第十七話 地底湖と接触
side アビス
現在、<北の砂漠>多分最奥部。流砂前。
「は、入るって、この中に!?」
「ああ。ほら」
素早くミオに足をかけ、こけかけた所を受け止める。
その口元をスカーフで覆わせ、自分もスカーフで覆う。
そのまま、砂に飛び込む。
「あ、ちょっと!?」
「おいっ……」
……語尾、聞こえなかったなあ…
<流砂の洞窟>
スタッ
優雅に着地。誰も見てないけど。
しばらくすると、他の皆も来た。
「よし、揃ったな。行くぞ」
そこまで言って気付いた。
「……ミオは?」
周りには…いない。
ふと腕を見た。
……………
茹で蛸でもまず達することは出来ないだろう色に染まったミオが、こっちを上目遣いに見上げている。
……………
あ、意識が……
バシャッ
「…水?」
「よかった〜、気付いた〜」
ウォルタの声。…あれ、ウォルタの持ってた水技って…
<ハイドロポンプ>、だよな?
「クオンに操って貰ったんだよ」
ミコの言葉に、首を上下に振るクオン。
確かに、クオンは<サイコキネシス>を使えた。
「あ、ありがとう。…改めて、出発しよう」
過去ってのは、振り返らないほうがいいこともある。
<流砂の洞窟 最深部>
休憩所を一つ抜けて、現在最深部。
さて。ここらで試すか。
「……この部屋かな」
アイテムどっさりの部屋、かなり大きいその部屋を選ぶ。
「アビス、ここって…」
「モンスターハウス」
入った瞬間、ポケモンがどっさり落ちてきた。
毎度、どこに隠れてるんだろうな。
でも、今回は…
床を調べ、幾つか踏む。
カチッ
<呼び寄せの罠>だ。これが発する匂いに、ポケモンが寄ってくるらしい。
何回か踏むと、かなり大きいその部屋の2/3がポケモンで埋まった。
さて、やるか。
「ソフィア、11時の方向に<時空の波動>、その後<水の波動>を20秒乱射。ウォルタ、ウォーグルで敵中央に11時の方向から接近、<つばめ返し>で切り開いて12秒<シャドークロー>、その後ミズゴロウで<地震>。クオン、ティアラに乗って敵背後へ。<火炎流>を15秒、その後味方を<サイコキネシス>で浮遊。アウラ、ティアラは1時の方向から<ドラゴンクロー>。ティアラは10秒後クオンをおろして。その後<ドラゴンクロー>乱発。30秒後、ティアラはアウラを支えて上昇。ミオ、全員に<手助け>を繰り返して。ミコ、<草結び>を敵全体に。命中後<天使のキッス>全体に。あとは、……逃げてて」
「逃げててって、どういう意味!?キッスって、絶対やだよ!?」
反発するミコ。でも。
「行ってこい!」
投げた。耐久?大丈夫だろ。世界に通用するみたいだし。
「なんで投げんの!?<草結び>!<天使のキッス>!」
「<時空の波動>!」
動きを封じられた敵は、<時空の波動>に突破口を作らせる。
その道をモーゼの如くたどり、中心部に最も近い位置に接近するウォルタと、その逆サイドから迫るラティ兄妹。
「<つばめ返し>!」
「「<ドラゴンクロー>!」」
そこで動きを取り戻す一部の敵。その目標は…
当然、ミコだ。
「犯されないようにな〜」
「なんで!?」
そこで、敵背後から火の手が。クオンだ。
敵は、かなりの打撃を受けている。
敵の中央では、ウォーグルとなったウォルタが<シャドークロー>を乱発、その付近では背中合わせのラティ兄妹が<ドラゴンクロー>乱発。ソフィアの援護射撃<水の波動>も痛手だろう。しかも、その威力は<手助け>の連発で上がっていく。
そして、タイムリミット。
ウォルタが光を放ちミズゴロウに戻り、<地震>を繰り出す。
それと同時に、クオンが皆を浮遊させ、ティアラはアウラを支える。
大地を震わす必殺技は、味方の誰も傷付けずに、敵を一掃した。
「チェックメイト。……何もしてないな、俺…」
多分一番奥。
水の音がする。そして、胸騒ぎ。
「あなたたちなの!?盗賊とやらは!?」
……え………誤解、じゃないのか…?
