第二十八話 三人寄れば文殊の知恵 十匹よったら何の知恵
side アビス in秘密基地(正確にはサメハダ岩内部)
「俺はダイヤ・ウィスプだ。以後よろしく」
「あたしはナズナ。よろしくね!」
戸口に立った二人は挨拶をする。仲間(厳密には助っ人)が増えるって良いな。
…で、だ。
「…これで、揃っちゃったかあ…」
それとなく呟いてしまう。
そう、これで二十一個の歯車が七つの世界に散らばるという事実が成立してしまった。
もしかしたらさらに十四人来て各一個ずつという可能性もあるし…そもそも、公平に散らばってるという保証はどこにもないのだが。
長年(ポケモンになってからまだ数ヶ月だが)の勘ってやつ。
…はいすいません。思いっきり適当です。
でも、作者の事だからこういう所は不公平にせずにやってるはず。どこまでもMrご都合だ。
…このまま俺が回想してると作者の悪口列挙しかねないので、話を進めよう。
「…で、だ。今は…二十四日十二時か。今から三十六時間で歯車二十六個を集めて<幻の大地>を突破して時の歯車をおさめる、と。で、運が悪かったらオプションでディアルガとの戦いがセットでついてくる…か…」
ここの壁にもあった壁掛け時計を見て呟く。無理ゲー極まりないが…待てよ。
ここには超人的なポケモンが十匹もいるじゃないか。
「二十六?二十七じゃないの〜?」
ウォルタが聞く。予想範囲内の質問に、軽く指を振ってみせる。
「フフフ…驚く無かれ。俺は既に<水晶の洞窟>からくすねてある」
テッテケテー!といった具合でバッグに入れてあった群青色の歯車を取り出す。大きさは…俺の顔の三分の一程度。
この劇的な出し方に…男は「おおおおおおお…」となったが…
なんだよ女子軍!「これだから男児は」みたいな目で見るな!
ほら、ミオなんかは純粋な目で見て手くれてるじゃないか!
「ミオさんは…純水剥くなんだよ!」
「それを言うなら純粋無垢でしょ」
ナズナの言葉にミコが突っ込む。どんな誤字だ、おい。
「ピュレでインセクトなんだよ」
「果物の半液体状態で昆虫ってどういうポケモンなの!」
「オレンの実を被ったゲノセクトとか?」
「どっから突っ込めばいいの!?」
「幻のポケモンが何で果汁ハイチュウの宣伝してるか?」
「全然違うよ!」
「ミ○ン○ャンと○ブト無○を合成しよう」
「全然違うソフトネタ出すのは止めて!」
「ポケモンと敵対勢力だから?」
「最近話題の妖怪ブームで有名な某ゲームは確かにポケモンと対抗してるかもしれないけど、そうじゃなくて!」
水を剥く方法についてレクチャーしてもらいたかったが、今は世界の存続の危機が先決だ。
「おい、静かに。世界の存続が掛かってる中で漫才もどきなんぞやってる場合じゃないだろ。…まず、そっち側の歯車だけど…任せられるか?」
「ええ」
「勿論だ」
「お兄ちゃん、私も…」
「お前は残って彼らをサポートしてくれ。お前が必要になるだろう」
思わず立ち上がった妹をなだめる兄。その言葉に納得したのか、頷く妹。
「僕も頑張るよ〜」
「あたしも…あのメタボゴーストには会いたくないけど…」
「……」
クオンも静かに頷く。
「分かった、あたしも頑張る」
「俺を舐めるな!」
「お前を舐めたら物理的に火傷する。お前はお袋にでも説教されてこい。『折角人様の役に立てる息子になったかと思いきやまた迷惑かけて戻ってきたのかい!』…ってな」
俺の毒舌攻撃。
「うっ…め、迷惑はかけてないっつえばいいんだろ!というか何でお袋がこっちの世界の事を…」
「そっちで祝賀会やってたろ。結婚式さながらに」
「なっ…」
俺の勝ち。二の次を継げなくなったダイヤは撃沈した。そこに追い打ちでとどめ。
「そーいや…彼女いなかったっけ?」
俺にもいない…片思いはいるけど…のはおいといて。
ダイヤは灰になった。そっか、さっきまでの俺はこんな状態だったのか…
…おっと、俺がこれじゃいけないな。
「俺は長老の話を聞きに行く。ミオ、一緒に頼む」
「わ、分かった」
いきなり話を振られ、動揺しつつも頷くミオ。
「ジャスティスとローズは情報収集。他の歯車はギルドの皆が動いてると思う。捕まることはないから安心して探して」
「え、ええ…」
「あ、ああ。了解」
俺の言動にあっけにとられていたが、話を振られて慌てて頷く二人。
皆の方に振り返り、俺は号令をかけた。
