Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 36 -Demon's shouting-
 カザネたちの試験から数日後、チーム・澪標は初めての依頼に臨むこととなる。ところが、その状況はあまりにも深刻で切羽詰まったものだった。


「こいつはひでぇ……。ここまでやるのかよ、奴らは……。」
「あんた、まだモノノケたちの被害を見たことがないんやね……。何もこれが特別なことやないんよ。あの化け物は、こないして徹底的にうちらから全てを奪い去ってくんよ。」

そう、シグレたちの初めての依頼は、モノノケたちによって襲撃を受けた小さな村から生存者を探し、同時にモノノケを撃破すること。

しかし、緊急で駆けつけたにも関わらず、村は既に壊滅状態にあった。家々は無残に破壊され、ところどころに乱暴に食い散らかされた食料が転がっている。

あちこちの地面には血溜まりができ、息のあるポケモンは既にほとんど見えない。生存者に関しては絶望的と言わざるを得ないだろう。


「うぁっ……。あぁっ……!!」
「ミハイル……!? しっかりして!! 大丈夫、落ち着いて。私がついてる、シグレとミササギさんも。もう誰も君の夢を邪魔させたりしない。だから怖がらないで。」

ミハイルは目を強く瞑り、その場にしゃがみ込んでしまった。かつて自分の作ったポケモンパラダイスが壊滅させられた事件。恐らくは、そのトラウマが鮮明に蘇っているのだろう。そんなミハイルに、シグレが手を優しく乗せる。


「過去に怯えるのは分かる。お前の大切な夢が打ち砕かれた事件だからな、そうなっちまうのは当然だ。だが、同じことを繰り返させるつもりか? 決めたんだろ、またそのパラダイスとやらを作り直すってな。そのためにモノノケたちを倒すのだと。立て、その恨み節を奴らに叩き込むのを手伝ってやるぜ。」
「シグレさん……。」

「私もだよ、私の大切なミハイルを苦しめた奴ら……。絶対に許さない……!! 復讐して何になるのか分からない。でも、少なくとも奴らを潰せば、それで救われる地上のポケモンたちがいる。ミハイルの夢を阻む者も排除できる。」
「うちも久々に腕が鳴るわねぇ。ミハイルちゃんのため、地上のみんなのため、不埒なモノノケたちは二度と動けんように凍らせたる。」

仲間たちが励ましたことで、ミハイルは心を決めて立ち上がった。一同は次々にヘラルジックを発動して武器を取り出すと、村で暴れるモノノケたちの群れへと突撃していった。








 「くたばってろ、あやしいかぜっ!!!!」
シグレの一撃を皮切りに攻撃が始まる。あやしいかぜで一気に吹き飛ばされて体勢を崩したモノノケを、コートオブアームズに仕込んだ脇差しで滅多斬りにして倒していくシグレ。

「ふふっ、負けてらんないね。刀捌きなら私の方が年季が入ってるんだから!!」
カムイはそう口にすると、エスカッシャンの長刀でモノノケを斬り裂く。2人の活躍で、その場にいたモノノケ数匹は体液を流しながら消滅していった。


「ミハイルちゃん、援護頼むわね!!」
「任せてください!! 『エンブレス』!!!!」

ミハイルが魔杖をミササギに向けると、たちまちミササギは青白い光に包まれた。そのまま彼女はエスカッシャンのホウキを手に取り、背丈1mくらいの大きさの個体に迫っていった。


「まあ他所様の土地で賑やかしてくれはるわねぇ……早よぶぶ漬けでも召し上がりっ!!!!」
ミササギはホウキを相手に叩きつける。ミハイルの補助魔法により特殊攻撃の威力、つまり氷タイプの攻撃威力は大きく上昇している。

ミササギの一撃を食らった瞬間にモノノケは砕け散り、細かな氷の破片となってその場にうず高く積もった。


「ひぇぇ、凍らせ姫ってこのことだったのか……。とんでもないやぁ……。」
ミハイルが引き気味にそう呟いた瞬間、死角から一匹のモノノケが牙を剥いてミハイルに飛びかかる。しかし、そのモノノケをシグレの矢が貫いて倒した。


「おい、ボヤボヤすんな。自分の身は自分で守りやがれよ。」
「ありがとー、シグレさん!! あっ、そういうあなたも背後に……!!」

ミハイルが、シグレの背後に現れたモノノケに気付く。しかし、さっき撃ったはずの矢が真逆方向に軌道を変えて戻ってくると、そのモノノケの頭に突き刺さった。


「あのカボチャ根暗女の勧めた弓、中々悪くねぇ使い勝手じゃねぇか。」
「確か『曲弓』だっけ? 一度だけ軌道を自由に変えられるんだよね? あんたが持つと、本当に凶悪な武器だねそれ……。」

