ポケモン不思議のダンジョン New Arkc - Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 35 -Heart in earth-
 今日はトレの『チーム・テンペスト』と、ルーチェの『チーム・スリースター』改め『チーム・フィーアシュテルン』は非番だ。しかし、トレ、えっこ、ルーチェ、ローゼンの4匹の姿がある場所にあった。


「ここは一体何なの、ルーチェちゃん? やたらと物々しいドーナツ型の施設だね。こんなものが新市街の一角に陣取ってるなんて妙だ。」
「ここは『ホイール』と呼ばれる施設だよ。アークのインフラだったり、交通だったり、行政システムだったり、アーク自身の行き先だったり、色んなものを一括でコントロールしてんのさ。」

「でもどうしてここに? 依頼がある訳でもないのに……。」
「あんまりにもお前がしょげまくってたから、俺が気を利かせて気分転換させてやろうとしてんだ、ありがたく思えよ。それと、社会見学的な意味合いもある。お前らは外から来たらしいし、アークのことを知っておいて損はないだろう。」

ルーチェとトレが2人の質問に答える。どうやら一行は、この施設の見学にやってきたらしい。

ホイールと呼ばれるこの施設は、新市街の一角に設けられた直径300m程の巨大なドーナツ型の建物であり、その外装は濃いグレー一色で機械的な質感を感じさせ、どういう訳か窓が一つも付いておらず、ところどころでチカチカと赤や緑や青のランプが点滅を繰り返している。


4匹はそのまま建物の入り口から中に入った。白一色で統一された無機質な建物の内装は、改めてこの世界の技術力の高さをえっこたちに知らしめてくれる。
えっこたちがロビー内部の様子に目を丸くする中、ルーチェは受付の内線電話でどこかへ電話をかける。すると、程なくして一匹のポケモンがえっこたちの元へ現れた。


「久しぶりだねー、元気にしてた?」
「ああ、ここ一年はモノノケどもがわんさか湧き出るせいで、色々忙しいんだがなー。ま、今日は楽しんでいってくれよ。」

「えっこ、それからローゼンっつったな? こいつは『ゼノ』、ここの職員だ。丁度ダイバーの動きと連動してアークの浮遊座標を調節する仕事をしてる奴でな、俺たちとも付き合いが長いって訳だ。」
「ゼノさん、ですね? 俺はえっこ、トレさんのチームメイトです。それからそこの彼はローゼンさん、ルーチェさんのチームメイト。よろしくお願いします。」

「ああ、よろしくなー!! ほんじゃ、早速案内するからついてきなよ。」

えっこたちの元に現れたのは、星のような頭に短冊のような物がぶら下がった小さな身体の持ち主、ねがいごとポケモンのジラーチだった。
ゼノと名乗る彼は、ふわふわと空中を漂いながらえっこたちを先導していく。一行はその後に続いて、ホイールの内部へと足を進めた。










 ゼノはエレベータで地下2階へ下り、フロアの奥にある扉に自分のカードキーを差し込んで解錠した。固く重い金属製の扉が、その姿に不釣り合いなプシューという軽い音を立てて開くと、さらに奥にエレベータが見えた。


「随分と地下に潜るんですね……。エレベータで下りた先にまたエレベータとは……。」
「アイアントの巣って言ったら分かるかい? 蟻塚が地上にあって、地下にいくつもの部屋が色んな深さにボコボコと分かれて掘られてる奴な。あれと似た構造なんだ、重要な施設だから地下に分散して隠さないと危ないしね。」

「そんなとこに僕らが入って大丈夫なの?」
「あー、その点はご心配なく。俺がこうしてアテンドしてるし、この入り口から入っても内部の操作パネルとかには触れないようになってる。主に来客用の見学スペースだからね。」

ゼノはそう説明すると、一行をエレベータへと導き、カードキーを差し込んでさらに地下に下りていった。見学スペースといえど、やはりアークの中枢部に入るだけに、セキュリティは固いようだ。

しばらくしてエレベータが下のフロアに辿り着くと、そこには巨大なモニタが広がっていた。一体何インチあるのだろうか? 厚いガラス越しに、60~70m遠くにあるモニタではあるが目の前いっぱいを埋め尽くしてまだ余りあるほどのサイズだ。


「な、何ですかこれ……。巨大なモニタに、細かくびっしりと地図とか文字列とか写真とかが載ってるみたいですけど……。」
「この部屋が俺が普段働いてる部署だな。『OCFAM』と呼ばれる施設だ。」

「オクファム? 何の略だいそれは?」
「『Operation Centre For Ark's Movement』、つまりはアークの移動方向や距離なんかをコントロールしてる場所なんだ。あの足元いっぱいにびっしりとある端末で地上で起こってることや、地上のダイバーたちの活動状況を管理し、逐次アークの移動座標に反映してる。常に集められた情報を元に、最も効率的な動き方をアーク自身が計算し、自動で実行するのさ。」