「タイムリミットは36時間。急ぐよ!」
『おおーーーーー!!』
ここに十匹のポケモンが団結していた。
「…あのー…おいらは…」
…十一匹のポケモンだった。
ギルド前の階段を駆け上がる軽快な音が響く。
この上に長老が待ってる、そうディーザから言われたのだ。
ディーザ自身は歯車の回収に急いで行った。どうやらダンジョン突破に手こずっているようで、UMA達の助けを借りつつ頑張っているようだ。
「ハァハァ…ちょ、長老!」
階段の頂上が見えてきた。最後の段が水平線の如く立ちはだかる。
それすらも踏み越え、どうにかギルド前の広場へ。
芦で作ったような地に横倒しになった柵の手前に、彼はいた。
黒い甲羅を背負った赤いゾウガメ。
コータスの長老、テルクだ。
「おお、やっと来たか。久しぶりじゃな」
「ふう……久しぶり、テルク。で、話があるらしいが…」
俺の切り出しに、落ち着けと言うように軽く首を振り(最近になって分かってきたが、四足歩行のポケモンはなだめるときこういうジェスチャーをするらしい。ただし、この世界に限り)口を開く老コータス。
「あのディーザとやらに呼ばれて来ただけじゃ。…<幻の大地>、の事…じゃったか?それとも漬け物石の大きさじゃったか…」
後者はどーでもいいからさ。
「<幻の大地>の事だ。何か知ってるのか?」
その言葉に長い首を縦に動かす亀。
「おお、知っておるとも。<幻の場所>はその名の通り伝説の場所。もはや言い伝えでしかその存在を伝えるものはない…」
言い伝え、という単語に「所詮は言い伝え、聞くか聞かぬか…」と問われてる気がした。
それはミオにも感じたことだったらしい。慌ててこう叫んでいた。
「い、言い伝えでいいから教えて!」
あ、それ俺が言いたかった。
そんな事言ってる場合じゃない、と自分を叱ってる内にコータスのテルク長老は年寄り特有のゆったりした口調でぽつぽつと語り出した。
「<幻の大地>は、海の隠された場所にあるとされておる。そこに行けるのは選ばれた者のみ。…確か、そこに行くには…」
アクーシャなら一致しそうな条件を途中まで言ったテルクは、そこで言葉を句切った。
「…そこへ、行くには…?」
つばを飲みながら慎重に聞き返す。頬を冷たい何かが伝うが、それを拭くのも忘れてテルクの言葉を待つ。
「…あれ?あれあれ…?」
と、急に長老が目線を彷徨わせる。
…まさか…
「…すまん、忘れてもうた」
「「ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」」
俺たちの叫び声が木霊する。トレジャータウンは今日もにぎやかです。俺らの声が響く程度に。
「長老!あと少し、それだけ思い出して!」
「今から三十時間以内に出来るだけ!」
「ねえ、長老!行く方法は?」
「長老!」
「長老!」
二人で攻めるように迫る。その様子に圧倒されたか、長老が慌てた様子で言う。その額には光るものが。
※お年寄りにこんなふうに迫っては相手の心臓が保ちません。よい子のみんな、お年寄りは大切にしようね。
「あ、ああ、確か証しじゃ!何らかの証が必要なんじゃ!」
証…?マナフィの子供見つけてきて追いかけるんじゃだめなのか?アクーシャには最新型の防犯セキュリティがあって、入るには特定の認証カードが必要なのか?
「あのさ、ちょうろ…」
途中まで口に出した質問は、唐突に浮かんだ素晴らしいアイデアに遮られた。
あまりにも素晴らしく馬鹿げてて、しかも使えるアイデアだった。
読心術。
これで相手の心をちょっとでも読めば…
…
代弁します。
確か…こんな形の…なんじゃったか…うーむ、思い出せん…
…代弁じゃ駄目だね。というか言葉で表せないから、画像を見ようとしたんだった。
顔に浮かぶ表情と筋肉の硬直、その他様々な情報から相手の考えている画像を見る。そんな超人的な技術で見たのは…
ぼんやりした灰色の塊だった。屑籠探せばいくらでも落ちていそうな…
なんだよ!これだけかよ!
っつーか石っぽいだけしかわからねえ!
サイズもなんかハッキリしねえ!見たことないなら当たり前だけど!
ちょっと表面が磨かれててなんか掘られてるって所までしかわからねえ!
…まて、冷静になれ。
表面が磨かれていて不思議な模様らしきものが掘られた他は転がってそうなちょっと丸っこい石?
