Chapter 1 -大地に舞う幾多の翼-
Episode 11 -Icebreaker-
アーク高校の渡り廊下を歩くローレルとアルバート。既に授業も終わり、放課後に突入していた。

「そういや、今日は音楽室行かなくていいのか? カザネの奴が待ってんじゃねぇの?」
「2週間後には中間試験ですからね……僕はとりわけ編入したばかりですし、カザネさんが、今日は大事を取って勉強に専念するといいとおっしゃいまして。」

「あー、そういやそうだった……。大会も近いのに、テスト期間で練習できなくなるじゃんかー!! クソー!!」

アーク高校では、原則テスト1週間前になると部活動が停止される。しかし、ローレルは編入後の慣れない状態というのもあり、勉強により専念できるよう、カザネはローレルの体験入部の回数を減らしたようだ。


「取り敢えず、僕はあの吹奏楽部に入る気でいます。その旨をカザネさんやセレスさんに伝えたところ、大歓迎だと言われていますし。試験後に正式入部になりますね。」
「なるほど、あそこは何だかんだで忙しいみたいだし、まあ無理のない程度に頑張りな。」

そのとき、ローレルが不意に足を止める。校舎の裏側で、何者かが一匹の青いポケモンを取り囲んでいる様子がちらりと見えた。
ローレルは青いポケモンの手元に財布らしきものが見えたのを、確かに目撃した。


「あれはっ……穏やかじゃありません……!!」
「おい、待てよローレル!! どこ行くんだよー!!」

突然走り出したローレルを追いかけて、アルバートも階段を駆け下りる。すると、階段の入り口の出会い頭で、何者かに衝突してしまった。


「いたたっ……。な、何ですかぁ……!?」
「いってぇ……悪い、急いでたもんでな。怪我はないか?」

「ええ、僕なら大丈夫です。ですが階段を駆け下りるのはいただけませんね、大変危険な行為ですよ。」
「ああ、すまねぇな……。そうだ、ローレル!! あいつどこに行きやがった!?」

辺りを見渡すアルバートのその言葉を聞き、彼とぶつかったポケモン・ツォンははっとした表情を見せた。


「ローレル、ですって!? 確かえっこさんが連れていた……!!」
「お前、えっこさんのこと知ってんのか? そうだ、あいつだよ、突然どっかに走っていきやがった!! 何か嫌な予感がするんだよ、あいつ、校舎裏を眺めて穏やかじゃないとかいいながら駆け出していったからな。」

「最近、校舎裏で物騒な輩がたむろしていると聞きます。ローレルさんが心配です、僕も同行します。」
「おいやめとけよ、マジに危ないかも知れねぇぞ!!」

するとツォンは、学校カバンの他に持っているボストンバッグから拳法着を取り出してアルバートに見せた。そこには緑色の宝石がはめ込まれたメダリオンが付けられている。


「これでもまだ足手まといになると?」
「マジかよ、一年生でヴァートランクの現役ダイバー……お前、何者だ?」

「僕の名はツォン。拳法を広める合間に、ダイバーとしても活躍させてもらっています。さあ、ローレルさんの後を追いましょう。」

アルバートは驚きながらもツォンの言葉に強く頷く。二匹はローレルが向かったと思われる校舎裏へと急いだ。










 「アイアンテール!!」
「でんこうせっか!!」

ローゼンの尻尾の鋭い一撃と、えっこの素早さを活かした体当たりがレギオンに襲いかかる。しかし、見た目に違わず堅固な防御力を持つレギオンに、えっこたちの攻撃はことごとく跳ね返されてしまう。


「ダメか……やはりこいつの身体は並大抵の技では破壊できそうにない……!!」
「でも見てみなよ、あの身体は氷でできてるみたいだ。」

ローゼンが指差す先を見ると、日光に照らされた表面部分が少しだけ溶け、レギオンから水が滴っているのが分かった。


「けれど、悠長に溶けるのを待ってる暇はありませんね……。そんなことをしていたら、いずれこちらのスタミナが尽きてしまう。」
「うん。それに昨日の夜のこと、覚えてるよね? 気温が氷点下にまで下がってた。半端に溶かしても、日が落ちれば元通りだ。」