そう、シグレが使ったのはエスカッシャンに装備された特殊な弓だった。スェーミに猛プッシュされて購入したらしいその弓は、魔力によって一度だけ後から軌道を曲げられる優れものだ。


「さて、敵もそろそろ本気を出そうってか? なら全力でぶちのめすまでだな。」
「あの感じ……。レギオンになろうとしてる……!! みんな、援護します!!」

周囲にいたモノノケたちは一ヶ所に吸い寄せられるように集まっていき、一つの塊へと変化していく。ミハイルが魔杖を構える中、シグレたち3匹もミハイルを守るようにしてその前に立ち塞がった。

やがてモノノケたちは一体の巨大なレギオンとなった。その姿は体長4m程の蠍のシルエットをしており、6本の脚には鎌のような鋭い刃が付いていた。
尻尾の部分には三股に分かれた巨大な針が見える。あれに突き刺されればひとたまりもないことは、その場にいる誰もが瞬時に理解した。


「嫌やねぇ、虫は嫌いなんよ。見てると寒気がするわぁ。」
「うるせぇ、てめぇは虫タイプの技は効きにくいだろうが。俺は草タイプもあるから普通に食らっちまう。まあ、アイツはポケモンじゃねぇから関係ないだろうがな。」

「あの針と刃を何とかしないとだね……。ミハイル、力を貸して!!」
「任せてよ、カムイ!!!! 『カピレ・フォルティア』!!!!」

ミハイルの魔法により、カムイの刀が赤いオーラに包まれた。レギオンは鎌のような脚を振り下ろすが、カムイの刀にぶつかった瞬間、脚の内一本が真っ二つにへし折れてしまった。


「見た目の割に、脆い装甲してんのね。それとも、ミハイルのサポートが優秀過ぎるかしら?」
「フン、一人でカッコつけやがって、俺を差し置くとはいい度胸してやがるぜ。さてミササギよ、ちょい耳貸せ。」

「……。なぁるほど、シグレはんにしては名案やわぁ。あの気持ち悪い虫に近寄らなあかんとこを除いてはね。」
「勝手に言ってやがれ、飛び道具持ってないおめぇが悪い。とっとと行くぞ!!」

次に飛び出したのはシグレとミササギだった。ミハイルはすかさず補助魔法を2匹に対して発動し、シグレの攻撃力と、ミササギの機動力を一時的に上昇させた。


「これでも食らいやがれっ!!!!」
シグレが曲弓から一気に3本の矢をつがえて放つ。しかし、その矢は敵の身体を守る外殻に弾き飛ばされてしまい、空中をクルクルと舞った。


「ああっ、そんなぁ!! シグレさんの矢が!!」
「ミハイルよ、忘れちゃいねぇか? あの矢の軌道、自由に変えられるんだぜ? こんな風にな!!!!」

シグレが腕を振りかざすと、矢は高速スピンしながら尻尾の方へと飛んでいき、まるで回転するノコギリの刃のように尻尾を抉り、切断した。
尻尾の先からは赤い液体が吹き出し、レギオンは苦しみの叫び声を上げる。そこにホウキにまたがって空を飛ぶミササギがやって来た。

「あーん、本当に気持ち悪いっ!! 早よ自分の毒で倒れて消えなはれ!!」
ミササギのホウキの先から巨大な氷塊が現れ、ハンマーのように尻尾の先の毒針部分を打ち飛ばした。
毒針は尻尾の付け根、唯一外殻から皮膚が剥き出しになっている部分に勢いよく叩き付けられ、深々とその体内に突き刺さった。


レギオンはしばらく無闇やたらに暴れて苦しみ続けたが、その内動きを止めて元のモノノケの群れに戻った。
弱り切ったモノノケたちを追い打ちするように、カムイの刀とシグレの矢の雨が一網打尽にし、一行は村を襲ったモノノケたちを全滅させることに成功した。










 「呆気ねえ奴らだったな。モノノケもレギオンもこんなもんか。」
「ま、今のはBランク個体やからねぇ。初めてにしてはようできた方かも分からへんけどねぇ。」

「んだぁ!? てめぇはいちいち一言多いんだよ!!!!」
「もーっ!! シグレさんもミササギさんも落ち着いてー!! せっかく敵を倒したのに喧嘩しないでーっ!!」

レギオンを撃破してなおミササギ節が炸裂する。そして相変わらずそれに反応して噛み付くシグレと、制止するミハイル。
そんな仲間たちの光景を眺めて、カムイは思わずくすりと笑みを漏らした。

