第六話 極悪非道の善人
3:00 sideアビス 海岸
なんとか抜け出せた。いや、起きたらまたミオに絡まれて寝ていた。寝ながらこの体制なんて…
起こさないようにそっと前足をはずし、音を立てずギルドを出てきた。
窓から。
大ジャンプ!そして優雅に音を立てず着水。陸に上がり、毛を乾かす。
(これも、特訓のため!!)
実際はパルダに怒られないため。
とりあえず電気のコントロール。直角に曲げたりUターンさせたり。操れるなら便利だろう。
試し、実行すること30分、人間の世界で聞いた一文を思い出した。
『電気は体を活性化させる』
試してみる価値はありそうだが、今日はここまでにしておこう。疲れた……
5:00 sideout ギルドB2F
「さあ皆、仕事にかかるよ♪」
パルダの号令で皆が仕事にかかる。
「おい、お前達はこっち」
パルダに呼ばれて《希望の深淵》二人が追いかける。同じ動作でも、考えが間逆だと印象変わる。やる気無しとあり。どっちがどっちか説明するまでも無いだろう。
「お前達には『お尋ねもの』を捕まえて貰う」
B1F、昨日と逆の方にある掲示板の前で、パルダが言い出した。
「ギルドの客を捕まえるんですか」
「いろんな家に訪問して来るんですか」
「ああ、そうd…って、違ーう!!確かに訪ねてくるものだが、意味が違う!」
お訪ねものとお尋ねもの。似てても違う。テストに出るぞ。
「悪いことして指名手配されてる奴等だ。宇宙を破壊しようとする者から、生活に困って10Pほど盗んだ者までいろいろ。この中から、うーむ、ディーザ辺りに選んでもらえ」
今のすさまじく落差のある比喩はいったい…
俺の苦悶には気づかず、パルダは近くにいたビッパを呼んだ。
「じゃ、頼んだぞ♪」
「は、はいでゲス!」
((凄い口調…))
「う、ううっ……」
いきなりディーザが泣き出した。な、なんだなんだ?
「や、やっとあっしにも後輩が…」
感動の涙だった。確かに、後輩が出来るのは嬉しい。そいつが素直だったら尚更。……素直じゃなくて悪かったな。
「「は、はあ…」」
反応に困る後輩二人。そこに「分かります先輩」とか言いながら肩を叩くほど俺たちは出来ていない。
「じゃあ、この中からあっしが選ぶでゲスよ」
先輩風を吹かせたいのだろうな。しかし、決める権利ってないのか?
「あ、あまり怖いのは止めてね…」
震えるミオ。恐がりだからって具現化しなくても…
「わかっているでゲス。その間、準備しててでゲス」
「ああ、わかった」
side アビス トレジャータウン
ここは一度来たから分かる。まずカクレオン商店とガルーラ倉庫に行かないと。銀行にも寄るか。
ガルーラ倉庫とヨマワル銀行に行き、用事を済ませてから、カクレオン商店に来た。
「佳供さん、オレンとリンゴ、4つずつ」
「はい、480Pになります」(定価忘れました)
支払い、ふと道を見た。マリルとルリリが駆けてくる。
「佳供さん!リンゴ3つください!」
「はい、どうぞ。ルリちゃん、ご苦労様」
代金とリンゴを交換する彼ら。声の高さからマリルは♂、ルリリは♀だろう。
「佳供さん、この子達は?」
「ルリちゃんとリルくんですか?アビスさんは知りませんよね。お母さんが病気で、毎日お使いしてるんですよ。探し物をしてるとか」
なるほど。あれ、引き返してくる。困惑してる顔だが…
「佳供さん、リンゴが一つ多いです!」
「僕たち、こんなに頼んでません」
確かに4つ。多いな。3つって言ってたし。
「ああ、それは私からのプレゼントだよ」
「本当に!?」
感激の涙を流す兄妹。
「あ、ありがとうございます!」
「気をつけてね〜!」
優しいな、佳供さん。
「いたっ」
ルリが転び、リンゴが一つ転がってきた。
拾って土がついてないか調べ、ルリを起こしてあげて、リンゴを手渡した。この間、僅か2秒。俺早い。そしてかっこいい。うん。
…はい、自画自賛です。調子にのってやっただけです、はい。
「はい、これ。あと、俺からも」
さらに2つリンゴをあげた。別にストックあったはずだし。
というか俺あまりお腹減らない。主人候補正とかのものではなく、単に小食だから。
「ありがとうございます!」
「ルリ、行くぞ?」
二人が行った直後、目眩がした。
視界が暗転。そして、叫び声。
「た…たすけてっ!!」
「アビス?大丈夫?」
ミオが俺の顔を覗き込んでいる。
「ああ。…ミオは聞こえたか?」
「何が?」
どうやらさっきのは俺だけが聞いたみたいだ。しかも、ルリの高い声で。
一体…?
水飲み場前
「本当ですか!?」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、当然ですよ」
リル、ルリとスリープが話している。にこやかで和やか。平和だなー。
「あ、アビスさん!このドロウさんがその探し物なら見た覚えがあるって」
「困っていたらお互い様ですから」
ドロウがにっこりして言った。しかし、その表情の裏で何か企んでいる。腹黒い。こいつはヤバイんじゃ?
