Chapter 0 -新たなる脈動-
Episode 1 -Encounter-
 「えっ……!? これってケロマツ……!? ポケモン……!? 俺たちの世界にもいたあの不思議な生物……!? 俺がポケモンに、ケロマツになったのか……!!?」
カルスター王国に住んでいた少年・えっこ。彼は創世神と名乗る存在の手により愛する人・ローレルを救うべく異世界へと飛ばされ、そこでポケモンに姿を変えてしまった。

「とにかく、行動を起こそう。何とかして状況を把握しないと……。こんな状況信じられたものじゃないけど……。そうだ、さっきの二人は…!?」
えっこは頭を抱えてパニックになりながらも、深呼吸して落ち着くと、その場を駆け出した。

そのとき、走り回るえっこの顔を何かが掠めた。思わず足を止めたえっこの頬から、細い血の筋が流れ出す。えっこは何かが飛んできた方向を睨みつけた。

「お前、蛙の妖か? 何にせよ、俺の行く先の邪魔になりそうだ。消させてもらう。」
そこには翼で身体を覆った、えっこよりも大きな身体のポケモンがいた。緑色の羽根がさながらフードのように頭部を覆っており、その奥から鋭い真紅の眼光が顔を覗かせていた。その姿を見て、えっこはある一つの確信を抱いた。

「間違いない、その目つきにその声……!! あなたはさっきの……!!!!」
「お前、まさかさっきの小僧……!!」
そう、そのポケモン・ジュナイパーは先程えっこと同じ場に居合わせた男・シグレだったのだ。彼もまたえっこと同じく、ポケモンに姿を変えられたようだ。

「俺やお前のその姿……。一体何なんだ? どうしてこんなことに……? この身体は妖魔の類なのか?」
「どうしてこうなったかは分からない……。ただ、この生き物はポケモンと呼ばれる生物です。」
「ぽけ……もん…だぁ!?」
「ええ……。確かもう一人、きっと俺たちと同じくどこかにいるはずです。彼を見つけてから、ポケモンについては詳しく説明します。」
えっこはきょとんとした表情を見せるシグレをよそに、再びその場から勢いよく走り出した。すぐにシグレもその後を追いかける。






 「あー、君たちもしかして…さっきの二人だね。」
突如、頭上から声がした。えっことシグレが頭上を見上げたと同時に、小さな身体が地面にストンと音を立てて吸い込まれていった。

「その姿……。やはりあなたも…。」
「僕はローゼンだよ。君は確か、えっことか呼ばれてたっけ?」
「ええ。俺の名前はえっこ。あなたは……。」

「俺の名は仙波時雨だ。」
「シグレだね、よろしく!!」
「誰が呼び捨てにしていいっつった?」

シグレが睨みつけたローゼンのその姿は、白と黒のカラーに大きな耳が特徴の小さな身体を持つポケモン・エモンガだった。円らで可愛らしい瞳を持つはずのエモンガだが、ローゼンに限っては不気味な狂気を思わせる目つきをしていた。


「それで、この姿は一体何なんだろうね? 君たちも僕も、人間ではない何かへと姿を変えられたみたいだ。」
「これはポケモンと呼ばれる生き物です。やはり、シグレさんやローゼンさんの世界には……。」
「そうだ、こんな生き物なんぞいやしなかった。そのポケモンとやらは何なんだ? 今度こそ吐いてもらうぜ、小僧よ?」


シグレとローゼンが見つめる中、えっこは深く頷いて説明を始めた。

「ポケモンとは、俺の住むカルスター王国にも多く生息していた不思議な生物です。その姿や形、大きさなどは様々ですが、そのどれもが人間にはないような特殊な能力を持っています。」
「特殊な能力、かぁ。」
「ええ。ある者は炎を操り、ある者は目に見えぬ速さで飛び回り、ある者はどんな格闘技者でも敵わぬ怪力を誇り、ある者は超能力を操り……。その能力や技は多岐に渡ります。」

「なら、俺たちにもそんな能力が付いたってのかい?」
「その通りです。俺のこの姿はケロマツと呼ばれるポケモン。背中に付いたこの泡で攻撃を受け止めたり、水を圧縮して刃のように扱ったりする技を得意とします。」
えっこはそう言うと両手を重ね合わせ、力を強くこめた。次の瞬間、手裏剣型になった水圧のカッターが放たれ、近くの木の幹に命中した。

