第十五話 エレキ平原
5:00 side アビス
「それでは皆、仕事にかかるよっ♪」
『おおーーーーっ!』
ご恒例の挨拶が終わる。……2時間で依頼全部こなすのもキツイな。今日は休暇だな。
朝の自由時間で、ありったけの仕事をこなしてきた。よって、掲示板は真っ白。
更新は明日。ならば、休めるはずだ!
さて、なにしようか…
「おい、《希望の深淵》!お前たちにお客だ」
「「え?」」
「入り口で待ってるらしい」
休みがあああああああああ……
誰だろう……依頼だろうな。予想。
「あ、アビスさん、ミオさん!」
?……この声って……
「リルくんとルリちゃん?」
マリルルリリの兄妹が、そこにいた。
「で、なんの依頼だ?」
その質問に、リルは紙を渡してきた。
「これは?」
「探し物が海岸で見つかったと聞いたので、行ってみたらこれが……」
「探し物って、<水のフロート>だよな」
確認しながら、その紙を見る。
………………………
グシャ
「アビス、貸して?………」
握り潰したそれを、前足で丁寧に伸ばすミオ。几帳面だな。
「……なに、これ……」
内容は、こういうものだ。
『<水のフロート>は俺たちが預かった。返して欲しければ、<エレキ平原>まで来い。もっとも、お前らみたいな弱いやつが来れるはずないがな。クククッ。誰か強い探検隊にでも助けてもらうことだな』
「<エレキ平原>は、僕も挑戦したんですが……タイプ相性により、あっという間に倒されてしまい……」
「私もいきたいのに、弱いから…」
「これって、脅迫……?」
名指しの挑戦だな。匿名のつもりなんだろうが、口癖が文に表れている。
何故に正体バレるようなことすんのか分からんが……
さて。今までの罪を全部暴露して、刑務所へ送ってやる!
……えーと。幾つ罪状あるんだ?………ストーカーに窃盗、多分ウィリフを殺ろうとしたから殺人未遂と暴行………よし、逮捕するかー。
十字路で、どっかで見たようなパチリスを見かけた。
「おい、お前…」
「はい?」
「アビス、知り合い?」
いやいや、知り合いじゃない。パチリスとあった描写あったか?
「知り合い、ではないが…」
ちょっと考えよう。こちら側では会っていない。多分、小説の登場人物。そして、俺達と接触できる。となると、ポケノベの中だろう。その中でパチリスは…ああ、いたなあ。
「ミコ、であってるか?バールに苦労かけられてる」
「そうだけど……って、あんた何者!?」
……あ、やっちまった…………なる。やっぱりこの反応か。これ以外の反応は…ウォルタとクオン。まあ、あの二人は……ねえ。
「で、なんでここに?」
「悪魔に投げられた」
抽象的な表現のつもりなんだろうが、事実を言っている…
「そっか。…どーせ、逝く…失敬、行くとこないだろ。俺達と行動しようぜ」
「ああ、ありがとう」
面倒だからチームバッジで転送。……酷いとか適当とか言うな。
<エレキ平原>
電気タイプ多いな。
特に避雷針持ちコリンク。電気を操ろうにも、引き寄せられるんじゃしょうがない。
オレンの実を持って、錬金術使いまくるしかない。
剣をどんどん作り、片っ端から相手に飛ばす。
<サイコキネシス>を使い、とりあえず刺す。
ああ、電気使えねえなんて……
イライラに従い、技も荒く粗くなる。
あ。
「またやっちゃったの?」
フロアの開き状態。
中間地点
「そろそろ奥じゃないかな」
「ああ。気をつけていこう」
カクレオン商店
「……なるほどー。そんなことがあったんだ」
「はい」
カクレオン商店前。ルリとリル、佳供とレオンが話していた。……レオンは聞いていた。
「で、今《希望の深淵》が向かってるんだ?」
「はい。ルリを助けて頂いたこともあるし、《希望の深淵》は恩人です」
そう言うリルは、彼らを信じる純粋な目をしていた。
……ホントに信用して良いのか……
「彼らならちゃんと成功させるよ」
「皆さん、どうしました?」
ギルド側から、かなり大きい体の"いかにも幽霊です"感満載のポケモン…ヨノワールのフィストが来た。
「ああ、フィストさん。以前、この兄妹の探し物の話をしましたよね?」
「ええ。確か……<水のフロート>でしたっけ。海岸で見つかったと聞きましたが…」
「実は……」
少しして
「ええ!?それって、脅迫では……!?」
「ホント、こんな幼い子にこんなことするんですもん!わたしぁ許しませんよ!」
頭から湯気出して怒る佳供。
「それで、今《希望の深淵》が向かってるわけですが」
「《希望の深淵》?……ああ……」
その名を聞いて、顔をしかめるフィスト。考えをあっさり見破られては後味も不味かろう。
「で、今彼らは何処に?」
「確か、<エレキ平原>だったかと」
その地名を聞き、息をのむフィスト。
「……この季節は……確か……!!」
「「「「!?」」」」
突然走りだそうとしたフィストに、一同は驚く。
「どうしたんです?」
「行かなければ……彼らの命が、危ない!」
そう言い残すと、風のように駆けていくフィスト。
「え、えええ!?」
……ついていけないのはお互い様だ、佳供。
<エレキ平原>最奥部
やっとついた……
モンスターハウス10回、そのうち避雷針は絶対2体はいる……<放電>使えねえよ……
え、いつ覚えたか?<十万V>を周りに溜め、均等に放つんだ。練習で覚えた。そこそこの威力は誇る。けど。
「うざいよおおおお!」
<水平斬り>はそろそろやばい。PPじゃない。ダンジョンの耐久だ。
あと2〜3回で崩れるの確定だ…
でも、1回分は残ってる。最後の一手だな…
ちょい開けた場所にきた。
周りは高めの岩。そして、上空の雷雲。
ピシャッ!
