ポケモン不思議のダンジョン New Arkc - Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 32 -Brain in a stew-
 ローレルたちが遺跡の中に足を踏み入れると、最初の部屋でいきなり行き止まりになっていた。8m四方くらいの小さなこの部屋は、一面が淡いピンク色の壁と天井に囲まれた閉鎖空間であり、どこにも遺跡内部に進んでいくような道筋は見えない。

これが遺跡内部なのだとしたら、あの豪華絢爛で巨大な外観とは、あまりにも不釣り合いとしか言いようのない光景だ。


「えっ……? これで終わり? 先に進むドアもなければ、暁の宝玉とかいうものも見当たらないし……。」
「床に何か書いてあります。『四つの部族の者の内、真実を語る者は一人なり。真実を告げる者の宝具を授かれば、道は開かれん。』ということらしいですね……。」

「その四つの部族ってこいつらじゃないか? また何か床に書いてあるしさ。」

カザネが手招きする先には、赤と青と黒と白の角を生やした、四つの人形の像があった。それぞれが勾玉、鏡、剣、金印の宝具を持っており、足元の石版には何か文章が刻まれているのが見える。


赤の部族「我は真実を告げる者なり。」
青の部族「黒は偽の言葉を告げる。赤の言葉を信ずるべし。」
黒の部族「赤は理に背く。青も嘘のみを語る。」
白の部族「青は真実を告げる者なり。黒の言葉は汝を惑わす。」

それぞれの像の足元に書かれていた文字はこの通りになっていた。


「な、何なのこれ……訳分かんない……。」
「簡単なことです。4つの部族の像の内、1つは本当のことを言っていて、残りは真実とは逆のことを伝えているということです。よく見るタイプの論理整合の謎解きですね。」

「そういうことなら話は簡単。伊達に理系科目が得意な訳じゃないからね。僕に任せてよ。」

眉をひそめるいるかに対し、カザネは意気揚々と像の文章を何度も確かめながら、時々天井を見つめて考える素振りを見せた。


「オッケー、分かったよ!! 正解はあいつだな。」
「ええっ!? も、もうですか? 僕なんて全然理解できてないのに……。」

驚くいるかを連れ、カザネは一体の像の前に立った。ローレルも顔色を変えることなくカザネと共に像の前に立ち、その宝具を引き抜いた。


「何も起こらないじゃないですか……。やっぱり不正解だったんじゃ……。」
「いや、この感じなんだか……うっ、うわぁぁぁぁっ!!!!!!」

突然、3匹の乗っている床が音を立てて開き、3匹は大口を開けて待ち構える、奈落の底へと落ちていった。












 一方ミササギの料亭では、シグレたち3匹がカムイの言葉に注目し、揃って耳を傾けていた。

「私とミハイルは地上で出会い、パラダイスを作る夢を持った。ミササギさんやシグレにも出会えた。そして私たちは一つとなり、今チームを組もうとしている。そんなチームで活躍して私は『澪標』、つまりこの世の中で、ポケモンたちが帆を進めるための道標のようにありたいの。」
「モノノケやレギオン、賊どもに怯える地上のポケモンたちにとって、救いの希望でありたい、お前はそう言いたい訳だな。」

「ええ。そしてそのために『身を尽くし』たい。ミハイルとシグレとミササギさん、仲間たちと一緒に最高のチームでありたいんだ。」

カムイがチーム名に込めた思い。その思いは、その場にいた誰もの心を貫き、吸い込まれるように染み渡った。誰も反対するものなどいない。ここに、『チーム・澪標』の歴史の第一歩が刻まれることとなった。


「ううっ……あいたたぁ…………。」
「あー、気が付いた? 大丈夫だったかい?」

「大丈夫じゃないですーっ!! 死ぬかと思いましたよ、あれだけ自信満々だったのに間違えるなんて信じられません!!!!」
「いいえ、カザネさんは確かにご名答でしたよ。ほら、あそこに進むべき道があります。」

いるかは降り積もった落ち葉の上で目を覚ます。どうやら落とし穴の先は落ち葉の積もった地下に通じており、落ち葉がクッションになって助かる仕組みになっていたようだ。

手をバタバタと振り回しながら怒るいるかを宥めるように割って入ったローレルは、壁にある小さな扉を指さして呟く。


「ホントのことを言ってたのは、僕やローレルが見抜いた通り、黒い像だよ。ほら、もう一度奴らの言葉を思い出してみてよ。」

赤の部族「我は真実を告げる者なり。」
青の部族「黒は偽の言葉を告げる。赤の言葉を信ずるべし。」
黒の部族「赤は理に背く。青も嘘のみを語る。」
白の部族「青は真実を告げる者なり。黒の言葉は汝を惑わす。」

「真実を語る者をxとしましょう。赤がxなら、赤の言葉は正しいですが、青の言葉に矛盾が生じます。黒は嘘をついてるはずですから、『偽の言葉を告げる』の逆になってはダメです。」
「同様に青もxではない。赤の言葉は問題なく意味が通るけど、青自身が赤のこと信じろって言ってるでしょ? これも矛盾。」