「なるほど、今のお前の水の一撃で幹が抉れてやがる……。」
「そしてシグレさん、あなたのその姿はジュナイパー。能力は先程から無意識の内に使っているはずです。俺の顔を掠めた一撃……あなたはその羽根を弓矢のようにして撃ち出し、はるか遠くにいる目標をも的確に貫くことができる。」
「フッ、そいつは好都合だ。人間だった頃、俺は弓矢で道行く人間を片っ端から屠っていたからな。使い慣れた武器とあらば、ありがたいことこの上ない。」
シグレはその大きな翼を広げて満足げに呟いた。

「ねーねー、僕は!?」
「ローゼンさん、あなたはエモンガになっています。その腕に付いた膜を広げて空を滑空する能力と、頬に備わった電気袋から強力な電流を発する能力を有しています。」
「へー、それは面白そうだ。案外、ポケモンも悪くないかもね。」
ローゼンは頬から電気をほとばしらせながら、どこか好戦的にも思える雰囲気でそう呟いた。

「俺たちがポケモンである以上、もしかしたらその能力を使って戦う場面が出てくるかもしれません。」
「望むところだ。人間だろうがポケモンだろうが串刺しにしてくれる。」
「ただ、そうなった際に気をつけなければならないことがあります。それはタイプの相性。俺たちはそれぞれ異なるタイプ、つまり属性を持っています。技や能力にも属性があり、得意な相手と苦手な相手が存在します。」
「なるほど、戦う相手を間違えたら苦戦を強いられる可能性があるってことだね。」
「ええ……。例えば俺は水タイプ。炎や地面タイプのポケモンには有利ですが、電気や草タイプの攻撃は苦手です。因みにシグレさんは草・ゴーストタイプだから炎や虫やゴーストタイプ自身も苦手。ローゼンさんは電気・飛行タイプだから、地面は全く効かないけど岩や氷タイプには要注意です。」
えっこは2人に説明を続けた。生き残りに関わる重要な話題だけに、2人もさすがに真剣な面持ちで聞き入っていた。


「確かこっちで死んじまったら、もう二度と復活することはできない……。このポケモンの身体がどれ程の強さかは分からないが、そのタイプやらを考慮せずに無闇に突っ込むことは破滅を招きかねん、そういうことだな?」
「なら、当分は彼と一緒に行動した方がいいね。だって僕たち、ポケモンのことはさっぱりだから。相性悪いタイプと戦って死んだら大変だぁ。」
「チッ、小僧のお守りは柄じゃねぇが仕方ない。」

ローゼンの提案にシグレも同意し、一向はしばらくの間行動を共にすることとした。森の中を突き進むと、異様な雰囲気に包まれた広場に出た。いや、それは単純な広場とは呼べる場所ではなかった。







 「この場所……。何かがおかしい。」
「ああ。のどかという言葉が似つかわしい自然の森で、木々がこんな物騒な切られ方してる場所があってたまるもんかよ。」
その広場、というより木々がなぎ倒されて開けた場所には大量の切り株が植わっていた。巨大な刃物で強引に叩き切られたとしか思えぬ木々は、辺り一面に無残な様子で横たわっている。

一体誰が何の目的でこんなことをするだろうか? 木材目的の伐採とは到底思えず、まるで巨大な怪物が大きな斧を振るって暴れたかのような光景が、付近数十m四方に渡って広がっていた。慎重に歩みを進めるえっこたちだったが、突然えっこが声を張り上げる。

「あれっ!!!! あの姿は……!!!! 間違いない、ローレル!!!!」
えっこが遠くに倒れている影を指差して駆け出した。シグレたちも訳が分からぬまま彼を追いかけた。

「おい小僧、こんな場所で突然走り出すんじゃねぇ!! 何が潜んでいるかも分からねぇってのに……!!!!」
「すみません……。でもこの子、やっぱりローレルだ……。この服、この茶色の上着に赤いリボンタイ……。いつもローレルが身に着けていたものだ……。でも何で……。ローレルまでもが……。」
えっこが抱き上げたローレルの身体。その身体もまたポケモンへと姿を変えていたのだ。

「ローレルがピカチュウになってしまっている……。ローゼンさんと同じ電気タイプのポケモンです。」
「そのローレルちゃんって子、一体何者なのかな?」
「彼女は俺の幼馴染です。そして、俺のせいで命を落とした大切な人……。」
ローレルがポケモンになってしまったショックと思い出したくない過去からか、えっこの表情は泥のように重く沈んで見えた。空気を読まず深入りしようとするローゼンを遮るように、見かねたシグレが切り出す。