「けれど、あの氷の身体を溶かしてみる価値はあるかも知れない……。何か強力な熱源を使えれば……。」

そのとき、レギオンの砲身がえっことローゼンに向けられる。猛スピードで飛ばされる氷の弾丸を、二人は何とか回避する。


「くっ、これじゃあいつかやられてしまう……!!」
「えっこ、気を抜いちゃダメだ!! 上だ!!!!」
ローゼンが頭上を見上げて叫ぶ。そのときまさに、えっこの頭上から尖った氷塊が落ちてこようとしていた。そのまま氷塊は地面へと突き刺さり、えっこの姿は見えなくなってしまった。


「まさか、えっこが……!!!!」
氷塊が落下した地点を見つめるローゼン。と、その横に積もった瓦礫がガラガラと音を立てて崩れ、中からえっこが現れた。

「何とか助かった……。氷にぶつかる寸前、圧縮したあわを氷にぶつけた。あわが爆弾のように破裂する衝撃で飛ばされて、何とか回避が間に合ったんです……。」
「ヒヤヒヤさせてくれるよ、君は……。しかしあの砲身、同時に、或いは時間差で複数方向に弾丸を撃てるらしい。そうなるとますます回避が難しくなる。厄介だね……。」

ローゼンが砲身を睨みつける。レギオンの身体にいくつもついた氷の砲身は、ある程度自由に射出角を調節することができるらしい。
それにより、えっこたちを直接狙い撃ちすることも、曲射や跳弾などで不意打ちすることも可能なようだ。

レギオンはその場から動くことなくどしりと構えているが、その砲身や身体がギリギリと音を立てて向きを変える。
そのとき、氷に反射した日光がきらりと光った。


「そうだ、奴の身体を溶かすほどの熱……!! 一つだけ、方法があるじゃないか!!」
突然そう叫んだえっこの目は、必ず相手を倒すという闘志に満ち溢れていた。










 「ううっ……これで全部なんです……。」
「なら、盗みでもやって金を用意すりゃいいだけの話だろ? 簡単なことじゃねぇか。」

「ひっ……!! そ、そんな……!!」

校舎裏で怯える一匹のポッチャマ。そこにローレルが駆けつけた。


「あなたたち……何をやっているのですか!? 恐喝は犯罪です、今すぐお金を彼に返しなさい!!」
「何だぁ? 恐喝だなんて人聞きの悪い奴だな、コイツが自分からくれた金だぜ? 何の問題があるんだよ?」

「複数人で取り囲まれて脅されるこの状況のどこが自発的であると? しらばっくれても無駄です!!」

その直後、不良の一匹であるばけさそりポケモンのドラピオンが、ローレルを掴み上げた。


「てめぇ、黙って聞いてりゃ調子に乗るなよ!? てめぇみたいな女、この毒針でぶっ殺すことは容易いんだぜ?」
「ぐっ……苦しいっ……。」

ローレルはじたばたと足を動かしてもがいた後、全身に力を入れた。その瞬間、ローレルの身体が高圧電流に包まれ、ドラピオンは思わずローレルを投げ捨てた。


「げほっ……。何とか抜け出した……。」
「よくもやってくれやがったな!! 決めたぜ、てめぇを先にブチのめしてやる!!!!」

ドラピオンの毒針攻撃がローレルに襲いかかる。そのとき、即座に何者かが間に割って入る。


「お前……とんでもない無茶しやがるな……!! マジに死ぬ気かよっ……!!!!」
「アルバートさん!!」
アルバートがフェンシング用の剣でドラピオンの針を抑えていた。やがて、アルバートは鍔迫り合いの末に毒針を弾き返す。

「ならこいつでどうだ!!!!」
不良のカポエラーがアルバートに向かって強力なメガトンキックを放つ。ドラピオンと対峙していたアルバートは、その攻撃への対応が遅れてしまった。


