第十四話 相棒の能力
side アビス 3:00
否、驚いた。
周りが全部本で埋まっていた。
クオンが、その真ん中で本を読んでいる。落ち着いて。表情には表れていないが、楽しいことが良くわかる。
「…迷惑だった?」
「いや…別に迷惑じゃないし、俺だって本好きだが…」
「そう…勝手に読んでもらって構わないから」
「そ、そうか。ありがとう」
さっきも言った通り、俺は本好きだ。しかし、部屋が書物だらけ、というのは、迫力が……
詳しく描写すると…10人ほどが泊まれる部屋がある。その中の90%が本で埋もれている。大小様々、タイトルもジャンルも統一性がない。
誰かが伸びをしただけで、ここは地獄になるだろう。
「………一応ハッピーエンドで終わらせるって決めたんだ、ここで地獄は…」
言いつつ、本を手に取る。一ヶ所に集め、積んでいく。
作業中に本を読むのは日常茶飯事。
「……?」
「ポケノベル プリントアウト」と書かれた本が。読む。…かなり分厚い…25cmはある。
「………俺達の作品は途中までか…仕方ない」
他の皆さまの作品を読む。……凄いな。
「おい、朝だぞ…って、何だこりゃあ!?」
ドームが起こしに来た。ヤバい。
寄せた本。出入口近く。
一瞬で、この後の惨事から葬式、墓に入るとこまで考えた。走馬灯が見えた。記憶、無いけど。
ガツン。
一番ドアに近い本に接触。
ドサアアアアアアアア!!
「ヤバい!<ダイヤシールド>!」
間一髪、睡眠中の5人とクオンを庇う。ダイヤは便利だ。
部屋は崩壊寸前。しかし、崩壊まではいかないだろう。
…甘い。煮詰めた飽和状態の砂糖水にチョコとホイップクリームをつけて、そこにさらに砂糖を加えたよりも甘い。
土砂崩れがおさまってきたら、まず他方向にもいく。
ドサアアアアアアアア!!!!!
バキッ
「ぐはあっ」
ドームを吹っ飛ばし、ドアを壊し。
ギルドをおおいつくす。
「なんだい!?これは!?」
「凄い凄い♪楽しそう♪」
「キャー!なんですの!?」
「助けてでゲス!」
被害者続出。ああ…
「まあ、仕方ないよ」
「…………すまん」
「どうしたんだい、いつもこわ…(あ…怖いとは言えない)………だったお前が」
(パルダ、ごまかすの上手いよな…)
片付けの最中。本が、食料庫を襲ったせいでもっとヤバい状況。今はギルドB1F。B2Fの床はウィリフの部屋と弟子部屋を除いて消えた。
「本当にすまない…」
「アビスが謝ってる!?」
「熱でもあるのかしら…」
「珍しいけど、そっとしとこうよ〜」
「…だな。俺達5人は掲示板でも行くか」
「学者組でか。珍しいね、お兄ちゃん」
「…………私も…?」
「クオンも、よ。ほら、行きましょ」
話し合う。ただ、耳を素通りしてくので、意味を成して聞き取ることが出来ない。
弟子の部屋で、片付けとけば良かったんだ。読んでたから、あんなとこに重ねたから…
「……探検してくる」
「わ、私も!」
ギルドを出る。
side ウォルタ
珍しいこともあるんだね〜…あのアビスが謝るなんて。
確かにギルドの床を本の重みで抜くなんて、自分のせいだったら耐えられない。
一番床がしっかりしている僕達の弟子部屋だから持ちこたえたんだって〜。
……で、掲示板の前にいるんだけど〜…
「人、多い…」
ソフィアはこういうの嫌いだったんだ〜。しかも、こういう時に限って大人数なんだよね〜。
「仕方ない、探検にしよう」
アウラが言って、切り替える。流石だよね〜。
「<希望の峰>なんてどうかな〜」
「それがいいな。行こう」
side アビス
凄く沈む。
《ドクローズ》はまあ、悪い人だったから。怒ってたのもある。
今回は俺の不手際。
沈んだ状態でなんとなく十字路まで来た。
………新しい看板だ…この先25000km?……ちなみに、この世界は世界一周400000kmだ。
「<希望の峰>?……」
《エクスカリバー》の時に似た、何か運命的な何かを感じる。
「行くか…」
「お、おいてかないでよっ!」
<希望の峰>
不思議のダンジョンになっている。が、ダンジョンと通常マップが交互に存在している。
やたら休憩所が多いダンジョンを連想すればいい。
今は……何回目か分からなくなってきた休憩所。
ガルーラ像の前。
……で、今視界のはしっこにいる学者5人。
どういう巡り合わせか、よりによってダンジョンの中で合流した。
