一気に燃え上がり、金属製の船体は赤みを増して燃えていった。


「おい、俺はいつまでこうしてりゃいいんだ!? 一歩間違えたら磨り潰されちまう!!」
「もう少し……船が完全に熱されたら奴をこっちにおびき寄せてください!!!!」

「ミハイル、もうかなり熱くなった!! そろそろじゃない?」
「こっちも何とか柱ができたわ、何する気か分からへんけど、準備万端よ。」

船は既に元の色が分からないくらいに真っ赤に燃え上がり、ところどころ鉄が溶けたような質感になり始めていた。
一方、ミササギの氷の柱も船が乗りそうなサイズになり、ミササギはスタミナ切れで少し息を荒くしている。


「シグレさん、お願いーーっ!!!!」
「分かったぜ、てめぇら、腹括れよ!!」

「サラマンドラ、その船を氷に乗せたらすぐに引っ込んで!!」

カムイが使い魔に指示を出すとともに、シグレはこちらへ一直線に駆け出した。真っ赤に熱された船は、ジジッという聞き慣れぬ音を出して氷の柱を溶かしていき、海へと落ちようとしている。
そこにシグレを追ってやってきたレギオンが飛来し、一行を一網打尽にするつもりなのか急降下し始めた。


「よし、みんな伏せてーーーっ!!!!」
ミハイルが叫んだ直後、船が海に落ちて凄まじい爆発を起こした。その水蒸気を巻き上げた大爆発に突っ込む形で、レギオンの姿は一気に消えて見えなくなった。









「な、何で!? どうしてあんな巨大な爆発なんて起こしたんや!?」
「水蒸気爆発です。ほら、水って沸騰、つまり液体から気体になるときに大きく体積が増えて膨らみますよね? 普通なら鍋にかけたお湯みたく少量がゆっくりと沸騰する。けれどもし、高熱の焼けた鉄の塊が、海みたく大量に水のあるところに落ちたら?」

「なるほど、鉄の熱さで一気に大量の水が膨張して、爆発するみたく広がる……。」
「奴の水蒸気の身体を見て思い出したんです、よく製鉄所や化学プラントでそういう事故が起こることを。それを起こせたら、奴を倒せるって思ったんです!!」

そう、ミハイルが狙っていたのはこの水蒸気爆発による一撃だった。彼の言う通り摂氏100度の環境下なら、計算上は気体になった水の体積は1700倍にもなる。
もしも焼けて1000度以上になった鉄などが大量の水に触れれば、瞬時に凄まじい量の水が気体と化し、勢いよく膨張するために大爆発に匹敵する衝撃を生み出すのだ。


「さすがにこんなの食らったらひとたまりもないよね……。これで、安心して帰れるかな……?」
「なっ!? おい、冗談だろ!?」

カムイが心配して見守る中、シグレが何かをその目に捉えて驚く。大量の蒸気の中から姿を表したのは、先程のレギオンだった。

翼こそボロボロに吹き飛んで飛べなくなったものの、本体は依然楽々と動ける程度には体力が残っているらしく、シグレたちを睨みながら叫ぶ咆哮は、一同を一気に絶望のどん底へと突き落とした。


「嘘っ……そ、そんな……!! どうすればいいの……!? もう打つ手はないよ……!!」
「だがやるしかねぇ、死んじまうまでは諦めずに……!!!!」

完全に腰を抜かしたミハイルと、何とかその身を奮い立たせようとするシグレ。しかし、そんな思いを無残に踏み躙るかのように、レギオンの口が開かれるのが見える。


「あの水圧のカッターだ……!! 避けないと!!!!」
「あかん……さっきので……もう避ける気力も使い果たしたわぁ…………。ごめんね、ミハイルちゃん……あなたのパラダイス、生きてる内に見たかったぁ………………。」

死期を悟り目を閉じるミササギ。その目に薄っすらと涙が浮かぶが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに水圧のカッターが迫っていく。


「『グラビティ・リバース』!!!!」
閉じられた視界の中で、何者かの叫ぶ声が聞こえる。ミササギが目を開けると、何故か水圧のカッターが地面で跳ね返り、上空へと飛んでいるのが見えた。


「よく戦ったね、あんな化け物相手に……。大丈夫、私たちがアイツを倒す。みんなは休んでて。」
目の前に現れたのはニアだった。ニアは緊張の中に一瞬だけ混じり気のない笑顔を見せ、シグレたちに向けた。

「しかしとんでもないのが出てきたね……。こりゃあ放っておくと地上に凄まじい被害が出ちゃうよ……。」
「気に入らないな。ああも下品なまでにデカいレギオンってのは、見てて反吐が出る。悪いが潰させてもらうぞ。」

宝石のようなものが取り付けられた枝を咥えるカイネと、魔導書を開いて敵を睨みつけるハリマロンのえっこ。

あまりに強大な敵に対抗すべく、かつて地上で数々の伝説を作り上げた3匹が集結したのだった。


(To be continued...)



Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/30(土) 23:52 )