「まずい、アルバートさんっ!!!!」
「あなたも中々の無茶をしてますよ、多勢に無勢って奴ですね!!」
ツォンがカポエラーの蹴りを軽々と片手で止めていた。そのままはっけいが至近距離から撃ち込まれ、カポエラーは一直線に吹っ飛んでいった。


そのとき、ローレルの背後で何かの旋律が聴こえた。バリバリと低くどっしりしたサウンドが奏でられると、ローレルの右横に凄まじい勢いの雨が降り注ぐ。

「何か大変なことになってるね、僕の部に入る前に怪我されたら困るんでね。手出しはさせないよ。」
「カザネさん!! どうしてここに?」

「自主連中に、窓から君がトラブルに巻き込まれてるのが見えた。そこのマグカルゴが君を燃やそうとしてたんでね、『アローレイン』の魔法で迎撃させてもらった。」

ローレルが横に目を向けると、不良のマグカルゴが苦手な水の技を受けて気絶していた。カザネが奏でた旋律が魔法を発動させたのだろうか?

カザネはこの間よりも大きな金色のサックスを身体にぶら下げている。彼の体格から考えるに、非常に重たく扱いにくそうだ。


「てめぇら、そこまでだ!! コイツがどうなってもいいのか!?」
「ベタなことやってくれるね……。だけど厄介な……。」

「人質かよ……てめぇらマジにゲス野郎共だな……!!」

カザネとアルバートが息を呑む。先程のポッチャマを人質に取る形で、不良のザングースがその鋭い爪を彼の首に当てていた。


「さあ、どうするんだてめぇら? まさかコイツを見殺しにはしねぇよなぁ? 黙って俺たちのサンドバッグにでもなってもらおうか?」
ザングースが不敵に笑うと、他の不良たちも何とか起き上がり、一同を囲んだ。










「えっこ、奴を溶かせるとか言ってたけど……何瓦礫を投げつけてるんだい?」
「あれに着火させます。火を起こすんです。」

「けれどあの木材、昨日の雨でぐっしょり濡れてる……。今あるマッチ数本じゃとても着火なんてできないよ。」
「マッチなんて使いませんよ。でもこの作戦にはローゼンさん、あなたの力が必要です。」

えっこは攻撃をかわし、隙を見つけては気象観測台の廃材をレギオンに投げつけていた。
廃材は、カランカランと木材らしい衝突音を立ててレギオンの硬い氷の身体にぶつかっていく。


「頃合い、かな。ローゼンさん、今からその鉄板をシーソー代わりにしてあなたを跳ね上げます。あなたはレギオンを飛び越えて向こう側へ滑空してください!!」
「まさか、僕に一人で逃げろというのか!?」

「そんな訳ないでしょう。俺もローレルの元に生きて帰りますよ、必ずね。あっち側に行ったら、スパークを全力でお願いします。ですが、体当たりするのではなく、放電したままその場に留まってください。」
「一体、どういう……!?」

そのとき、砲身が二人の方向に向けられる。えっこは自ら囮となり、その注意を惹きつけた。

「ここは俺が何とかします。ローゼンさん、早く向こう側へ!!」

えっこの叫びを合図に、ローゼンはシーソーの反対側に飛び乗った。一方のえっこは氷の弾を引き付けてシーソーの反対側にぶつける。
次の瞬間、ローゼンは宙高くに放り出され、そのままレギオンの向こう側へと滑空していった。









「助け……てっ……!!」
ポッチャマの顔が恐怖と絶望に歪んでいた。迂闊に手が出せない膠着状態の中、アルバートが一歩踏み出した。


「一つ、提案がある。俺以外のここにいる全員を解放しろ。無論、タダとは言わねぇよ。俺がこいつら4匹分、てめぇらにボコられる。それでいいだろ?」
「ちょっと、アルバートさん!!!!」

「黙ってな、せっかくの交渉のチャンスなんだからよ。」
「コイツ、面白いこと言いやがるな!! マジに4匹分、タコ殴りにされるってのか? マジに死ぬぜ、お前?」

「こいつらを守れない苦痛より、そっちの方がマシなタチなんでね。これでも、騎士を目指す者としてそれくらいの覚悟は当然だ!!!!」

アルバートは剣を捨て、不良たちの元へとにじり寄る。その気迫に、思わず不良たちも一瞬たじろぐ程だった。


「(そんな……。周りの友達のことはまだしも、見ず知らずの僕のために、どうしてそんな……!!!! 分からないよ……。でも、その勇気がとても眩しく感じられる……。)」