「何でそいつがこっちの世界に来たかはどうだっていい。連れてくんだろ? まあ、せいぜい守ってやりな。」
「ええ、ありがとうございます……。」
えっこは意識を失っているローレルを背負い、再び歩き出そうとした。その瞬間、何かが重く、しかし鋭く風を切るような音が背後から聞こえ始めた。

「おい冗談かよ……。こいつもポケモンなのか? なあ、えっこ!!!!」
「これはポケモンなんかじゃない……!!!! 一体どうしてこんなものが!!?」

シグレたちが振り返った目線の先には、巨大な影がこちらへ向かって伸びていた。細長い八面体の身体に、中央から伸びる4つの刃のような薄い板状の物体。中央に濃いピンク色のコアを携え、その身体全体が墨汁を混ぜた水の如く、まだらに、そして歪に黒光りしていた。
大きさは10mほどあるだろうか? その巨大な刃付きのコマのような影が暴れ狂った結果が、この異様な広場であることなど誰が見ても明白なことだった。

「ヤバイ、こっちに来るぞ!!!!」
シグレが叫んだ瞬間、黒い影は高速回転しながらえっこたちの方へと突っ込んできた。咄嗟に身をかわして伏せる一行。黒い影はそのまま勢いよく遠くの木々に衝突して動きを止めた。巨大な刃によって切り倒された太い木々は、そのどれもが幹の中ほどから一直線に分断され、真っ二つになっていた。

「ありゃりゃ……。あんなのに斬られたら、僕ら全員一瞬でお陀仏だね。」
「考えたくもないですね……。ともかく奴が遠くにいる内にここを離れないと……!!!!」
しかし、えっこたちが逃げ出そうとした途端に、黒い影は再び回転を始め、えっこたちへ向かって猛スピードで突撃してきた。

「間違いねぇ!!!! 奴は俺たちを狙ってやがんだ!!!!」
「うわぁっ!!!!」
今度も辛うじて攻撃を回避するえっこたちだったが、ローレルを抱えているえっこはバランスを崩してしまう。ローレルが地面に放り出されてしまい、えっこはすぐに彼女の元へと急いだ。

「違うっ!!!! 『僕たち』じゃない!! あの化け物の狙いは恐らく…!!」
ローゼンがえっこたちを見つめて叫ぶ。黒い影はスピンしながらえっことローレルの元へと突撃していく真っ最中だ。

「こいつ……!!!! ローレルを狙っている!!!!」
えっこはローレルの前に立ち塞がり、姿勢を低くして構えた。

「おい小僧、ぶっ殺されるぞ!!!!」
「『みずのはどう』っ!!!!!!」
えっこが放った水圧の輪が、高速回転する黒い影の接地点付近に命中する。その瞬間、黒い影が少しだけ回転の勢いとみずのはどうの勢いによって浮き上がり、ローレルと共に身を伏せたえっこの上ギリギリを掠めて飛んでいった。

「よし、何とかやり過ごした……。」
「だがローレルがああして倒れてる上に狙われてる以上、奴から逃げ切ることは難しい……。どうするんだ?」
「じゃあローレルちゃんを囮にして逃げよー!! だって僕たち、死んだら元も子もないし。」
「ふざけないでください!!!! ローレルは俺が必ず守り抜く……!!!! もう失ったりはしない。絶対に、絶対にこの化け物を倒す!!!!」
えっこはその黄色い瞳を黒い影に向ける。その背中は、絶対に諦めまいとする強い意志をひしひしと感じさせるように思えた。

「あーあ、僕知らない。行こう、シグレ。」
「……。やれやれ、俺は奴と戦うぜ。」
「……何言ってんの? 正気? あれに勝てるとでも?」
「さあな。だがポケモンのことについてよく分からねぇ以上、現状あの小僧だけが頼みの綱だ。仮にこの先この世界の人間に出会えたところで、俺たちがポケモンになっちまった以上そいつとは口が聞けねぇ可能性が高い。勝手にくたばられても困るんでな。」
「はぁ……。仕方ないなぁ…。じゃあ僕も付き合うよー。」
シグレとローゼンがえっこの元へと加勢する。えっこが見つめる黒い影は、ローレルを細切れにするまでは決して攻撃をやめることはないのだろう。既にその体は高速回転を始めていた。

「(勝てるだろうか、こんな化け物に……。でもやり遂げなければ……!! 俺は必ずローレルを連れてカルスターに戻る!! 信じなきゃ、運命は変えられる!!!!)」
えっこはローレルを力強く抱き上げ、次の一撃に対する準備を整えていた。

(To be continued…)

Aiccaud(えっこ) ( 2019/03/16(土) 13:51 )