……ゴロゴロゴロゴロ……
「ひゃっ!?」
「ひやあっ!?」
最初のはミオ。後の?……俺。ミオが抱きついてきた……しかも。
「う、腕……」
脇が……くすぐったい………
「もうちょっとだけ……」
どういう意味だ。
「あ、あそこにあるのが<水のフロート>じゃないか?」
ここが入り口なら、奥のほう。
洒落た装飾の浮き輪。遠目でも、なんとなく分かる。
「さっさともって帰ろう」
帰りたい。あったかハイムが待ってはいないけど。
ミオが弄ってきそう……ん?
空気がはりつめる。
息も憚るような瞬間。
独特の気配。
(殺気……複数か。四足、電気タイプ……)
分析だけしておく。……意味があるかは聞くな。
「貴様ら!我々の縄張りに入るつもりか!」
……縄張り?
(クオンの持ってた本に、あったな……年中旅をして住みかを変えるポケモンの群れの話)
縄張り、放浪、殺気、四足の電気タイプ。これらが結び付く。
……なるほど。
「すまない。ここを荒らすつもりなんてない。だから、姿を見せてくれ。……ライボルト」
この声は、崖に反響し、全体に聞こえるはず。
しばらくして、何かが目の前に降り立った。
ライボルト。
「かつて、ここを襲われて、より警戒的になったのも、ここが住みやすいことも知ってる。でも、荒らすつもりは全くない。ただ……」
そう言いながら、<水のフロート>を拾い上げる。
「これを貰っていってもいいか?」
「あ、ああ。我々のものではないからな」
取引は迅速に。
「俺はアビス。よろしく」
「お、おう……」
「じゃ、帰るよ。……ああ、そうそう。岩影の3匹は、荒らしたいみたいだよ」
そう言いながら、バッジをかざす。
光に包まれる瞬間、雷と悲鳴が……気のせいだな。
数分後
ハア、ハア、ハア…
あらい息のフィストが、最奥部にきた。
「貴様もここを荒らすのかァ!」
いきなり<雷>。
ドーン!
「うわああっ!?」
この後どうなったか?
誰にも分からないが、フィストは帰還し、店の前で《希望の深淵》と話していた。
身体中の傷が目立つ。
「それにしても、よく切り抜けたよね」
「あれは、まあ……クオンに感謝だな」
呑気だな……
「「アビスさん!ミオさん!ありがとうございました!」」
兄妹が頭を下げる。その様子が愛らしく、笑みをこぼす一同。
「あ、フィストにも言わなきゃな。危険を承知で来たわけだし」
「はい!フィストさん、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
可愛らしいな。
「フィストさんも格好いいですが、《希望の深淵》も私は好きですよ。ちゃんと依頼こなすし」
「そういえば、ドロウの一件。いち早く駆けつけましたし。あれはお手柄ですよ」
やっとレオンが口を開けた。
「でも、まああれは……」
「偶然と言うか……なんと言うか…」
説明しづらい。
「あ、フィストさんなら分かるかな。あの事」
ミオは、例の"夢"を気にしている。確かに、知ってそうだな。でも、念のため。
「ひそひそ(他人の、人間がいたことにしよう。俺じゃなく。あと、俺の名前は言うな)」
フィストの意識が、"ジャスティス、アビス…捕まえてやる…"って方に全面的にいっちゃってる。ジャスティスとやらと俺の関連は知らないが、名前を言ったらやばそうだ。
「あの、さ。フィスト。何かに触れると、時々未来や過去がみられる力って、知ってるか?」
言葉を選びながら言う。
「未来や過去?……それは、<時空の叫び>では!?」
知ってたか。……あれ?なんか期待してるな。代弁しよう。
『<時空の叫び>……アビスが、いたのか?』
…あぶねー。冷や汗が……
「とりあえず、場所変えよう」
海岸
懐かしいな。ここで、ミオと出会ったんだっけ…
でも、今回は違う。"アビス"って名前の"人間"に出会ったことにしなきゃ。
「ここに、あいつは倒れてたんだ」
「そうですか。……」
「あの人、人間なんだ、って言ってた…」
「人間!?」
めちゃくちゃ驚いてる。でも、
『あいつが……いたのか!?』
……そっちか。
「あいつは、アビスって名乗ってた。で、偶然少しの間一緒にいて、ドロウの件で助けてもらったんだ」
「彼、その後どっかにいっちゃって…」
こうすりゃ安全。
「そうですか……やはりそれは、<時空の叫び>です。彼にも会いたいところですが……いないんですよね……」
『アビス……やっと追い詰めたぞ……』
怖いって……
ギルド 弟子部屋
このごろ部屋の隅で、コラボ組がにらめっこしてる。
クオンの本を片っ端から漁り、ソフィアとウォルタ、アウラが紙に色々書いてる。
ティアラとミコは大あくび。
「何してんだ……?」
「さ〜ね〜」
ミコ。律儀に起きてる必要あるか?
「……進歩ひとつ、か。おやすみ……」
日記に少し走り書きし、ベッドに倒れる。
【●/〇 判明、謎の夢=<時空の叫び>。フィストは、俺と"ジャスティス"を消したい。仲間、ミコ追加。】
明日も頑張るか…………