ポッチャマの瞳から、思わず涙が溢れる。そのとき、アルバートの肩に手を乗せる者がいた。


「君だけにカッコいい役はさせられないね。僕も犠牲になってやろう。」
「カザネ……お前は引っ込んでろ!!」

「生憎、父さんの遺伝子が濃いからこう見えて身体はヤワじゃあないよ。君の痛み、僕にも背負わせてくれないかな?」

そして、そこにもう一匹が加わる。


「僕に黙って見ていろと言うのですか? 功夫とは、弱きを守り己を磨くために身につけるもの。ならば、今まで身につけた功夫の技と心、皆さんを助けるために僕も使いたいのです。お供しますよ。」
「ツォン、お前……。」

しかし、そんな様子に業を煮やしたザングースは、ポッチャマの首に再び爪を突きつける。


「ナメた真似しやがって……!! それならコイツを殺ればよ、てめぇら全員絶望させられるって訳だよな?」
「なっ……!!!! やめろ、早まるんじゃねぇ!!!!」

「うるせぇ、もう我慢の限界なんだよ、茶番見せられてナメられて、これ以上指を咥えて見てられるかってんだ!! コイツをくれてやるぜ!!!!」
「ふーん、勝手にすればいいじゃん。どうなっても知らないけど。」

突然、ローレルたちの背後から、何者かの声がした。その影は、ローレルたちの前に颯爽と飛び降りる。










 「えっこ、よく分からないけど君を信じよう!! スパークを使うんだったね?」
「ええ、思い切りお願いします!!!!」

ローゼンが全身に力を込めると、その身体に電流がほとばしり、小さな太陽のごとく黄色く眩い輝きを放った。すると、その光がレギオンの氷の身体を通り抜け、瓦礫に照射されていく。

そのとき、瓦礫に小さな炎と煙が現れるのがえっこの目にはっきりと映った。ローゼンの高圧電流はより一層輝きを増し、光が当たっている瓦礫に焦げた穴が開き、煙が立ち昇ると同時に、一気に火の手が上がった。


「よしっ!!!! 狙い通りだ!! 後はあのコアまで炎が到達すれば……!!!!」
「なるほどね、あの氷の身体か……。真横から見ると凸レンズのようになった氷の身体に、僕のスパークの強力な光を当てた。そして、君がせっせと投げていた廃材は……!!」

ローゼンが見つめる先には、黒く塗装された瓦礫や木材が積もっている。
そう、えっこは倒壊して氷の弾で破壊された観測台の廃材から、黒く塗装されたものや黒い木材を選んで投げていたのだ。

凸レンズによって集光されたローゼンの輝きは黒い廃材に炎を灯し、レギオンを執拗に炙っていく。
このレギオンは一度構えると簡単には撤退できないらしく、炎に巻かれて身体がどんどん溶けて小さくなっていった。やがて砲身も溶けて折れてしまい、コアが炎で炙られ始めたとき、レギオンがモノノケたちに分裂した。


「よし、これで後はモノノケを倒すのみだ!! みずのはどう!!」
「アイアンテール!!!!」

えっことローゼンの攻撃が、分裂したばかりのモノノケたちをすかさず襲う。
幸いにもこのレギオンを構成するモノノケたちはさほど強くはないらしく、えっこたちが優勢に戦況を支配し、やがて敵を全滅させた。


「あなたは……ユーグさん!!!!」
一方カザネは、自分たちの前に舞い降りたユーグを見て驚く。ハリマロンえっこの一番弟子とだけあって、面識があるようだ。


「たまたま通りがかったら、君たちが見えたんでね。よく分からないけど、何か外道な真似をしてるみたいだね、あいつら。人質取って脅すとは、本当に性根が腐った奴らだ。」
「何だてめぇは? 口を慎めよ、コイツぶっ殺されたくなけりゃな!!!!」

