第二十五話 現代の奮戦
sideout 時間少し遡って第二十話のちょっと後、アビスらが時空ホールに入った直後
アビス達が未来に飛ばされた時。群衆達が集まっている。いつにも増して静かだ。が、彼らもぼーっとしていた訳ではない。
しばらくするとザワザワしてきた群衆達。いつも通り、ではない。どこか深刻そうな空気に支配されている。
「ちょ…フィストさん?」
「どうなってるんだ…」
「あの二匹は…大丈夫、なのか…」
「と、とりあえず、俺は帰るよ…」
「じゃ、じゃあ俺も…」
皆がさあっと水が引くように帰っていく。
「えええ…ちょ。あたし達に何をしろと?」
大きな尻尾を揺らしながら叫ぶミコ。応える者はいない。
「情報収集、じゃないのか?」
あ、いた。ラティオスのアウラじゃないか。羽の目立つ傷は、いつ見ても痛々しい。
「情報…?何でまた…」
きょとんと聞くミコにティアラが説明する。というか何時の間にアウラの隣にいたんだ?
「多分あの鼠さんは先を少しは読んでると思います。時が止まるのを防ぐ、とか言ってました。そして、時の歯車と関係のある伝承を探そうかな、とも」
よくそんなの聞いてたな。
「…それを…探す…」
クオン、いいとこ取ってったね。
それを聞いたミコ、俄然張り切る。
「ウォルタにも言われたもんね。《真実》を伝えてって。じゃあ、ギルドに説明と…」
「時の歯車関係の伝承を探す。二手に分かれるか」
言葉を継いでアウラが提案する。
「じゃあ、私とクオンで伝承を探すから…」
「あたしとアウラはギルドに報告、ね。了解!」
彼らも動き出した。
「…で?フィストさんは悪者で…ジュプトルは善人でした、ってことかい?」
パルダの目の前、ギルドB2F。パルダを説得しようと考えたアウラとミコ。
周りにはギルド職員皆様が揃っている。これは客の特権を乱用した結果。
早速話したのだが…
「ハハハ、まさかそんなはずない。悪い夢でも見たんだろう」
笑われて相手にしてくれなくて。
「客産でもさすがに信じられない話だ。フィストさんはあんなにいい人だったんだぞ?心配ない、一晩寝れば治るだろ」
変人扱いされて。
「ミコ、<オービダルサンダー>用意しといて」
「分かった」
殺気盛りだくさんなこの言葉。双方、青筋たてて怒る。パルダには効果抜群だよね?焼き鳥だよね?
「…確かに、あのとき…アビスやミオを引っ張っていった時のフィストさんは何か可笑しかったでゲス」
絞り出すように話すゲス君。その言葉に(パルダを除く)全員が頷き、口々に告げる。
「あれは可笑しかったですわ」
「パルダは耳だけ良くて他は老いぼれてるんじゃないか?」
「年、だな。グヘヘヘ」
最後の一言、君の方が年上だろう?クラド君よ。
「…わ、分かった。仮に君たちの言うとおりだとして…」
冷静さを装っても、冷や汗の量が尋常じゃない。
既に水たまりになっている。というか、仮って言った時点で死亡確定だぜ?
「仮にって何よ。アビス達がフィストに引きずられてったのを幻覚とでも言いたいの?」
そのメンバーの半分は自分から飛び込んだんだけどね。
「…そ、そうだな。で、何をすればいいんだ?」
やっと認めた(もしくは譲歩、それか諦めた)パルダが口を…失敬、嘴を開く。
「まず…時の歯車に関する伝説を、ありったけ集めてくれ」
畳み掛けるようにアウラが言う。これに関しては既に皆と話してたね。
「それともう一つ」
「え?他にあったっけ?」
アウラの行動にミコが疑問の声をあげる。
それを片手で制し、次の句を継ぐ青い竜。
それを聞いたパルダの顔が驚きで支配される。
しかし流石は副親方。その表情を振り払い、力強く頷いた。(実際は「ああもうどうにでもなれ…もし間違っててもこいつらの責任だあ、私は許可してないとさえ言えばいい…」という諦めと投げやり、そして信用しようとしない嫌な意味で一直線な意志だったのだが。)
と同時にパルダの後ろ…大きく豪勢なドアがいきなりバタンと開いた。その音は…耳元で誰かが全力で叫んだレベル、と言えば通じるだろうか。
その唐突さと大きな音に同じフロアに…否、同じ建物にいた全員が驚いて跳び上がる。
勿論、部屋の主…ウィリフはそんなことお構いなしに、<ハイパーボイス>で宣言する。ギルドを潰す気か親方様。
「皆!全依頼を、時の歯車の伝説収集にシフトするよ!」
『お、おお〜〜〜〜!』
ちょっと戸惑いが混じるが、いつも通りの親方を信頼する応えの声。
トレジャータウンでは、ティアラが聞き込みをしていた。
佳供とレオンは首を捻る。
メークは、長老と呼ばれる人を紹介してくれる。
オルドは他の地方の組合にも連絡をつけると約束した。
どれも、ティアラの涙目作戦の効果であった。トレジャータウンを落とすつもりか。
場所変わって弟子部屋フォア《希望の深淵》。ここの本棚で、クオンが数十冊の本を同時に見て(読んでいるのだろうが、早めのスピードでページをめくるので見ているようにしか見えない。遊んでいるように見えないのは尋常じゃない殺気によるものだろう)いる。
その本の山の中、ヒラヒラと上から紙が落ちてくる。学校で配られるB5サイズ。古紙、と言って差し支えないような変色具合。茶色っぽい宝の地図、ではなくなにやら文字が書かれている。
どうやらウォルタの持ち物あたりから落ちてきたらしいそれは空気を波のように乗って優雅に床へ。
ふわりと着地したそれに気づいたクオンが拾い上げる。その目(隠れているけど)が、微かに見開かれた。
彼らの奮戦の結果は、鼠さんたちが帰還してからのお楽しみ。
…ギルドのカレンダーの日付…十二月二十三日のページが破られ、二十四日の文字が表に出た。