第八話 初探険
3:00 sideアビス 海岸
恒例の特訓タイム。
さて、何をするか。今のところ、電気を操るのは完璧かな。なんなら雷撃だって再現出来る。俺が死ぬけど。炎は少しだったら操ることが出来る。ショートさせるなりすればなんとかなる。
「<ダイヤシールド>やるか」
鉄の壁より固く、自分の体、即ち炭素を使って作れるダイヤモンドを壁にする。しかし、固く組み直すのが予想以上にミスしやすく、成功したのは10回中4回。しかも燃えやすい。燃えないようにどう工夫するのかが今の課題。
「………」
集中して、ダイヤを造り出すイメージを思い浮かべる。
頭の中で、炭素が動き互いに結びつき強力な硬度を誇るその物質へと変化する。
そちらに集中するあまり、近くから聞こえた声に最初気づけなかった。
「凄い集中力だな」
跳び上がる心臓。そんな様子は表に出さず、あくまでも冷静に聞く。
「誰だ?」
誰もいない。気配はさっきの一瞬だけあった。いったい…?
……その後数時間特訓した。後味は、少し悪い。
「…帰るか」
帰ると、三人とも起きていた。
「おはよう」
「おはよう〜」
「おはよう、アビス!」
「おはよ」
挨拶もそこそこに、罠を仕掛ける。
今までの罠の描写は割愛してたが、毎日仕掛けていた。ダンベル(10kg)が入ったバケツを仕掛けたり、扉を内開きから外開きに変えて、ホウキやモップ(20本)を仕掛けたり。一番易しいのが紐を張っておいて、こけた上からおみくじの入った缶が落ちてくるやつ。勿論缶は2mほど。結果?ドームの頭にあたってワンバウンドして床に転がった。確か…大凶?だった。ドームの拳大のたんこぶはしばらく消えなかった。
今回は、植木鉢(土満杯)と布団を仕掛ける。
「おい、お前達、起きてr…」
ゴツッ!
ドサァーー!
ドームは植木鉢に殴られ、布団に突き飛ばされた。
「…痛たた……一日だけでいいから罠仕掛けないでくれ……(泣)」
毎日生傷の絶えない不運な彼。でも、同情はしない。
「ま、毎日やってるの…?」
「凄い威力だね〜」
「さて、朝礼行くか」
「スルーするんじゃねー!!」
ドームをスルーし、朝礼に出る。既に皆は集まってる。俺たちが来るのを見て、朝礼開始。
「さて、皆に伝える事がある」
パルダが言い出す。かなり深刻な顔だ。例えるなら、朝食はパンかご飯か考える時のような…
「ここから北東に行ったその奥に、<キザキの森>と呼ばれる所があるのだが…その<キザキの森>の時が止まってしまったらしい」
『なんだって!?』
もっと深刻だったか。
「時が止まったって…」
「どういうことだ!?」
ざわめく一同。話についていけない俺は、部屋の壁に寄りかかりコーヒーを一口。部屋からわざわざ持ってきたこの根性を褒めて…くれなくてもいい。
「静かに!!…キザキの森は…風もなく…雲も動かず…葉っぱについた水滴も落ちず…ただ、その場に佇むのみ。時間そのものが止まってしまったのだ」
時間…時の歯車…二つが頭の中で結ばれる。
「…パルダ。それ、時の歯車と関係あるか?」
「…ああ。時が止まった原因は、時の歯車が盗まれたことだ」
『ええーー!?』
まて、普通大事なものなら番人とかいなかったのか?いるとして、そいつは大丈夫なのか?
「時の歯車が盗まれた今、他の歯車も狙われる可能性がある。何か変わったことがあったら、すぐ知らせてくれ。…それじゃあ皆、仕事にかかるよっ♪」
「おおーー!」
時の歯車か。他の歯車は何処だろうか?
「じゃあ、私達はここら辺の調査してるから」
「頑張ってね〜」
「うん!ありがとう!」
「じゃ、行って来る」
掲示板を見た。
「?この依頼…」
普段依頼は一日十件ほど、計二ヶ所やっているが、今回は面白い依頼があるのでそれだけやる事にする。
さて、運命とやらがあるのならそれに従うとしよう。
「ミッションスタートだ」
sideソフィア ギルドB2F
今日の調査は成功。収穫があったわ。
ここら辺の伝説を調べたけど、時の歯車以外の伝説も興味深いわね…
あ、アビスとミオが帰ってきた。
でも、アビスは腰に1mほどの剣を差している。何処で手に入れたのかしら?
ま、いいか。
夕食をギルドでいただき、就寝。
5:00 sideアビス
かなり飛ばすが、一夜明けた。時間にして、ソフィアサイドから8時間だな。
「おお、お前たち!」
パルダが呼ぶ。相変わらず大きな声だ。
「お前たち、この頃の活躍は大したものだ。とくに、ドロウを捕まえたのは見事だった。そこで、だ。お前たちに<秘密の滝>を調査してもらいたい」
「「<秘密の滝>?」」
何の秘密だ?
