第二十三話 真相
side アビス
「全く、そんなのに不意討ちされてんの!?情けない鼠ね!」
「大丈夫〜?助太刀にきたよ〜」
桃色の龍……ソフィアと、赤い鷲…ウォルタが俺達の前まで来た。
えーと。
今、俺は、パニックに、なっている。
何故区切ったか?パニクってこうなった。
何故彼らがここに?
どうやって?
何時から?
「第一の問い、気になったから」
「第二の問い〜、時空ホールに飛び込んだんだよ〜」
「そして第三の問い、ついさっき追い付いた」
……成程。
「あ、心を読んだことはスルーするのね…」
「勿論」
とまあ、呑気に話しているうちに、ミカルゲが起き上がった。
「ウグググググ……グワァァァ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
わめき声に合わせるように、部屋が揺れ出す。
「な、何!?」
「……」
驚くミオ、平然としたその他。
「ウグググググ………グワァァァァァァァァァ!」
そう叫ぶと、ミカルゲは…
ピョコン!
最初の頃の石の形に戻り、
「ヒャ!」
しゅわわわ…
ジャスティスにまとわりついていた
靄を吸収し…
「…ヒエエエエエ!」
あ、逃げた。
「……なんだったの?」
ジャスティスを除く全員が脱力した。
「……………………あ、ジャスティスは?」
今気づいた。……緊迫感ない台詞なのは百も承知だ。
「大丈夫なの?ジャスティス」
「ああ、大丈夫だ…」
多少のふらつきはみられるが、どうやら大丈夫みたいだ。
「……あいつは……」
「弱気になって逃げただけだ」
はあ………
「…で、立てるか?」
「……な、なんとか…ッ…な…」
ふらふらしながらも、なんとか立ち上がるジャスティス。
「…………しかし、あいつもやるな…オレの鼻の穴から潜り込んで体を乗っ取るとは…」
「…悪者、ではないの?」
「…ああ。恐らく、ミカルゲは自分の縄張りを荒らされたんで怒ったんだろう……怒ると見境がつかなくなる、恐ろしい奴だったが…さっきの様に一旦旗色が悪くなると逃げていったように、本当は臆病なポケモンなのだ……本来はとてもいいポケモンなのに…」
……その悔しそうな口調に、俺も唇を噛み締める。
「世界が闇に包まれてるせいで心も歪む…未来にはそんなポケモンがほとんどなのだ……」
「……そうか…」
俺ら現代組の周りの空気も一気にズウゥンと重くなる。
「この世界のせいでいいポケモンも悪くなって…なんか、悲しいね…」
「………!お、お前たち……」
ミオの呟きに、ジャスティスから感じていた感情が驚きへと変化した。
「……お前たちは、俺の言うことを信用してるのか…?」
……どう答えようか……
「……疑ってる部分もあるが、信用してる。……あああと、信用してないわけじゃないからな。置いてくとか言うな。一緒に行く」
「…オレが大嘘つきだったらどうする?」
「私が、私自身で判断する。鵜呑みにはしないよ」
ミオの真摯な言葉に、多少は思うところもあったのだろう。ジャスティスが動いた。
「……わかった。ついてこい」
場所変わって、岩影。
「……よし、ここならヤミラミ達も見つけにくいだろう」
「……この未来って、なんでじめじめしてるのよ…」
「嫌なら帰れ、ソフィア」
「帰る手段頂戴」
「<時空の波動>使えばいつかは戻れるぞ」
「あれは1日二、三回が限界だし、一度撃ったらしばらくは無理。私を殺したいのかしら?」
「殺したいわけではない」
「そう言いながらその剣抜かないで。私を切り身にしたいっていうの?」
「ご名答。今夜は鰻の蒲焼きだな」
「……私は鰻じゃないわよ」
「落ち着けって。血圧上がるぞ?」
「二人ともそこまで〜」
「いい加減にしてよ。…で、ジャスティス。未来では…何故星の停止が起こったの?」
俺とソフィアの不毛なやり取りに耐えきれなくなったか、ウォルタとミオがストップをかける。
ジャスティスは、心なしかほっとしている。…このやり取りから話題をふってもらえて安心しているんだろう。
「こほん。……星の停止が起きた原因…それは……お前たちが住んでいた過去の世界で……ディアルガが司る<時限の塔>が崩れたからだ」
選挙にでも負けたのか?