「問答無用!ユクシーの仇!」
姿を表したのは、ユクシーのピンクバージョン…エムリットだ。
「めんどいなあ…」
呟きながら、素早く近づき…エムリットの首もとに即席で作ったナイフを当てる。
片手で首もとに手を回す。動きを封じた。
「あのさ、この状態だけど、俺たちじゃないんだよ。襲撃してくんのは」
そのまま突き放す。
「そ、襲撃すんのは俺だ」
どこからか声がした。予測通りだ。
突如、皆が倒れた。エムリットが、何かに耐えながら言う。
「く…油断…した………」
いい終えると、倒れた。
「…この時の歯車も、いただいていく」
襲撃してきた、ジュプトルが奥にある時の歯車に近づく。
「……で、<穴抜けのタマ>はあるのか?ジャスティス」
「……!?」
口を金魚の如くパクパクさせるジュプトル…ジャスティス。
「何故俺の名を…?」
「鎌かけただけ」
「何故動ける!?」
「お前が使ったのは<縛りダマ>。今皆は寝てる。さて、どういうことでしょう?」
逆に問い返す。
しばらく考えこむジャスティス。
「…お前が…<爆睡ダマ>を使ったのか?何故?」
「二人で話したくてな。…フィストとは、どんな関係だ?あいつ、お前と"アビス"とやらのことををしつこく考えてるが」
「なっ……」
「あ、フィストの刺客じゃないぞ、俺は。考えを読めるだけだ。お前の仲間、アビスと同じにな」
ここで読者の皆様に注意点。俺は、「アビスっていう別人」のことを話している。…名前を聞かれたら?…………神頼みするしかないな。聞かれませんように。
「……フィストは…闇に呑まれたディアルガの刺客だ」
「ほう…未来は闇に呑まれてるのか」
未来ってのはビンゴらしいな。しかし、未来が闇に呑まれてるとなると…厄介じゃないか?
「で、その過去を変えたいから、時の歯車を集めていた、ってわけか」
「ああ。アビスは、人間の世界から来た俺の仲間だ」
聞きたいことは聞いた。あと、どうやら恋人もいるみたいだし、ネタも釣れた。
あとは。
「ほら、使え」
<穴抜けのタマ>を放る。
バッグがクシャクシャだ。俺らを止める<縛りダマ>とオレンの実2個しかない。
「お、おう…止めないのか?」
「ああ、お疲れ様」
「じゃ、じゃあ…」
恐る恐る時の歯車を外し、<穴抜けのタマ>を使う。…罠なんて仕掛けてないぞ〜。
ジャスティスを見送ったあと、気付いた。
「…チームバッヂ、使えないじゃん」
使用者含めて4人、が限界だ。もし俺が使ったら。
半分以上が犠牲。
「あーもう俺の馬鹿!っそ……」
<放電>でたたき起こす。
「ほら、走る!」
「ちょ、説明を求めたいんだけど?」
「何がどうなったんだ?」
「アビス、なんで動けたの?」
「何が起きてたの?」
「ほら答えなさい!」
「………」
「説明後回し!永遠にストップで良いのか?」
もう、景色の一部が灰色になっている。光も止まるから、色が反射されないんだ。
「ティアラ、兄ちゃんの支えしてな!ウォルタ、クオン乗せて!ソフィア、ミコ、エムリット運んで!」
指示してから、ミオをお姫様抱っこして駆け出す。
「間に合うか?<俊足ダマ>は…」
あと5つ。
「全部使う!」
5倍速で走る。足りなそうだから、電気流して全員の足を活性化させる。
でも、灰色の波は加速してくる!?
「あと……っ…ハァハァ…っ50m…!」
頼む、間に合え!!
ダンジョン、クリア。
背後には灰の景色。ただ、こちら側まではこない。
マップが変わったからだ。
「帰ろ……あ」
<穴抜けのタマ>は、もれなく10人まで転送出来る。
アイテム探しに奔走。
帰還出来たのは、30分後だった。