「白もアウトです。白がxなら黒は嘘を言っているはずですが、赤が理に背かない、つまり本当のことを言っているというのは話が合いません。この場合、本当のことを言っているのは白のはずですから。」
「よって、xは黒だ。赤と青と白の真逆の意味、黒自身のそのままの意味が全て矛盾せずに成り立つからね。」

いるかは目を丸くしてぽかんと説明を聞いていた。理解してくれているかはさておき、カザネとローレルの活躍で道は開けたようだ。
一行は黒い像から受け取った鏡を持ち、次の部屋へと進んでいった。










 遺跡の部屋をいくつか抜け、長い回廊を渡っていくと、正十二角形の形をした丸っこい部屋が姿を表した。どうやらここを抜けると地上階へと戻るようだ。

「んーと、何何? 『覚悟を決めし者、この取っ手を引くべし。道を開かん。』だって?」
「よし、じゃあ早く行きましょう!! よいしょっと……!!」

「おい、明らかヤバイ奴だってこれ!! わざわざ心の準備をしろって言ってるのに!!」

カザネが引き止める間もなく、いるかが勝手にレバーを引っ張ってしまった。すると、石がゴリゴリと動くような重たい音が続いた後、真っ赤なトゲのようなものが壁から生え、徐々にこちらに向かって迫り始めた。


「うわわぁっ、トゲ一本辺りの角度が大体30度くらいってことは……。まずいっ、このままじゃ刺し潰されるぞ!!!!」
「うぇぇぇっ!? ど、どうしましょう!!?」

「落ち着いてください。さっきレバーを引いたときに石版が入れ替わりました。」

「迫る終焉の刻限を否定し、先へ進まんとする者よ。『無限』の力を奮い『立たせ』、その力の示す彼方を打ち砕くべし。されば、道は開かれん。」

ローレルが石版の文字を読み上げると、いるかは頭を抱えて走り回り始めた。


「意味分かんないよーっ!!!! 嫌だー、殺されるーっ!!!!」
「うるさい、黙ってろーっ!!!! 一生懸命考えてるんだから、気が散る!!!!」

そのとき、ジタバタするいるかの足が蹴飛ばした小石がトゲに触れる。その小石は瞬時に真っ赤に焼け上がり、パチンと音を立てて弾け飛んでしまった。


「ひぃぃぃっ、あんなのに触ったら焼け死ぬ!!!!」
「そうなりたくなけりゃ謎を解くことだね。さっきと違って、制限時間付きってことらしいけど。」

カザネは苛立った様子でいるかに語りかけた。最早いるかはパニックで使い物にならなさそうだ。カザネとローレルは、この状況を打開するために謎解きを懸命に進めるが、時間だけが刻一刻と過ぎていく。


「くそっ、もうこんなとこまで針が来てるのか……!!!!」
「針……。刻限……。『無限』の力を奮い『立たせ』る……。も、もしかして!!!!」

ローレルは突然声を上げて飛び出した。突然の彼女の行動にカザネといるかが驚く。













 「おいっ、ローレルー!!!! ダメだ、危ないよ!! それに触っちゃ危険だ!!!!」
「僕の考えが正しければ……。えっこさん、どうか僕を守ってくださいっ!!!!」

ローレルはえっこに祈りを向けながら、針を分厚い魔導書で殴った。すると、まるでガラスをハンマーで叩いたように簡単に針が粉砕され、それと同時に他の針の動きが止まった。


「た、助かったぁ……。もう、どうなるかと思ったよぉー……。」
「ローレル、これは一体どういうことなんだ……!? 何故針を……。」

「この部屋の形……。12本のトゲのような針。12と針と聞いて、何か連想するものはありませんか?」
「そうか、時計の文字盤!!!!」

「そうです。そして例の文章の謎を解けば、するべきことが見えてくるのです。」

ローレルは部屋の中央に戻り、先程の謎の文章の石版を指さし始めた。カザネといるかも、ローレルの元に集まって耳を傾ける。


「妙だと思いませんか? 『無限』と『立たせ』だけ強調されているんです。実際に無限を立たせたらどうなるでしょうか?」
「無限……無限……∞……。そうか、∞の記号を立たせると、数字の8か!!」

「無限の力が示す、8の数字の示す彼方を打ち砕く。もう見えましたよね? 僕がやったように、8時の位置にある針が破壊できるということです。きっと、この針だけガラスのように壊れやすい素材でできていたのでしょう。」

ローレルの活躍により、無事に2つ目の謎を突破することに成功した。止まった針に触れないように気を付けつつ地上階に進むと、そこは広大な吹き抜け空間となっていた。


一面金色に塗られた壁と、まるで空の彼方を思わせるような淡い青の天井に囲まれたこの場所は、天井にある窓から日光が差し込んでいるお陰で、遺跡周辺と同じように蓮の葉がたくさん浮かんでいた。

