第二十二話 乱入者
side アビス
「ジャスティス、どっちに行くんだ?」
「こっちだ」
ジャスティスの案内で、外まで来た。
「……急がないと…ヤミラミ達に追い付かれる…」
「ああ……分かってる、次には?」
「……この先の<空間の洞窟>を抜ける」
全力疾走しながらこの会話。
「……ハア、ハア……速すぎだって…」
ミオは、遅れている。ポケダンなら素早さステータスは関係ないはずだが…ダンジョン外だからか?
「……よっと」
走りながらそっと抱き抱える。
「さ、急ごう。そろそろヤミラミ達が気付くだろ」
「……オレのポジションじゃないのか?」
何にも聞こえないなあ。
<空間の洞窟>
「うわっ!?」
爆発。
……少しさかのぼる。
目の前にフワライドがいた。
面倒だからと斬った。
そしたら、爆発した。
「誘爆とか聞いてない!」
ジャスティスによれば、メタモンやブーピックも出るらしい。
でも。
「……何でフワライドばっかりなんだ〜!!」
フワライドしかいない。しかも、沢山。
爆発連発で体力があと少し。
階段探し中に復活の種を一つ消費。や、やられるなんて…
……抜けたはいい。
今さらだが、景色がおかしい。
全部灰色。色彩がない。
岩も浮いている。
近くの滝なんかは、水しぶきが綺麗に固まっている。ミルクの王冠を思い出す。
「……時が、止まってるんだな?」
「ああ。そうだ」
光がないから、色彩が生まれないのか…そもそも朝がこないのだろう。
固まった滝に触れてみる。ただ硬いだけ。時が止まってるから、ピクリともしない。
……少し時の叫びにも期待したんだが、何も起きない。
「……時の叫び、発動しないの?」
「みたいだな…」
ミオの顔にも、「残念」という二文字が浮かんでいる。
「ウィ〜〜〜〜〜〜〜!」
ウイって、なにに了解なんて言ってるんだ?伸ばしすぎだし。
…………あ。来てるのか?
「くっ……急ぐぞ!」
ジャスティス、あんた輝いてるよ。
<暗闇の丘>
さきほどのような爆発はない。
モンスターハウスは巡り会わせてない。
何が嫌か。
壁の中の敵。
技が当たらない。
「<水平斬り>ィ!」
だからこそムキになる。
「赤い〜絆の輪が〜でかく広がったら♪」
「確かなことっ!誰かがすぐっ!君の名を呼ぶのさっ♪!」
「緑〜の森〜の木々が風に笑ったら♪」
「「「黄色い花が咲く♪(!)」」」
ミオの歌につられ、俺→ジャスティスの順で歌う。
…よし、最後の階段!
「……やっと出られた…」
「……やっぱり、暗いね……未来は、やっぱり……」
崖道に出たんだが……光がほとんど無いため、危ないことこの上ない。
否、光はかなり遠く…視界の真ん中に点々と存在している。
「…綺麗だけど……あの明かりは…」
ミオが恐る恐る言う。
「…処刑場だったり、ってわけか」
「……………うん……………」
不自然な間に、疑問を覚える。
「フィスト関連だな?」
「!?…なんで分かったの!?」
えーと、だな。俺のスキルとミオの表情で分かるぞ…?
「なんで過去で騙すのか…あんなに親切そうだったのに…何を信じれば…何処まで逃げれば…そもそも、帰ることは……ギルドの皆は………」
……………………限界に近いみたいだな…流石にこの状況だと、こちらも苦しむな…
「ううう……あいたいよぉ…ギルドの皆に……あいたいよぉ…」
泣きそうな顔。か、可愛い!…って、そんな場合じゃないな。
ヤミラミに追い付かれる前に…でも、この状況を打破するには…あ、いたな。打破する"希望"が。
「……ミオ。ジャスティスを追っかけるぞ。多分、あいつは過去に向かえる。過去に戻るために移動しているんだろう」
励ますしかない。
「……お前ら、急ぐぞ?」
いつの間にか、先を走っていたジャスティスが戻ってきている。
「………………俺らと同行したいのか?」
こいつが裏切らないとも限らない。少し、何考えてるか調べよう。
(こいつらは強い。便りになる。一緒に行けば心強い…それと……寂しい)
……甘えん坊か、お前。
「さ、行くぞ」
……あ、俺らおいて走っていきやがった……
<封印の岩場>
今までとは違い、比較的簡単だ。
「<なんちゃって雷パンチ>!」
<爆裂パンチ>に<十万ボルト>を重ねて、<なんちゃって雷パンチ>を放つ。
雷に包まれた拳がメタングを強襲する。
「か、<噛みつく>!」
モジャンボに噛みつくミオ。
その攻撃に、モジャンボが怯む。
「よし、突き進むぞ!」
入り組んだ
迷路を疾走する。
sideout
「……だいぶ深くまで来たな。もう少しだ」
アビスら二人から少し離れ、ジャスティスサイド。
恐らくダンジョンの出口であろう開けた場所に、彼はいた。
ここもまた薄暗く、見通しが効かない。
「どうやらここを抜ければ、森へ出られそうだ」
ふっと来た方向を向き、少し顔をしかめる。
