Chapter 0 -新たなる脈動-
Episode 2 -Stairway-
 巨大な怪物を前にしたえっこ、シグレ、ローゼンの3人。探し求めていた幼馴染の少女・ローレルと思しきポケモンを抱きかかえ、えっこの瞳には覚悟の光が灯る。

「要は近づかなきゃあいいんだ、なら俺の出番だな。」
シグレは全身に力を込めて攻撃を放つ。太い竜巻のような木の葉が轟音を立てて逆巻き、怪物に直撃した。さしもの巨大な怪物も、まるで無数のナイフのような木の葉に貫かれて体勢を崩し、体の芯に響くような音を立てて倒れた。

「あれは、リーフストーム……。凄い…。」
「フッ、案外見掛け倒しだった訳か。他愛もないな。」

しかし、次の瞬間怪物はゆっくりと身を起こすようにして、八面体の身体の頂点を軸にして回転を始めた。

「やっぱりそうは問屋が卸さないってことだね……。」
「だが確かに感触はあった……!! もう一度叩き込んでやる!!」
シグレは再びリーフストームを放とうとするが、先程よりも目に見えて竜巻が細くなっていた。

「ダメだ、シグレさん!! リーフストームはその威力と引き換えに、しばらくの間あなたの技の威力を大きく下げてしまう……!! 連続で撃ったりしたら、まともに戦えなくなってしまう!!」
「何だと!? クソっ、とっておきの技って訳かよ……!!」

シグレは咄嗟に技を解除する。一方のローゼンは素早く近くの木に駆け上がり、急下降するように怪物へと向かっていった。

「やれやれ、それじゃあ僕が潰してあげるよ。まずはその物騒な刃を圧し折ってみようかな?」
まだ回転がゆっくりな間を狙い、ローゼンは怪物の身体に付いた刃の一本めがけて、電撃をまとった体当たり・スパークを放った。

「何っ!? そんなバカな!?」
刃に触れた瞬間、ローゼンが驚きの声を上げる。刃は鋼鉄のような硬い物質ではなく、樹脂のように適度な弾力を持った質感だったのだ。

ローゼンの体当たりの力は、たわんだ刃によって分散され、刃先端の反動により跳ね飛ばされてしまった。

「ローゼンさんっ!!!!」
えっこがケロマツの身軽さとジャンプ力を活かしてローゼンを受け止める。ローゼンは少し傷を負ったものの、何とか無事で済んだようだ。

「なるほど、よく出来てやがるぜ……。あの柔らかい刃、回転すれば鋭く切れるが、止まれば弾力で折れないということか。面倒な代物だな。」
「大丈夫ですか、ローゼンさん?」

「ああ、助かったよ……。でも間近で見て分かった。シグレのリーフストームは確かに効いてる。無数の細かい傷が、あいつの身体に付いていたんだ。意外と身体も柔らかいみたいだね。」
「だがあの威力はもう出せねぇ。それにいくら身体が柔らかくてもあのでかさだ。致命傷を与えるくらいに刺し貫くことは難しい……。」

その時、えっこが弾かれたように立ち上がった。









 「柔らかい……。そうだ、それだ!!!!」
「何だ? お前、強力な技でも使えんのかよ?」

「いえ、俺も、恐らくシグレさんもローゼンさんも、奴の体を貫くような一撃は出せない……。でもこの戦い、勝機が見えた!!!!」

えっこはローレルを抱え、回転を強める怪物の前に立ち塞がった。

「あのバカ、死ぬ気か!?」
「いや、あれは何かを実行しようとしている……。相手をはめる作戦があるような、自信に満ちた姿だよ。」

驚くシグレに対し、ローゼンがぽつりと呟く。怪物が突進を始めた瞬間、えっこはその足元めがけて水を吐き出しながら、小高い崖のある方へと走っていった。見上げる崖は切り立った岩壁が剥き出しになっており、えっこの背後を完全に塞いだ。

「よし、後はこれでっ!!!!」
えっこが叫んだ瞬間、何かがスリップするような音と共に大量の泥が跳ね上げられ、その後を追うように大量の赤い飛沫が高く飛び散るのが見えた。

「うわぁ、2人揃ってミンチにでもなっちゃったか……。」
「いや、違う……。あれをよく見ろ!!」


えっこはローレルに覆いかぶさるようにして丸まっていた。
怪物の頂点辺りは、根本から折れ曲がった自分の刃で斬り落とされ、そこから大量の血のような液体が流れ出ていた。

「そうか、泥だね。さっきの放水は、攻撃のためじゃなくて、この粘り気のある土をぬかるませるため……。」
ローゼンは足元の地面を見て呟いた。森の中ということもあり、細かな粒の、泥っぽい感触の地面がそこにはあった。えっこはそこに大量の水を含ませ、滑りやすい泥を生み出したのだ。