ザングースがポッチャマを見せて脅すと、ユーグはにやりと笑いを浮かべた。


「やればいいじゃん。さっきも言ったでしょ? 僕はそんなチンケな脅しに屈したりしないよ。」
「おい、アンタ奴らを刺激するんじゃねぇ!!!! マジにあいつらはやりかねないぞ!!!!」

「もう決めたぜぇーっ!!!! コイツの首を今から掻っ切ってやるーっ!!!!」

ザングースはそう高らかに叫ぶと、アルバートたちが止めに入る間もなく爪をポッチャマに突き立てる。ポッチャマは恐怖で目を瞑り、身を固めた。


「うげぁっ!!!?」
その瞬間、激痛と共にザングースの喉元から血が流れ始めた。ザングースは急所からの突然の流血に完全にパニックになっている。

「言ったでしょ? どうなっても知らないって。自分が首を掻っ切られるかも知れない覚悟もないくせに、他のポケモンの首掻っ切ろうとか考えんなよ、カスが。」
ユーグは完全に見下した冷たい目つきでザングースを見下ろしていた。ザングースは喉元を押さえつけて止血するのに必死な様子だ。


「一体……どういうことなのです……!?」
「『ストロー・パペット』の魔法をポッチャマ君にかけたんだ。彼が受ける攻撃威力の50%をそっくりそのまま相手に返す呪術だ。ま、効果持続中は詠唱者が他の魔法使えなくなるんだけどね。」

驚くローレルに、黒紫の表紙の魔導書を見せるユーグ。彼が得意とする黒魔法により、ザングースの攻撃を彼自身に跳ね返したのだった。


「てめぇ……よくもやりやがったな!! だがもう魔法使えないんだよな? そのキザな面、蹴り潰してくれる!!!!」
カポエラーが高速スピンしながら回し蹴りを放つが、ユーグがリボン型の触手でその蹴りを受け流すように払った瞬間、カポエラーが宙を舞い、そのまま地面に顔面から叩きつけられた。


「あーあ、君の顔の方が潰れちゃったかなー。」
「クソッ!! それなら俺の毒針で!!!!」

ドラピオンが毒針をユーグに突き立てるが、ユーグが一瞬の間にその足元を払うと、ドラピオンが回転するように吹っ飛び、校舎の壁に頭から突っ込んでいった。

「そうか!! 彼が使っているのは合気……!! 即ち、相手の攻撃の勢いを逆手に取り、それを上手く受け流すことでその威力を丸々跳ね返すカウンター技の柔術です!!」
「よく知ってるねー。見た感じ君も武術の心得があるみたいだ。そう、僕は魔法に頼らずとも、身体でのカウンターもできるように特訓を積んでいてね。見ての通りさ。」

ツォンにウィンクしながら答えるユーグの元に、残ったマグカルゴがかえんほうしゃを放とうとする。


「炎ならてめぇの合気も通用しないだろ!! 黒焦げになりやがれ!!」
「(僕もみんなみたいに、勇気を持って踏み出すんだっ!!!!)」

ポッチャマの表情が引き締まる。先程までの怯える人質の顔つきではなく、果敢に戦う覚悟を決めた目つきを見せていた。


「バブルこうせんっ!!!!!!」
「何っ!? このガキ、どこにそんな力が!? うぐぁぁぁぁっ!!!!」
ポッチャマの凄まじい破壊力のバブルこうせんが炸裂した。苦手な水タイプ技を思いもよらない方向からまともに食らい、マグカルゴは完全にダウンしてしまった。


「なるほど、『げきりゅう』の特性か。通常は物理的な手負いをトリガーに発動するけど、君の場合は精神的に追い詰められた状況でもあの逆転の一手が使える、そういうことみたいだね。」
「こ、これ僕が……!? こんな力が僕にあったなんて……。」

