第三十一話 伏兵
side アビス
「…よし、皆揃ったね。じゃあ、行こうか」
買い物を終え、カフェで皆と合流してから集合場所へ向かうと、そこには既にギルドメンバーが揃っていた。
ウィリフの言葉で、全員が動き出す。その動きは無駄がなく、そして不意だった。俺が慌てて追うと、次いでミオが、ウォルタが、どこぞの列車のようにつられて動き出した。
縄の無い電車ごっこの間、俺はギルドで立ち聞きした会話を思い出していた。
「…とまあ、ボクは色々と野暮用があるから先に行ってるね。パルダ、皆をよろしくね」
それだけ言って信頼出来るリーダーは、すたすたと何処かへ行ってしまった。そのダンジョンに着く前に。
頼れる親方は……表情からするに、ラプラスにでも会いに行くのだろうな。
否、勿論表情だけじゃない。脳細胞にどのように電気信号が行っているかも見た上で…冗談だ。俺はそんな超人スキル持ち合わせてない。
要は勘だ。それと雰囲気。海とか渡りそう。というか渡りたい。
海を渡るのならラプラスだろ、と俺は思う。サメハダーも良い。XYではラプラスが波乗りするとちゃんとラプラスに乗ったが、ORASではサメハダーとかが実装されてラプラスは表示されない。うむむ。どちらも捨てがたいのだが…まあ、今ここだったらゲームじゃないからちゃんと表示されそうだが。
もう一つ、ええと……ああ、そうそう。ゲーム関連で思い出した。人間だったころの記憶、っぽい何か。なんか、こーいうゲームあった気がするんだよなぁ。
思い出しかけた経緯?
移動中に、ジャスティスと少し話した。内容は、昔の…人間の俺の事や、些細な雑談。
話してる間に、互いに違和感を感じた。例えば、こんな会話で。
「あんときにアビスがオレを蹴ったのは驚いたな…しかも腹を。痛くてうずくまっちまったじゃねーか……」
しみじみと呟くジャスティス。
それに肩をすくめて、俺は答える。
「その直後にお前の頭の上を敵の攻撃が通過しただろ?俺が蹴らなきゃ頭に直撃してたんだ、感謝しろ」
へいへい、とやるきなく答えるトカゲ。
「かんしゃかんしゃあめあられー。」
棒読みだった。
「こら、あのときも同じように感謝したろ。つか感謝してないだろその態度…」
呆れたように、ぶつくさと文句を言ってしまった。その時。
俺とジャスは、揃ってあれ?と首をかしげた。
違和感。棒読みのジャスティスに?横暴に感謝を求めたという俺に?
違う。
それは今まで通りで。
今まで通り?
今までとは?
……それだ。
それが違和感。
知らないはずのそれを、無意識に話している。
忘れたはずのそれを、思い出している。
「……アビス。思い出したのか?」
俺の顔をまじまじと見てくるジャスティス。やはり気になるのだろうか…まあそうだよな。
だって、ジャスティスは昔の俺と親しかったんだから。
親友、だったんだから。
その時の記憶が無い、ってことはその時の俺は消えてしまったようなもの。死んでしまったような…そんなもの。
それが蘇るというのは、死んだ友が生き返るようなものなのだろう。
……しかし、実際話してて思い出せたのだが…その事について思い出そうとすると、それ以上は進めないのだ。見えない壁に邪魔されるかのような、掴めない雲を掴もうとするような。
「……………ごめん……さっきの話の間で、少し思い出しそうだったんだけど……ダメだ、霧でも掴もうとしてる感じ…」
苦笑して見せると、ジャスも表情を微かに弛ませた。しかしその表情の影に、微かな落胆の意が感じてとれた。
……悪かったな、ジャスティス…
罪悪感がチクリと胸を刺す。悪い事をしたような気持ちになるのは何故だろうか。
…今も、ちょっとジャスティスの目を見るのが怖かったりする俺は、相当の馬鹿だ。
と、その後ろ姿を見ながら考えてしまうのだった。
岩の洞窟を見る度、最初の冒険を思い出す。
冒険とは言えない、まるで子供の真似事のような感じだったのは否めないけど。
それでも、初めてのダンジョンに心踊らせたものだ。
技があっさり使えたのは驚いたけど。
そういえば、最初の錬金術もあそこでだったっけ…
なんてらしくもない感慨を受けながら、俺は目の前の洞窟を見た。