「…急がないとヤミラミたちに追い付かれる。ぐずぐずしていられないぞ」
そこまで言うと、何かを思いだしぽつりと呟いた。
「………そういえば、あの二人…おいてきてしまったが…捕まっていないだろうか…」
二人を案じる、心配そうな顔。
しかし、その考えと表情を振り払うように顔を横に軽く振った。
「いや、そんなことを案じている場合ではない。今は自分の使命を優先だ。犠牲を払ってでもやりとげると誓ったではないか!」
そこまで言うと、一息ついて言った。
「…行こう」
「オイマテ!」
どこからともなく声が。
「むっ……誰だ!」
声の主を探し、辺りを見渡すジャスティス。しかし、声の主は見当たらない。
声はなおも言葉を紡ぐ。
「ワレノナワバリニカッテニハイリ…ワレノネムリヲサマタゲタウエニ、ソノママタチサロウトイウノカ!」
「だっ、誰だ!」
ジャスティスの声に焦りが混じる。
「ワレヲオコラセタノダ…ソレナリノツグナイハシテモラウゾ…」
「どこに居るんだッ!隠れてないで出てこいッ!」
声に向かって怒鳴るジャスティス。苛立ちと不安を隠しきれてない。
「ワレガカクレテイルダト?ワレハカクレテナドイナイ」
「何っ!?」
「ワレハ……ワレハ、ココニイルッ!」
視界がブラックアウト。声だけがその場に響く。
「ワレノナハミカルゲ!ワレノナワバリヲオカスモノハユルサン!」
ミカルゲと名乗った、謎のポケモンは無防備な草蜥蜴を襲う。
「ぐあああああああああっ!」
side 再びアビス
<封印の岩場>奥地
…胸騒ぎがする。なんなんだろう…ジャスティスの身になにかあったのか…
俺は心は読めても未来や遠くは見えない。千里眼の持ち主ではない。
案じたって意味がないのはわかっている。でも……
「……アビス。心配そうだね…」
「……まあ、な……」
心配なのは、一つじゃない。錬金術だ。
こっちに来てから、ジャスティスの前では控えてたからわからなかったが…扱いが難しくなっている。いつもより、自由が効かない。
<水平斬り>だけで突破してたし、あの威力は電気による肉体特化、剣に電流を流して威力を上げるという小技で成していた。錬金術は全くと言っていいほど使っていない。余計、変化がわからなかった。
フィストに立ち回れるか、それも不安だ。
心配要素はいっぱいあるが…考えてもキリがない。
進まなきゃ。
abyss(問題は、進む方向が前とは限らないってことなんだよな…)
<封印の岩場>奥地を抜けると、開けた場所に出た。薄暗く、見通しが効かない。
奥の方、出口側に誰かが倒れている。気のせいか、発光している。
「…ジャスティス!?だ、大丈夫!?」
ミオが叫ぶ。
倒れているのは、紫の妙な光…発光している
靄かもしれないが…に包まれている森蜥蜴。ジャスティスだ。
でも、なんか嫌な予感が…
「くっ、来るな!」
苦しそうに喘ぎながら、ジャスティスが言葉を絞り出す。
「「え?」」
すっとんきょうな声を上げるピカブイ。
「ど、どどどどうして?」
吃り過ぎだ。
「気を付けろ!敵がいるッ!」
「「ええっ!?」」
咄嗟に背中合わせになり、構えるまでは成長したと言える。
「どこだ…どこにいる…」
「お前たちの目の前…洞窟左側だ!」
俺の左、ミオの右か!?…ちなみに、俺は洞窟出口側を、ミオは入口側を向いている。
「……目の前って……」
小さい三角形の石が転がってます。
………なんか浮いてるな。いや、雰囲気で。
周りには石どころか砂すら見つからないのに、ここになって石。
……………………………………………………………………………え?
「まさか…」
この言葉が誰のものか、わからない。
カタカタ…
「ええっ!?」
石が勝手に動き出した。
「ヒッヒッヒ…ココニアシヲフミイレルモノハ…スベテユルサン!オマエタチモナ!」
なんと自分勝手で我が儘で理不尽な石でしょう。
「お前…ミカルゲ、だな?」
「アア、イカニモ」
「ミカルゲ?」
「108の魂が合体して出来たとされるポケモンだ」
「ソノトオリ」
ミカルゲと名乗った石は、その頂点から煙を吹き出した。
煙は円を描き、そこに顔のような光の紋様が現れる。
それは、ジャスティスを覆っていた煙と似た…もしかしたら同じものかもしれないが…ものだった。
「気を付けろ!そいつは強いぞ!」
ジャスティスが叫ぶ。
突如、群青の咆哮が空間を裂く。
強烈な波動がミカルゲを襲う。
「グワアアアアアアッ!?」
御影石が枯れ葉の如く吹き飛ぶ。その目(だと思う部分)は、驚きに満ちている。
「何っ!?」
「何なの!?」
ジャスティスとミオが、わけもわからず叫ぶ。
砂煙が立ち込め、視界をより不明瞭に変える。
「真打ち登場よ!」
「間に合ったみたいだね〜」
砂煙の中から姿を表したのは……赤が基調の鷲と、桃色の東洋風の龍だった。