どこかで…かなり前に見た気が…
頭の中で様々な会話がリピート再生される。同時に今までの記憶があふれ出す。
…ドラマやアニメでは便利そうでありたきりだけど、これやってる奴凄いよな。
ぜってー混乱して正気を保てなくなる。なんせ、記憶が一斉に溢れてる訳ですから。スピードがもう数十倍速な訳でして、目が回ります。はい。
「巫山戯るなあ!」
「絶対わざとでしょうがっ!」
「誘爆とか聞いてない!」
「死んでもこれは渡さない……!」
「それでは皆、仕事にかかるよっ♪」
「私と一緒に、探検隊になって!」
「私の宝物なの!」
宝物?
「値打ちモンかもな「大金で売れる「偶然拾ったんだ「<遺跡の欠片>って呼んでる「はまるところを「見たことない模様だ」
模様…<遺跡の欠片>…はまる場所…拾った…
「…ミオ、<遺跡の欠片>を…出してくれ」
「えっ?」
唐突だったからか、ミオは目を白黒させる。
「<遺跡の欠片>、もしかしたら…」
そこまで言って、次の言葉が出せなくなった。なんて言えばいい?
<遺跡の欠片>が証かもしれない?違っていたら?余計な希望を抱かせたくはない。もし間違っていたら…でも、合っているかもしれない…でも…でも…でも…
俺の無限ループの心配をよそに、ミオは肩掛けバッグの中を前足で探り出した。
底が見えないのに探れるとは、つくづくこの世界は謎である。ドラ○もんの四○元ポ○ットだと思うことにした。
それはさておき。やっと出したミオの前足には、手のひらサイズの円い石があった。
一面のみが磨かれていて、そこに光が反射して鏡のように自分達を映す。
磨かれた面の中央には小さな円。そこから立ち上る四本の煙の様な模様。
それを見た途端、テルクが大きな声をあげた。その目が大きく見開かれる。
「そ、それじゃ!それこそが証じゃ!」
「…ま、マジですか…」
俺の心配は杞憂に終わった。なんというか、なあ…
ミオはまだ話について行けなかったらしく、口をあんぐりと開けたまま俺とテルク、欠片を順々に見る。それが冗談じゃない事が分かると、その口からよく響く絶叫が。
「えええええええええええ!?!?!?!?」
…耳が痛いよ。鼓膜敗れるよ。ウィリフを継いでギルド親方になれるよ。
「ま、待って!私が随分前に拾った<遺跡の欠片>は<幻の大地>への切符で、あとは二十七の歯車を持って然るべき場所へ行けば星の停止は免れるって事?<遺跡の欠片>=証を持ってる私は選ばれた者で、他の誰にもない能力があるって事?」
「う、うん?」
後半の件だけ疑問。ミオにあって他にない…
「極度な恐がり?」
「褒めてないでしょ」
「影進化?」
「あれは血筋。多分他の誰かも使えるよ」
「叫び声」
「絶対ウィリフに負ける」
「ミオって名前」
「他の小説にも同じ名前の方いたよ?」
「適応力」
「特性じゃないと思うな」
「ネタ切れ」
「他に無いの?」
半分漫才のようなやりとり。理性もへったくれもない。
「あの…わしは…」
テルクが申し訳なさそうな声で話しかけてきた。年寄りは温泉でゆっくりしたいのであろう。
「帰ってもいいし、ギルドで泊まっていってもいいよ」
「そ、それじゃ帰らせてもらうぞ」
亀特有のゆったりした歩調で、テルクは階段を下りていった。
「…うわわわわわわわっ!」
あ、訂正。「転がり」下りていった。
途中で転けたテルク。五段目くらいで足を踏み外したようだ。そのまま転がり、あっという間に一番下まで。
「うぎゃあ!」
「ぐへっ!」
「うごっ!」
…誰かが巻き込まれたみたいだ。ま、どーせ脇役でしょう。それか黒子さんかカメラマンかスタッフ。作者は来てないだろう。
…一応主演さんだった事に気づくのは後の話。
と言うわけで(何がと言うわけかは知らないが)親方達に連絡するためにギルドに入る事にした。
「只今。パルダ、メンバーを集められるだけ頼む」
入り口に居たパルダに「ラーメン一丁」といった口調で告げ、B2F広場へ向かう。
いつもより心なしか狭く感じる広場は、既にかなりのメンバーが集まっていた。
俺とミオが皆の前まで歩み出ると、皆から歓声が上がった。
「アビス!ミオ!」
「生きてやがったか!」
「相変わらずしぶとい奴らだ!」
「未来の件は本当なのか!?」
「フィストは、一体どちら側なんだ?」
「真相を教えてくれ!」
どこぞの記者会見かい。
っつーか、アウラ達の報告で全部だぞ。
他に何か言わなきゃならねーのか?
面倒だな。
「ええと…皆、一旦静かにお願い出来るか?」
この言葉で、広場が波打つように静かになった。
ええと。次は…誰か台本出してくれないか?
