第三話 トレジャータウン
「私と一緒に探検隊になって!」
ストレートだ。超ド直球だ。いや、女子の好みでなく。
いや、そもそも探検隊って!?
まさか、「探検するんだよ!」っていうんじゃ……
……否、そのまさかみたいだ。あの表情を見れば解る。
しかし、面倒だ。相手の行動一つ一つから考えを読み取る、しかも無意識に?
某超能力少年の漫画の気持ちが痛いほどわかる。
用を足したいとか、何こいつとかそういうの丸分かりだし。
……こほん。話を戻そう。探検隊をやろう、か。
今のところ、何処にも行く予定は無い。
と言うか、何処にも行けない。
元の世界に戻る?「俺は元人間なんだが、人間のいる世界への方角を教えてはくれないか」と聞かれたポケモンがどんな表情をするか…
アルバイト?どんな職種あるのか、さっぱりだ。何をやるんですか仕事。
野宿?どこで寝るつもりだ。襲ってくるポケモンがいるのに、寝てなんかいられない。
だったら、答えはひとつ。
「乗り掛かった船だ。分かった。やるよ。」
「本当に!?ありがとう!」
跳び上がって喜んでいる。ま、今頼りになるのはミオだけだし、いっか。
よかった〜〜!引き受けて貰えた〜!
あ、ミオです。私視点は初めてかな?
「ありがとう!じゃあ、まずギルドにいかなきゃ!」
「ギルド?」
不思議そうな顔をされた。常識、だよね?……ああ、そっか、アビスこの世界に来たの初めてだった。
とりあえず説明を。
「うん。探検隊の登録や修行を出来るんだよ」
「じゃあ、急ぐか。もうすぐ日が暮れるぞ」
え?もう?じゃあ、急がなきゃ…ここから、ええと、何分でついたっけ…ギルドがしまっ……
慌てて日を見ようとした私に、落ち着いた声がかけられた。
「まだ多分、1〜2時間はあるだろうから、その周りの案内頼めるか?」
ええと……何で、ギルドの閉まる時刻を知ってるの?確かに、あと二時間弱はあるけど……
というか、何故に案内。
「?あ、いいよ」
そっか、アビスはここの事知らないもんね。時間がある内に教えないとね。
…元人間だって忘れるとこだった…
で、アビスは何で時間を…?
アビスを連れてトレジャータウンに来た。
と、きゅうにアビスが立ち止まる。案内する形だった私は、すこし行きすぎて立ち止まりアビスの方を振り返る。
アビスの背中のほうには、今まさに沈もうとしている夕日が。夕日を後光のようにし、不思議な雰囲気を醸し出しているそのピカチュウは、すこし躊躇ってから、重そうに口を開ける。
「ミオ。あの遺跡の欠片の事なんだが」
「えっ?」
唐突に、何?
「あれがもしただの欠片だったらどうするつもりなんだ?」
失礼な一言に聞こえる。というか、堂々と失礼だ。
何故か、隣に居ると安心できる彼だからこそ許せるが、でも他の人なら許せそうにない。
しかし、彼の目はからかっている訳でも、貶している訳でも無く、ただ質問し、試しているようだった。まっすぐな黒い目。
何でも見透かされそうな深い深いその目は、背後の夕日と対照的に暗闇のようであった。
彼の名前、アビス……深淵のように。
「うーん、その時はその時で考える、かな」
「そうか。悪い、試すような事言って」
彼は、軽く頭を下げた。
なにか理由あるのかな?……あるよね、きっと。この人なら。
ミオに案内され、とあるテントの前まで来た。
緑色のカメレオンの様な顔を模しているようだ。
テントの道に面している側には、カウンターとおぼしきテーブル。テーブルには、ダンジョン内でも拾った青く丸い木の実、オレンの実や見たことのない不思議な形の種…復活の種と言うらしいが、それらが所狭しと並んでいる。
それらの手前には、一つ一つに紙が置かれている。何の紙なのか…獣の皮のようなそれには、何かの足跡らしき形がいくつか書かれている。同じ形があるから文字だろうか。
テーブルの向こう側ではテントと同じ顔のカメレオンのようなポケモン…カクレオンが二匹ニコニコ笑っている。左側は普通の緑色をしているが、右側は紫色をしている。
よく見ると、並んでいるアイテムらしきもの(多分アイテムと呼んで差し支えなさそうなので、以下アイテム)にも規則性がある。
紫の方の前にはCDのようなアイテムが、緑の方の前には木の実らしき物、種らしき物、そして何かの小瓶が並んでいるようだ。
「ここはカクレオン商店。全大陸に店を構える有名店だよ」