「そして奴を滑らせ、背後の岩に激突させた。あの硬い岸壁だ、回転が速くても、刃は曲がっちまうだろうよ。そして回転が続いてるが故に、途中で折れ曲がった刃で自分自身を……。」

刃が一枚だけ根本付近から折れ曲がっているのに気が付いたシグレ。折れ曲がった刃により、怪物は勢い余って自身の身体を切断してしまったのだ。怪物はさすがにこの一発が深手となったのか、回転を止めて動かなくなっていた。


しかし刹那、巨大な怪物は瞬時にいくつもの小さな黒い影……様々なポケモンのような影に姿を変え、えっこを取り囲んだ。

「なっ!? こいつら、分裂することもできたのか!?」
えっこは退路を探るが、大量の小さなポケモンの影にぐるりと囲まれ、逃げ場が見当たらない。と、その時。

「目を伏せなっ!!!! サングラスボム!!!!」

誰かの叫ぶ声が聞こえ、えっこは咄嗟に目を覆った。その直後、爆発音と共に凄まじい閃光が辺りを覆った。










 えっこが再び目を開けると、えっことローレルはシグレたちの元へ移動させられていた。その前に立ち塞がった3つの影。

「あなた方は一般のポケモンですね? お怪我はありませんか?」
青い子犬のようなポケモン・リオルが穏やかな声で振り返りながら尋ねた。中華風の青い拳法着に見を包んでいる。えっこは静かに頷いた。

「ここは私たちに任せて。あなたたちがどうやってあの『レギオン』を撃破したか分からないけど……。今は分裂して『モノノケ』の群れになってる。すぐに終わらせるから。」
緑色の頭に茶色い身体のポケモン・ハリマロンが大きな杖を構えてそう言った。まるでファンタジーの世界から飛び出してきた魔導師のような出で立ちは、どこかとても心強く思える。

「さて、その雑魚どもをさっさと始末しようかね!!」
ハナカマキリのようなポケモン・ラランテスが身にまとったスカーフの裏側から小型拳銃を覗かせる。通常のラランテスと異なり、コートのように長く伸びた後ろ羽根と、頭に被った紺のつば付き帽がとてもファッショナブルに見える。


「『スティールスピア』!!」
ハリマロンが叫ぶと、金属製の槍の穂先のような物がいくつも発射され、黒い影を次々と貫いた。黒い影たちは、身体から血のような液体を流して消滅していった。

「攻型・『蒼転蹴』!!!!」
リオルはまるでコマのように身体を軸にして回転し、右足で回し蹴りを放つ。その足先には、青いオーラのようなものが一瞬見え、怪物を10mほど遠くに蹴り飛ばした。

「へへっ、設置完了だよ。ツォンとメイメイに見とれてボーッとしてんなよ、モノノケさんよ!!!!」
ラランテスが不敵に笑う。既に黒い影の群れの最中にいくつかの手榴弾が落ちており、間もなく音を上げて爆発した。

3匹の活躍により、黒い影の化け物たちは瞬く間に一掃された。その直後ラランテスが懐から小さな壺のようなものを取り出すと、化け物たちの血のような体液が、壺の中へと吸い込まれていった。








「アンタたち、大丈夫だったかい?」
「ええ、何とか……。少し擦りむいた程度です。」

「それにしても驚きですよ、僕たちのような『ダイバー』ならまだしも、あなたたちのような一般のポケモンがレギオンを……。しかもあれはAランクの反応を示していた個体。僕たちダイバーでもかなりの危険を伴うというのに……。」
「何なんだい? そのダイバーとかレギオンとかって?」

近づいてきたラランテスとリオルに対し、ローゼンは何も理解できずぽかんとした様子で尋ねた。


「!? アンタたち、ダイバーはともかく、レギオンやモノノケについて聞いたことくらいないのかい? 随分な騒ぎになってるってのに……。」
「こちとら知らねぇから聞いてるんだ。それがさっきの化け物の名前なのか?」
驚いた表情を見せるラランテスに、シグレが呆れた顔で問い直す。すると、ハリマロンがこちらの方を向いて話し始めた。


「『モノノケ』……。それがさっきの小さな化け物のことよ。姿形は真っ黒なポケモンの影なんだけれど、知能は低くて本能のまま襲ってくるの。どうやらポケモンの生き血を求めているらしいけど、それ以外のことはよく分かっていないわ。」
「そして、時にモノノケは合体して一つの『レギオン』と呼ばれる形態になることがあります。その大きさや形は様々ですが、黒い身体に核を持っていて、撃破すると血のような赤い体液を流します。」

「私たち『ダイバー』と呼ばれるポケモンは、1年前から急に現れたこのレギオンやモノノケの退治に追われてるって訳。一般のポケモンでは手に余る相手だから、専門のプロじゃないと駆除は難しいしね。」

