番外編 パラレルver 探偵と怪盗
ここは、アビス達がいる世界とは別の世界。
……まあ、この世界にもアビスはいるが。
ここの警察に、とある予告状が届いた。
「今夜 日付が変わる時 時の宝玉を頂きに参上する 怪盗ジャスティス」
「…………ふざけるなあ!」
激怒していらっしゃるのは、ここの警部ジバコイル。
「これで何度目だ!?」
「五度目です、警部」
律儀に答えるコイル。
時の宝玉とは、五つで組になっている宝石だ。不思議な言い伝えが数多く残されている。
「まあ、彼にでもお願いしましょう」
つい最近この部に転勤してきたフィストが、ジバコイルをなだめる。
フィストのいう彼とは、ここらでは有名な探偵、アビスのことである。
ジャスティスとの勝負は、彼が最も優勢に立てる。
しかし、アビスは逮捕には興味が無いらしく、毎回そのまま逃がしているのだ。
何故なのかは、誰にも分からない。
「またきた。ジバコイル警部、そーとー苛立ってるな」
「どうする気なの?」
「決まってる。受けるさ。知恵比べは最高のゲームだ」
ここは、とある一軒家。
アビスとミオが暮らすこの家は、探偵事務所としての役目も担っている。
「でも、なんで何回も逃がすの?」
「……さあて、何故でしょう?」
意味ありげな笑顔を残し、アビスは予告された現場へと向かう。
23:59
予告状には、「日付が変わる時」即ち0:00とされている。
警察は、ピリピリしていた。
そんな中、場違いな空気に包まれる人物が一人。
アビスだ。雑誌のナンプレを20秒で解き終え、ケータイゲームをやっている。その表情は、待ち合わせている友人を待つ者のようだ。
「……あと20……………10…5.4.3.2.1」
のんきなカウントダウン。
「0」
「いたぞ!ジャスティスだ!」
カウントダウンが終わると同時に、警察側が騒がしくなる。
「……あれはダミーだな」
走ってくる白いマントの人物に、足を掛ける。
ズデッ
豪快に転ける。そのマントの下には、警官が。種族は、ニューラ。
(……あのドジな警官か…)
警察で、だいぶヘマやらかしていた警官。それが、目の前で転けてた。
すると、また別の方角から声が。
「こっちが本物だ!」
「追いかけろ!」
すると、転けていた警官も走りだした。
「……いくか」
アビス、始動。
宝ってのは、何故か広い部屋に置くのが定番らしい。
かなり広めの展示室。真ん中にある展示ケースと、中の群青の宝石。
どんな物質で構成されているか、どこで手に入ったか、一切の素性が分からない。それが、時の宝玉だった。
その展示室の入り口に、警官が一人。
さっきのニューラだ。
「おい、警官さん。名探偵様はお見通しだぜ?」
その声に、ニューラは暗がりの中、目を凝らす。
「ここだ、ここ」
展示ケースに寄りかかるピカチュウ。その体は、黒いコートによりほとんど認識出来ない。
「ジャスティス、お疲れ様。変装解けよ」
ニューラに話しかけるアビス。その口調は、親友にかけるものだ。
「……何故わかった?」
ニューラの変装を解き、聞くジュプトル。その顔は、いたずらが見つかったときの子供のようだ。
「お前に足掛けたとき、重さがちょっとばかり違ってた」
「重さか……忘れてた」
「同じ0.9bだしな」
「2ヶ月の潜入が水の泡だ」
「そんな前から…全然気づかなかったぜ」
「お誉めに預かり光栄です」
二人の話は、知らない者がいたら友人同士仲良く話しているように感じただろう。
「……そうだ。聞き忘れていたが…」
突然、ジャスティスが切り出す。
「何故、お前は俺を逮捕しない?」
その問いを理解出来ないといった顔で聞いたアビスは、約30秒後、ポンと手を打つ。
「理由は2つ。一つ、お前はとある野望を阻止している。今お前を逮捕したら、そいつが野放しになっちまう。奴が警察関係者なのが厄介だし、こっちの手札はお前というジョーカーしかない」
「もう一つは?」
ジャスティスの問いに、肩をすくめ、答えるアビス。
「簡単なこと。お前との遊びは楽しい。知恵比べする相手には礼儀を。逮捕するわけないだろ?」
「……ほんと、お前ってやつは…なんなんだかわからなくなるよ」
「ふああぁ……」
アビスは、弟子部屋で目を覚ました。
「……あれ?なんか夢見てた気がするんだけど…」
「どんな夢?」
ミオが訊ねる。
「さあ……探偵?かな」
アビス達が住む世界、ヴィンシリティ。そことは別の世界では、同姓同名の同一人物「アビス・ナレッジ」が、今日も活躍している。
番外編 完