第十話 毒とリンゴと遠征と 後編
side アビス <リンゴの森>最奥部
やっと森を抜けた。
「アビス、あれじゃない?」
今まで森を形成していた木より大きい、「木」というより「樹」と言ったほうがいいような大きさの「樹」があった。
「あれがセカイイチじゃない?でも、少ないような…」
確かに、大きなリンゴより大きなリンゴが実っている。しかし、不自然に少ない。見えるもので3つ。
「早く持ち帰ろ♪」
ミオが近づく。と……
「クククッ、ゼェ、ゼェ……ゲフッ、お、遅かったな…あまりに遅かったんで…セカイイチをあらかたくっちまったぜ…ゲホッ」
「ケ、ケケッ……ゴホッ」
「ヘ、ヘヘッ……ウグッ」
前からいたと言う割にはなんかおかしい。息切れまでしているし。
ふむ……聖なるタネをありったけ使って俺達の後を追いかけるも、モンスターハウスに5.6回遇い、しかもタッチの差で到着したら慌ててセカイイチを食いまくり、毒リンゴの細工をして、今に至るのか。
「そんなことより、俺さま達はお前らを助けようと思ってな」
明らかに嘘だ。
こちらの態度は気にせず樹の横まで来ると、樹に向かって突進した。
(!!)
何故か落ちてくるリンゴを受け止めようとした。イタズラで。ドロウの<サイコキネシス>を思い浮かべた。
ドッシーン!
モーフが樹にぶつかる。が……
落ちてこない。どうやってるか自分でも分からないが、落ちてくるリンゴを落とさないようにする。
「!?くそっ!」
ドッシーン!
ドッシーン!
何度もぶつかるが落ちてこない。ダサい。
「………w」
「………ふふっ」
めちゃくちゃ笑える。かわいそうなので、いくつか落としてやる。
頭のうえに。
「うぐわァッ!?」
「「アニキ!?」」
「だ、大丈夫だ……ほら、持ってけ」
「わりいな」
わざと3つ拾う。
「コソコソ(絶対罠でしょ!?)」
「まあ、みてな………おい、《ドクローズ》!」
「「「?」」」
こちらを見るヤツラ。
「助けてくれた礼だ。受けとれ」
素早く全員の口にリンゴを叩き込む。
「「「!?死ぬー!!助けてくれ!!」」」
どーせ効くように『毒タイプにも効く』毒使っただろうし。
「なめやがって……覚悟しやがれ!」
怒った。あーあ、殺したくないんだけど…
「仕方ない………バトル、スタート」
早速相手が技の用意をする。
「<ダイヤシールド>」
「「<ドクドクスペシャルコンボ>!!」」
濃密なガスの塊を打ち出す。が、固さ10.0を誇るダイヤの前では効かない。
「<体当たり>は止めるべきかな?」
「接触は控えろ。《エクスカリバー》!」
素早く抜刀。そのまま、
「<水平斬り>!」
切り裂く。しぶきをあげる鮮血。視界が紅く染まる。
狙ったのは今朝の傷。出血量は増す一方。敢えて手加減した。
「毒に苦しめ」
まだあの毒が効いている。恐るべし毒リンゴ。
「「「ぐあぁ……」」」
バタリ。戦闘不能。
「チェックメイト」
《ドクローズ》が探険バッジを使って脱出(もしくは敗走)した後、セカイイチを調べてみた。
「……これもか」
「こっちもだよ、アビス」
まさかの全部毒リンゴ。
「これを幾つか持っていって、パルダに説明してくれ。俺はもう少し探す」
自分でも幾つか持って、駆け出す。ミオがバッジで脱出するのを目の端で捉えつつ、走る。
<リンゴの森>奥深く
くそっ……何処にもないなんて……
今、<リンゴの森>32F。あるのは黄金のリンゴ。本来存在しないマップを突き進む。
「ぐるるる……」
しまった!ここら辺は異常に強い奴が多いのに……
ラフレシアだ。俺の持っているどの技でも一撃では倒せない。今のところ使えるのは<十万V>と<水平斬り>、<電光石火>に<影分身>。
あれ?もうひとつあったな。コイツが確一の技。
「<サイコキネシス>」
何故か覚えた5つめの技。どうやら俺はコピー能力もあるみたいだ。感覚的に元の技に加えて計10種まで覚えたままでいられそうだ。<ロードコピー>とでも呼ぶか。
なんとか倒し、次の層へ。難易度MAXだろ、これ……
…………………
50F、やっと見つけた。セカイイチ。
トレジャーバッグにありったけ入れて帰ろうとする……日が暮れる!門限に間に合わない!バッジはミオに貸したし………
「アビスさん!」
?……誰だろ…
「ティアラだよ!早く乗って!」
ティ、ティアラ!?一体何故?