ハリマロンとリオルは、レギオンやモノノケ、そしてダイバーのことについて説明してくれた。その時、えっこは何かを思い出したように突然慌てて飛び退いた。


「うわっ!? そ、そういえば何で俺たちポケモンと会話を……!?」
「はぁ? やっぱりポケモンって奴は人間と口が聞けねぇもんなのか?」
「ええ、一部の例外はあれど、基本的に鳴き声を発するだけのはず……。それにまるで人間みたく振る舞っているなんて……。」
慌てふためくえっこに対し、ラランテスたちは肩をすぼめて首を傾げた。


「ニンゲンってアンタたち……。あのおとぎ話とか言い伝えとかに出てくる奴のことかい? そんなものいる訳ないじゃないのさ。」
「いる訳ないって、どういうことなんです? 俺たちは人間なんです、こっちの世界に来てからポケモンの身体になってしまって……!!!!」

「あのぉ……大変ご無礼と知りつつ恐縮ですけど、さっきのレギオンと戦ってどっか頭を打たれたんじゃ……。」
「何だぁこの犬っころ!? 俺たちの頭がイカれてるってのか!?」

リオルに対してドスの効いた声と共に睨みつけるシグレ。喧嘩でも始まりかねない状況を見て、慌ててローゼンが割って入った。


「まあまあ、そうカッカしないのー!! それで、この世界には人間はいないってことなのかな? 信じてもらえないかも知れないし、僕ら自身もこの状況が正直飲み込めてない。だが、僕ら4人が人間だったのは事実なんだ。」
「これは……。もし本当なら凄いことに……。けど、不確かなところもあるわね。いずれにせよ、今度父に相談してみるわ。私の父は大学の先生なの。何か知っているかもしれない。今は出張に行ってるから、また今度になるけどね。」

ローゼンの言葉に対し、ハリマロンは難しい表情のまま、頭を捻りながら呟いた。









 「そうだ、この世界にやってきたばかりみたいな語り口してたね、アンタたち。行くアテはあんのかい?」
「あ、そういえば……。俺たちはまだこの世界のこと何も分からないし、どこに行けばいいのかも……。」

「それなら、アタイたちの住んでる街に来る? 住む場所とかもあるし、家とか家族を失ったポケモンを保護することもよくあるから、誰も拒絶したりはしないさ。」
「街なんてものがあるのですか!? それなら是非!! ねぇ、シグレさん、ローゼンさん?」

「うん、そうしようか。ローレルちゃんを連れたまま、彷徨い歩くのも危険だしね。」
「勝手にしな。」

シグレとローゼンはラランテスの提案に同意しているようだ。えっこの問いかけに、二匹は迷うことなくそう答えた。


「なら、アタイたちについてくるといいさ。アタイは『ルーチェ』。見ての通り、ラランテスっていう種族さ。そこの緑の子がハリマロンの『メイ』、青いおチビちゃんがリオルの『ツォン』だよ。よろしくね。」
「僕はえっこといいます。そこのジュナイパーの彼がシグレさん、エモンガの彼がローゼンさん、そしてこのピカチュウがローレル。俺の大切な人です。」

「ほぉー、そりゃいいじゃないか。……何か眠っちまってるみたいだけど、大丈夫? その子。」
「さっきから気を失ったままだ。俺たちにも何がどうなってるか分からねぇ。ただ、あまりほじくり返すと暗い顔しやがるんでな。詮索しないでやってくれ。」

「あー……そうなんだね……。ゴメン、配慮が足りなかったね。」
「いえ……。きっと一時的に気を失ってるだけだと思います。さあ、そんなことより行きましょうか。」

えっこはローレルの話題を遮るように、ルーチェたちに促した。ルーチェはえっこたちを連れて、森の出口へと進んでいった。








 「さてと、もうすぐ街だからちょいと待ってな。」
「はぁ? 街なんてどこにも見えやしねぇぞ?」
シグレが辺りを見渡す中、ルーチェは腕に付けた装置を操作した。すると、突然一行の目の前に、光の鎖に繋がれた台座が現れた。

「な、何だこれは!? こんなもん、さっきまでなかったぞ!!」
「普段は魔力障壁で周りから隠してありますからね。僕らが呼び出さねば、触れることもみることもできませんよ。さあ、乗ってください。」
ツォンに促され、一行は台座に乗り込んだ。台座はエレベータのようにするすると引き上げられていく。みるみる内に地上の景色が眼下に小さく消えていき、雲の中を突っ切って台座は上昇を続ける。

雲の層を登り切ると、上空に巨大な陸地のようなものが見えた。

「な、何なんだいこれ……!? 空に陸地が浮かんでる……のか……!?」
「ええ、あれが私たちの暮らしている天空の大地・『アーク』よ。」
目を丸くするローゼンに対し、メイは落ち着き払った様子で答える。やがて台座は陸地の中へ吸い込まれ、アークの地表へとえっこたちを引き上げた。


(To be continued...)

Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/16(土) 13:51 )