既に仲間は、その一歩前まで行っている。俺の隣にはミオが、寄り添うように立っている。リア充爆発しろとか言われても、まだ片想いなのだから……
閑話休題。
どこか寂しげな茶色の岩肌は、景色の殺風景さを底上げしている。
崖の下というのは、やはり殺風景なのだろうか。
まあそれはともかくだ。今丁度、俺たちはこのダンジョンに入ろうとしている。
その前のパルダとお話シーンが飛んでる?誰ですか、ぱるだって。
ああ、冗談だって。
パルダが言うには、ここには一度親方と一緒に来たことがあるらいい。
その時、一番奥で複数匹のポケモンに襲われ、相手を見ることすら出来ずに一撃ダウン。
気付いたら親方に介抱されてた、らしい。
パルダが受けた技は、<もうずぶ濡れーっ!>って感じのものだったらしいが…そんな技があるのだろうか。
水タイプだとしたら、俺にとっては相当有利だ。
としても、パルダは相当の腕前だったはず…
倒せるかどうかは五分五分ってとこだ。
「割愛しまくったけど…で、本題に戻ろう。ここに入る際の編成とリーダーだけど…」
そう、そこの話の途中だったのだ。
「ここの難易度も出現ポケモンも分からないし、全員がまとまって一つのグループ、リーダーは副親方でここに来たことのあるパルダが適任だと、俺は思うんだが…」
「何をいう、ここは俺がはっ!?」
ダイヤが名乗り出て、体を乗り出して来た。即座に殴り倒すジャスティス。
「わ、ワタシなんかでいいのかっ?」
何故か躊躇するパルダ。その目には、うめき転がる憐れなビクティニの姿は写っていない。
「何を言ってるんだ。結局、あんた以外には居ないだろ」
「そうですわっ!パルダが一番リーダーシップとれますもの!」
「今までにも、親方様を補佐してきたじゃないでゲスか。今回もお願いしますでゲス!」
「いやいや、ここはあたしぐふっ!?」
学習しない奴、一名。ナズナが手をあげたため、ソフィアが尻尾で殴った。
地面に転がる憐れなキノガッサ。二名が撃沈。
「ワタシにも、パルダ以外には居ないと思いますわ」
「ヘイヘイ!何を躊躇ってんだ?」
「躊躇うのならあたしげほっ!?」
さらに学習しない奴、追加一名。
今度はミコが手をあげた。即座に俺が剣の柄で殴る。
悶絶したリス。
無惨に転がる三匹を気にも掛けず、俺はドームと交互に言った。
「だからさ、パルダ。押し付けてるんだから受け止めて全うしてくれ」
「何時もの様に、号令かけてビシッと決めてくれよ、副親方!」
その言葉を、音符鸚鵡はブルブル震えながら聞いていた。
くるりと後ろを向くパルダ、暫くしてちーんっ、というお馴染みの鼻水をかむ音が。
───可愛いとこあるなー……
やっと振り返ったパルダの目は真っ赤に腫れ、鼻も微かに赤かった。
何より声が震えていた。
「わ、ワタシは、とと、とてもダメなポケモンだ…だが、弟子達に任されたからには、押し付けられて任されたからには、全うして見せようじゃないか!皆!」
そこで胸を大きく膨らませて息を吸った彼は、大音量でこう叫んだ。
「これから、星の停止を食い止める為!我らギルドは、全力を、死力を尽くすぞ!皆、準備は良いかっ!」
『おおおおおおーーーーっ!!!』
勇ましい声が、谷間に、世界に響いた。
「お、置いてかないで……」
「放置とか、酷いぞっ……」
彼らを、つまりダイヤ、ミコ、ナズナを忘れて行った事に気付いたのは、ダンジョンももうじき終わるといった地点だったことは、ここに明記しておこう。
ということで、三匹ほど欠けた状態で、俺達は先を目指した。
それに気付かずに。
かなり酷いけど。
ここ、岩場のダンジョンは<磯の洞窟>と呼ばれている。相変わらず率直なネーミングだが、もう突っ込んでもしょうがないのでスルーする。磯野って何だ、某庶民的アニメか。
現在、ギルドプラス異世界のご一行で大規模なグループで動いている。中心に俺とパルダ、それを囲むように皆が外側を向いて円になっている。
ここは……もう数えるのは諦めたが、後半といったとこだろうか。
俺たちの動きもパターン化してきている。
階段を上がり次の階にワープしたら、全員で一旦陣を組む。その部屋を突破したら、各自小さな複数のチームとなって階を探る。