気遣っているのか、あえて話しかけてこない。
「……休憩もこれぐらいにして、行くか」
「……………俺たちも行こう」
なんでついてくんのか分からん…
「…………………っ、ハア、ハア…」
「ミオ、大丈夫か」
普段の10倍はあろうか、という量の階をクリアしたなら、当然だろう。
出来ればこのままクリア、なんだが…
「あと、どれぐらいなのかな…」
「………………この…倍だ…………(言うの嫌だ……)」
絶望的。
「………アビス」
「なんだ?」
「あのさ…」
「どうかしたか?」
「………お姫様抱っこするの止めて…///」
「効率がいいし、(それに…まあ、言えないな)いいじゃないか」
「……あとどれぐらい?」
「さあな」
ミオが息を切らしてから150階。ちなみに、今までは200階だった。現在…350階。
………2000階あるぬるいダンジョン。プレイヤー泣かせの地獄だろう。
駆け出そうとして、思い付いた。
こうすりゃいい。
ミオを抱き抱え、そのまま走る。
学者組は、ついてきている。持久力たっぷりだ。
クオンだけは、ウォーグルのウォルタに乗っているが。
さあ、あと1650階だ。
「つ…………着いた…」
「はあはあ……遠かったね〜……」
「重くなかった?アビス」
「軽かったぞ」
「………ウォルタさんは…?」
「大丈夫だよ〜」
「……なんで…平気なのよ…」
「……全くだ…」
「……バケモノ級だね…」
………なかなか失礼だ。
2000階。頂上。ゲームにあったら大不評だった。ぬるい長いだけの…
ちょっとした林の中。30〜40本くらいの杉の木。真っ直ぐに天を差している。
標高どのくらいなんだろうか。
見渡すと、祠があった。
かなり古い…80年は経っている。
お稲荷様の祠って言えば分かるか…?
ただ、お稲荷様の狐像は無い。
「なにか…書いてある」
ソフィアが何か見つけた……近くに看板が倒れていた。上に落ち葉や蔦が乗っていてわかりづらいが。
「…えーと。『希望の名を持つもの、ここにたどり着くとき、宝は目覚めるだろう』…?」
「希望ならミオが『ホープ』だが…」
一斉にミオを見る。
「!?」
ビクッ
おどろくミオ。
「ミオ、こっちに来てくれ」
「う、うん…」
後ろのほうからおずおずと来る。
祠の前まで来た、その時。
ピカ一……
静かに、強い光を放つ祠。
「……ミオ…!」
光がおさまってきた。
祠には、七色に輝くオーブが。
「……これを…つけるの…かな…?」
恐る恐るオーブを手にとる。
「着けづらいだろ、ほら」
前足では不可能と判断。
「…よし。これでいいぞ」
「わあ…!」
スカーフのちょっと脇、シェイミのスカイフォルムの「花」のように着ける。
そっと手を離す…その瞬間…
「うわっ!?」
「キャッ!?」
オーブが輝き、ミオがその光に包まれる。
…光がおさまってきた…!?
そこには、ブイズが…イーブイ、ブースター、サンダース、シャワーズ、ブラッキー、エーフィ、グレイシア、リーフィア、ニンフィアが…揃って、立っていた。
どれも、混乱している…もしかして…
「全員ミオなのか?」
その問いに、全員が頷く。そして、また輝き…
おさまると、元のミオに戻った。イーブイの。
フラッ…ドサッ
そのまま倒れる。
「ミオ!?」
慌てて担ぐ。
「わりい、クオン。チームバッジ出してくれないか?」
この中で疲れてないうえに手を使えるのは、クオンだけだ。
「………うん、分かった」
チームバッジを取りだし、使用する。
帰って、気づいた。
ギルド壊れてんじゃん。
錬金術で修復。受けた反動はオレンを使う。
……三分で完了。
ミオをベッドに寝かせる。今日はもう無理だな…
さて、ギルドも直したし、凹む理由も無い。
自分もベッドに倒れ、日記を書く。
【●月▼日 ミオの専用道具っぽいものをゲット。効果は、ブイズに自由に進化、だと思う…影分身の要領なんだろうか。まあ、そのうち分かるか】
「お休み」
誰にともなく呟き、眠る。
side ソフィア
まだ12時なのに寝れるなんて、信じられない…
じゃあ、暗号の解読でもやろうかな…
とか思って石板を眺めてるんだけど…なんなのよ、一体。
明らかに何か予言を記している。のに、メチャクチャな暗号になっていて解読できない…
歯痒い思いをしているうちに、ウォルタの方からも似た空気が漂ってきた。
…立ち往生ね…
次回 「エレキ平原」