ゼノの言う通り、眼下にあるおびただしい数の端末には次々と情報がアップデートされているのが遠目でも確認できる。
加えて、何か特筆すべき事項やトラブルが上げられた端末には、オペレータが急行して状況確認と問題解決に当たっていた。


「そうか、だからいつも地上にいるとき、それほど遠くない位置にアークが常駐してたのか……。」
「まあ、ダイバーたちはそれぞれバラバラの場所で依頼や探検に当たるし、地上では次々と事件が起こるから全てが全て最効率化できる訳じゃあない。だけどあらゆる事象を鑑みて、その最大公約数に限りなく近づけていくこと、OCFAMはそのために作られた機構なんだ。」

えっことローゼンは目の前で忙しなく移り変わるアークの移動方針を張り付くように見つめている。2人は、このままずっとモニタの情報変化を眺めていることさえできそうだと思ったくらいだった。












 「いるかさん……。そんな、そんなことって……。」
「嘘だろ……? 冗談だよな、母さん? 約束したんだ、3匹揃って合格するって!! 一緒にチーム組もうって!! いるかはとてもよく頑張ってたのに……。」

しかし、いるか本人が慌てるカザネとローレルの肩に手を置き、静かに首を振りながら静止した。


「いいんです、試験は、点数は正直だから。今の僕には、ダイバーになる資格はなかった。例え1点でも2点でも、足りなければ不合格は不合格。僕は受け入れます。」
「いるか…………。」

「でも、今回の試験は決して無駄じゃなかった。大切なことをたくさん学べた。周りのみんなに甘えてばかりの弱い自分から抜け出せた気がします。けど、結局やっぱり……仲間に囲まれて、みんなで頑張るととても心強かった……。試験なのにこんなこと言っちゃいけないかもだけど、とても楽しかったです。」

驚く程にいるかは冷静だった。取り乱すことなくそう告げたいるかは、他の3匹に笑顔を見せる。


「でもね、それでも……ホントは一緒に受かりたかったなぁ……。僕の夢を受け入れて、共に歩んでくれた仲間に恥じない結果が出せればよかった……。みんなと一緒がよかった……。」
「母さん、僕は今回の試験を辞退させてもらう。」

「カザネ……!? 何言って……。」
「それなら僕も……。いるかさんを置いてダイバーになるなんて、僕にはできません。誓ったはずです、3人一緒に合格しようって。だから悔いはありません。また一緒に試験を受けに来ます。」

本心が溢れ出て、笑顔の裏に悔し涙を浮かべるいるか。そんな彼の様子を見て、カザネとローレルは試験の続行を拒否したのだ。


「やめてください……!! せっかく、せっかく2匹とも好成績が取れたのに……。」
「だから何だ? 君を置いてけって言うのかい? 全く、薄情な奴だなぁ……遺跡で君に助けられたんだ、恩返しくらいさせてくれないか?」

「カザネさん……。」
「一度試験に落ちると次は半年後、でしたよね? でも諦めなければチャンスは何度でもあります。だから次に備えて、次こそはみんなで合格できるように頑張りましょう!!」

今度はローレルとカザネが、涙を浮かべながら穏やかな笑みを見せる。いるかの視界には、ぼやけた2匹の笑顔が輝いて見えた。


「半年後……? それは違うと思うな。」
「まさか、もう受けさせないってのか!? 僕らがこうして辞退するから……!?」

「これを見なよ。そしたら分かるから。」

カイネは自身のComplus画面に移った点数を指さして呟いた。
先程まで88.4点だったはずのいるかの点数が91.1点になっているのが見えた瞬間、いるかたちは一変して驚きの表情を見せた。


「どうして……!? さっきまで90点を下回ってたのに……!?」
「これで、試験が続けられるよね? 実はまだ実技試験は終わってなかったの。最後の最後、受験者が冒険を通じて何を得たか、どう成長したか、その項目が採点未完了だった。私はそれに賭けたくて、こうして君たちを呼び寄せた。」

「何を得たか、どう成長したか……。」
「滅多に加算される項目じゃないんだけどさ、君は弱気で足を引っ張ってばかりで、そして他のみんなに頼り切りの自分を変えられたと話してくれた。事実、遺跡の最後の謎は君が率先して解いたんだよね? それから、とても大切なものも手に入れた。暁の宝玉なんて目じゃないくらいの特大のお宝!!」

カイネは明るい声でそう叫ぶと、いるかの顔をまっすぐ見据えてさらに説明を続けた。


「お宝……!? そんなもの一体いつ手に入れたんだ……!?」
「カザネとローレルちゃんという、心を通じ合わせた仲間のことだよ。普通、誰かのためにせっかく高得点を取れた試験を放棄するなんてできないと思う。知っての通り、実技試験はとてもシビアな内容なの。そんじょそこらのポケモンじゃ、生きて帰るのすら難しいかも。お茶トラップで沈む分を除いても、8割は足切りで落ちるかな。」