互いに連絡をとりながらなので、効率はグンと増した。指揮は俺とパルダで割り当てている。まあ俺は、パルダの負担を減らすため暫定的に決まったのだが。
とまあ、こんな感じで今の場所、<奥地>とか言ったか?俺はどうしてもお口と間違えてしまうのだが…
閑話休題。
中間地点の休憩を挟んでいて、尚且つ俺たちは相当のレベルなために、さほど疲れずダメージ受けずで突き進めた。
「悪い、アビス!そっち逃げた!」
「注意してください!向かって右の角に150メートルまで接近中です!」
唐突に声がかけられた。ジャスティスとローズだろう。どうやら、相当のやり手をひきつけてしまったようだ。
だとしたら、彼らは階段から離れようとしていたのだろう。彼らが囮となっているのだから、階段に向かうのは楽になっているはずだ。
向かってきたのはトリトドン。ウミウシ型のそれは、うねうねと迫ってくる。
その体中に、古い傷跡を見かけた。あれは…火傷?否、違う。似ているが違う。
あれは、電気技による感電の跡。
見覚えのある。
あれは、俺がつけた傷だ。
かつて、<電気ショック>で傷つけた、あのカラナクシ。
彼は、否、彼女だろうか、俺とミオの方へ走ってくる。丁度今は、俺とミオで行動していたのだ。あの時と同じように。
ヤバイ。かなりヤバイ。マジヤバイ。略してマジヤバ。
アイツ、絶対に恨んでる。俺に仕返ししてくる。
今の俺の体力は、錬金術の乱用で十%ほど。しかも、ピカチュウは紙耐久。
やっべー。詰んだわ。
ジャスティスが警告を発したならそれは、かなりの強敵なのだ。そうでなければ、遭遇と同時にジャスがぶっ飛ばしている。
耐えられ逃げられたというのは、生半可な力じゃ無理だからな。しかも四倍耐えるとか。
「ミオ、注意してくれよ」
じりじりと後退しながら、俺が呟く。後方から微かに頷いた気配を感じ、ほっとする。
さて、敵のお手並み拝見だ。すらりと双振りの剣を抜いて構える。
「おい、そこのトリトドン!」
「あの時のピカチュウじゃないっすか!おひさでーっす!」
…………は?
かなり部活の後輩的な空気をかもしだしているそのトリトドンは、かなりフレンドリーだった。かなりフレンドリーショップだった。
「この世界に居るならせめてカクレオンマーケットとか言ってあげなよ…」
「何時から商店からマーケットに昇格してたんだ?」
閑話休題。
トリトドンは、俺たちを見つけると猛ダッシュしてきて、俺たちの前で急ブレーキをかけた。マンガチックなドリフト音が響く。
ハァハァと息を切らせながら、彼が真っ先に俺たちに投げた言葉は、つまり第一声は、これだった。
「はぁ、はぁ……あの……ぜぇぜぇ……み、水、ください…」
ハァハァ言いながら懇願してきた。
ちょ、まて。どこから突っ込めば的確なんだ、この場合は。
とりあえず水の入った水筒をだして、そのトリトドンに飲ませてやる。
ごきゅごきゅと、かなりの早さで水筒を空にしてしまった彼は、ぷはぁと息をついてから俺たちに向き直った。
「あの時の、不思議な術を使ったピカチュウさんと…その彼女さんのイーブイさん、っすよね?」
え?
彼が言ってる場面は明白だが………待て待て。ちょっと待てちょっと待てお兄さん。
今、ミオを何と言った。
明らかに彼女と、俺の彼女と言ったよな。
ぽしゅう、と音を立てて赤くなった俺には聞こえなかったが、後に聞いたところによるとミオも同じ現象にあっていたらしい。つまり、ショートしていたようだ。
その様子を見ていたトリトドンは、まあ仲がよろしい様で何よりです、等とほざいてから本題に入った。
「オレを、仲間に入れてください!」
この通り!と、深々と頭を下げる始末。
何故に?少し表情を見てみると、キラキラと輝いた目付きをしている。
これは、アレだな。憧れてる先輩に会った後輩の顔だ。
予測するに、あの時の無駄に強かった俺達が忘れられなくて、考えながら特訓でもしていたのだろう。多分、俺たちの噂も断片的に聞いているはずだ。
予測通り、彼は次の句にこの言葉を選んだ。
「先輩は心を読めると聞いてはいます。オレの心くらい読んで、状況はわかったと思うッス。そこで、お願いです。オレを、仲間にしてください!」