「……アビス、時限の党じゃないよ……で、そのディアルガって…なんなの?」
「時間を操る伝説のポケモンだ。ディアルガは<時限の塔>で時を守っていた。しかし、<時限の塔>が壊されたのをきっかけに、少しずつ時が壊れ始め、ついには星の停止を迎えたのだ」
……時間ってのは、瀬戸物みたいに落とすと割れるのか?俺の頭の中で、時間と黒々と書かれた茶碗がパリンと割れた。
「……ディアルガは、どうなっちゃったの?」
「ディアルガは、時が壊れた影響で暴走した。そして、星の停止を迎えた未来世界のディアルガに至っては…ほとんど意識もなく…今は暗黒に支配されている。あれをディアルガとは、もう言えないだろう。全く別の…そう、闇のディアルガと呼ぶべき存在になっているのだ」
「そうなんだ…ううっ…」
ミオにとって聞きたくない暗黒面のお話だからか、うめき声を漏らしている。
「闇のディアルガは感情を失ったまま…ただ歴史が変わるのを防ごうと働く。だからオレはディアルガに狙われているのだ。オレは歴史を変えるため…つまり…星の停止を防ぐために、未来からお前たちの世界へタイムスリップした」
「「えええ〜〜〜!?」」
俺とミオは大絶叫。…ウォルタは体験済みといった表情、ソフィアは人生経験がまだまだといった表情で見ている。
「ジャスティスは、星の停止を防ぐために、私たちの世界に来たの!?」
「あのデカブツゴーストめ……見事なまでに天邪鬼…今度、嘘をつくコツでも聞くか…」
……ずれてる?よく言われる。
「時の歯車を盗んでたのは、星の停止を行わせるためじゃなく……」
「冗談じゃない!オレが時の歯車を集めていたのは、星の停止を防ぐために必要だったからだ。<時限の塔>に時の歯車を納めれば…壊れかけた<時限の塔>も元に戻る。また、時の歯車を取ると、確かにその地域は時間が停止するが…それも一時的なもので、<時限の塔>に時の歯車を納めさえすれば、また元に戻るのだ」
長台詞お疲れ。
「ううっ…フィストは、やっぱり…フィストが言ってたことは…」
まだ信じていたらしいな…
「指名手配や、逃亡は嘘だったのか…当たりだったな…」
「そうだ。フィストは、オレを捕らえるべく闇のディアルガが未来から送り込んだ…刺客だからな」
「えええ〜〜!?」
今回はミオ一人。
「そうだ。さっきも言ったように闇のディアルガは…歴史を変えようとするものがいるとそれを防ごうと働く。だからオレがタイムスリップしたことを知ると…フィストを刺客とし、そのあとを追わせたのだ。……お前たちには信じられないだろうが…」
「否、信じるぞ?」
「「「「は?」」」」
これでフィストを信用してたら、足元がぐらついたであろう。けど。
「元からあのメタボゴーストなんざ信じちゃいねーし」
「「「「はあ!?」」」」
表現はつるみさんからお借りしました。
「向こうの言ってることがこの状況と矛盾して、こっちの言ってることが筋通るなら、こっちが正解ってことだ」
「……貴方、前から思ってたけど、馬鹿なの?」
「本当に相変わらず無茶苦茶だね〜」
「お前、一体なんなんだ…?」
………………………
「もういいや。フィストんとこ行って捕まってくる……」
「「「いじけるな!」」」
……
頭を軽く振り、気持ちを切り替える。
「……オレは先へ行くぞ」
「……何をするんだ?」
「星の停止を防ぐために過去へ戻る。そして…そのために…セレビィを探す」
"セレビィ"と言う瞬間、言葉に微かに別の感情が表れる。
心配、慈しみ、高揚……
「愛」だ。
「せ……セレビィ…?」
「そうだ。…オレについてきても、ついてこなくてもいい。お前たちはお前たちで自分の道を決めろ。じゃあな」
ジャスティスは立ち上がる。迷いなく、しっかりとした足取り。
そこに、手を差し出す。黄色く短い、ピカチュウの手。
「…………」
ジャスティスは、無言で俺の手を握る。
「…俺も協力する。だから、連れていけ。ジャスティス」