全大陸、というとマックみたいな感じか?と聞こうかと思ったが、マック以前にハンバーガーがあるかどうかすら怪しいので聞かないことにする。
商店か。じゃあこのアイテムは売り物なのか…
「こんにちは、ここらでは見ない顔ですね?」
二匹のカクレオンの内、緑の方が聞いてきた。営業スマイルで。
「最近ここにきたばかりなんだ」
適当に当たり障りなく答えておく。…まあ、あながち間違ってはないだろ。
「そうなんですかー。私は商 佳供です。で、こっちが弟の……」
「玲音です。よろしくお願いします」
兄弟、なのか。何か聞いたことのある設定だ。
カクとレオン、か。率直な名前だ。
「アビス・ナレッジ。よろしく」
簡潔な挨拶で返す。
紫の方は弟なのか。色違いか?……色違いって、安売りされてそうだよな。
「「足りない道具がありましたら、ぜひご利用ください」」
異口同音に、声を揃えての言葉。ベテランなんだろう、滑るような言い方だ。
口も滑らなきゃいいが……
成る程、ここはつまりショップで、必要なものを買える訳だ。
「ここは、トレジャータウンで二番目に警備が強いんだよ」
盗みも入らない、か。あれ、そう言えば………
この紙は値札だよな。読めなかったら…危ないじゃん。というか、この世界の通貨って何?ダンジョン内で拾ったあの金貨だとしたら、単位とどれがそうなのか教えて貰わなきゃ。
店員さんに気づかれないように、ミオにコソコソと話しかけた。
「ミオ、この世界で使われている金と文字は?」
声色に気づいたか、ミオも声を潜めて答える。
「お金は【ポケ(P)】、文字は【足形文字】だよ」
すかさず、手を合わせて懇願。
「今度教えてくれ……」
「うん、いいよ?」
このやりとりを、カクレオン兄弟はニコニコと営業スマイルを外さず、不思議そうに見ていた。
……変人だとか思われたかも……いや、変ポケ?
次に来たるは穴蔵のような場所。色合いと作りがそんな感じだ。モデルは怪獣のようなポケモン、ガルーラだろう。
ここにもカウンターのようなテーブルがある。
正面にいるのは親子ポケモンガルーラだ。お腹の子供がぴょこんと顔を出し、片手をあげて挨拶してくる。可愛いので、俺も右手をあげて答える。
ガルーラの後ろには、なにやら金庫のようなものがずらっと並んでいる。
一つ一つ、手書きの文字で「○○様」「探検隊○○」とか書かれている札が貼ってある。どれも丁寧な達筆だ。手書きってとこに暖かみを感じる。
ガルーラがにこやかに話しかけてきた。雰囲気は近所のやさしいおばちゃん、ってとこだろう。こちらの若干緊張した空気がゆるむ。
「ここは、ガルーラの倉庫。持ちきれないアイテムを預けたり、引き出したり出来るよ。ちなみに、タウンで一番セキュリティが強いのはここだよ」
「あら、見かけない顔ね。ミオ、彼氏?」
「「ち、違います!!」」
お互い真っ赤で首を千切れそうなほどぶんぶんと振る。そして、お互いに少し小さなため息。
……違う、のか。やっぱり……
ちなみに、ミオも同じ事を考えていたらしい。今の俺が知る手立てはないが。
「あら、ごめんなさい。メークよ。よろしく」
「アビス・ナレッジ。よろしくお願いします」
威圧感と貫禄が……下手に逆らえない。つい敬語に…
敵に回したら怖い。けど、仲間もしくは友達だと心強い。それが、彼女に抱いた第一印象となった。
「ミオ、次は?」
「えっと、他に道場とかあるけど、よく行くのは銀行かな」
銀行、あるんだ。確かに全額持つ訳にもいかないからな。
ということで、今度は灰色と黒が基調のまん丸テント。模しているのは明らかにお化けといった感じのポケモン、ヨマワルだ。
後方の棚は、どうやら金庫の様子。ガルーラ倉庫のように、一つ一つ手書きで名前が書かれている。
店主であろう彼、ヨマワルは、俺を見るなり、頭を深々と下げた。
「ヨマワル銀行のオルドです。よろしくお願いします」
礼儀正しいが…どこか違和感が。
こういうときは聞かなきゃ損だ、という世界の法則に従って聞いてみる。
「よろしく。なんで原作の口調を受け継いでないんだ?」
「作者の都合だよ」
「そういう世界だから気にしないで下さいね」
…聞いても損する質問なんて初めてだ。まさかこの小説の手抜きさを露見する答えとは……
というか、メタ乙。
「じゃあ、一通り案内してもらったし、ギルドへ行くか」
「うん!」
どんなところなのか知らないが、行かなきゃ分からないことがほとんどだ。
軽いとまではいかないが、その足取りは少し速かった。