……そーいえば、俺たちってずっと仲間とか作らなかったよな。
オーバーキルしまくってたから。
まあ、良いんじゃないかな。仲間が増えるってのは。
「ミオは?」
「私は大歓迎!友達や仲間は、いっぱいいたほうが良い!」
即答してくれた。読み通り、だが……ちょっと、寂しいような。
妬いてる?んなわけ…
やりきれない思いを頭と一緒に抱え込む俺。しかし沈んでる場合ではない。
「で、君。名前は?俺もそこまで読めるほど凄腕じゃないからさ」
「あ、はい。えと、シークと言います」
礼儀正しくてよろしい。俺の中でシークの評価点が五くらい上がった。ちなみに満タンは壱万。フフフ、満タンにするのは至難の技なのだよ。
「ではシーク。ようこそ、《希望の深淵》へ。歓迎するよ。俺はリーダーのアビス、こっちは相棒のミオ。よろしくな」
仲間なんて初めてだから、これで合ってるかも分からないが……まあいいや。
「で、だ。今俺たちは世界を救うというちょっとしたクエストをやっているのだが…」
「「「全然ちょっとしてない」」」
見事にジャスとローズ、ミオの突っ込みが重なる。
「何スカそのスケール…」
シークも唖然としている。まあ、ちょっとはしてないな……これが本当にちょっとしたものだったら、何が大したものなんだっての。
こほん、と咳払いをしてから、俺は続けた。
「見た感じ、シークかなり強いだろ。一緒に来るか?」
その言葉に、全員が絶句した。
「いや普通、そこは基地の方で助けをとか…」
「よりによって最前線を…」
「煩いぞ」
皆の反論を一蹴してから、俺は新人の様子を見る。
………まともに強いな……
出てくる敵をばったばったと薙ぎ倒す。
文字通り薙ぎ倒す。<波乗り>で。
あっさりとダンジョンの壁が流れていく。って、ちょと待て。
お前もダンジョンブレイカーかよ!
※ダンジョンブレイカーとは文字通り、
迷宮破壊しまくってるポケモンの事です。
強すぎて技がダンジョン貫通、とかじゃないよな。今までの度重なるダンジョンへの負荷で崩れたんだよな。
貫通ではないと祈ろう。
それにしてもシーク、かなり強い。驚くほどに強い。
あれだな、本家で言うレベル100。
あっという間にその階を攻略して、分かったことが一つ。
シークはかなり強い。
「アビス先輩。あの、これ持っておいてください。必要になると思うんス」
最後になる階段を疾走しながら彼が渡してくれたのは、丈夫そうな縄だった。
何故に縄。
見たところ、普通の縄。普通じゃないのは、芯になっている導線だろうか。
うわあ、電気が通るようになってる。電線だあ。
ワイヤーじゃないから強度が心配ですが。
「いざとなったとき、縄は最強の補助道具ッス。オレ、多分この先の奴等には敵わないけど…先輩なら、多分勝ち目はあると思うッス。だから、手助けしたい」
…成る程な。
後輩の好意は無下に出来ないな。
「ありがと。じゃあ、貰っておくよ」
「返却期限、明日ッスから」
「え、マジで」
アビスは 丈夫そうな縄を 手に入れた!(返却期限:明日)▼
最後の段を踏んで、拓けたそこへ滑り込む。
俺とパルダ、ミオ、シーク、ジャスとローズが広場に躍り出る。残りの皆は、階段の途中に伏せさせて隠してある。これは、念のため安全確保と脱出時の時間短縮のためだ。
ちなみにここで、やっとコラボ三匹忘れて来たのが判明した。結論は、「まあいいか」。
既にジャスは<リーフブレード>を正面に構えている。俺も《エクスカリバー》と《オートクレール》を鞘から抜いて、左右に切っ先を向ける。ローズとミオも背中合わせになっている。
情報が少ないので、対策はそう多くないのだ。せいぜい応戦用意だけ。
ぴりりとした空気に気が引き締まる。緊張が場を支配し、俺の頬には冷たいものが伝う感触がする。
無意識に唾を飲み込み、回りをゆっくりと見渡す。が、フィールドのどこにも
それは見えない。
「何処だ……」
緊迫した空気の中、一人パルダだけが首をかしげていた。
「うーん…」
「どうかしたか」
尋常じゃない角度で首をかしげるオウムに聞いてみた。
「ああ、いや、奴等…どこから襲って来たのだったか…」
ぽたり。
水滴が地面に落ちる。
ぽたり。ぽたり。
何処から?