と、ドロウが動いた。どうやら、ルリ達と行くらしい。
「では、失礼」
トッ
少しドロウとかすった。その時。
「うっ?」
ふらっ
また、あの目眩。暗転。そして、何処かとげとげしたところでドロウがルリを追い詰めている。
「大人しく従えば危害は加えないよ」
「た…たすけてっ!!」
また、視界が戻った。慌ててミオに手短に話す。
「えっ?まさか。夢でもみたんじゃない?とりあえず、ギルドに戻ろう」
…起きたまま夢か?
釈然としないまま、俺はしぶしぶギルドへ戻った。
ギルドB1F
掲示板の前に立った、その時。
ウウーウウー
「掲示板を更新します!下がって下さい!」
サイレンが鳴り、掲示板が裏返しに。
「なんなの?」
「掲示板の更新でゲス。ダグトリオのトリオがやっているでゲス。地味だけど、トリオはこの仕事に誇りを持ってるでゲス」
地味なのか?普通にこっち側から貼るより斬新で派手だぞ。
「更新終了!下がってください!」
また、元通り。あれ?なんか足されて…
「アビス、左上!」
ドロウだ。Aランク。最高ランクじゃなかったか?
「ヤバイ、リルとルリが!」
「急ごう!」
手配書を取り、駆け出す。当然、相手の強さとか自分のレベルとか考えてない。
「あの、どうしたんでゲス?」
後に残されたディーザが、戸惑う。
十字路
リルがうろうろしている。その目には、今にもこぼれそうな大粒の涙が。
「アビスさん、ミオさん!ルリが!」
「ドロウは何処へ行ったの?」
「えっと、こっちです!」
<トゲトゲ山>
あのミオ曰く「夢」にあったのと同じ…寸分違わぬ形のとげとげした山。
リルにそこの麓まで案内してもらった。
「ここです。目を離した隙に…」
「分かった。ギルドで待ってろ」
リルを置いて、ダンジョンへ。くっ、油断した。やっぱりあいつ、悪者か!
ひたすら蹴散らし、速く進む。とにかく、拓けた場所まで急がないと…
「どけっ!」
<電気ショック>で撃ちまくる。PPなんて知るか!
階段を、通常ではあり得ない速さでかけ上る。焦りがつのる。
「アビス、階段!」
これで抜ける筈!
…そして、最上階まで行くのに数度こけた。皆、焦りは禁物だぜ!
<トゲトゲ山>最上階
「大人しく従えば危害は加えないよ」
「た…たすけてっ!!」
あれと全く同じだ。拓けたその中央、ドロウがルリに迫っている。危ない!
「待てっ!!!」
声を出してみる。その後の行動なんてろくに考えてない。
「誰だ?」
「わ、私達は、た、探険隊《希望の深淵》!お尋ねものドロウ、あなたを捕まえに来た!」
勇猛果敢な素晴らしい台詞。でも。
ガタガタガタガタガタ
ミオ。足が…
「ふん、足が震えてるぞ。新米か。弱そうだな」
腹立つ。倒したらわざとダンジョンの外をひきづって帰ろう。あそこまで針先のように尖ってたらただでは済まないはず。ズタボロにしたる。
「だ…だまれっっ!!」
ミオが<電光石火>で迫る。逆上したら女は怖い。が…
「うっ!?」
どかっ
<サイコキネシス>で軽く吹っ飛ばされる。吹き飛んだミオは、そのまま地面に叩きつけられる。
「ミオ!?くそっ!」
<電気ショック>を繰り出すも、外れる。というか、ぎりぎりまで待たれてよけられる。右に左に。
予測か。<予知夢>ウザイ!
「<サイコキネシス>!」
「っ!」
念の力による攻撃を避けまくる。バック転で。ついでに、この作品ではバック転はハンドスプリングの逆再生。後方宙返りは文字通り。
「<サイコキネシス>!」
「!?」
岩を飛ばしてきた。特大で、そこらに転がってるやつ。<原始の力>のパクりか!?側転で避けて、反撃。
「<電気ショック>!!」
「なっ!?」
ドロウの脇を掠めた<電気ショック>はUターンし、HIT。練習様々。しかし…
「これならどうだ!?」
「っ!?クソッ!」
倒れたミオに岩が。凄く卑怯なその手はナシでしょ!
滑り込み、立ち塞がる。
(どうにでもなれっ!)
反射的に手を伸ばす。相殺しきれないのに…というか、<守る>使えないのに…
自暴自棄になりかけたその時。
ガツッ!
何かが岩を防いだ。何時かの鉄の壁だ。
「なに!?」
「えっ!?」
驚き。俺は壁を作った。
(壁を………作る?)
もしかして…
念じると、黒いコートが作り出される。
手に集中してみる。その手のひらから滲み出るように、両刃の片手剣が現れる。鋼鉄の刃が日を受けて輝く。
これは…
この時俺の目は透き通った氷色に輝き、スカーフは美しい灰色に変わる。気づいてなかったが。
「お、お前、何者だ…!?」
ドロウの問いに、反射的に答える。その声は、静かに、しかし凛とここら一帯に響いた。
「アビス・ナレッジ。…錬金術師だ!」
次回 目覚めた術