「でも、不思議ともったいないとか、残念だとか思わなかったなぁ……。例えその事実を知ってても、考えは変わらなかったと思うよ。」
「いるか君、これからもうちのバカ息子とローレルちゃんをよろしくね!! 君たちなら最高のチームが組めると思う!! だから、みんな揃って合格するようにね、応援してる!!」

いるかは突然声を上げて泣き始めた。それは悔し涙ではなく嬉し涙が、胸の奥から溢れ出たからだった。そんないるかを支えるように立つローレルとカザネの姿に、カイネも思わず視界を滲ませるのだった。









 一方、えっこたちはホイール各所の見学を続ける。交通機関の統括システム、インフラコントロール室、救急通報の統括センター……どれもアークで暮らすポケモンたちの生活を、根底から支える重要な施設だった。


「んじゃ、最後にとっておきをば見せようじゃないか。ただ、あそこはこのホイールでもセキュリティが一番厳重な場所だ。俺もここの所長から特別な立ち入り許可がないと入れてもらえない。」
「あれま、そんなとこに入って大丈夫なのかな? 僕らは部外者だよ?」

「まあ、大丈夫だよ。所長の許可はもらってるし。ただ、絶対に守って欲しいことが一つ。絶対に、絶対にそのブツには触れないようにね。もっとも、強化アクリル板で囲まれてるから直接触るのは無理なんだけどね。それでも念には念を入れて。」

それまで軽い調子だったゼノが、急に真面目な顔付きで釘を刺す。えっこたちはその様子に思わず息を呑んだ。


「そんなに危険なんです? そんなものがこのアークの中枢に……。」
「直接触らなくても十分ヤバい代物でね……いわば無限の魔力の塊みたいなもんだから、少し離れた位置からでも、体内の生命エネルギーと反応してショックや気絶に至る可能性がある。十分注意してくれよ。」

ゼノは先に進みながら、振り返ることもなくそう告げた。エレベータで奥深く進み、さらにそこからいくつもの扉を進んだ先に、開けた空間が姿を現した。

直径30m程の円形の部屋の中程には黄色と黒の線が丸く貼られており、ここから先に近づいてはならないという最終警告ラインとなっていた。ゼノはそこからさらに数m後ろに一行を立たせ、部屋の中央部の巨大なアクリル板の筒を指さす。


「あれだ……。俺も滅多に見ることはない代物でね。こうしてお目にかかるのは何ヶ月ぶりだろうか……。」
「あれは何ですか……!? 何だか、一見純金みたいだけど虹色に輝いているような……。」

「金だなんてもんじゃあない。1g当たりの価格は純金の47倍以上だからね。あれは重量6kgにもなる、特大の『世界石(エリクシル)』さ。」
「世界石……。それって一体……!?」

えっこやローゼンはもちろん、トレとルーチェさえも、世界石が見せる神々しい輝きに言葉を失いかけていた。
眩い黄金をベースに、金や銀や銅、そして空にかかる鮮やかな虹の輝きを閉じ込めたような光は、遠く離れたこの位置からでも、まるで手に取って間近で眺めているかのように感じられる存在感を放っていた。


「世界石ってのはね、万物を司り、文字通り世界のあらゆる物の性質を持つことができるとされる、変幻自在の超希少金属のことさ。アタイもここまでデカいのは、アーク以外で見たことはないね……。」
「ハリマロンのえっこさんやカイネさん、ニアさん、マックスウェル会長の持ってるマイスターランクのダイバーブローチ、あんだろ? あれにも世界石が使われてる。といっても、0.3g相当だったと思うけどな。」

トレとルーチェがえっこたちにそう説明した。どうやらこのポケモンの世界において、何よりも希少な金属がこの世界石のようだ。


「こいつがこのアークの心臓だ。あらゆるエネルギーはここから出てきてる。交通、インフラ、電力、熱、そしてアーク自身が地上から姿を隠し、空中に浮遊するための魔力エネルギー……。全部、この6kgぽっちの原石により賄われてる。」
「う、嘘ですよね……!? このアーク全てのエネルギーがここから……!!!?」

「大マジだぜ、この世界石は生命の源の性質を持っている。だから魔力、即ち生命エネルギーを無限に大量供給し、尽きることなくこのアークの各地にエネルギーを送り続けているんだ。」
「文字通り心臓ってことだね……。これがアークの中枢……全てを支えるコア……。」

ゼノが言うには、数百年も前からこの世界石は、アークの全てのエネルギーを供給し続け、休むことなく心臓部として機能してきたらしい。えっことローゼンは、最早何も口に出すことができずにその輝きに目を奪われていた。


「さ、帰るとするぜ。今日はこれまでだ、地上のロビーまで送るよ。」
ゼノが世界石に背を向け、えっこたちにそう告げた。えっことローゼンはこの世界の新たな側面を目に焼き付け、ホイールを後にするのだった。


(To be continued...)



Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/25(月) 22:01 )