蓮の葉が浮かぶ丸い池に取り囲まれる形で、中央にはエレベータのような籠が見える。カザネたちは一ヶ所だけ池を横断するように掛かる金色の橋を渡り、中央の籠の様子を確かめに行った。

「何でしょう、この穴は何かを差し込むような形になっていますが……。」
「恐らくはこのエレベータみたいのを動かすハンドルじゃないかな? ほら、上に向かって滑車みたいのがかかってる。ハンドルで鎖を巻き上げて滑車を回せば、きっと上の階に行けるんだと思う。」

カザネが指さした先には、天井に付けられた複数の滑車が見える。そのどれもが籠に通じる金色の鎖を巻き込んでおり、これらを巻き上げるハンドルか何かを探す必要があるようだ。


「あー、また怪文書だ……。『天へ昇る鍵は、極楽の水底に眠る。されど、地獄より蜘蛛の糸を登り、鍵を奪わんとする者あり。』」
「水の中かぁ……。じゃあ、いるかに任せた!!」

「えーーっ!? ちょっ、ほら、地獄から何か来るって書いてますし!!!! 怖いですって!!!!」
「だって、僕とローレルは草タイプと電気タイプだぞ? 君は水タイプで、おまけにポッチャマじゃないか。泳ぎときたら、君しかないよね?」

「うぅ……僕泳ぐのあんまり得意じゃないのに……。」
「いや……僕らはほぼ泳げないレベルだから……。とにかく、悩んでても仕方ない。何か変なのが襲ってきたら僕らが援護するから、大船に乗ったつもりで行ってきなって!!」

カザネに背中を押され、いるかは明らかに嫌そうな表情を見せながらも、渋々水際に足を運んだ。


「いるかさん、蓮には気を付けてください。茎や葉っぱの裏は鋭利なトゲがたくさん付いているはずです。うっかり身体を引っ掛けると、怪我をする可能性がありますので。」
「ええ……ありがとう……。じゃあ、行ってきますね。」

いるかは「他人事と思って!!」とでも言いたげな目つきでローレルを一瞥すると、トポンと音を立てて水中へと姿を消した。
水中からはローレルの言う通り、蓮のトゲが水面の大半を埋め尽くす光景が目に飛び込んでくるため、いるかは顔を青くしながらも辺りを見回して、目的のハンドルを探した。


「(あっ、あれじゃないかな!?)」
「おお、いるかの奴、そこの蓮の葉の隙間に浮上してくるみたいだよ。」

カザネとローレルが、ボコボコと立ち上る泡が見える地点へと急いで向かう。程なくしているかが大きな蓮の葉の間に現れ、大きく手を振り始めた。


「ありましたー!! この蓮の葉のすぐ下辺りです!!」
「分かった!! ここからバッチリ君の姿は見えるから、何かあれば援護する!!!!」

少し遠くに見えるいるかにそう告げると、カザネは楽器を、ローレルは魔導書を取り出してもしもの事態に備える。


「そうだ、そういえば、さっきのハンドルのある水中にこんなことが書いてありました。何かのヒントになるのかも!!!! 『天からの助けの糸あり。されど、真実を透かす鏡を持たざる者、触れることあたわず。』ですって!!」
「鏡……? これのことでしょうか……。」

ローレルは、入り口で手に入れた鏡をまじまじと見つめていた。夕日のせいなのだろうか、差し込む日光は少し赤くなって鏡に反射している。

一方のいるかは、ハンドルを手に入れるために、再び水中へと潜っていった。そのまま20m、10m、5mと距離を縮め、一度地上のカザネたちの方を振り返ると、ハンドルをその手に取った。しかし、次の瞬間予想だにしない出来事が起こってしまう。


「ごぼぁっ……!!!!!!? んーっ!!!!(うわぁっ!!!!!!!? 身体がーっ!!!!)」
「まずい、あそこの水門です!!!! いるかさんがハンドルを入手した途端に水を吸い出し始めました!!!!」

「ヤバイっ!! あのゲート、トゲが付いた丸太みたいのが回転してる!! 吸い込まれたら挽肉にされるぞ!!!! いるかーっ!!!! 泳いでロープに捕まるんだ!!!!」

カザネはロープを投げ入れるが、水流が早すぎるためか全く用をなさないらしい。いるかの方も流れのせいで思うように動けず、このままではいずれ、ゲートに巻き込まれてしまうのは時間の問題といえる。


「地獄からの者とはこれのことですか……。だとすれば、彼を救うのはさっきいるかさんが言っていた助けの糸……!! でもどうすれば!? そんなもの、一体どこに……!?」

ローレルは慌てながらも可能な限り正気を保ち、地上、壁、水中に目を向ける。果たして、いるかを救う助けの糸とは何のことなのだろうか?


(To be continued...)



Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/21(木) 21:33 )