第十六話 盗賊
side アビス
朝。
まだ1:57。普通は起きていない時刻。
なにやら騒がしい。
「外か?」
羽音も聞こえる。窓から身を乗り出す。
外では、ペリッパーがかなりの数で飛んでいた。方向はバラバラ。全国各地だろう。
全国一斉となると、何かニュースだろう。しかし、その"何か"が分からない。
善報か悪報か。…どっちでもない気がする。
「あ、アビスさん、起きてたでゲスか!招集がかかってるでゲス!」
!?
皆を起こさなきゃ…ゲス…じゃなくディーザから、『時の歯車』ってキーワードが感じ取れる。まさか…
「ええと…<放電>!」
バチバチ!
「ぎゃあああああ!?」
「うぐっ!?」
「ひゃっ!?」
「うわわわ!?」
………
「わりい。判断ミスだわ」
『わざとだろうが!!』
「……で、どした?」
「時の歯車関連で招集。上空の大量のペリッパーから、かなりヤバそうだ」
「ヤバそうって…」
「急ごう」
招集は、フィストにもかかったらしい。…ヤバくないか?
名前は明かさないほうがいいが…この時のために、ミオ以外は偽名がよかったか…詰めが甘かったな…
今さらながら、冷や汗が頬を伝う。
「おお、お前たち、遅かったじゃないか!」
………五月蝿い。まだ2:00にもなってない。騒音被害で苦情くるぞ…
「で、時の歯車がどうした?」
「!?……そこまで知ってるのか」
む?何考えてんだ?…おいおい。そりゃねーだろ…
「時の歯車が…盗まれた」
「ええ!?またでゲスか!?」
「今度はどこなの?」
「……霧の湖、だな?パルダ」
『!!??』
空気が凍りつく。全員が、雷に撃たれたように動きを止める。
「………………ああ、そうだ。盗まれたのは、霧の湖の時の歯車、なんだ」
区切りながら、一言一言を噛み締めるように言う。その口調は、グラードンよりも重い。
「あの場所は、誰も知らないはずだ。ギルドのメンバーを除いて…」
そこまで言って、気付いた。もし、ギルドのメンバーが、ばらしたとしたら。
「ギルドの誰かが………バラしたのかな……?」
ミオが、その言葉が呪われているかのように恐る恐る口にした、その一言。
「否…違うだろう」
つい、口に出していた。
彼らは、バラしていない。それは、火を見るより明らか。彼らの思考は、怒りのみ。それも、その盗賊に向けたものだ。純粋。盗賊と通じるものは、いない。
………いたら、初対面で気付くな。
「もしそうなら、もっと早く…<希望の峰>の辺りで気付いたはずだ」
「そっか…」
「でも、仕方ないですわ。知ってるのはギルドの者だけですし」
サンが繕う。
「あ、あの?霧の湖の時の歯車って?そもそも、遠征は失敗したんじゃ…」
あ。部外者いたわ。
「ゴメンね〜。訳あって、言わないようにしてたんだ〜」
ウィリフが説明する。…説明になってないが。18文字で伝わるのか?
「で、ユクシーなら大丈夫なんだろ?保護されてるだろうから。となると、その盗人の詳細分かったんだろ?」
推測だが、確信があった。…ユクシーを"逝くしー"と言いそうになったのは言わない。
「ああ。掲示板を見なさい」
…………お尋ね者だな。報酬額がまた凄い…
緑色の二足歩行のトカゲ…ジュプトルだ。凶悪そうな顔を…してない。
なにか正義感に満ちた顔だ。……正義……フィストの考えてた"ジャスティス"…そして俺…時の歯車…それを見た時の胸騒ぎ…このジュプトルと俺は関係あるのか?
ここで俺の事を知ってるやつはいない。人間がいた記録がない。となると、これから…未来!?
フィスト、ジャスティス、俺。そしてこのジュプトル。…ジュプトル=ジャスティスだろうな。…どうやら、それらは、時の歯車、そして未来の2つで関わってる。
フィストはジャスティスと俺の敵。ならば、俺とジャスティスはどんな関係なんだ?
「《希望の深淵》は<北の砂漠>へ向かってくれ」
え?………やべ、聞いてなかった…展開的に、時の歯車を探してジュプトルから守れ、だろうな。
「分かった。…彼らも、一緒でいいな?」
コラボ組を示す。彼らがいないと、なんか厄介なことになりそうだから。
「ああ。気をつけて行ってこい」
……砂漠かあ…
<北の砂漠>
砂だらけだ……やだよう…帰りたいよう…
頬を打つ熱風。そして、砂。
「なんで私たちまで…」
ソフィアの愚痴も、砂の音に呑まれる。
「でも、ちょい試したいことがあってな」
ミコとのコンボと、コラボ組とのコンボだ。
「あ、ヨーギラス」
さて、本領発揮か。
「行ってこい!」
「投げないでよっ!?」
ポーン
綺麗な放物線だ。
「<オービダルサンダー>!」
……工具だよな?
スパークの上位、ボルテッカーの劣化だろうその技に、ヨーギラスはダウン。
あ、他にも来た。ヨーギラス。
「俺も行くぜ!<オービダルサンダー>!!」
「え?」
「ふぇ?」
口を開けたままの皆。
俺は錬金術を駆使し……
「それ工具だって!」
「木材じゃないんだよ!?」
両手に木材カッティング用工具「オービダルサンダー」を造り出す。
そして伐る!じゃなく…斬る!
木材でもないのに綺麗に切れた。
「酷い…」
「ちょっと違うけどどっかの誰かを思い出す…」
おふざけはここまで。さっさと抜けよう。
<北の砂漠>多分最奥部
流砂だけしかない。でも、なんかおかしい…
「なんか感じる。あの湖と同じだ」
「時の歯車が?…でも、何もないよ?」
何もない。でも、仕掛けくらいはありそうだ。
「……おかしいぞ」
「そうね」
「どした?」
アウラとソフィアが話している。
「流砂は、下に空洞が無ければ起きるはずないんだよ〜」
ウォルタが解説する。…ってことは?
「………流砂に入るぞ」
「…………ええっ!?」
続く