「ミオさんが言ってたから!お兄ちゃんは怪我してて飛べないから」
そうか……羽に傷があった。あれか。
「掴まって!いくよ!」
日暮れの中、音速で飛ぶのはおすすめじゃない。昼間と違い、美しいはずの景色が歪み、嫌なコントラストになる。しかも、景色の区別がつかない!
酔う。
「着いたよ!」
「ありがとう」
急いで入り、親方の部屋へ。
「あ、あはははははははは……」
パルダが虚ろな笑い。
「待たせたな」
「「アビス!?」」
揃って驚く二人にポーカーフェイスで話す。
「御注文のセカイイチを御届けに来ました」
少し遡って side ミオ
アビスの言う通りにパルダに事情を話す。
「だからドクローズのせいで……」
「だまらっしゃい!言い訳なんて聞きたくないよ!しかもお客様に対してなんたる無礼!……クドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクド…」
一時間も続いた。うう〜、アビス、早くきて……あれ?どうやって戻ってくるつもり!?
慌てて近くのウァールス兄妹に事情を話す。
「オレは飛べない。ティアラ。」
「うん。わかった」
ティアラが飛びたった。速さは相当らしいし、頼もしい。
「で、セカイイチは?♪」
ああ、ヤバイ。「たあぁぁぁ」が来る可能性がナイン・ナインズ(99.9999999%)だ。
「あ、あはははははははは……」
虚ろな笑いで返すパルダ。
どうしよう!?
「待たせたな」
「「アビス!?」」
いつの間に!?
アビスはポーカーフェイスで話す。
「御注文のセカイイチを御届けに来ました」
side アビス
間に合ったみたいだ。
「セカイイチ〜♪」
ウィリフは怒っていない。
「お前たち、夕食は抜きだ」
ご立腹が一人。
「遅れたあげくお客様のせいにしようとして!当然だよ!」
「そ、そんな……」
ミオが肩を落とす。
「お腹空いたな……」
ミオが呟く。
「アビスは平気なの?」
「もともと少食だからな」
「そっか……」
話していると、誰かが部屋へ入って来た。
サンとディーザ、パリムにソフィア、ウォルタにアウラとティアラ。
「ほら、これを食べるでゲス!」
「見つからないうちにですわ!」
「とっておいて正解だったわね」
「にしても、八つ当たりもいいところですよ、全く」
「八つ当たりを通り越して九つ当たりなんじゃないかな〜」
「上手いな」
「ウォルタさん上手い!」
パルダへの不満と俺達への思いやりを感じる。感動。でも、なんで?
「一緒に遠征行きたいですから!」
……(嬉泣)
「ミオ、これも食べなよ」
貰った黄色グミ一つを食べた後、バッグの中身と貰った他の物をミオに渡す。どーせ使わないし、消費してスペック増やさないと。
「ありがとう!」
やはり足りてなかったか。にしても、今回の遠征は無理かな……
数日後
5:00 side アビス
「えー、では、今回の遠征メンバーを発表する」
「ううっ、ドキドキする……」
「《ドクローズ》とソフィアさん、ウォルタさん、アウラさんとティアラさんは今回助っ人として参加します。」
「クククッ」
「よろしくね」
「よろしく〜」
「よろしく」
「よろしく!」
「では、親方様、メモを」
「メモだね♪ちょっと待ってね♪」
ウィリフは後ろを向き、何か書いている。
「親方様…」
「今書いているのですわ…」
「ある意味凄い御方でゲス…」
「はい♪」
「じゃあ、読み上げるぞ♪」
「まず……《希望の深淵》!」
「!…やったあ!!」
「……!」←嬉しい
「てっきりダメかと思ったぞ♪これで……」
「ええっ!?」
「まさか、そんな!?」
「これで終わり!?」
「ボソッ(パルダ、裏!)」
裏にまだ書いてある。
「ええーと……これで……まだ、メンバーがいるが……(全く、なんで裏なんかに達筆で書くんだか…)!?」
「どうしたでゲス!?」
ああー……おーきく書いてある。
『他全員♪友達、友達〜♪』と。
「……他全員だそうだ」
『えええ〜〜〜〜〜!!??』
「ウィリフ。皆一緒は嬉しいが、多すぎじゃあないか?」
「うーん……でも、意味はあるよ!…皆一緒のほうが楽しいじゃない♪」
「ゲゲッ!?」
モーフ達がこわばる。ああ、脱落処か全員参加だもんな。
「戸締まりしっかりしていくから大丈夫!」
「ウイリフ、カッコいいぞ」
なにはともあれ、全員参加決定!
「用意ができたら言ってくれ。全員出来たら出発だ♪」
遠征の……
『始まりだ〜〜!』