「(よかったね、ミハイル……。今はもう、君は独りぼっちじゃない。そして周りに私だけしかいない訳でもない。頼れる仲間が2人も増えて、こうして一緒に戦えて……。)」

カムイがそう心の中で呟いたそのとき、背後に何者かが降り立つ気配を感じた。
咄嗟に刀を構えるカムイと、その方向を睨むミハイル、シグレ、ミササギの3匹。

そこに佇んでいたのは、1羽のとりポケモン・ピジョットだった。しかし、何かが決定的に違う。
その微かに浮かべる冷淡な笑みからは、心の奥底をぎゅっと掴んで離さないような独特の気味の悪さがあった。

それは例えるならば、悪夢を見た日の目覚めに似ていた。起きてから考えるととてもシュールで馬鹿げた内容の夢。
しかし悪夢を見ているまさにそのときは、心臓の鼓動をドクドクと速く波打たせ、逃れられぬ恐怖を差し向け、1分1秒が永遠に引き伸ばされるような、そんな感覚さえ覚えることがある。

大抵はそこで飛び起きて目を覚ますのだが、今ここに立っているピジョットは現実の存在。故にその不気味な寒気からは、誰も逃れることなどできない。
一行に強い緊張の色が見える。


「一応、聞くね……。あんたは生き残りのポケモン? それなら、保護しないとだから。」
「ククッ、その必要はない。私の名は『ファイ』。ここではない、別の場所からやってきた者だ。」

「なら、とっとと家に帰りな。……と言っても、素直に聞き入れてくれる雰囲気には思えねぇがな。」
「人間の魂が2つ。しかし、どちらも違ったか……。せっかくこうして翼を運んだのに、骨折り損だ。」

その言葉を聞いて、シグレとカムイが一気にその表情を強張らせる。


「あんた……何故私たちが人間だと気付いた……!? 単なるポケモンじゃないらしいね。」
「答えてもらおうか? さもなくば、てめぇの翼と両目を、順番に片方ずつ射潰して逃げられなくしてくれるぜ?」

「おー、怖い怖い。そんな脅しでこの私が口を割るとでも? もっとも、今怯えているのは私ではなくお前たち。強者である私が怯える必要などどこにもないのだから。」
「何だと……!!」

シグレとカムイは、今にも襲いかかろうという気迫を見せて問いただす。しかし、ファイと名乗るピジョットは、余裕の態度を一切崩すことなく一歩前へ踏み出した。


「目的の魂でない以上、私が直々に叩き潰すまでもない。まあ、精々コイツと仲良くやるといい。」
ファイがそう呟くと、突然その身体中に赤いΦ字型の模様が広がった。その異様な光景を見て、今度はミハイルとミササギが驚きの表情を見せる。


「間違いない!! あれってヘラルジック……!!!! でも何で!? 一瞬で全身にヘラルジックが広がるなんて聞いたことないし、それにあの色……!!!!」
「赤いインク、つまり身体に馴染む前のモノノケの体液やね……。あんなもん入れてたら身体が痛うて敵わんはずよ……。そもそも、馴染んで黒くならずに赤いままなんて異常すぎる……!!!!」

そう、一行が目撃したそれはまさに、ヘラルジックそのものだった。
しかし、えっこたちの施術のときにもあったように、ヘラルジックとは赤いモノノケの体液を身体に馴染ませて黒くするもの。少なくとも、赤いままで使用てきるヘラルジックなど、ダイバーたちにとっても前例のないことだ。

そのままファイは強大な魔力を全身のヘラルジックから放出し続ける。身体の小さなカムイやミハイルはもちろん、シグレやミササギですらその風圧に思わず足を踏みしめている。

やがて赤い光がファイを中心にドーム状に広がると、その中に巨大な影が揺らめき輝いて見えた。


「嘘っ……!? ど、どういうことなのよ!!!! ポケモンがヘラルジックを使ってレギオンを召喚する……!!!! そんなことが…………。」
普段は冷静沈着なカムイですら、完全に驚愕した様子で叫ぶ。その目の前には巨大な霧のトサカと翼と尾を持ち、深い容器のようなペリカン状のクチバシを持つ鳥型のレギオンが姿を見せていた。

身体の芯まで響くような低い咆哮が続いた後、レギオンは翼を羽ばたかせて空中へと舞い上がる。
その10mはあろうかという巨大な翼の端から端までが視界に収まりきらなくなったときには、既に辺り一面は濃い霧に囲まれており、逃げ場がない状況となっていた。


「これは……Sランク個体の反応……!? 何てことさらしよるんや……!!」
「けど、やるしかないみたいだね……。この深い霧の中で下手に逃げようとすれば、あらぬ方向から攻撃される可能性が高い。」

「それにこんなイカれた化け物を野放図になどできるか……。コイツはここで必ず仕留める!!」

霧の中からこちらを見据えるレギオンの青紫の目。シグレたちは突如現れた脅威の前に、今までにない程の張り詰めた緊張の面持ちを見せていた。


(To be continued...)



Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/28(木) 21:49 )