「ああ。地図を出してくれ。…これがトレジャータウン、<秘密の滝>は此処。東だな」
「わかったよ」
分からない俺は質問する。
「なぜ此処を?」
「この滝には秘密があるんじゃないかと、最近話題になってな。じゃ、頑張ってこい!」
わ、話題…噂かよ。でも、ミオの目がキラキラしてるし…いいか。
「「うん!/ああ!」」
探険の話を外で待機していた彼らに話したら、向こうも乗ってくれた。
「へえ〜、じゃあ僕たちも同行するよ〜」
「そうね」
「ありがとう、じゃあ行くか!」
さて、どんな感じなのかな…ワクワクするぜ!
「四人で、か…面白そうだね!」
sideout <秘密の滝>
希望の深淵+аは、滝まできた。
「ううっ…やっと、探険隊らしいことが出来るよ…」
ミオは嬉し泣き。とりあえずハンカチを差し出すアビス。
それで目を拭うのを待ってから、破壊力の凄い滝を観察する。
「にしても…凄い流れだね〜」
「どうやればこんな流れになるのかしら」
滝の勢いは、岩も粉砕するほど。というか、鉄も何でも貫通しそうだ。
入ったら粉砕骨折。彼らはそういうのは好きではない。
「どれどれ……キャッ!?」
ミオが滝に吹っ飛ばされる。宙に浮いた彼女をアビスがキャッチ。もちろんお姫様抱っこで。
「お、降ろして貰える?//」
「ああ…」
(なんで夜は自分から抱きつくのに、こういうときは恥ずかしいんだ?)
心は読めても女心が分からなければまだまだである。修行が足りないな。
「しかし、すごい流れだ…うわっ!?」
調べようと近づき、同じく吹っ飛ぶアビス。しかし、華麗に後方宙返り。捻りも忘れない。
「よっと……!?」
綺麗な着地。と、いきなり目眩が襲う。そして、何度か体験した「それ」が始まる。
…一瞬着地の際目が回っただけかと勘違いしかけたのは黙っててやろう。
…滝の前にポケモンの影。
(プクリン…か?ウィリフなのか?)
その影は、少し助走し、滝に突っ込む。そのまま滝の裏、洞窟の入り口まで転がり、起き上がって洞窟へ。
……………
「大丈夫〜?」
ウォルタが彼の顔をのぞき込む。顔の辺りがなんか濡れてるのに気づく鼠。
多分、脳しんとうか何かと考えて水を掛けたのだろう。この水量は…水の波動、ちょっと大型のポケモンだな…誰かはぼかしておこう。
軽く頭を振って水を落とし、彼らの方に向き直るアビス。
「ああ、なんか時々こうなる」
「目眩が?」
「いや、なんか過去や未来が時々見られるんだけど…」
「「えっ!?」」
当然の反応。でも、約一名は冷静。
「で、何が見えたの?」
アビスは簡潔に話した。
「滝壺に洞窟…行こうよ〜!」
「ただ、もしだけど、向こうが何もない壁だったら…?」
その答えは怖いぞ。
淡々と答えるアビス。
「ぶつかって一貫の終わり」
「アビスは信じてるの?今見えたもの…」
「ああ」
信じなかったら物語進まないだろうがあ。
「だったら…私もアビスを信じる!!」
(簡単に信じるな…今度「後ろにお化け!」って言うか)
酷いね、電気鼠君。
「……1.2.3で飛び込むぞ」
『1.2.3!!』
四人は走り、滝をつき抜け、向こう側の岩場へ。
一瞬の激痛。そして、軽い衝撃が彼らを襲う。水を出た、と考える前に地面が迫る。
ドサッ
ソフィア、ウォルタは見事に着地。俺?ミオを抱き止めつつ前方宙返りして着地。
「こんなところが…」
「あったんだ〜…」
奥には洞窟。
「洞窟、入るのか?」
「勿論!」
「当然〜!」
「ええ!」
全員が頷く。
「だよな。命知らずのツアーを楽しもうぜ」
side アビス <滝壺の洞窟>
洞窟はダンジョンだった。早速戦う。もはや慣れっこ。
「<十万V>!」
「<電光石火>!」
「<龍の波動>!」
「<ハイドロポンプ>!」
攻撃する。学者二人は高LVだ。電撃が走り、水が飛び、吼える声が勇ましく響く。
と、開けた部屋に出た途端。大量のポケモンがこちらを睨んだ。怖い。ガン飛ばすな。
「うわっ、モンスターハウス!?」
ミオが叫ぶ。運が悪い…蹴散らすか。ちなみに本来モンスターハウスはない。作者の都合。