ポッチャマはマグカルゴを軽々と一撃で仕留めた自分の底力に大層驚いている様子だ。そんなポッチャマに、ユーグが前足を差し出す。


「何にせよ、助けてくれてありがとう。あのとき君の攻撃がなければ、僕は奴の攻撃をまともに食らっていた。君は本当は勇敢で、そして強いポケモンなんだ。僕の目に狂いはないね。」
「そんな……。僕はとても弱虫で優柔不断で、今回だってあいつらの言いなりに……。」

「けどこうしてチャンスが訪れたら、すかさず一歩を踏み出せた。その勇気を持ってるポケモンってどれだけいるだろうね? 名前は?」
「僕、『いるか』っていいます。ありがとう、何だかあなたたちを見て、とても勇気が湧いてきた……。だから僕はあのとき動くことができた。」

いるかは少し照れ気味に、目線を下に落としながらそう呟いた。ローレルやユーグたちは、そんな彼に賛辞を送るかのように、穏やかな笑みを向けている。
ユーグが差し出した前足をさらに突き出すと、いるかもそれに応えて右手を差し出し、コツンと軽くぶつけるように触った。










 モノノケたちを全滅させたえっことローゼン。前回と同様、モノノケが撃破されるとまるで大量の血が流れたかのごとく、地面が赤く染まっていた。


「本当に妙な奴らだね。氷でできた身体をしていた癖に、普通の生き物と同じく赤い血が流れているのか……?」
「ええ……。それに何だか人間の血よりも少し明るい赤色をしていて不気味です。何だか作り物の血液みたいな……。」

「あっ、いたいた!!!! えっこ君、ローゼン君!! 大丈夫!?」

声のする方を見ると、カイネが走ってくるのが見えた。


「カイネさん!? どうしてここに?」
「レギオンの発生情報が飛び込んできてね。リーア山脈付近を指し示していたから、まさか君たちがレギオンに遭遇してないかと心配になって。悪いけど試験中止だね、安全確保のために奴を倒さないとだから……。」

「えーっと、そいつならさっき倒したんだけど。」

ローゼンが赤く染まった地面を指してそう告げた。カイネは目を丸くしてその光景をじっと見つめている。


「う、嘘……? 冗談だよね、『ヘラルジック』や強力な魔法や特殊能力も使えない君たちが、レギオンを……。」
「ええ、奴の体が氷でできていたから、二人の力を合わせて燃やしてやりました。ところで、ヘラルジックって……?」

「す、凄い……。試験中止って言ったけどどうしようこれ……。」

カイネはえっこたちの質問に耳を貸すことなくしばらく考え込み、そして判断を下した。


「よし、今回の試験は特別に有効扱いにするね!! 観測台が壊れちゃってるけど……。写真はある?」
「ええ、レギオンに壊される前に撮ってあります。」

えっこはカイネに旧気象観測台の写真を見せた。カイネはうんうんと頷くと、えっこたちのComplusから行動ログを回収して何やら入力し始めた。


「二匹とも、試験お疲れ様!! それじゃ、結果を通達するね。」
「えっ、ちょっと!! もう結果が出るんですか!?」

「そうだよ、君たちの一挙手一投足や活躍ぶりは、Complusが判定してくれてるからね。それじゃあ、点数を送信しよう。それっと。」

カイネが二人にメールを送る。えっこが自分に送られたメールを開くと、138点の記載がされていた。ローゼンは122点だった。


「えっ!? 確か、満点って150点ですよね……!? それじゃあこれって……。」
「150点じゃあないんだなー、何せレギオンを撃破したんだからね。Bランクのあまり強くはない個体だけど、それでもポケモンの技と自分たちの知恵だけで倒すのはとても難しいんだ。だから特別に大幅加算してるよ。よく頑張ったね。」

カイネは二人にニッコリと笑いかける。どうやら試験は大成功に終わったようだ。
既に時刻は正午過ぎ、開けた山頂の広場には高々と日が昇り、二人の活躍を祝福しているかのようだ。

えっこたちは山の裏側へと下る道を通り、その日の夕方には村の宿屋へと辿り着いた。宿屋で疲れを癒やし、翌日にえっことローゼンはアーク行きエレベータへと乗り込んでいった。



Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/17(日) 13:51 )