「アビス。台本頼む暇があるならアドリブで…」
「へいへい。…っと…」
仕方なく言葉を選びながら話す。
「皆も知ってる通り、今この世界に危機が迫っている。世界の時間が止まり、永遠の闇に閉ざされようとしてるんだ」
必死に、慎重に、がむしゃらに…自分の思いを伝えるため、ひたすら語る。
語る以外の伝え方を知らないから、ひたすら語る。伝えようと努める。
「俺たちの事が信じられないのなら、現に今の状況を見ると良いと思う。時の歯車が戻ってきても時間は止まったまま…つまり、星の停止が迫っている、そういう事だ」
「俺たちは未来に行って、真相を聞いてきた。皆もアウラ達から聞いていると思う」
「この世界を救うため、協力して欲しい」
「頼む!」
俺はこの世界に来て(多分)初めて頭を下げた。
「今更かよ。おせーっての」
「ギルドに来た時に聞いたってよかった気もしますわ!」
「ま、それがアビスらしいって奴よ。ヘイヘイ!」
「ワタシは協力するわ」
「グヘヘ、ワシも協力しよう」
皆が笑って言う。うう、なんだろこの頬を伝うものは…
この世界に来て(多分)初めてのそれは冷たく頬を滑り、口元に少しだけ入った。
塩辛い。
「わ、私は…」
「パルダはもう賛成だよねー♪」
〔何時そうなった?〕
強引なパルダ封じにその場の全員が心の中で突っ込む。
「も、勿論ですとも!私は敢えて渋っていたのだ、私が決めてしまうと皆が引き釣られてしまうだろうからなっ!」
必死に熱弁するパルダ。しかし、説得力などあった試しが無い。
部屋のなかをその言い訳が滑り、やがて止まった。そして沈黙。
異様な静けさをとりなすように慌ててディーザが言った。
「あ、あの、時の歯車は三つまでなら集まったでゲス。あと残ってるのはは<キザキの森>と<水晶の洞窟>。<キザキの森>はこれから向かうでゲス。でも、<水晶の洞窟>の歯車だけは見つかってなくて…」
残りはキザキか。俺はこっそりバッジを使ってジャスティスに伝える。
そして皆に向き直り、バッグを探る。
「ああ、これな」
無造作にバッグから取り出す。それを見たUMAが絶句する。
「い、いつの間に…」
「許さない、と言いたいけど……うぐう……」
「あ、あのピカチュウめ……」
悪気無かったで許してはくれないか?
ほら、こんな状況を見越してやった事だし。
…とか考えたが、聞いてくれる状況では無い。
幸い、この状況下で喧嘩するほど相手も愚かじゃないので、
「ここで喧嘩してる間に世界滅亡したら洒落にならんぞ」
と言っておくと、相手も仕方なさそうにすごすご下がった。
「…で。世界を救う方法ってのは見つかったんでゲスか?」
「ああ。<時限の塔>に時の歯車を納めれば星の停止は免れる。そして、<時限の塔>は<幻の大地>を抜けた先にあり、その<幻の大地>は証を持っていないと入れない。また、そこに向かう方法は不明。…あれ、ウィリフ?」
俺の言葉を黙って聞いていたウィリフが立ち上がった。
その口からは驚く事実が。
「…ボクはその入り口を知ってる」
ええっ!?
マジですか。
「でも、全部の歯車が無いと星の停止は避けられない。だとしたら、残りの歯車も早く集めなきゃ…」
「あ、それなんだけどさ…」
今度は俺が驚かせる番だろう。
皆の注目を浴びながら俺は語った。
「今、ジャスティスとローズが<キザキの森>に向かっている。同時に別世界に散らばった歯車も異世界の皆様が集めに行った。今からちょっと<世界のへそ>まで行ってくる」
「<世界のへそ>?」
いきなり脈絡の無い事を言い出した俺に、皆が目を剥いた。
「ああ。関係が大ありだからな。…ティアラ、送ってくれないか?」
ここでアウラの考えが分かった。ティアラは移動に必要だから…小柄だから速いであろう事まで予測してある。
俺は体重があるかどうかも怪しいほどに軽い。ミオは平均的より少しやせ気味。
体重制限完璧。
「私?分かったけど…」
「行き先は地図見ながら指示する」
「了解」
ティアラはミオを背に乗せ素早く外へ。
「じゃ、行ってくる」
言いながらギルドを出る。
そのまま駆け出す先には、既にミオを乗せて階段の前で待っているティアラが。
「全員出動準備整えといて」
最後にこれだけ言っておいて。
軽く助走をつけ、ティアラの背に飛び乗る。重力を感じさせないふわっとした動きで着地(あれ、背中に着いたから着背中?)。首元にしがみつく感じで乗った俺を確認すると、ティアラは赤い彗星となって空へ飛んだ。