「二刀流…<二段平行斬り>!!」
「<燕返し>!!」
「<時空の波動>!!」
「<電光石火>!!」
モンスターハウス撃破。というか瞬破。ん?ちょい待て…
「そこにいるウォーグル、ウォルタだな?」
「ア、アビス、剣が増えたけど…」
「うわ〜、時空がかなり歪んだな〜…凄い威力だね〜」
「何が起きたの?」
再現すると、俺は依頼(この話はまた別の機会)で作ってもらった剣エクスカリバーと錬金術で造り出した剣で<平行斬り>を二段にして繰り出し、ウォルタは光に包まれたかと思うとウォーグルとなってめちゃくちゃな速さで<燕返し>、ソフィアは時空のエネルギーを一点に集中させて<時空の波動>を放った。
「改めて、俺は錬金術を使える。ただ、自分の体力を削る」
「ボクはボクの世界の17代真実の英雄で、この姿になれるし、素早さも限界まで上がるけど、防御力がかなり下がって、技も一つの姿で2つまでなんだ」
「私は、時空の力を使って波動を打ち込める。とくにデメリットはないけど…制限回数はデメリットかしら…」
「………(絶句)」
ミオが言葉を失う。凄いチームだな、改めて…
現在B8F。今のところ必殺技でオーバーキルしまくっているのでダメージ無し。いや、俺は錬金術使って少しHP減ってる。
まさかと思うが、これを読んでいる君。HPをホームページとか決して読まないこと。ハリーポッターとも読むんじゃない!(作者はハリポタファン)ホームページ減るとかなんなんだよ…
「あ、階段あったよ!」
次は一体何が…?
B9F 最下層
「うわー!!」
「綺麗…」
「キレイだね〜」
「見事だな」
天然の宝石。それが沢山ある。
宝石の洞窟、まさにそれだった。洞窟だけで数億の価値はあるだろう。
「一つは持ち帰りたいね!」
「そうね!」
重くなるのは嫌なんだが…
「おいおい」
「いいんじゃない〜?」
女子組に圧された。
「じゃ、これは?」
「これなんか大きくていいんじゃない?」
宝石を前に大はしゃぎする彼女達。それを見ていると、何かにつまづいた。
「なんだ…これ?」
宝石だ。ただ、クリスタルの中芯にトルマリンがある。クリスタルは拳くらいの正十二面体、中のトルマリンは正二十面体。
少し探すと、今度はダイヤモンド内にムーンストーン。しかも、正二十面体の中に正十二面体。さっきの逆だ。
「確かトルマリンとダイヤモンドはミオ、ムーンストーンとクリスタルは俺の守護石…」
余談だが、宝石は12星座に対応する守護石がある。俺は双子座、ミオは天秤座。
さらに、花言葉ならぬ石言葉もある。
…話を戻そう。
「この二つは持ち帰るか」
side ミオ
凄い!宝石がいっぱいだよ!
ソフィアと色々見たけど、どれも綺麗!
「あれ?これは…」
周りの宝石の影に隠れるように、近くに剣が刺さっている。刃渡りはエクスカリバーと同じ120cmくらいかな。しかも、刄はコランダム。あ、コランダムっていうのはルビーやサファイアの総称、かな。色によって名前が変わるんだ。固さはダイヤモンドに次ぐ!この剣は水色。少し灰色がかっている。
なんで知ってるか?女の子だもん、興味がある。
天然の剣を拾い、バッグに入れる。ちょっとかさばるけど…誤魔化せるかな。
「アビスだったら使えるね」
バッグに入れ、周りを見渡す。と…
「あれが一番大きいかな」
自分以上の大きさの宝石が奥にあるのを見つけた。
「うぐぐ…とれない…」
固い。しっかり入っている。
「私が抜くわ!えいっ!」
ソフィアが尻尾を巻き付け抜こうとするもやはり動かない。
「え〜?じゃあボクも〜」
ウォルタもやるけど動かない。
「動かない仕組みなんだろ?」
……………。
「「「………………………………」」」
「…分かったからやるよ」
視線の重さに耐えきれずアビスも調べる。叩いたり触ったり。
「……これは簡単には外れないな…っ!?」
ふーん……あれ、アビス、どうしたの?
目の前でアビスが足下をぐらつかせる。
side アビス
三人の視線に耐えきれず引き抜こうと調べる。
(斬ればなんとかなるか?)