パルダは上を、天井を見上げた。
その目が、驚愕に満たされる。
まさか。
唐突に、今まで感じなかった殺気を感じた。
ヤバい。
意識が、加速した。
全てがゆっくりと動く。
ミオとローズに向かって、鎌が振り降ろされる。そこに、青と黄色が割って入った。
パルダが、鎌と二人の間に入ったのだと認識する頃には、俺の手はとっくに動いていた。
手首を返し、右手の《エクスカリバー》の尖端で鎌を上に弾く。
しかし、鎌は二つあった。もう片方を視界に入れた途端、左手が動いた。咄嗟に《オートクレール》が鎌を突き、弾く。
群青の剣を持った俺の左手の上をすり抜けるように、さらに鎌が迫って来た。まさかの三つ目。
それを、緑の閃光が下から凪ぎ払う。ジャスの<リーフブレード>だろう。全てがスローモーションの中でも、それはかなりの速さだった。
しかし、だ。詰めが、甘かった。
青と黄色の羽が飛び散る。赤い花弁が舞う。
鎌は、四つあった。
「パルダっ!」
彼の体は、紅い水溜まりに浸されている。
彼の羽が、紅く染まっていく。
親愛なる音符鳥は、死にかけている。
「クソッ。ローズ、ミオ!パルダを頼む!シーク、手伝え!ギルドの皆も、来てくれ!」
その声に、全員が弾かれたように動き出す。しかし。
ギルドの皆と俺たちの間には、先客が居た。
「オウム貝が、三つ…喋ってる?」
「アビス、ここに来てそのボケはどうかと思うよ…」
オウム貝ことオムスターが三匹、ギルメンの前に立ちはだかっていた。
俺たちの前に立っている鎌の野郎は、カブトプスだろう。しかも二匹。
「何でこんなに多いのさ〜……ぼくらの時にはこんなに居なかったと思うよ〜」
「今度そっちの世界を紹介してくれ!絶対にこんなハードモードじゃ無くて済む!」
ウォルタのぼやきに泣き言を言ってしまう俺。しかし確かに、絆シリーズではカブトプスは一体、オムスターは二体だったはず。何で?
「種族を知っているのなら、自己紹介は不要だろうな。それはつまり、ワシらの人数とお前らの人数が合わないからっていう
作者の都合じゃ!」
『メタ発言ヤメロ!』
全員で唱和してしまった。
「しかし、自分の身を盾に庇うとは、つくづく愚か者だな」
ピキッ
嘲るその声に、怒りの感情が溢れた。
声が、溢れた。
「……お前らがどんな生活してきて、何でそんなこと言うように成るほど性格が歪んだのか、俺には予想も出来ない………けど、その侮辱だけは許せない。絶対に、パルダの前に這いつくばらせて逆立ちさせ、三回回ってピッピカチューとか言わせるまで許さない」
「途中からずれてるよ!?」
ミオのツッコミが耳に入った。
「殺しはしないけど、発砲スチロール容器に詰め込んで北海道産とか偽って売る」
「蟹でもホタテ貝でもないからね!?」
「活きたまま」
「残酷!」
「先輩、夫婦漫才ッスカ?」
「「誰が夫婦ですかっ!?」」
こんな感じで漫才繰り広げていると、カブトプスズが吠えた。
「ワシらを忘れるなァ!」
「死ね、愚か者ォ!」
そして、鎌を振り上げ走ってきた。
ヤバい。今度こそヤバい。用意してなかった。
酷くゆっくりと、鎌が迫ってきた。その癖して、体は水の中のようにゆっくりとしか動かせない。体が重い。
パルダは頑張ったのに、格好良く倒れたのに、俺は、このザマか……
諦め半分ならぬ諦め全部で、目を閉じる。
ドガッ
鈍い音。何も感じない。へぇ、死ぬときって痛くも何ともないのかぁ、ってそんなわけあるか。
薄く目を開ける。
そこに居たのは、血に染まった《ドクローズ》だった。
「ケケケッ…《遺跡の欠片》をくすねようとか考えてつけてたってのによぉ…」
「ヘヘッ……俺たちがお前らを庇って倒れちゃ、しょーがねーな……」
「クククッ……生憎、俺たちはここまでの道のりだけで満身創痍だ……お前ら、さっさとこの蟹野郎を倒せよ………そしたら、また今度こそ…《遺跡の欠片》を、奪ってやる…」
「いいから寝てろ屑塵」
「酷すぎやしませんかね、先輩」
弱々しく声をあげる彼らに、辛辣な言葉のナイフを投げつける。しかし、俺の目は水滴で微かに光っていた。
クソッ………まただ……こんな思いは、したくないのに……相手を容赦なくなんて、無理だ……
でも、やらなきゃ。
「………アビス?」
ミオが心配そうに、俺の顔を覗き込む。
「………俺は、皆を……全てを、救って見せる……敵とか味方とか、正義とか悪とか、関係ねぇ……誰にも、傷ついて欲しくない……だから……」
俺はその誓いを胸に、蟹野郎達を睨み付ける。
「負ける訳には、いかないッ!!」
戦闘、開始だ。