少し押せるが、敢えて止めた。嫌な予感がしたからな…こういうのは幼い方がいい。命が惜しいから。
「……これは簡単には外れないな…っ!?」
またあの目眩だ。
………滝でも見た影が宝石を調べている。しばらくして、押せることに気付き、押してみる。
カチッ♪
場違いなほど軽快な音。すると……
ドドドドド………
何かが影に迫る。水だ。かなり多い。洪水。
あっという間に呑まれ流されていく。
……………
「い、今の……」
流石にヤバイ。冷や汗が頬を伝うのがやけに生々しい。
「おい、絶対押すな……」
「ええい、苛立つ!<龍の波動>!!」
カチッ♪
龍の波動は宝石に命中し、微かに宝石が動く。
壁側。押す方向に。
「何?今の音」
「<龍の波動>で外れないなんて…」
とりあえずウォルタに説明する。ウォルタも理解し、ウォーグルに変身する。
「おい、逃げるぞ!」
「捕まって〜!!」
「どうしたの?」
「何故?」
「いいから!」
ドドドドドド……
話している間にも音が迫ってくる。
「「キャーッ!!」」
「「うわーっ!!」」
水に巻き込まれ、ぐるぐるかきまわされ、どんどん上がっていく。目が回る。
ドドドドドド!
地表の穴から吹き出し、少しの間滞空。そして、落下。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
命懸けのスカイダイビングはおすすめしない。正直、死ぬ。
「うぐあぁぁぁ!!!!作者のクソがあぁぁぁ!!!∞迷宮再現すんなああぁ!!!」
下は地面。死ぬ!死ぬ!
と思いきや、ドスッと何かに当たり、向きが変わる。「いたっ」とか聞こえたけど気にしてられない。
ボッシャーーン!
温泉に墜落。しかし、『何か』に感謝。もしこのままあの高さからここに落ちたら全身粉砕骨折で済まない。ソフィアとウォルタは舞い降りるor優雅に飛び込む。
「おや、どうしたかな」
奥からコータスが出てきた。かなりの年だ。
「大丈夫かね?」
「はい、ありがとうございます…あの、ここは?」
「温泉じゃ。地図はあるかな?」
俺の問いに答え、コータスは地図を指した。
「ここじゃよ」
「わあ、私達ここから流されたんだ…」
ミオは滝壺とここを交互に指さした。
それを見てコータスが目を丸くする。
「なんと!そんなに遠くから!ゆっくりしていきなさい。ワシはテルク。長老とも呼ばれとる」
長老の言葉に甘え、少し温泉につかってから帰った。
「……で、纏めると、滝の裏には洞窟があり、その奥の宝石を押すと仕掛けが動き、それで温泉に流れついた、と……」
「残念ながら宝石は持ち帰れなかったけどね」
「いやいやいや、そんなことないよ!いままで誰も知らなかった事なんだし!」
今、俺たちはギルドでパルダに報告している。ソフィアとウォルタは部屋で待っている。「引き受けたポケモンが報告」は全世界共通だ。
それはそうと、探険中よく見かけた影(実際見たのは俺だけ)。あれには見覚えがある。親方ことプクリンのウィリフだ。
「パルダ。あの洞窟、ウィリフは既に行ったことあるんじゃないか?」
「え?いやいやいやいやいや、まさかそんな、だったら親方様がそんなこと頼む訳ないだろ?」
………今、初めてそれ知ったよ。親方の依頼だったのか。
「念のため、頼む」
「……分かった、ついてこい」
早速、ウィリフの部屋へ。
「親方様、<滝壺の洞窟>へ行ったことありますか?」
「<滝壺の洞窟>?ちょっと待ってね♪」
ウィリフは息を大きく吸い……
や、やばい。
「<ダイヤシールド>!」
「たあぁぁ〜〜〜〜!!」
ハイパーボイス発動。タッチの差で<ダイヤシールド>が防ぐ。
……ミオと俺の所だけ。
「ギャー!!」
ご愁傷様、パルダ。タブンネじゃ無かったことを幸運に思いなさい。
「ああ、<滝壺の洞窟>?行ったことあるよ♪」
「「……」」
無駄足。
親方の部屋から出てきた。
おや、パルダ君、何を考えてるのかな。
「ボソボソ(全く、自分の手柄をふいにするなんて……またおかしなヤツを弟子にしちゃったな……)」
むかつく。聞こえてるし。
「パルダ。今なんとおっしゃいましたか?内容によっては手羽先にして今夜の夕食ですよ」
≪エクスカリバー≫を右手で構え、電気を少し放出。威嚇だけど…正直今夜は手羽先食べたい。…冗談だ、食欲はそんなに無い。
正直、こんな食べ方で錬金術なんて使ってたら消滅の危機だ。普通。
俺は普通じゃないのか…
「はいっ!すいませんでしたァァ!!」
後ろ向きに下がっていく。しばらくおとなしいだろう。
じゃあ、消灯するか。
「おやすみ」
「おやすみ!」
「おやすみなさい」
「おやすみ〜」
今日は大変だったな……
次回 毒とリンゴ